令和5年10月1日より、インボイス制度が開始されました。インボイスは世界的に導入の進む制度ですが、受注側と発注側の両方に大きな影響を与えるため、国内では開始後数年間に経過措置が設定されています。
今回はインボイス制度の経過措置の概要を紹介するとともに、今後の企業の在り方についても考えていきましょう。
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この記事の目次
インボイス制度とは
インボイス制度とは、複数税率に対応した仕入税額控除の方式として開始された「適格請求書等保存方式」のことです。納品の際に事業者がインボイス (適格請求書) を発行し、それを保管することで、「仕入れ税額控除」が適用されます。
これまでは納品時に事業者から受け取る請求書があれば、仕入税額控除を受けることができました。しかしインボイス制度開始後は、仕入税額控除は新しい情報が記載された請求書(インボイス)がある場合のみに適用されます。
適格請求書発行事業者の義務
前述のとおり、インボイス制度開始に伴い、これまでの「区分記載請求書等保存方式」における請求書等の保存に代えて、「適格請求書発行事業者」から受け取った「適格請求書等」の保存が仕入税額控除の要件となりました。
適格請求書発行事業者は、取引の相手方である課税事業者から求めがあった場合には適格請求書等を交付し、写しの保存をすることが義務となります。
ただし、適格請求書を交付することが困難な次の取引については、適格請求書の交付義務が免除されます。
①3万円未満の公共交通機関(船舶、バスまたは鉄道)による旅客の運送 |
②出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売 |
③生産者が農業協同組合、漁業協同組合または森林組合等に委託して行う農林水産物の販売 |
④3万円未満の自動販売機および自動サービス機により行われる商品の販売等 |
⑤郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス |
なお、小売業、飲食店業、タクシー業等の不特定多数の者に対して資産の譲渡等を行う事業については、適格請求書の記載事項を簡易なものとした適格簡易請求書を交付しても構いません。
インボイス制度の経過措置
インボイスは、インボイス登録事業者しか発行することができません。しかしインボイス登録を行うためには、消費税を納付する課税事業者になる必要があります。
そのためインボイス制度開始にあわせて新たに課税事業者となる免税事業者も多く、事務作業の増加や設備導入の負担が問題になっています。また、インボイス登録を行わなかった免税事業者が、職を失うことも危惧されています。さらに発注側の企業も、免税事業者とインボイス登録事業者とで税処理が変わることから、事務負担が大きく増加しました。
こうした状況への対応として、政府は一定期間、負担軽減のための措置を設定しています。
軽減措置の主な内容は、以下のとおりです。
■免税事業者が新たにインボイス発行事業者になった場合、納税額を売上税額の2割に軽減する |
■以下の事業者は、1万円未満の取引ではインボイス保管不要 ・基準期間の課税売上高が1億円以下 ・特定期間における課税売上高が5,000万円以下 |
■1万円未満の値引き等は、返還インボイス交付不要 |
こうした軽減措置のうち「免税事業者等からの仕入れに係る経過措置」と「小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置」について、詳しく見ていきましょう。
免税事業者等からの仕入れに係る経過措置
インボイス制度開始後は、適格請求書発行事業者 (インボイス登録事業者) 以外からの課税仕入れについては仕入税額控除の対象となりません。ただし一定期間は、登録事業者以外からの仕入れに関しても、一定割合を仕入税額とみなして控除する経過措置が設けられています。
経過措置を適用できる期間等は、次のとおりです。
■令和5年10月1日から令和8年9月30日まで | 仕入税額相当額の80% |
■令和8年10月1日から令和11年9月30日まで | 仕入税額相当額の50% |
なお、この経過措置の適用には、次の事項が記載された帳簿と請求書等の保存が要件です。
①帳簿
区分記載請求書等保存方式の記載事項に加え、「80%控除対象」など、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載します。具体的には、次の事項を記載してください。
- 課税仕入れの相手方の氏名・名称
- 課税仕入れを行った年月日
- 課税仕入れに係る資産・役務の内容および、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記述
- 課税仕入れに係る支払対価の額
②請求書等
区分記載請求書等と同様に、以下の記載事項が必要です。
- 書類の作成者の氏名・名称
- 課税資産の譲渡等を行った年月日
- 課税資産の譲渡等に係る資産・役務の内容
- 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額
- 書類の交付を受ける当該事業者の氏名・名称
小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置〈2割特例〉
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の各課税期間に免税事業者が適格請求書発行事業者 (インボイス登録事業者) となった場合、納付税額の計算において控除する金額は、売上税額の2割とすることができます。事前の届出等は必要なく、申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することで適用されます。ただし、対象となるのは基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者です。
2割特例の適用ができない課税期間
2割特例は、適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの各課税期間において、免税事業者が適格請求書発行事業者となる場合に適用されます。インボイス制度の開始前、令和5年9月30日以前の期間を含む課税期間の申告については、2割特例の適用を受けることはできません。
そのほか、以下の課税期間も2割特例の適用外です。
①過去の売上が一定金額以上ある場合 |
■基準期間の課税売上高が1,000万円を超える期間 |
■特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例により事業者免税点制度の適用が制限される課税期間 |
■相続・合併・分割による納税義務の免除の特例により、事業者免税点制度の適用が制限される期間 |
②新たに設立された法人が一定規模以上の法人である場合 |
■新設法人・特定新規設立法人の納税義務の免除の特例により、事業者免税点制度の適用が制限される期間 |
➂高額な資産を仕入れた場合 |
■課税事業者となった後、2年以内に本則課税で調整対象固定資産の仕入れ等を行い、事業者免税点制度の適用が制限される期間 |
■新設法人・特定新規設立法人の特例の適用を受けた期間中、本則課税で調整対象固定資産の仕入れ等を行うことによって事業者免税点制度の適用が制限される期間 |
■本則課税で高額特定資産の仕入れ等を行い、事業者免税点制度の適用が制限される期間 |
④課税期間を短縮している場合 |
■課税期間の特例の適用を受ける期間 |
2割特例を適用した課税期間後の簡易課税制度の選択
売上げが1,000万円を超える等で2割特例を受けられなくなる場合、簡易課税制度を選択すると、負担を軽減できることがあります。
簡易課税制度とは、売上げに関する消費税額を基礎として、簡易的に仕入れに関する消費税額を算出する制度です。事業区分ごとに設定された「みなし仕入率」を使用して仕入控除税額を計算し、これを売上げに係る消費税額から控除することで、最終的な納税額を算出するのです。
簡易課税制度は、課税売上高が5,000万円以下の事業者が「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することで適用されます。消費税簡易課税制度選択届出書は、原則として、該当課税期間の初日の前日までに提出してください。
なお、2割特例の適用を受けた事業者が、該当の課税期間の翌課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、その課税期間の初日の前日に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出したものとみなされます。
例えば令和8年分まで2割特例により申告を行った個人事業者が、翌年分から簡易課税制度の適用を受けようとする場合には、令和9年中に「消費税簡易課税制度選択届出書(令和9年分から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載したもの)」を提出すれば、令和9年分から簡易課税制度の適用を受けることができるのです。
インボイス制度導入過渡期に企業がすべきこと
インボイス制度は、すべての事業者に関わる大きな変革です。特に企業規模の小さい免税事業者においては、仕事の減少に伴い、廃業に追い込まれる可能性もあることが問題視されてきました。経過措置は、そうした免税事業者への配慮も促すものです。
課税事業者にとって、インボイス制度開始後の免税事業者との取引は、事実上の「値上げ」となります。取引自体は同価格であっても、消費税分の控除ができなくなるためです。一方で、消費税分の支払いを拒む行為は免税事業者にとっては「強制的な値下げ」となり、違法行為となります。
免税事業者に消費税の納付義務がないことは「益税」と呼ばれることもあります。消費税分を利益として受け取っている、という考え方です。しかし免税事業者には、仕入額税控除の適用もありません。さらに規模の小さい事業者が消費税を納付することは、事務業務の面から言っても大きな負担です。つまり「消費税分得をしている」という考え方は、必ずしも正しくないのです。
公正取引委員会では「インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことそれ自体が、直ちに問題となるものではありません」としたうえで、「見直しに当たっては、「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないよう注意が必要」と述べています。悪質な場合は、独占禁止法上問題となることもあります。
インボイス制度の開始に伴い、各事業者にはそれぞれの負担が生じています。企業の負担は、最終的には消費者の負担となります。制度導入後、電力会社が電気代を値上げしたことも話題となりました。インボイス制度開始による影響は、すべての国民に関連すると言ってもよいでしょう。
インボイス登録を行うかどうかは、事業者ごとの事情を加味して考えるべき事案です。登録を強制したり、取引額の減額の圧力をかけたりすることは違法です。一方で、片方だけに過度な負担がかからないよう、取引内容を見直すことも重要です。
軽減措置は、一時的なものです。インボイス制度の影響を見極め、課題をひとつひとつ確認しながら、互いに良好な関係性を築く努力をしていきましょう。
まとめ
インボイスは、反対意見も根強い制度です。事業者や消費者への影響次第では、今後も改正や支援制度が設置されるかもしれません。過渡期における動きを見定めるためにも、負担軽減するための措置を確認しておくことは重要です。経過措置の要件や期間をチェックし、適切に活用することで、今後について考える余裕が生まれるからです。
「免税事業者だと契約解除されるかも」、「取引先が望んでいるから登録する」などと焦らずに、まずはじっくりと現状を見極めましょう。