仕事と不妊治療・不育症治療の両立は、簡単なことではありません。治療には精神的・時間的・費用的な負担が伴い、通院と仕事の調整に悩む方も少なくありません。
東京都では、女性活躍推進の一環として、仕事と不妊・不育症治療の両立を支援する職場環境づくりに取り組む都内企業を対象に、奨励金を支給しています。
女性の活躍をさらに推進したい企業は、出産や育児だけでなく、不妊・不育症についても理解を示すことが大切です。
本記事では、東京都のキャリアとチャイルドプラン両立支援事業における2つの奨励金について概要を解説します。不妊・不育症治療を受ける従業員への支援の一歩として、お役立てください。
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この記事の目次
不妊治療に関するデータ
近年、不妊治療を受ける夫婦の数は増加しています。厚生労働省が紹介するデータでは、実際に、不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は2021年で約4.4組に1組(22.7%)にのぼるとしています。2022年の全出生児に占める生殖補助医療による出生児の数も約10人に1人(10%)です。
一方で、不妊治療をしたことがある(予定している)労働者のうち、「仕事と治療の両立ができなかった(できない)」と回答した方は26.1%(4人に1人以上)にのぼります。また、不妊治療への支援制度を設けている企業は26.5%にとどまっており、支援体制の整備はまだ十分とはいえません。
このように、不妊治療を受ける方は増えている一方で、働く人にとっては仕事との両立が難しい状況にあり、企業の支援体制の整備が必要といえます。
参照:『不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック~不妊治療を受ける方と職場で支える上司、同僚の皆さんのために~』厚生労働省
キャリアとチャイルドプラン両立支援事業とは
東京都の「キャリアとチャイルドプラン両立支援事業」とは、従業員の仕事と不妊・不育症治療の両立支援に取り組む企業を対象とした制度です。
仕事と治療の両立を推進するとともに、「卵子凍結」に関する正しい知識や認識を広めることなどを目的としたセミナーや奨励金支給を実施しています。
本事業のなかで注目されているのが、以下の奨励金です。
・卵子凍結に係る職場環境整備奨励金
2つの奨励金では、従業員の不妊・不育症治療や卵子凍結を支援する企業に、奨励金を支給しています。
不妊治療・不育症治療に係る職場環境整備奨励金
「不妊治療・不育症治療に係る職場環境整備奨励金」は、不妊・不育症治療を受ける従業員を支援する企業への奨励金です。
毎年妊娠される方のうち、数万人が不育症の可能性があるといわれています。しかし、不妊・不育症治療は、時間・体力・精神的な負担が重く、仕事と治療の両立が難しいケースも珍しくありません。
そこで、従業員が安心して治療を受けられるよう、職場の休暇制度等によってサポートを行う企業を奨励金で支援します。
対象事業者の要件
本奨励金の対象事業者は、主に以下の要件を満たす必要があります。
・都内に勤務する常時雇用する労働者を2人以上雇用していること
・本申請により整備する不妊治療や不育症治療のための休暇制度等について、労働協約、就業規則本則又は付属規程に定められていないこと、並びにその他規定等に明文化されておらず、かつ運用されていないこと
対象事業と奨励金額
本事業では、以下の事業を対象とします。
| 対象事業 | 奨励金額 |
|---|---|
| 不妊治療・不育症治療のための休暇制度等整備事業 | 40万円 |
| 不育症治療のための休暇制度等整備事業 | 10万円 |
どちらかを選択しますが、「不育症治療のための休暇制度等整備事業」は、すでに不妊治療のための休暇制度等を整備済みの企業が選択できるという点にご注意ください。
また、令和6年度まで実施していた「働く人のチャイルドプランサポート制度整備奨励金」に申請した企業は、本事業を申請できません。
※平成30年度・令和元年度分のみ例外あり
事業における取組事項
本奨励金では、事業ごとに指定された取組事項をすべて実施します。
| 【1】社内意向調査の実施 |
|---|
| 不妊治療や不育症治療の休暇制度等の整備について、社内意向調査を実施 |
| 【2】社内相談体制の整備 |
| 不妊治療や不育症治療と仕事との両立に関する社内相談体制を整備 ※詳細条件あり |
| 【3】不妊治療や不育症治療のための休暇制度等の整備 |
| (1)奨励事業実施期間内に、以下から1つを実施し、就業規則本則及び付属規程に明記 (ア):不妊治療のための休暇制度及び不育症治療のための休暇制度 (イ):不妊治療のための休業制度及び不育症治療のための休業制度 (ウ):(ア)と(イ)の両方 (2)定めた就業規則本則及び付属規程を、労働基準監督署に届出 (3)整備した就業規則本則及び付属規程は、奨励事業実施期間内に施行 |
| 【4】不妊治療や不育症治療のためのテレワーク制度等の整備 |
| (1)不妊・不育症治療を理由に利用できるテレワーク制度等(※)を整備し、就業規則本則及び付属規程に明記 (2)定めた就業規則本則及び付属規程を、労働基準監督署に届出 (3)整備した就業規則本則及び付属規程は、奨励事業実施期間内に施行 ※テレワーク制度等は以下 ・モバイルワーク ・サテライトオフィス勤務 ・在宅勤務 ・フレックス制 ・時差勤務 |
| 【5】社内説明会の実施 |
| (1)都内に勤務する全従業員を対象に、以下について1回以上の社内説明会を実施 (ア)不妊治療及び不育症治療の概要、仕事との両立に係るハラスメント防止 (イ)取組事項【2】で整備した社内相談体制の内容 (ウ)取組事項【3】【4】で定めた制度内容 (2)社内説明会終了後、理解度チェックを実施 |
取組事項は、並行して実施できますが、
・取組事項【5】は、【1】から【4】を実施後(就業規則等の届出前でも可)
に行う必要があります。
なお、実績報告において、取組に関する確認書類を提出します。特に、社内説明会の実施においては、説明会の写真(①遠景写真・②近景写真)を提出する点に留意ください。
奨励金支給までの流れと申請期間
本奨励金は、以下の流れで支給されます。
②交付申請
③取組の実施
④実績報告
⑤奨励金の支給
事前エントリーは、Jグランツによる電子申請で行います。東京都からの通知や実績報告もJグランツを利用する点に注意しましょう。
※郵送申請の場合は、別途郵送用の募集要項あり
なお、各回における全体の流れは以下の期間で設定されています。
| 第2回(予定者数110社) | 第3回(予定者数80社) | |
|---|---|---|
| 事前エントリー期間 | 5月27日(水)10時~6月4日(木)17時 | 8月25日(火)10時~9月2日(水)17時 |
| 交付申請書類提出期限 | 6月23日(火)17時 | 9月25日(金)17時 |
| 奨励事業実施期間 | 8月1日(土)~10月31日(土) | 11月1日(日)~令和9年1月31日(日) |
| 実績報告書類提出期限 | 11月17日(火)17時 | 令和9年2月16日(火)17時 |
予定社数を上回った場合は、抽選によって決定されます。なお、1企業・1代表者につき事前エントリーは1回までとしています。同一代表者が複数企業の代表者を務めている場合は、1つの企業を選択してエントリーしましょう。
卵子凍結に係る職場環境整備奨励金
卵子凍結に係る職場環境整備奨励金は、卵子凍結に関する理解促進に取り組む企業への奨励金です。様々な事情により、すぐの妊娠や出産、育児が難しい方などから「卵子凍結」が注目を集めています。
本奨励金も前年に続き実施される見込みですが、令和8年5月現在において発表されていないため、ここでは令和7年度の奨励金の概要をご紹介します。
対象事業者の要件
本奨励金では、以下の内容で対象事業者の要件を定めています。
・都内に勤務する常時雇用する労働者を2人以上雇用していること
・新たに申請する卵子凍結のための休暇制度が就業規則本則又は付属規程に定められていないこと、その他規定等に明文化・運用されていないこと
・申請日時点で40歳未満である女性従業員(申請時現在40歳未満)を1人以上雇用していること(都内に勤務実態がある常時雇用する労働者に該当し、雇用保険被保険者であること。)
そのほか、細かい要件は募集要項をご確認ください。
対象事業と奨励金額
本制度では、2区分の奨励金が設定されています。
| 卵子凍結のための休暇制度等整備事業 | 20万円 |
| 卵子凍結のための福利厚生制度整備事業 | 40万円 |
②卵子凍結のための福利厚生制度整備事業に関しては、①卵子凍結のための休暇制度等整備事業と併せて申請が必要です。
ただし、令和5~6年度に実施していた「働く女性のライフ・キャリアプラン応援事業制度整備助成金」に申請した企業は、本奨励金を申請できない点にご注意ください。
事業における取組事項
本奨励金では、事業ごとに指定された取組事項をすべて実施します。
| 【1】社内意向調査の実施 |
|---|
| 卵子凍結のための休暇制度等の整備について、社内意向調査を実施 |
| 【2】社内相談体制の整備 |
| (1)都内に勤務する常時雇用する労働者2人以上(うち女性1人以上)を社内相談員に任命 (2)社内相談員は、東京都産業労働局が実施する卵子凍結に関する研修を受講 ※研修の受講方法等は、交付決定後に別途案内 |
| 【3】社内研修の実施 |
| (1)都内に勤務する全従業員(雇用形態を問わず)を対象に、1回以上の社内研修を実施 (2)社内相談員は、取組事項【2】の(2)東京都産業労働局の研修で習得した卵子凍結に関する基礎的知識について情報提供 |
| 【4】卵子凍結のための休暇制度の整備 |
| (1)卵子凍結のための休暇制度を新たに整備し、就業規則本則及び付属規程に明記 (2)(1)で定めた制度は、別途定める制度要件を満たすものとして制定 (3)(1)で定めた就業規則本則及び付属規程は、奨励事業実施期間内に届出 |
| 【5】卵子凍結のためのテレワーク制度等の整備 |
| (1)卵子凍結を理由に利用できるテレワーク制度等を整備して就業規則本則及び付属規程に明記 (2)(1)で定めた制度は、別途定める制度要件を満たすものとして制定 (3)(1)で定めた就業規則本則及び付属規程は、奨励事業実施期間内に届出 |
| 【6】卵子凍結のための福利厚生制度の整備 |
| (1)卵子凍結のための福利厚生制度を新たに整備し、就業規則本則及び付属規程に明記 (2)(1)で定めた制度は、別途定める制度要件を満たすものとして制定 (3)(1)で定めた就業規則本則及び付属規程は、奨励事業実施期間内に届出 |
| 【7】社内説明会の実施 |
| (1)都内に勤務する全従業員(雇用形態を問わず)を対象に、1回以上の社内説明会を実施 (2)取組事項【2】で定めた社内相談体制の内容及び取組事項【4】、【5】で整備した制度の内容について説明。取組事項【6】を実施したときは、整備した制度の内容について説明。 (3)社内説明会に参加した従業員に対して、整備した制度に関する理解度確認を実施 |
奨励金支給までの流れとエントリー期間
本奨励金は、以下の流れで支給されます。
②申請書類の提出
③奨励事業の実施
④報告書類の提出
⑤奨励金の支給
事前エントリーは、Jグランツによる電子申請で行います。東京都からの通知や実績報告もJグランツを利用する点に注意しましょう。
※郵送申請の場合は、別途郵送用の募集要項あり
なお、令和7年度は以下内容で実施されました。
| 事前エントリー期間 | 令和7年8月5日(火)10時~8月20日(水)17時 |
|---|---|
| 申請書類の提出期限 | 令和7年9月9日(火)17時 |
| 奨励事業の実施期間 | 令和7年10月15日(水)~令和8年1月14日(水) |
| 報告書類の提出期限 | 令和8年1月28日(水)17時 |
なお、令和7年度は、以下のような注意点がありました。令和8年度も同様の運用になる可能性が高いため、申請を検討する場合は押さえておきましょう。
・同様に事前エントリーについて、予定社数(30社)を上回った場合は抽選により決定
・1企業・1代表者につき事前エントリーは1回までとし、同一代表者が複数企業の代表者を務めている場合は、1つの企業を選択してエントリー
よくある質問
2つの奨励金について、よくある質問をご紹介します。【不妊治療・不育症治療】社内相談員は、原則男女各1人以上任命とあるが、従業員が全て女性(男性)の企業の場合はどうしたらよい?
従業員がどちらかの性別しかいない場合、相談員がその性別のみになることを例外的に認めています。たとえば、女性従業員のみの場合、女性の相談員2名を任命してください。
【不妊治療・不育症治療】社内相談員について、常用労働者の要件を満たす女性従業員は1人いるが、他に女性従業員がいない場合、どうすればよいか。
長期休業に入る予定がある方は社内相談員として任命できません。要件を満たす男性従業員2人を社内相談員として任命してください。
【不妊治療・不育症治療】提出日に書類提出が間に合いそうにないため、書類を持参したい。
電子申請および郵送申請以外の提出は受け付けていません。あらかじめ余裕をもってご準備ください。
【不妊治療・不育症治療】就業規則のほかに規程を定めている場合、提出する必要はある?
就業規則以外にも規定を定めている場合、付属規程も含めて全て提出してください。
【卵子凍結】東京都産業労働局の研修は休日に受講できる?
研修受講は業務の一環としているため、就業時間内に受講します。就業時間外に受講していた場合、奨励対象外となるためご注意ください。
【卵子凍結】社内研修や説明会に出席していない従業員に対しても、内容を周知する?
社内研修や説明会に出席していない従業員にも、内容を周知する必要があります。雇用形態を問わず、都内に勤務する全従業員に対して、資料を配布する等して周知しましょう。(※従業員30人以下の企業は全員参加などの規定があります)
【卵子凍結】理解度チェックは独自で実施してもよい?
東京都の様式を使用して実施してください。審査の必要に応じて、集計結果のご提出が求められる場合もあります。
【卵子凍結】Jグランツのサイトで検索しても表示されないのはなぜ?
本奨励金の情報は限定公開のため、Jグランツのサイトで検索しても表示されません。申請可能企業確定の連絡メールに記載したURLにアクセスしてください。
まとめ
東京都の「キャリアとチャイルドプラン両立支援事業」における「不妊治療・不育症治療に係る職場環境整備奨励金」や「卵子凍結に係る職場環境整備奨励金」では、企業の取組みに対して、奨励金を支給しています。
女性が社会で活躍することが珍しくない現代において、不妊・不育症治療や将来のための卵子凍結は、さまざまな課題を抱えています。
女性の活躍を促進したい企業や、従業員の働きやすさを向上させたいと考えている企業は、本奨励金を社内環境の整備に取り組むきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
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