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新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の賃上げ要件とは?給与支給総額の計算方法や未達時の返還義務も解説

公開日:2025/6/17 更新日:2026/7/27
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新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、これまでの「新事業進出補助金」と「ものづくり補助金」が統合され、2026年度に始まった補助金です。

本補助金を申請するための要件はいくつかありますが、その中には賃上げに関する要件も含まれます。目標を達成できなかった場合、交付された補助金の返還を求められる可能性もあるため、申請前に内容をしっかり押さえておくことが大切です。

本記事では、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の賃上げに関する4つの要件と、給与支給総額の考え方、要件未達の場合の返還義務について解説します。

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この記事の目次

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新事業進出・ものづくり商業サービス補助金とは?

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、中小企業等が行う新製品・新サービスの開発や新事業への進出、海外市場の開拓に係る設備投資等を支援する制度で、以下の3つの事業枠が用意されています。

事業枠概要
革新的新製品・サービス枠革新的な新製品・新サービス開発の取組を支援
新事業進出枠既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援
グローバル枠海外市場開拓(輸出)に向けた国内の輸出体制強化の取組を支援

本補助金は、中小企業等が企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、賃上げにつなげていくことを目的としています。そのため、従業員の給与水準を上げる賃上げは、申請者が達成すべき要件として位置づけられています。

基本要件である「賃上げ要件」と「事業場内最賃水準要件」は、3つの事業枠のどれに申請する場合も共通です。一方、「賃上げ特例」と「地域別最低賃金引上げ特例」は任意で適用する特例であり、申請枠や事業者区分によって適用できない場合があります。

詳しい補助額やスケジュールについては、以下の記事でご確認ください。

あわせて読みたい:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の概要解説

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旧制度(新事業進出補助金)からの変更点

賃上げに関する要件の数値水準は、旧・新事業進出補助金の第4回公募の内容が新制度に引き継がれています。一人当たり給与支給総額+3.5%以上、事業場内最低賃金+30円以上、賃上げ特例、地域別最低賃金引上げ特例、賃上げに関する2つの加点項目は、いずれも第4回公募と同水準です。

一方で、細部には次のような変更があります。

・事業場内最低賃金の判定事業場が「主たる事業実施場所」から「最も事業場内最低賃金が低くなる事業場」に変更
・地域別最低賃金引上げ特例の判定範囲が「補助事業の主たる実施場所で雇用している従業員」から「全従業員」に変更
・3つの事業枠が設けられたことに伴い、賃上げ特例・地域別最低賃金引上げ特例の適用除外を申請枠・事業者区分ごとに規定

特に、補助事業の実施場所が複数ある事業者や複数拠点で従業員を雇用している事業者は、旧制度の感覚のままだと判定結果が変わる可能性があるため注意が必要です。それぞれの詳細は、後述の各要件の解説で説明します。

賃上げに関する4つの要件

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、賃上げに関する要件が4つ定められています。概要は以下のとおりです。

要件内容
①賃上げ要件補助事業終了後3〜5年の事業計画期間で、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上増加させること
②事業場内最賃水準要件補助事業終了後3〜5年の事業計画期間で、毎年、事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高い水準であること
③賃上げ特例要件(賃上げ特例の適用を受ける場合)①、②の基準値に加え、一人当たり給与支給総額を年平均6.0%以上増加、かつ事業場内最低賃金を+50円以上とすること
④地域別最低賃金引上げ特例要件(補助率の引き上げを受ける場合)2024年10月から2025年9月までの間で、当該期間における地域別最低賃金以上〜2025年度改定の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員の30%以上である月が3か月以上あること

「①賃上げ要件」「②事業場内最賃水準要件」は、すべての申請者が満たすべき基本要件です。「③賃上げ特例要件」は補助上限額の引き上げを、「④地域別最低賃金引上げ特例要件」は補助率の引き上げを受けたい場合に満たす特例要件です。

①〜③は達成できなかった場合に交付された補助金の返還義務があるため、自社で達成可能な計画を立てることが大切です。それぞれの内容を詳しく解説します。

①賃上げ要件(一人当たり給与支給総額+3.5%以上)

賃上げ要件では、以下を満たす必要があります。

補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上増加させること

3.5%はあくまで基準値(下限)で、実際には申請者自身が基準値以上の目標値を設定します。基準値より高い目標値を設定した場合、その高さの度合いと実現可能性に応じて審査で評価されます。ただし、達成状況は基準値ではなく自社で設定した目標値で判定されるため、無理のない目標設定が重要です。

給与支給総額・一人当たり給与支給総額とは?

本要件で使われる用語の定義は以下のとおりです。

用語定義
給与支給総額従業員に支払った給料・賃金・賞与等の合計(役員報酬・福利厚生費・法定福利費・退職金は含まない)
一人当たり給与支給総額給与支給総額を従業員数で割ったもの

一人当たり給与支給総額の算出に含めるのは、基準年度および算出対象の各事業年度において全月分の給与等の支給を受けた従業員です。中途採用や退職等で全月分の支給を受けていない従業員は、その事業年度に限り算出対象から除きます。

産前・産後休業、育児休業、介護休業などにより時短勤務を行っている従業員は算出対象から除くことができます。また、パートタイム従業員は正社員の就業時間に換算して人数を算出します。

計算方法とシミュレーション

比較の基準となるのは、補助事業実施期間の終了時点が含まれる事業年度(基準年度)の一人当たり給与支給総額です。年平均成長率(CAGR)は複利計算で算出します。

一例として、基準年度の一人当たり給与支給総額が300万円の事業者が、目標値3.5%で3年の事業計画を立てる場合のシミュレーションは以下のとおりです。

事業計画年度一人当たり給与支給総額(1円未満は切り上げ)
1年目3,105,000円
2年目3,213,675円
3年目3,326,154円

3年目(事業計画期間の最終年度)に、一人当たり給与支給総額を3,326,154円以上まで引き上げる計算となります(3,000,000円×1.035の3乗=3,326,153.625円のため、これを上回る必要があります)。

なお、公募要領に端数処理の明記はないため、実務上は端数ぎりぎりの金額を狙わず、余裕を持った賃上げ計画としておくのが安全です。また、達成状況は事業計画期間の最終年度時点で判定されるため、途中の年度で一時的に目標を下回っても、最終年度で目標値を達成していれば返還の対象にはなりません。

従業員に対して事前に表明が必要

設定した目標値は、交付申請時までに全ての従業員又は従業員代表者に対して表明する必要があります。表明がされていなかった場合、交付決定の取り消しと補助金全額の返還を求められるため、必ず実施しましょう。要件の達成状況は、事業化状況報告時に決算書・賃金台帳等で確認されます。

一時的に給与水準を下げて達成することは認められない

応募申請以降に、故意又は重過失により一人当たり給与支給総額を引き下げ、その後増加させて本要件を達成することは認められません。

一例として、一人当たり給与支給総額300万円の事業者が、申請後に7%引き下げてから毎年3.5%ずつ増加させるケースを考えます。

【認められないケース】

年度一人当たり給与支給総額(1円未満は切り上げ)
申請時3,000,000円
申請後(基準年度)2,790,000円(7%引き下げ)
事業計画1年目2,887,650円(3.5%増加)
事業計画2年目2,988,718円(3.5%増加)
事業計画3年目3,093,323円(3.5%増加)

上記の場合、数字の上では「年平均成長率3.5%増加」を満たしていますが、故意に引き下げた低い水準を基準としているため、達成したとは認められません。

なお、禁止されているのはあくまで「故意又は重過失による引き下げ」によって要件を達成する行為であり、退職や業績変動などやむを得ない事情による給与変動まで一律に禁じられているわけではありません。ただし、意図的な引き下げと判断されないよう、給与水準が変動した場合はその理由を説明できるようにしておくと安心です。

②事業場内最賃水準要件(地域別最低賃金+30円以上)

事業場内最賃水準要件では、補助事業終了後3〜5年の事業計画期間で、毎年、事業場内最低賃金(補助事業を実施する事業場内で最も低い賃金)が、補助事業実施場所の都道府県における地域別最低賃金より30円以上高い水準であることが求められます。事業計画上、補助事業を実施する事業場が複数ある場合は、その中で最も事業場内最低賃金が低くなる事業場で判定されます。

賃上げ要件と異なり、こちらは毎年の事業化状況報告時点で判定される点に注意が必要です。あらかじめ事業を実施する都道府県の最低賃金を確認し、事業場内最低賃金と比較しておきましょう。地域別最低賃金は毎年10月頃に改定されるため、改定後の水準も見据えた計画が必要です。

地域別最低賃金の全国一覧は、厚生労働省が毎年公表しています。

参考:厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧

なお、月給制で賃金を支払っている事業所の場合、賃金額を1か月の所定労働時間で割ると、1時間あたりの賃金額を算定できます。また、雇用形態にかかわらず本要件は適用されますが、都道府県労働局長より最低賃金の減額の特例許可を受けている労働者は適用対象外です。

③賃上げ特例の要件(+6.0%・+50円で補助上限額アップ)

賃上げ特例要件は、補助上限額の引き上げを受けたい場合に達成する要件です。補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において、以下の両方を満たす必要があります。

【賃上げ特例の要件】
・「①賃上げ要件」の基準値に加え、さらに年平均成長率+2.5%(合計で年平均成長率+6.0%)以上増加させること
・「②事業場内最賃水準要件」の基準値に加え、さらに+20円(合計で+50円)以上増加させること

特例を適用すると、たとえば新事業進出枠の従業員数1〜20人の場合、補助上限額が2,500万円から3,000万円に引き上げられます。一方で、いずれか一方でも達成できなかった場合、引き上げ分の補助金交付額の全額返還を求められる、リスクとリターンが大きい特例です。

なお、以下に該当する場合は本特例を適用できません。

【賃上げ特例要件を適用できない場合】
・各申請枠の補助上限額に達しない場合
・革新的新製品・サービス枠で地域別最低賃金引上げ特例を申請する事業者
・革新的新製品・サービス枠及びグローバル枠で申請する再生事業者

裏を返せば、新事業進出枠で申請する場合は、再生事業者や、地域別最低賃金引上げ特例との併用も排除されていません。

④地域別最低賃金引上げ特例の要件(補助率が2/3に)

以下の地域別最低賃金引上げ特例要件を満たすと、補助率が1/2から2/3に引き上げられます。

【地域別最低賃金引上げ特例の要件】
2024年10月から2025年9月までの間で、「当該期間における地域別最低賃金以上〜2025年度改定の地域別最低賃金未満」で雇用している従業員が全従業員の30%以上である月が3か月以上あること

最低賃金の引き上げ影響を強く受けている事業者の負担を軽減する趣旨の特例です。適用を受ける場合、応募申請時に指定様式と賃金台帳の提出が必要です。

本特例を適用する場合、基本要件から「②事業場内最賃水準要件」が除外されます。ただし、革新的新製品・サービス枠で申請する小規模企業者・小規模事業者・再生事業者、およびグローバル枠で申請する事業者は、補助率がもともと2/3であるため本特例を適用できません。一方、新事業進出枠で申請する場合は、小規模企業者・小規模事業者や再生事業者も本特例を適用できます。

賃上げに関する2つの加点項目

本補助金では、賃上げの実績に応じた加点項目が2つ設けられています。特例と異なり返還義務を伴わないため、該当する場合は積極的に活用しましょう。いずれも申請締切日時点で満たしている必要があります。

加点項目内容
地域別最低賃金引上げに係る加点2024年10月から2025年9月までの間で、「当該期間における地域別最低賃金以上〜2025年度改定の地域別最低賃金未満」で雇用している従業員が全従業員の30%以上である月が3か月以上ある事業者
事業場内最低賃金引上げに係る加点2025年7月と応募申請直近月の事業場内最低賃金を比較し、全国目安で示された額(63円以上)の賃上げをした事業者

地域別最低賃金引上げに係る加点は、④の特例と同じ条件です。特例の対象外となる事業者がこの加点のみを申請して適用される場合、「②事業場内最賃水準要件」は除外されない点に注意しましょう。

なお、いずれの加点も応募時点の賃金実績を賃金台帳等で確認するものであり、採択後に達成を求められる将来目標ではありません。これと関連して、審査の減点項目として、中小企業庁所管の補助金(ものづくり補助金、持続化補助金等)で賃上げに関する加点を受けて採択されたにもかかわらず、その加点要件を達成できなかった実績のある事業者は、未達の報告から18か月間、本補助金の審査で大幅な減点を受ける規定があります。

過去に他の補助金で将来コミット型の賃上げ加点を申請した事業者は、未達となっていないか確認しておきましょう。

要件未達の場合の補助金返還義務について

賃上げに関する要件(①〜③)を達成できなかった場合、交付された補助金の返還義務が発生します。要件ごとの返還ルールは以下のとおりです。

要件の種類返還が必要となる場合返還額
賃上げ要件従業員等に対して目標値の表明がされていなかった場合補助金全額(交付決定取り消し)
賃上げ要件事業計画期間の最終年度に、一人当たり給与支給総額の目標値を達成できなかった場合補助金交付額×(1−実績の年平均成長率÷目標値)
事業場内最賃水準要件毎年の事業化状況報告時点で、地域別最低賃金+30円以上の水準になっていなかった場合補助金交付額を事業計画期間の年数で除した額(未達の年度ごと)
賃上げ特例要件特例の2つの要件のいずれか一方でも達成できなかった場合賃上げ特例の適用による補助上限額引き上げ分の全額

一例として、補助金交付額1,000万円の事業者が、目標値3.5%に対して実績2.8%しか達成できなかった場合の返還額は以下のとおりです。

1,000万円×(1−2.8%÷3.5%)=200万円

なお、賃上げ要件では、実績の年平均成長率がゼロ又はマイナスの場合は全額返還となります。一方で、賃上げ要件・事業場内最賃水準要件については、付加価値額が増加しておらず、かつ事業計画期間の過半数(事業場内最賃水準要件は当該事業年度)が営業利益赤字の場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、返還を求められません。

ただし、賃上げ特例要件についてはこうした免除規定がなく、未達であれば引き上げ分の返還が必要です。

賃上げ要件に関するよくある質問

パート・アルバイトも賃上げ要件の対象になる?

対象になります。一人当たり給与支給総額の算出では、パートタイム従業員は正社員の就業時間に換算して人数を計算します。

給与支給総額に役員報酬は含まれる?

含まれません。給与支給総額は従業員に支払った給料・賃金・賞与等の合計で、役員報酬・福利厚生費・法定福利費・退職金は除きます。

基準値の3.5%は達成したが、自社で設定した目標値に届かなかった場合は?

要件未達となります。達成状況は基準値ではなく、申請時に自社で設定した目標値で判定されるため、目標設定は慎重に行いましょう。

事業計画期間の途中の年度で目標を下回ったらどうなる?

賃上げ要件は事業計画期間の最終年度時点で判定されるため、途中の年度で下回っても最終年度に目標値を達成していれば問題ありません。一方、事業場内最賃水準要件は毎年判定されます。

賃上げの目標値を高く設定すると審査で有利になる?

基準値より高い目標値を設定した場合、その高さの度合いと実現可能性に応じて審査で評価されます。ただし未達の場合は目標値ベースで返還額が計算されるため、実現可能性とのバランスが重要です。


参考:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 よくあるご質問

まとめ

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の賃上げに関する要件は、基本要件の「賃上げ要件(一人当たり給与支給総額+3.5%以上)」「事業場内最賃水準要件(地域別最低賃金+30円以上)」と、任意で適用する「賃上げ特例」「地域別最低賃金引上げ特例」の4つで構成されています。

賃上げは人材の確保や生産性向上につながる一方で、固定費の圧迫要因にもなり、未達の場合は補助金の返還義務も生じます。要件ごとの判定タイミングと返還ルールを正しく理解したうえで、自社で達成可能な計画を立てることが、本補助金活用の第一歩です。

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