物価高騰や人手不足の影響が長期化するなか、地域の中小企業には、業務効率の向上や人材活用の見直しといった構造的な改革が求められています。とりわけ、デジタル技術の活用や設備投資によって生産性を高める取り組みは、今後の経営安定に向けた重要なテーマといえるでしょう。
こうした背景のもと、神奈川県川崎市では、市内中小企業の経営基盤強化を目的として、「持続的成長に向けたデジタル化・生産性向上等支援補助金」を実施しています。これは、デジタル化や生産性向上に取り組む事業者を対象に、システムや設備の導入にかかる経費を補助する制度です。
本記事では、補助金の概要や補助対象、そして申請の流れについて、制度の全体像がわかるよう丁寧に解説していきます。
この記事の目次
中小企業の成長を支える川崎市の取り組み
中小企業を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、川崎市では、市内中小企業の経営を支えるために様々な支援策を実施しています。
たとえば、「働き方改革・生産性向上推進事業補助金(令和7年度)」では、IoTやクラウドシステムの導入、人材育成など、幅広い経営課題に対応する支援を展開し、「未来志向の設備投資応援補助金(令和6年度)」では、省エネ設備や高効率な機器などの導入支援を通じて、エネルギーコスト削減や収益改善に向けた投資をサポートしています。
参考:川崎市 【補助金・公募】令和7年度川崎市働き方改革・生産性向上推進事業補助金の公募について
参考:川崎市 【受付終了】川崎市未来志向の設備投資応援補助金の募集について
こうした施策の流れの中で実施されるのが、今回紹介する「持続的成長に向けたデジタル化・生産性向上等支援補助金」です。本補助金は、IoTやAIなどのデジタル技術や生産設備の導入を通じて、労働時間を短縮しながら生産性の向上や収益の確保を目指す企業にとって、活用しやすい制度になっています。
持続的成長に向けたデジタル化・生産性向上等支援補助金の補助対象者
本補助金の対象は、川崎市内に事業所を有する中小企業者または小規模企業者です。ただし、みなし大企業、政治団体、宗教上の組織または団体に該当する場合は対象外となります。補助対象事業者は以下の要件をすべて満たす必要があります。
| 補助対象事業者の要件 |
| (1) 中小企業者または小規模企業者であること |
| (2) 川崎市内に事業所(本社、支社、工場、研究(部門)所、店舗等)があること |
| (3) 交付申請時点で、川崎市内に事業所を有し、1年以上継続して事業を営んでいる中小企業者(小規模企業者を含む)、または、以下に定める対象施設等に入居している中小企業者(小規模企業者を含む)であること 【対象施設等】 かながわサイエンスパーク、かわさき新産業創造センター、KSP-THINK、明治大学地域産学連携研究センター、KSP Biotech Lab、ナノ医療イノベーションセンター |
| (4) 川崎市税(法人は法人市民税、個人事業主は個人市民税を指す)の納税義務者であること |
| (5) 川崎市税及び川崎市に対する債務の支払い等の滞納がないこと |
| (6) 事業を営むに当たって、関連する法令及び条例等を遵守していること |
| (7) 法令、条例、川崎市補助金等の交付に関する規則、本補助金要綱またはこれらに基づき市長が行った指示に反する行為を行っていないこと |
| (8) 申請者や法人の代表・役員等が暴力団またはその構成員に該当しないこと |
| (9) 公序良俗に反する等のその他市長が適当でないと認めるものでないこと |
| (10) 同一内容、同一経費について、既に本市もしくは他の行政機関等が実施する補助金等を受給していないものであること |
持続的成長に向けたデジタル化・生産性向上等支援補助金の補助対象事業
補助対象となるのは、ソフトウェアやICT機器、生産設備などを活用し、生産性の向上を図る取り組みです。労働時間の短縮や生産工程の効率化などを通じて、収益向上が見込まれる導入が対象です。
ただし、パソコンやスマートフォン、Wi-Fi端末など、用途が広く目的外使用となり得る汎用性の高い機器類は対象外です。導入対象の選定にあたっては、制度の目的に照らして、労働時間の削減や生産量の増加に直結する設備・システムかどうかが判断のポイントになります。
補助対象事業の要件
補助対象事業として、以下の要件をすべて満たす必要があります。
| 補助対象事の要件 |
| (1) 市内の事業所に設備を導入し、生産性の向上により収益拡大が見込まれること |
| (2) 「デジタル技術・生産性向上設備等導入調査」を受診し、確認書を受領している事業者が実施する事業であること |
| (3) 原則として、税込100万円超の発注は、市内中小企業者2者以上の入札または見積り合わせを行ったうえで、発注すること |
| (4) 交付決定後に契約・発注を行うこと |
| (5) 1事業者1申請であること |
| (6) 補助対象設備が、募集要領に記載された要件を満たしていること |
| (7) 補助対象経費が100万円以上(小規模企業者は40万円以上)であること ※賃上げ申請事業者は、75万円以上(小規模企業者は30万円以上)で申請可 ※「賃上げ申請事業者」とは、交付申請時点で従業員を1名以上雇用し、給与支払総額を1.5%以上増加させる計画を表明している事業者を指す |
| (8) 令和8年1月30日(金)までに、設備導入・支払・効果検証・実績報告をすべて完了すること |
持続的成長に向けたデジタル化・生産性向上等支援補助金の補助対象設備
補助対象となるのは、労働時間の削減や生産量の増加など、生産性の向上を通じて収益の拡大が見込まれるデジタル技術や設備の導入です。以下の2つの区分に分けて対象が定められています。
| 事業区分 | 補助対象設備等 | 対象となる条件 |
| デジタル技術の導入 | (1) デジタル技術 | 労働時間の削減や生産量の増加等の生産性向上を 通じて、収益の拡大が見込まれ、直接事業に供され る情報通信技術(ソフトウェアやシステム、IT サービ ス、ICT 機器等)の導入であること |
| 生産性向上設備等 の導入 | (1) 機械装置 | 労働時間の削減や生産量の増加等の生産性向上を 通じて、収益の拡大が見込まれ、直接事業に供され る設備等の導入であること。ただし、償却資産として 資産計上されるものであること。 |
| (2) 工具 |
いずれの設備も、導入効果が明確であることが重要です。
デジタル技術の導入の例
ここからは、具体例を確認しましょう。
募集要領によると、デジタル技術の導入例として、以下のような導入が想定されています。
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【対象外の例】
また、補助の対象とならないケースもあらかじめ示されています。以下のような例に該当する場合は、補助の対象外となるため注意が必要です。
- 新機能の追加や性能の強化による生産性向上が図られるものではなく、単なる設備やサービスの入れ替えなどにとどまる取り組み
- ホームページの作成・改修
生産性向上設備等の導入の例
一方、生産性向上設備の例は、以下のとおりです。
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【対象外の例】
以下は補助の対象外となります。
- 単なる設備の更新で生産性向上につながらない設備
- 主にエネルギー調達コストの負担軽減を目的とした、創エネルギー・省エネルギー設備の導入
- 自動車、船舶、航空機
- デモンストレーション用の設備等の購入
- OA機器(パソコン、コピー機など)およびAV機器(テレビ、ビデオ、カメラなど)、家具など
- 対象設備に付随しないまたは別で発注される備品や工事等の経費
申請にあたっては、導入予定の機器やシステムが補助の趣旨に合致しているか、事前にしっかり確認しておくことが大切です。
補助対象経費
補助対象となる経費は、補助対象事業ごとに定められています。以下に、事業区分ごとの対象経費をまとめました。
【事業区分 デジタル技術の導入】
| 補助対象経費 | 内容 |
| 備品導入費 | ソフトウェア、ICT 機器等の導入に要する経費 |
| システム構築費 | クラウド、システム、サーバー等の使用料または構築に要する経費 |
| 導入・サポート費 | 導入設定、マニュアル作成、導入研修等に要する経費 |
| 運搬費 | ICT 機器等の配送・設置等に要する経費 |
【事業区分 生産性向上設備等の導入】
| 補助対象経費 | 内容 |
| 備品導入費 | 機械装置や工具、また、それらに付随するソフトウェア等の導入に要する経費 |
| 導入・サポート費 | 導入設定、マニュアル作成、導入研修等に要する経費 |
| 設計・工事費 | 既存設備の更新または既存設備の改造を行う際の設計、工事に要する経費 |
| 専門家指導費 | 外部から技術指導を受ける場合に要する経費 |
| 運搬費 | 機械装置等の配送・設置等に要する経費 |
なお、補助金の詳細は、募集要領・交付要綱・様式等で確認する必要があります。申請準備を進める際には、必ず最新の公募資料を参照してください。
持続的成長に向けたデジタル化・生産性向上等支援補助金の補助率・補助限度額
補助率および補助金の限度額は、以下のとおりです。
| 補助率 | 1/2 (賃上げ計画を提出する場合は2/3) |
| 上限額 | 500万円 |
| 下限額 | 50万円(小規模企業者は20万円) |
補助率について、令和7年度から1年間程度の間に賃上げに係る計画を提出する事業者については、2/3に引き上げられます。賃上げが補助率の優遇につながる仕組みになっています。
持続的成長に向けたデジタル化・生産性向上等支援補助金の申請方法
最後に、補助金の申請方法について確認しましょう。
補助金の申請から交付までの手続きは、大きく6つのステップに分かれています。以下の順序に従って準備・申請を進めてください。
| (1)導入調査の申込み(エントリーシートの提出) |
| 補助対象設備を導入する前に、まずデジタル技術・生産性向上設備等導入調査への申込みが必要です。申請者はエントリーシートを提出し、その後、調査員による訪問調査を受けます。調査の結果、設備導入の必要性や効果が確認されると、確認書が交付されます。 【調査申込期間】令和7年(2025年)5月7日(水)~7月14日(月) 【調査実施期間】令和7年5月14日(水)~7月31日(木) |
| (2) 補助金交付申請書の提出 |
| 確認書を受け取ったら、補助金の申請書類一式を提出します。審査を経て採択された場合、交付決定通知書が発行されます。 【申請期間】令和7年5月28日(水)~8月29日(金) ※予算に達し次第、期間内でも受付終了 |
| (3) 事業の実施 |
| 交付決定通知を受けた後、設備等の契約・発注を行います。申請書に記載したスケジュール内に事業が完了できない場合は、変更承認をあらかじめ受ける必要があります。 【補助対象期間】交付決定日~令和8年1月30日(金) |
| (4) 事業実績報告書の提出 |
| 設備の導入が完了したら、補助事業の実施内容と経費に関する報告書を提出します。 【提出期限】令和8年1月30日(金) |
| (5) 導入設備等の現地確認 |
| 申請内容に沿って設備が導入されているか等の現地確認が行われます。 【現地確認】令和8年2月20日(木)までに実施 |
| (6) 請求書の提出 |
| 事業実績の確認後に交付額が確定し、通知書が交付されます。これに基づき、原則として1週間以内に請求書を提出します。 |
事業スケジュール
補助金の申請から交付までには、あらかじめ決められたスケジュールがあります。各ステップの期限を、一覧にまとめました。
| 項目 | 期間・期限 |
| コールセンター開設期間 | 令和7年(2025年)4月25日 ~ 令和8年(2026年)2月27日 |
| 設備等導入調査 申込期間 | 令和7年5月7日 ~ 令和7年7月14日 |
| 設備等導入調査 実施期間 | 令和7年5月14日 ~ 令和7年7月31日 |
| 交付申請書 提出期間 | 令和7年5月28日 ~ 令和7年8月29日 |
| 実績報告書 提出期限 | 令和8年1月30日まで |
| 導入設備等の現地確認 | 令和8年2月20日まで |
申請や手続きに関して不明な点がある場合は、期間中に開設されているコールセンターをご活用ください。
0120-646-230 ※受付時間9:00~17:00(土日祝日および年末年始を除く)
参考:川崎市経済労働局 労働雇用部 令和7年度 持続的成長に向けたデジタル化・生産性向上等支援補助金募集要領
まとめ
神奈川県川崎市が実施する「持続的成長に向けたデジタル化・生産性向上等支援補助金」は、デジタル技術や生産設備の導入を通じて、業務の効率化や収益力の向上を図る中小企業にとって、活用しやすい制度です。
本補助金では、交付申請の前に導入調査が行われます。これは、導入を予定している設備やシステムの内容、コスト削減、生産数量の増加等の効果について、調査員が現地を訪れて確認する仕組みです。申請内容の妥当性を事前に確認するプロセスがあることで、補助対象としての適正が判断されやすくなります。
また、一定の賃上げ計画を提出することで補助率が2/3に引き上げられる仕組みも設けられており、生産性向上とあわせて職場環境の改善にも取り組みたい企業にとって、有効な支援となるでしょう。
申請にあたっては、エントリーから設備等導入調査、交付申請、実績報告まで段階を追った手続きが必要なため、スケジュールに余裕を持って準備を進めることが大切です。川崎市の事業者の皆さまで、デジタル化や生産性向上に使える補助金をお探しの方は、本制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

