「AIロボット・フィジカルAI」が、いま世界的に大きな注目を集めています。調査会社の試算では、フィジカルAIの市場規模は2030年までに約19兆円に達するとも言われ、米中を中心に巨額の投資が加速しています。日本政府もこの流れに対応すべく、2026年度から5年間で国産AI基盤モデル開発に大規模な予算を投じる方針を打ち出しました。
こうした中、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公募を開始したのが「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」です。2026年度の提案一件あたりの予算規模は最大3,834億円と、国内のAI関連事業としては異例の規模となっています。
この記事では、本事業の概要から応募要件、審査基準、申請方法、スケジュールまでをわかりやすく解説します。AI基盤モデルの研究開発に取り組む企業・大学等の関係者はぜひご確認ください。
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この記事の目次
マルチモーダル基盤モデル開発事業とは
事業の背景と目的
生成AIの開発競争が国際的に激化する中、NEDOはこれまで「GENIACプロジェクト」として基盤モデル開発を推進してきました。本事業はその発展形として、製造業等の産業競争力強化やGXの実現を目的に、AIロボット・フィジカルAIの開発基盤となる国産マルチモーダルAI基盤モデルの開発を目指すものです。
「マルチモーダル」とは、言語・画像・動画・音声に加え、物理特性など実空間の情報も統合的に扱えるAIモデルを指し、ロボットが現実世界で動作するための判断基盤としての活用も期待されています。
3つの開発項目
本事業では、以下の3つの開発項目が設定されています。
| 開発項目 | 内容 |
|---|---|
| ①基盤的能力を備えたAI基盤モデルの開発 | 知識理解、論理推論、指示理解等、幅広い用途に共通して求められる基盤的能力を備えたAI基盤モデルの設計・開発 |
| ②マルチモーダル対応能力に関する技術開発 | 画像・動画・音声情報に加え、物理特性をはじめとする実空間情報の複数モダリティを統合的に処理し、認識・推論を行うための技術開発 |
| ③"実世界ネイティブ"なフィジカルAIを見据えた拡張性・評価に関する技術開発 | 実世界タスクやフィジカルAI分野への適用を見据え、モデルの拡張性、応用可能性、評価手法等に関する技術開発・検証 |
「開発枠」と「探究枠」の2軸構成
各開発項目には、「開発枠」と「探究枠」の2つの枠が設けられています。
■探究枠:国産AI基盤モデルの高度化に資する先進的なAI技術の開発やグローバルな調査等を、国内外の学術研究機関を含めて実施する
予算規模と事業期間
予算規模
提案1件当たりの2026年度予算額は、原則として3,834億円以下とされています。
2030年度までの5年度分の総額については、提案者が必要額を設定し、2027年度から2030年度までの各年度に必要予算額を割り振って計画・目標を提案する形式です。
なお、採択にあたっては、研究開発内容・研究開発期間の見直しや予算の減額等が行われる場合があります。また、事業開始後もステージゲート審査の実施等により、実施内容の見直しや予算の増減、研究開発の中止が行われることがあります。
事業期間
■当初の業務委託契約期間:2026年の事業開始日から2028年3月末まで
■ステージゲート審査:2026年度から毎年度実施
応募要件・実施要件
応募資格のある法人の要件
応募資格のある法人は、以下の8つの条件を満たす、単独または複数で受託を希望する企業・大学等です。
| No. | 要件 |
|---|---|
| (1) | 当該技術又は関連技術の研究開発の実績を有し、目標達成・計画遂行に必要な組織・人員等を有していること(見通しが明確にあることを含む) |
| (2) | 委託業務を円滑に遂行するための経営基盤、資金、設備等の十分な管理能力と情報管理体制を有していること |
| (3) | NEDOが事業推進上必要とする措置を、委託契約に基づき適切に遂行できる体制を有していること |
| (4) | 研究開発成果の実用化・事業化計画の立案と実現について十分な能力を有していること |
| (5) | 研究組合・公益法人等の場合、参画企業等の役割・責任が明確化されていること |
| (6) | 複数の企業等が共同して応募する場合、実用化・事業化に向けた各企業等間の責任と役割が明確化されていること |
| (7) | 本邦の企業・大学等で日本国内に研究開発拠点を有していること(国際連携が必要な場合は国外企業・大学等の参画も可能) |
| (8) | 将来を含めて国内のCO2の排出削減に貢献するものであること |
知財・データマネジメントの取扱い
本事業の知的財産の取扱いは、「開発枠」と「探究枠」で異なります。
■探究枠:日本版バイ・ドール規定を適用。多様な研究実施者による創意工夫と成果活用の迅速な対応を重視
これは、開発される基盤モデルが特定事業者の独占的事業化ではなく、社会インフラとして広く活用されることを意図した設計です。
GX(グリーントランスフォーメーション)に関する要件
本事業では、応募者に対してGXに関する取組も求められています。主な要件は以下のとおりです。
・脱炭素効果の定量的把握体制の構築
・企業成長に向けたロードマップの策定と取締役会決議
なお、2025年度以前分と2026年度以降分で求められる内容が異なります。GXリーグまたはGXフューチャー・リーグへの参加で一部要件を満たすことも可能です。また、温暖化対策法における2022年度CO2排出量が20万トン未満の企業や中小企業については、一部の取組内容を代替できる場合があります。
審査基準
外部有識者による採択審査委員会で審査が行われます。以下の7つの基準で評価されます。
| 審査基準 | 主な評価ポイント |
|---|---|
| i. 研究開発計画との合致性 | 本事業の目的との合致、知財侵害の有無、技術流出防止措置 |
| ii. 目標とする技術レベル・性能 | ベンチマーク性能等の定量的な目標設定と妥当性 |
| iii. 計画の妥当性 | スケジュール、計算リソース・データセットの計画、リスク対応策 |
| iv. 開発実績・開発体制の妥当性 | フルスクラッチでの基盤モデル開発経験、マネジメント体制 |
| v. 多様かつ優秀な開発者の参画 | グローバルかつ多様な主体との連携体制、情報共有の仕組み |
| vi. 社会実装に向けた道筋 | 基盤モデルの活用を通じた領域特化モデル開発や最終ユーザーへの普及計画 |
| vii. 成果の公開 | 知見やモデルの普及計画、公開と保護の戦略、迅速な成果公開の仕組み |
加点要素
以下に該当する場合は、採択審査にあたって加点が行われます。
■次世代育成支援対策推進法に基づく認定企業(くるみん認定企業・プラチナくるみん認定企業・トライくるみん認定企業)
■若者雇用促進法に基づく認定企業(ユースエール認定企業)
■中堅・中小・ベンチャー企業が直接委託先であり、研究開発遂行や実用化・事業化にあたって重要な役割を担っている場合
申請方法・スケジュール
公募期間と提出方法
■提出方法:電子申請システム「Jグランツ」のみ(持参・郵送・FAX・E-mailは原則不可)
■Jグランツ公募ページ:こちら
Jグランツの使用にはGビズIDの「プライムアカウント」または「メンバーアカウント」が必要です。GビズIDの取得には2週間以上かかる場合もあるため、未取得の方は早めに登録手続きを行ってください。
複数法人による共同提案の場合は、代表法人が提出書類を取りまとめた上で申請を行います。代表法人以外の法人はJグランツ上での申請は不要です。
主な提出書類
■別添1:提案書
■別添2:研究開発統括責任者候補及び研究開発責任者の研究経歴書
■別添3:提案者情報
■別添4:ワーク・ライフ・バランス等推進企業に関する認定等の状況
■別添5:NEDO事業遂行上に係る情報管理体制の確認票
■別添6:GXに係る取組申告書
■別添7:PMS利用申請書
■別添8:提案概要
■様式:積算用総括表
■直近の事業報告書
■直近3年分の単体/連結財務諸表
選定スケジュール
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年4月22日 | 公募締切 |
| 2026年5月下旬(予定) | 採択審査委員会(外部有識者による審査) |
| 2026年6月中旬(予定) | 契約・交付審査委員会 |
| 2026年6月下旬(予定) | 採択先決定・ウェブサイトに公表 |
| 2026年8月下旬(予定) | 契約締結 |
マルチモーダル基盤モデル開発事業に関するよくある質問
公募要領等をもとに、本事業に関するよくある質問と回答をまとめました。本事業は補助金ですか、委託事業ですか?
本事業は委託事業です。採択後、NEDOと業務委託契約を締結します。当初締結する契約期間は2026年の事業開始日から2028年3月末までです。
開発項目の一部だけを提案することはできますか?
できません。開発項目①~③と、それぞれの開発項目における開発枠・探究枠のすべてを含む形で1つのテーマと実施体制を構築し、提案する必要があります。部分提案は不可です。
GビズIDを持っていないのですが、応募できますか?
JグランツでのGビズIDの「プライムアカウント」または「メンバーアカウント」が必要です。取得に2週間以上かかる場合があるため、早めの登録をおすすめします。GビズIDがないと応募できませんのでご注意ください。
海外の大学や企業と連携して応募することは可能ですか?
可能です。国外の企業・大学等の特別な研究開発能力や研究施設等の活用、国際標準獲得の観点から必要な場合は、国外の企業・大学等も参画する形で実施できます。ただし、本邦の企業・大学等で日本国内に研究開発拠点を有していることが前提です。
開発した基盤モデルの知的財産はどうなりますか?
「開発枠」では、NEDOが知的財産を保有する形式となり、日本版バイ・ドール規定は適用されません。基盤モデルは社会インフラとして日本国内の幅広い事業者に利用されることが想定されています。一方、「探究枠」では日本版バイ・ドール規定が適用されます。
中小企業やベンチャー企業にとって有利な点はありますか?
あります。中堅・中小・ベンチャー企業が直接委託先であり、研究開発遂行や実用化・事業化にあたって重要な役割を担っている場合は、採択審査において加点されます。
ステージゲート審査とは何ですか?
事業の進捗や成果を外部有識者が評価する審査で、2026年度から毎年度実施されます。この審査の結果により、実施内容の見直しや予算の増減、研究開発の中止が行われることがあります。2027年度以降の継続可否もステージゲート審査で判断されます。
公募期間は延長される可能性がありますか?
応募状況等により、公募期間を延長する場合があります。延長する場合はNEDOウェブサイトの公募ページ上でお知らせされます。
設立間もない法人でも応募できますか?
応募要件を満たしていれば応募可能です。法人が設立されたばかりで財務諸表が3年分存在しない場合は、設立年度から直近までの財務諸表を提出してください。
GX(グリーントランスフォーメーション)に関する取組は必須ですか?
はい、必須です。温室効果ガス排出削減目標の設定・実績報告、脱炭素効果の定量的把握体制の構築などが求められます。ただし、温暖化対策法における2022年度CO2排出量が20万トン未満の企業や中小企業基本法に規定する中小企業については、一部の取組内容を代替可能です。
出典:NEDO「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」公募ページ
まとめ
本事業は、一般的な設備導入補助金ではなく、AI基盤モデルを大規模に研究開発できる企業・大学等を主な対象とするNEDOの委託事業です。応募には、3つの開発項目すべてと開発枠・探究枠をすべて含む形での提案が必要です。
公募締切は2026年4月22日(水)正午までとなっていますので、応募を検討されている方はJグランツのアカウント準備を含め、早めの対応をおすすめします。
フィジカルAIは、産業用ロボットや製造業で世界をリードする日本にとって大きなチャンスとなる分野です。本事業を通じて開発される国産基盤モデルが、日本の産業競争力の新たな柱となることが期待されます。
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