介護を理由に仕事を辞めざるを得ないかもしれない――そうした不安を抱えながら働く従業員は、少なくありません。総務省の調査では、2022年に介護・看護を理由に離職した人は約10万6,000人にのぼっており、この傾向は大きく改善していません。
介護離職は、本人のキャリアや収入に影響するだけでなく、企業にとっても重要な人材を失うリスクになります。とくに40代〜50代の中核人材が離職すれば、採用や育成の負担、生産性の低下にもつながります。
こうした背景のもと、東京都では、都内の中小企業に対し、従業員の介護休業取得と職場復帰を後押しするための奨励金制度が令和8年度も実施されます。それが「介護休業取得応援奨励金」です。
この記事では、対象となる事業者・従業員の要件から支給額の仕組み、申請方法まで、わかりやすく解説します。
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この記事の目次
介護休業取得応援奨励金とは?
介護休業取得応援奨励金は、(公財)東京しごと財団が実施する都内中小企業向けの奨励金制度です。従業員が介護休業を取得し、職場復帰するとともに、職場環境を整備した事業者に対して奨励金を支給します。介護休業の取得促進と、就業継続を後押しすることが目的です。
対象となる事業者の主な要件
以下の要件をすべて満たしている事業者が対象となります。
- 常時雇用する従業員が300人以下の中小企業等であること
- 都内で事業を営んでいること(都内に本店登記または支店の事業所があること)
- 都内勤務の常時雇用する従業員(雇用保険被保険者)を2名以上かつ6か月以上継続して雇用していること
- 直近年度の都税(法人事業税・法人都民税等)を納付していること
- 就業規則を作成して労働基準監督署に届け出ていること(従業員10人未満でも届出必須)
- 申請日の前日から過去5年間に重大な法令違反等がないこと
- 労働関係法令(最低賃金・36協定・年次有給休暇等)を遵守していること
株式会社・有限会社・一般社団法人・NPO法人・医療法人・社会福祉法人など、幅広い法人形態が対象となります。一方で、同窓会・宗教団体・政治団体・風俗営業事業者・暴力団関係者等は対象外です。
奨励金の支給額と加算の仕組み
基本の支給額
奨励金の基本支給額は、従業員の介護休業取得日数に応じて以下のとおりです。
| 介護休業取得日数(合計) | 支給額 |
|---|---|
| 合計15日以上 | 27.5万円 |
| 合計31日以上 | 55万円 |
なお、有給の介護休暇を含む日数で合算できます(就業規則に規定し労働基準監督署に届出が必要)。
最大145万円!加算となる取組
基本の奨励金に加え、以下4つの加算取組に取り組むと、金額が上乗せされます。
| 加算の種類 | 内容 | 加算額 |
|---|---|---|
| 加算① | 同僚への応援評価制度・表彰制度の整備と介護休業応援プランシートの作成 | 30万円 |
| 加算② | 同僚への応援手当支給(合計20万円以上)と介護休業応援プランシートの作成 | 30万円 |
| 加算①②両方 | 上記①②の両方に取り組んだ場合 | 計50万円 |
| 加算③ | 育児・介護休業法に基づく介護離職防止のための雇用環境整備措置を2つ以上実施 | 20万円 |
| 加算④ | 管理職が合計15日以上の介護休業を取得し体験談を社内周知する | 20万円 |
加算③の「雇用環境整備措置」は、令和7年4月施行の法改正で事業主に義務付けられた以下4つのうち、2つ以上を令和8年4月1日以降・申請日までの間に実施することが要件です。
- ア 介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
- イ 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
- ウ 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
- エ 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の取得・利用促進に関する方針の周知
申請要件の詳細
対象従業員の要件
奨励金の申請対象となる従業員(「対象従業員」)は、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 雇用保険の被保険者として、介護休業開始前に6か月以上継続して雇用されていること
- 介護休業開始1か月前の時点で、支給対象事業者の都内事業所に勤務していること(テレワーク・派遣・業務委託・在籍出向も条件付きで対象)
- 申請企業等の代表者の三親等内の親族でないこと
- 申請する介護休業開始日から1年以内に、合計15日以上の介護休業を取得していること
- 介護休業に引き続き原職(または原職相当職)に復帰していること
- 原職復帰後、就労実績が確認できること
「原職復帰」の条件について
原職復帰とは、単に職場に戻ることではありません。以下の条件をすべて満たす必要があります。
・介護休業前と同一の事業所に復帰していること
・復帰後の職制上の地位が休業前より下回っていないこと
・復帰後の労働時間が変更されていないこと(介護のための短時間勤務制度の利用は例外)
・復帰後の給与が休業前の給与より下回っていないこと(短時間勤務制度利用等は例外)
法を上回る就業規則整備(必須)
奨励金を受けるには、令和8年4月1日以降・申請日までに、育児・介護休業法が定める水準を上回る制度を就業規則に整備し、労働基準監督署に届け出ることが必須です。
上回る内容は以下のア〜エのいずれか1つ以上が対象です。実際に制度を整備する場合の、上回る一例も合わせて紹介します。
| 取組 | 法定水準 | 上回る一例 |
|---|---|---|
| ア 介護休業期間の延長 | 対象家族1人につき通算93日 | 通算100日以上に設定 |
| イ 取得回数の上乗せ | 3回まで分割取得 | 5回以上に設定 |
| ウ 介護休暇日数の上乗せ | 1人の場合5日・2人以上の場合10日 | 1人7日以上かつ2人以上14日以上に設定 |
| エ 中抜けありの時間単位介護休暇 | 始業・終業時刻に連続した時間単位取得のみ | 就業時間中の中抜け取得を明記 |
申請の流れとスケジュール
申請受付期間
申請受付期間は、対象従業員が合計15日以上の介護休業を取得し、原職に復帰後3か月が経過する日の翌日から2か月以内です。ただし、原職復帰3か月の間に非就労日を含む場合は、その日数分を就労日で充足した上で申請します。
期限日が土日祝日・年末年始(12/29〜1/3)の場合は、その前の最短営業日が期限となります。期限を1日でも過ぎると、いかなる理由があっても申請を受け付けてもらえないため、スケジュール管理は厳守してください。
なお、事業実施期間は令和8年4月1日〜令和9年3月31日です。予算超過の場合は期間内でも受付終了となる場合があります。
申請の流れ(全体像)
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ①介護休業取得 | 従業員が合計15日以上の介護休業を取得 |
| ②原職復帰・就労確認 | 介護休業終了後、原職に復帰して3か月間就労 |
| ③申請書類の準備・郵送 | 復帰後3か月経過の翌日から2か月以内に必着で郵送 |
| ④書類確認・審査 | 財団が書類確認→正式受領→審査(3〜4か月程度) |
| ⑤決定通知・奨励金請求 | 支給または不支給決定通知書を受領後、奨励金請求書を提出 |
| ⑥奨励金振込 | 請求書受領から約1か月程度で振込 |
申請方法と郵送先
申請は郵送のみ(簡易書留等の記録が残る方法)で受け付けています。来所による持参提出は不可です。なお、電子申請(一部郵送)も別途利用できますが、2026年4月16日時点では準備中となっています。
封筒には「介護休業取得応援奨励金 申請書在中」と明記してください。
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋3-8-5 住友不動産飯田橋駅前ビル11階
(公財)東京しごと財団 企業支援部 雇用環境整備課 育児介護支援係
TEL:03-5211-2399(平日9時〜17時、12時〜13時・土日祝日・年末年始を除く)
主な提出書類
- 支給申請書(様式第1号)
- 誓約書(様式第2号)
- 雇用保険事業所別被保険者台帳
- 商業・法人登記簿謄本または開業届(発行日から3か月以内)
- 事業税・住民税の納税証明書
- 対象従業員の住民票・タイムシート・賃金台帳(介護休業開始1か月前〜復帰後3か月分)
- 対象家族の介護状態確認書類(医師の診断書・介護保険認定証等)
- 最新の就業規則一式(新規程)および改定前の就業規則(旧規程)
- 介護休業の申出書(社内様式)
申請は一事業年度に1回(1名分)までです。書類に不足や不備がある場合、正式受領とならないため、提出前に十分確認してください。
介護休業取得応援奨励金に関するよくある質問
パートタイマーや有期雇用の従業員でも対象になりますか?
はい、対象となり得ます。有期雇用の場合、過去1年を超える期間について引き続き雇用されているか、採用時から1年を超えて雇用されると見込まれる労働者であれば、常時雇用する従業員としてカウントされます。ただし、登録型派遣労働者は常時雇用従業員から除かれます。
従業員がフルテレワーク勤務の場合、都内事業所勤務と認められますか?
都内事業所の指揮命令のもとでフルテレワーク勤務を行っている場合は、都内勤務として認められます。ただし、対象従業員が都内事業所の通勤圏外に居住している場合は、その通勤圏内に都外事業所が存在しないことが条件となります。
介護休業の日数はどのようにカウントしますか?
申請する介護休業開始日から1年以内に取得した介護休業の日数を合計します。分割して取得している場合でも、同一の家族に係るものであれば合算できます。ただし、異なる家族の介護休業を合算することはできません。また、介護休業中に就労した日数(一時就労)や、休暇が発生した日は除外されます。有給の介護休暇を含む場合、時間単位で取得したものは1日の所定労働時間に達した時点で1日と換算します。
申請は1つの企業で複数名分できますか?
いいえ、1事業年度(令和8年4月1日〜令和9年3月31日)に1事業者1回(1名分)の申請が上限です。同一代表者からの申請は別法人格でも同一企業とみなされます。また、令和8年度に奨励金を受給した企業から分割・合併した企業も申請できません。
就業規則の整備は、申請後でもよいですか?
いいえ、法を上回る就業規則の整備は申請日までに完了している必要があります。令和8年4月1日以降に新規程を整備し、労働基準監督署に届け出た上で、旧規程(改定前)と新規程の両方を提出します。なお、従業員数10人未満でも届出が必須で、労基署の受領印が押印された新規程の提出が求められます。
加算①と加算②は両方申請できますか?
両方に取り組むことはできますが、その場合の加算額は合計50万円となります(30万円×2の60万円にはなりません)。加算①(応援評価・表彰制度)と加算②(応援手当支給)の両方を実施した場合の上限が50万円に設定されています。
加算②の応援手当は具体的にいくら支給すれば対象になりますか?
対象従業員の介護休業開始月から復帰月を算定期間として、対象同僚への応援手当の合計が20万円以上であることが要件です。手当は労働時間に応じるものではなく、代替する職務内容を評価するものである必要があります。支給実態は賃金台帳で確認されるため、実際に支払いを行い、就業規則(または賃金規定)にも手当内容を明記した上で労基署に届け出てください。
国や都の他の補助金と併用できますか?
本奨励金の支給対象となる取組と同じ事由で、国・東京都・区市町村などが実施する助成金・補助金等を申請している、または受給している場合は併用できません。一方で、本奨励金とは別の取組や別の事由に基づく制度であれば、併用できる場合があります。申請前に、対象となる取組が重複していないかを確認しておくと安心です。
申請書類に不備があった場合どうなりますか?
書類に不足や不備がある場合、財団から申請書記載の連絡担当者に連絡が入ります。申請受付期限内に書類が整うよう、速やかに対応してください。書類が整った時点で正式受領となり審査に進みます。不備への対応が遅れると、期限を超過して申請が無効となる場合があります。
奨励金を受給後に支給が取り消されることはありますか?
不正な手段による受給、条件違反、暴力団員等への該当が判明した場合などには、支給決定が取り消されます。その場合は奨励金の返還が求められ、悪質な場合は刑事罰の適用や公表の対象となることもあります。申請にあたっては、要件の正確な確認と誠実な書類作成が必要です。
まとめ
令和8年度「介護休業取得応援奨励金」は、東京都内の中小企業を対象に、従業員の介護休業取得・職場復帰を支援するための奨励金です。
- 基本支給額:合計15日以上で27.5万円、31日以上で55万円
- 加算取組を活用すれば最大145万円まで受給可能
- 事業実施期間:令和8年4月1日〜令和9年3月31日(予算超過で早期終了の場合あり)
- 申請受付期間:原職復帰後3か月経過の翌日から2か月以内
- 申請方法:郵送(簡易書留等)のみ(来所不可)
介護離職は企業にとっても大きな損失です。従業員が安心して介護休業を取得し、職場に戻ってこられる環境づくりは、企業の持続的成長にもつながります。就業規則の整備や加算取組の検討を早めに進めておくことで、申請のチャンスを逃しません。
制度の詳細や申請様式は、東京しごと財団の公式ページからダウンロードできます。不明点は財団(03-5211-2399)に直接問い合わせることをおすすめします。
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