【事案紹介】キャリアアップ助成金の不正受給について

1.はじめに

有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者を正社員登用した場合など、労働者のキャリアアップに関して助成金を得ることが可能な「キャリアアップ助成金」。有期社員、パート、派遣労働者を無期雇用や正規社員に切り替えた場合に得られる「正社員化コース」の場合、1人当たり最大72万円、1年1事業所ごとに最大20人まで受給可能なため、年間で最大1,440万円まで受給することができます。
事業者にとって大きなメリットがあるため、受給件数は平成26年度から同29年度にかけて4倍以上にまで増えています。しかしその一方で、虚偽の申告・申請によって助成金を不正受給するケースが増えており、厚生労働省・労働局は監視の強化を行っています。

そこで今回は、キャリアアップ助成金を不正受給した場合の制裁について、実際の事案を交えてご紹介したいと思います。

2.「不正受給」及びその制裁の内容

(1)「不正受給」とは

厚生労働省・労働局は、「不正受給」を「偽りその他の不正行為により、本来受けることのできない助成金の支給を受け、または受けようとした場合」と定義しています。

(2)制裁の内容

ア≫概要

不正受給と判断された場合、

①受給した助成金の返還
②事業所名等の公表
③最低3年間、雇用保険料を財源としたすべての助成金が受けられなくなる
④刑事告発

といった制裁を受ける可能性があります。

イ≫①受給した助成金の返還について

不正受給と判断された場合、当該受給は「法律上の原因」なきものとなるため、「不当利得」(民法第703条)として原則全額を返還しなければなりません。

ウ≫②事業所名等の公表について

また、事業主の名称、代表者氏名、事業所の名称・所在地、概要、不正受給の金額・内容がHP上で公表されます。
取引先に直接通知等がなされることはありませんが、取引先に知られる場合には、信用・信頼を大きく損なう可能性があります。取引先会社との取引の打ち切りや、融資困難になるなど、最悪の場合には経営困難に陥る可能性もあります。

エ≫③最低3年間、雇用保険料を財源としたすべての助成金が受けられなくなる点について

キャリアアップ助成金を含め、雇用関係の助成金は、受給要件として、「3年以内に助成金の不正受給をしていないこと」を要件の一つとしています。
したがって、不正受給と判断された場合、以後3年間は雇用関係の助成金は一切受給できなくなります。

オ≫④刑事告発について

申請行為が悪質な場合、有印私文書偽造罪(刑法第159条1項、3年以上3年以下の懲役)や詐欺罪(刑法第246条第1項、10年以下の懲役)として刑事告発される可能性があります。
実際に書類送検されたり、実刑判決を受けたりしたケースをご紹介します。

(3)実際の事案


(ア)虚偽申請により「キャリアアップ助成金」を受給しようとして書類送検された事案

企業内の非正規雇用者の人材育成などに取り組んだ事業主を助成する、厚生労働省の「キャリアアップ助成金」を不正に受け取ろうとしたとして、京都府警向日町署が8日、詐欺未遂、有印私文書偽造・行使の疑いで、同府向日市の40代の行政書士の男を書類送検したことが、同署などへの取材で分かった。男は容疑を認めている。書類送検容疑は、昨年5月、男が府内で経営する飲食店の元従業員の男性たち2人に、職業訓練をしたとする虚偽の申請書を京都労働局に申請し、2人分の助成金計約90万円をだまし取ろうとしたとしている。(2015年9月9日「産経WEST」)

(イ)虚偽申請により雇用関係の助成金を受給しようとして、実刑判決を受けた事案

中小企業向けの国の助成金をだまし取ったとして、詐欺などの罪に問われた太陽光発電システム販売会社の実質経営者(52)に対し、東京地裁は14日、懲役2年8カ月(求刑懲役4年6カ月)の実刑判決を言い渡した。法人税法違反の罪に問われた同社には罰金2800万円(求刑罰金3600万円)を命じた。裁判官は「組織的、計画的な犯行で悪質性が高く、実刑はやむを得ない」と述べた。被告は「中小企業緊急雇用安定助成金」(当時)の受給要件を満たしていないのに東京労働局に虚偽の申請をし、約4700万円をだまし取った。また、架空の業務委託手数料を計上するなどして、法人税約1億1900万円を脱税した。(2017年6月14日「朝日新聞DIGITAL」

3.不正受給をしないために

大前提として、助成金や補助金の財源は、雇用保険料であったり、税金から出ているということを忘れてはいけません。
公的資金の側面がある以上、それに応じた手続きや審査が行われるということです。
そのため、”ちょっとくらい・・・”という考えは通用しないことを、再度認識する必要があります。

また、何故このような制度を国として導入しているのかを、もう少し深堀りし考えることも重要です。日本での何らかの問題に対して、解決に繋がる施策として制度を導入し、予算を割り当てています。キャリアアップ助成金は特に、雇用に関わる助成金の中では最もメジャーなものといっても過言ではありません。

・・・では何故、国としてその制度に力を入れているのか。

個人的な意見も入ってしまうかもしれませんが、それはもっとも効果が高い仕組みだから、と私は思います。冒頭でも少し触れましたが、受給件数は平成26年度から同29年度にかけて4倍以上にまで増えていること以前に、少しずつ形を変えながらも既に4年間続いている制度です。

日本の課題として非正規雇用の問題がありましたね。
バブル崩壊後から低迷を続けた完全失業率も、少しずつ回復の兆しが見えてきていました。
その中でもまだまだ非正規雇用が多く、安定しない雇用環境下では、消費の増加も見込めず、本格的な景気回復に繋がらないのではないかとの意向から、国が政策に踏み出した経緯があります。

このキャリアアップ助成金の成果といっても過言ではないくらいに正社員比率も向上しています。但しこれでも、まだまだ少子高齢化の問題や、労働力の減少の問題はなくなっていません。
そこで、影響力のあるキャリアアップ助成金に、生産性要件を盛り込んで今後の労働力低下に備えたり、賃金向上要件を加え、国としての景気回復を加速させたい意向も含まれているのではないかと思います。

政策の意図をしっかりと汲み取り、ベクトルを合わせた申請をする必要があること、制度を活用した上で会社の成長の先に国の成長があるように、企業も努力していかなければないけないことを忘れてはいけませんね。

4.最後に

今回は、キャリアアップ助成金の不正受給に関してまとめてみました。

キャリアアップ助成金は、最大1,440万円(「正社員化コース」の場合)を受給できるなど、雇用する側にとってとても便利な助成金です。しかし一歩間違えて不正受給と判断された場合、大きな制裁を受けることになり、そのことで取り返しのつかない事態が生ずる可能性もあります。

「少し内容を変えるくらいなら…」と軽い気持ちで虚偽の申請を行うことは厳禁です。
また、しっかりと制度の主旨を理解し、申請をするようにお願いします。正直、助成金の申請は楽なことではありません。
助成金を受給するに相応しいほどの、手続きや審査があります。準備書類もとても多いです。
だからといって安易な考えで不正を行ってしまったら、それ以上に失うものはとても大きいことを心にとめておいていただければ幸いです。助成金は返済不要の資金といえど、楽に資金を稼げる手段ではありません。企業の努力の先に国の前進に繋げるための助成です。
もし判断に迷ったら、勝手に判断するのではなく、きちんと専門家に相談し、適正な申請を行うようにしてください。

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