2026年6月30日、日本航空(JAL)が国の補助金等を不適切に受給していたとして、2億円超を国に返還する方針であることが報道で明らかになりました。問題となったのは、経済産業省が所管する国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」が公募する、ドローンや「空飛ぶクルマ」の社会実装を目指す研究開発プロジェクトです。
NEDOの委託・助成事業を活用している企業や、これから国の研究開発補助金の活用を検討している事業者にとって、今回の事案は他人事ではありません。労務費の算定方法や、社員の従事時間の管理は、補助金実務のなかでも特に不正受給のリスクが高いポイントだからです。
本記事では、今回の事案の概要から、NEDO事業における労務費の仕組み、過去に起きた類似事例、そして補助金を扱う事業者が気をつけるべきポイントをわかりやすく解説します。
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この記事の目次
JALの補助金不正受給とは?
報道によると、JALは2022年度以降、NEDOが公募する「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」(通称:ReAMoプロジェクト)に参画し、研究開発費として国から補助金や委託費を受け取っていました。社内調査の結果、社員が研究に従事した時間を実態より多く申請していたことが判明し、不正受給分を含めて2億円超を返還する方針です。
共同通信は「2022年度以降、複数の社員が日航での業務時間についても、同プロジェクトの研究をしていたと報告していた」と報じています。本来はJALの航空関連業務に従事していた時間まで、ReAMo研究の従事時間として申告していたという内容です。
現在は外部弁護士による調査が継続しており、JALは6月30日にNEDOへ報告を行うとしています。
ReAMoプロジェクトとはどのような補助金?
「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」(Realization of Advanced Air Mobility Project、略称:ReAMo=リアモ)は、経済産業省とNEDOが国土交通省と連携して2022年度から5年計画で実施している国家プロジェクトです。2022年度予算は29.3億円となっており、ドローン・空飛ぶクルマの社会実装に向けた研究開発を支援します。
主な研究テーマは以下のとおりです。
・操縦者1人で複数のドローンを安全に運航する「1対多運航」の実現
・ドローン・空飛ぶクルマ・既存航空機が共存する低高度空域の運航管理技術
このプロジェクトは、2025年大阪・関西万博で予定されていた空飛ぶクルマの商用運航や、ドローンによる物流など、いわゆる「空の産業革命」を支える国の成長戦略の中核に位置づけられています。
参画企業はJALだけではありません。KDDI、NEC、JAXA、NTTデータ、PwCコンサルティング合同会社、楽天グループ、オリックス、イームズロボティクスなど、多くの企業・研究機関が共同で研究にあたっています。
なお、JALは2022年の公募で2件、2025年の追加公募で2件、合計4契約に参画しており、委託事業と助成事業の両方を受託しています。

参照:2025年度「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」にかかる公募要領

参照:2025年度「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」実施予定先一覧
NEDO事業の労務費とエフォートの仕組み
NEDOの研究開発費は、設備費・外注費・旅費などとともに、労務費(人件費)が大きな構成要素となります。研究開発を担う人材の人件費を補助・委託費として国が負担する仕組みです。
労務費の計算式は基本的にとてもシンプルで、以下のようになります。
たとえば社員Aがある月にプロジェクトに100時間従事し、時間単価が5,000円なら、その月の労務費は50万円となります。これがそのまま国に請求されます。
この仕組みでカギとなるのが、「エフォート(従事時間)」の概念です。エフォートとは、研究者の全仕事時間に対して、当該研究プロジェクトに費やす時間の割合を指します。府省共通の研究開発管理システム「e-Rad」にも研究者ごとに登録され、複数のプロジェクトに従事する場合は合計100%を超えないよう管理されます。
つまり、補助金を扱う事業者は、社員の従事時間を正確に把握・記録し、それに基づいて労務費を申請する義務を負います。逆に言えば、従事時間を実態より多く申告すれば、その分受給額が自動的に膨らんでしまうという仕組みです。ここが、労務費の不正計上が起きやすい構造的な背景になっています。
JALの事案で何が起きたのか
ここまでの仕組みを踏まえると、報道されているJALの事案は次のように考えられます。
・実際にReAMo研究に充てた時間は、申告した時間より少なかった
・JALは過大な従事時間に基づいて労務費を計算し、NEDOに請求した
・結果として、本来受け取るべき額より多い補助金・委託費が支払われた
間違えないでおきたいのは、「研究をまったくしていないのに金だけ受け取った」のではなく、「研究はしていたが、その工数を実態より多く申告していた」という点です。
なお、共同事業者であるKDDI、PwCコンサルティング合同会社、NEC、JAXA、NTTデータ、オリックス、イームズロボティクス、楽天グループ等については、現時点で不正への関与は報じられていません。
過去にもあった労務費の過大計上事例
実は、NEDO事業における労務費の不正計上は、これまでも繰り返し発生してきました。今回の事案は決して珍しいものではなく、補助金を扱う事業者が陥りやすい「構造的な落とし穴」として理解しておきましょう。
代表的な事例を2つご紹介します。
| 事例 | 対象事業 | 過大計上額等 | 措置 |
|---|---|---|---|
| エネルギー総合工学研究所 | ゼロエミッション石炭ガス化発電ほか計28事業 | 約4,500万円 | 補助金交付等停止72か月 指名停止16か月 |
| ラトナ株式会社 | 産業DXのためのデジタルインフラ整備事業 | 約8,318万円 (違約金含む) | 委託契約解除 補助金交付等停止18か月 |
①一般財団法人エネルギー総合工学研究所(2020年8月発表)
「革新的ゼロエミッション石炭ガス化発電プロジェクト」など計28事業で、2007〜2018年度にわたり労務費の過大計上が判明し、総額約4,500万円を返還しました。
NEDOの発表によれば、不正の内容は「他事業に従事していたにもかかわらず当該事業に従事していたなどと従事実態とは異なる形で労務費を過大計上」したというものです。同法人には、補助金交付等停止72か月、指名停止16か月の措置が科されました。
出典:NEDO「補助金交付等の停止措置及び契約に係る指名停止措置を講じました」
②ラトナ株式会社(2024年3月発表)
「産業DXのためのデジタルインフラ整備事業」で、労務費・外注費を不正に計上した事案です。過大計上額および違約金は約8,318万円。委託契約は解除され、補助金交付等停止18か月の措置を受けました。
補助金事業には「予算を使い切らないと損」という心理が働きやすく、現場では『多少の工数のずれは許容範囲』という感覚が生まれがちです。しかし、こうした「ちょっとした調整」が積み重なると、組織として無視できない金額の不正受給に発展してしまいます。
不正受給が発覚した場合のペナルティ
NEDOの公募要領には、不正使用が発覚した場合の措置が明確に定められています。主なものは以下のとおりです。
・違約金の請求
・補助金交付等の停止措置(一定期間)
・契約に係る指名停止措置(一定期間)
・不正に関与した研究者個人へのNEDO事業応募制限(1〜5年、私的流用の場合は10年)
・他の資金配分機関への情報提供(他の府省事業への応募制限の可能性)
返還だけで済むとは限らず、その後数年にわたってNEDO事業や他の府省事業に応募できなくなる可能性もあります。事業者にとってのダメージは決して小さくありません。
補助金を扱う事業者が気をつけるべき7つのポイント
ここまでの内容を踏まえ、NEDO事業に限らず、公的補助金を受給する事業者が押さえておくべき実務上のポイントを整理します。これから補助金の活用を検討している事業者の方も、ぜひ参考にしてみてください。
①工数記録は「リアルタイム」で残す
事後に記憶を頼りに工数を作成すると、無意識のうちに水増しになりやすくなります。日次・週次でタイムシートを記録し、ログとして残しておくのが基本です。
②兼務社員の管理を厳格にする
複数の事業を兼務する社員は、特に注意が必要です。本業との切り分けが曖昧になりやすく、不正の温床になりかねません。エフォート率(仕事時間に占める各事業の割合)を明確に決め、定期的に見直しましょう。
③申請工数と業務実態の突合を行う
メール送信時刻、会議出席記録、システムログなど、業務実態を示す客観的な記録と申請工数が整合しているかを、定期的にチェックする体制を整えておきましょう。
④経理と研究現場の連携を強化する
経理部門が研究現場の実態を把握していないと、現場から上がってくる工数報告を鵜呑みにしてしまいがちです。両者の定期的な情報共有が不可欠です。
⑤内部監査・第三者チェックを取り入れる
補助金事業は、社内ガバナンスの独立部門による定期的な監査対象としておきましょう。万一不正があった場合の早期発見につながります。
⑥「成果が出ているから問題ない」と考えない
研究の成果と労務費の正確性は別問題です。たとえ成果が出ていても、工数が水増しなら不正受給に該当してしまいます。
⑦公的研究費の不正使用に関する指針を確認する
経済産業省は「公的研究費の不正な使用等の対応に関する指針」を策定しており、補助金を受給する事業者はこれを遵守する必要があります。NEDOには研究費不正の告発窓口も設置されていますので、社内体制の整備とあわせて確認しておくとよいでしょう。
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 法務部(法務課)
〒212-8554 神奈川県川崎市幸区大宮町1310 ミューザ川崎セントラルタワー16階
TEL:044-520-5131(電話による受付時間は、平日10時00分~12時00分、13時00分~17時00分です。)
E-mail:helpdesk-2[]ml.nedo.go.jp
E-mailは上記アドレスの[]を@に変えて使用してください。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ①工数記録 | 日次・週次でリアルタイムに記録 |
| ②兼務社員管理 | エフォート率を明確化し定期見直し |
| ③突合チェック | 業務記録と申請工数の整合性を確認 |
| ④部門間連携 | 経理と研究現場の情報共有を徹底 |
| ⑤内部監査 | 独立部門による定期監査 |
| ⑥成果と正確性の区別 | 成果と労務費の正確性は別問題と認識 |
| ⑦指針の遵守 | 経済産業省の指針・NEDOルールを確認 |
まとめ
今回のJALの補助金不正受給と返還は、大きく報じられたニュースですが、本記事で見てきたように、特定の事業者の特殊な問題というよりも、補助金を扱うすべての組織が直面しうる構造的な課題でもあります。
ReAMoプロジェクトは、日本の「空の産業革命」を実現するための重要な国家事業であり、ドローン・空飛ぶクルマの社会実装は、今後の日本の産業競争力を左右する分野です。今回の事案を契機に、補助金受給側のガバナンスがさらに強化されていくことが期待されます。
公的補助金は、納税者の負担で成り立っている貴重な資源です。その使途の透明性と正確性を担保するのは、受給側の責任であると同時に、制度全体への信頼を支える基盤でもあります。これから補助金の活用を検討している事業者の方も、今回の事案を参考に、社内の労務費管理体制をあらためて見直してみてはいかがでしょうか。
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出典リンク:
朝日新聞:JAL、国の補助金を不正受給 空飛ぶクルマの研究、2億円を返還へ
東京新聞デジタル:日航、補助金不正で返還へ 空飛ぶクルマ、2億円超
NEDO:2022年公募採択発表
NEDO:2025年公募採択発表


