音楽や演劇、映画、美術など、国内で活動を行う22の文化芸術団体で構成される「文化芸術推進フォーラム」の調査によると、新型コロナウイルス感染症の影響による2020年の文化芸術分野の損失は推定5000億円にも上っており、売上減少の割合から見ても去年一年間は全ての産業分野のなか、特に過酷な状況を強いられていたことがわかります。
各団体は現在も厳しい状況が続くなか事業の継続に向け更なる感染防止対策の徹底や、事業構造の改革など様々な対応に追われており、政府や自治体には更なる支援の拡大が求められています。
そこで、今回は文化芸術団体が取り組む「感染対策」や、遠隔地での鑑賞を可能にするための「配信環境の整備」などへの支援を行う「文化施設の感染拡大予防・活動支援環境整備事業」について紹介します。
この記事の目次
文化芸術分野の収入減少は、全ての産業分野で最悪の水準
前述した「文化芸術推進フォーラム」が今年3月18日に発表した資料によれば、2020年の全産業における収入の減少が平均が10%前後にとどまっているなか、文化芸術団体は各部門毎におよそ50%から80%以上という大幅な収入減少に見舞われており、こうした厳しい状況は新年度を迎えた今もなお続いています。
実演芸術(音楽・舞台芸術)は成す術なく大幅な収入減少に
舞台芸術の分野は、緊急事態宣言の発令中に感染防止対策を怠った団体の活動によりクラスター感染が発生した経緯もあり、一時期は活動そのものへの世間の風当たりも強く、甚大な損害を受ける結果となりました。
2020年は全体でおよそ80%の減少となっており、現在も客席制限の実施により十分な収益があげられない状況が続いています。
実演芸術(-79.3%)
・うち音楽 -83.1%
・うち舞台芸術 -71.2%
映画は「鬼滅の刃 無限列車編」の快挙で邦画のみ大幅改善
当初は実演芸術とほぼ同水準の収入減少に苦しんでいた「映画」部門ですが、令和2年10月16日に公開された映画「鬼滅の刃 無限列車編」が国内歴代興行収入1位を更新し、この部門の損失を大幅に軽減する結果となりました。
「鬼滅の刃 無限列車編」の興行収入は2020年内だけで324億円(現在も公開中)に達しており、現時点では去年一年間の洋画の興行収入340億円を上回る396億円まで記録を伸ばしています。
実演芸術のように演者を介した感染のリスクはなく、客席制限などの対策によって感染予防に対応できる点などが巻き返しの要因となったようです。
とはいえ、映像等の違法な取り扱いの懸念から配信による映画館とオンラインでの同時上映などは難しいため、感染防止対策を徹底し、施設内の安全性を高めていく事が唯一の対策となっています。
映画(-45.1%)
・うち邦画 -23.1%
・うち洋画 -71.4%
博物館・美術館等は学校行事の中止・変更などが大きく影響
新型コロナの影響により、2020年に全国の博物館や美術館などを訪れた人の数は前の年からおよそ6割減少し、入場料収入もそれに比例し大幅な減少に見舞われています。
これらの施設は修学旅行など学校行事の行き先として選ばれていることも多く、コロナによる計画の中止や行き先変更による影響も甚大です。
最近では既存の顧客に頼らない経営体質の獲得に向け、VR技術を活用した「バーチャル博物館・美術館」など、新たな顧客開拓に向けた取組みが活発に進められています。
入場料収入(-54.1%)
文化施設の感染拡大予防・活動支援環境整備事業(補助金)
「文化施設の感染拡大予防・活動支援環境整備事業」は、劇場・音楽堂、文化ホール、博物館、ライブハウスや映画館における公演や展覧会等の実施に際して、感染症防止対策のガイドラインを踏まえた取組み行う場合の支援を行うとともに、コロナ禍で必要とされる「新たな活動」に向けた文化施設の配信等に必要な機材等の環境整備を支援するものです。
補助対象事業者
劇場・音楽堂等(劇場法の実演芸術を行う文化施設)、博物館(博物館法の登録・相当施設、類似施設も含む)、ライブハウス、映画館の設置者(管理者も可)など
補助対象の事業
以下の感染対策及び配信等の環境整備に要する経費を支援します。
(1)感染対策事業(全施設が対象)
感染対策に必要となる消耗品、赤外線カメラ、空気清浄機等の衛生面の対策にとって必要となる物品の確保、空気汚染モニタリング等の対策に関するもの。
(2)環境整備事業(全施設が対象)
施設や設備の抗菌等の清掃や受付時の接触を回避するオンラインチケット・キャッシュレス決済を導入等に関するもの。
(3)空調設備等の改修事業(公立等の公共施設のみ対象)
劇場・音楽堂等、博物館の空調設備やトイレ等の抗菌改修工事に関するもの。
(4)配信等環境整備事業(映画館を除く全施設が対象)
①配信等支援
映像や音声の配信に係る経費のうち、配信機材等の確保に関するもの。
②環境整備支援
映像や音声の配信のための環境整備(システム環境、課金システム、プラットフォーム構築)に関するもの。
補助内容
【上限額】
感染対策 400万円
環境整備 300万円
空調等設備改修 2000万円
配信機材等確保 400万円
配信等環境整備 10000万円
【補助率】
1/2
補助対象期間
令和3年1月8日~令和4年1月31日までに完了する事業
・空調等設備改修は当該期間内に工事を終えるものを対象
・オンラインシステムや配信等の環境整備は6ヶ月間の運用に係る経費も含む
※交付決定前であっても令和3年1月8日以降の経費も補助対象とします。
受付期間
第1次公募
令和3年3月31日(水)~4月23日(金)必着
第2次公募
令和3年5月24日(月)~6月11日(金)必着
※第3次以降の応募の有無は、予算の達成状況により判断します。
申請方法
申請様式をHPよりダウンロードし、電子メールを利用して申請を行います。
感染防止の観点から対面での書類提出などには対応していませんのでご注意ください。
申請書はHPからダウンロード
https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/kobo/92901901.html
【提出先】
「劇場・音楽堂等感染拡大予防等事業事務局」
メール:bunka-shisetsu@stage.ac
まとめ
今回は文部科学省(文化庁)の補助金制度「文化施設の感染拡大予防・活動支援環境整備事業」を紹介しました。
今後も継続的に必要となる感染防止対策や、新たに映像や音声配信による非接触型のサービスに取り組む事業者の方は、是非制度の活用をご検討ください。