新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の「新事業進出枠」は、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援する申請枠です。2026年度に中小企業新事業進出補助金とものづくり補助金が統合されたことで新設され、旧・新事業進出補助金の役割を引き継いでいます。
新事業進出枠で申請するには、取り組む事業が公募要領の定める「新事業進出」の定義に当てはまることが前提です。自社にとって新しい事業というだけでは足りず、審査では「新市場性」または「高付加価値性」を客観的な根拠とともに示す必要があります。
本記事では、公募要領(2026年9月28日改訂の1.3版)・事務局の解説資料・FAQをもとに、新事業進出枠に該当する事業・しない事業の判断基準と、審査で問われる新市場性・高付加価値性の考え方を解説します。
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この記事の目次
新事業進出枠の概要
新事業進出枠の基本情報は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる事業 | 既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出 |
| 補助上限額 | 従業員数1〜20人:2,500万円(3,000万円) 従業員数21〜50人:4,000万円(5,000万円) 従業員数51〜100人:5,500万円(7,000万円) 従業員数101人以上:7,000万円(9,000万円) ※( )内は賃上げ特例適用時 |
| 補助下限額 | 750万円 |
| 補助率 | 1/2(地域別最低賃金引上げ特例適用時は2/3) |
| 補助事業実施期間 | 交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内) |
| 補助対象経費 | 機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費 ※機械装置・システム構築費または建物費のいずれかが必須 |
補助下限額が750万円に設定されているため、補助率1/2で考えると、総投資額1,500万円以上の比較的規模の大きな設備投資を想定した枠といえます。建物の建設・改修費が補助対象に含まれる点も、新事業進出枠の大きな特徴です。
補助対象となる「新事業進出」の2つの条件
新事業進出枠では、次の①②をどちらも満たす事業が補助対象です。| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ①製品等の新規性 | 事業で新たに製造等する製品等が、事業を行う中小企業等にとって新規性を有するものであること |
| ②市場の新規性 | 事業で新たに製造等する製品等の属する市場が、事業を行う中小企業等にとって新たな市場であること |
※「製品等」は製品・商品・サービスを、「製造等」は製造・提供を指します。
①製品等の新規性
ここでの新規性は、補助事業に取り組む中小企業等にとっての新規性であり、世の中における新規性(日本初・世界初)ではありません。他社がすでに手がけている製品・サービスでも、自社にとって初めての取り組みであれば条件を満たします。
新規性の判定タイミングは、申請予定の公募回の公募開始(=公募要領公開)日以降に初めて取り組んでいる事業です。第1回公募の場合、公募開始日は令和8年6月29日です。
なお、過去に製造等していた製品等を再製造等することは、新たな製品等の製造等とは認められず、補助対象外です。
②市場の新規性
「新たな市場」とは、既存事業において対象となっていなかったニーズ・属性(法人/個人、業種、行動特性等)を持つ顧客層を対象とする市場を指します。
事業計画書では、「過去に製造等した実績がない製品等の製造等に取り組むこと」と「既存事業と新規事業の顧客層が異なること」を示すよう求められています。既存事業の顧客層を明確にしたうえで、新規事業の顧客層との違いを説明できるようにしておくことが重要です。
新事業進出枠に該当しない7つのケース
公募要領では、次の7つを新事業進出枠に該当しない例として明記しています。
・過去に製造していた製品等を再製造等する場合
・単に既存の製品等の製造方法を変更する場合
・製品等の性能が定量的に計測できる場合に、その性能が有意に異なるとは認められない場合
・既存の製品等と対象とする市場が同一である場合(既存の製品等の需要が新製品等の需要で代替される場合・単なるメニューの追加と考えられる場合)
・既存の製品等の市場の一部のみを対象とするものである場合
・既存の製品等が対象であって、単に商圏が異なるものである場合
「単なるメニューの追加」は統合後の公募要領で明示された表現です。たとえば飲食店が既存の来店客に向けてメニューを1品加えるような取り組みは、市場の新規性が認められない可能性が高いと考えられます。
このほか、新事業進出枠に限らず全枠共通で補助対象外となる事業もあります。事務局FAQでは、無人駐車場(コインパーキング)、コインランドリー、飲食料品等の自動販売機事業などが「実質的に労働を伴わない事業・専ら資産運用的性格の強い事業」として対象外になると示されています。
出典:事務局FAQ Q2
公式資料に見る「新事業進出」の事業例
事務局の解説資料「新市場・高付加価値事業の考え方」には、新事業進出枠で想定される新規事業の例が業種別に掲載されています。いずれも「新市場性」の審査でジャンル・分野をどう区分するかを示すための例であり、事務局が推奨する事例ではない点、同じ計画でも不採択となり得る点が資料に明記されています。
| 業種 | 新規事業の内容(解説資料の例) | ジャンル・分野の区分 |
|---|---|---|
| 製造業(医療) | 高精密小型医療機器部品の製造 | 医療機器部品 |
| 製造業(半導体) | 半導体製造装置用の大型部品の製造 | 半導体製造装置部品 |
| 製造業(エネルギー) | 純ニッケルを使用した水素発生装置の部材加工 | 水素発生装置の部材 |
| 食品製造 | 介護施設向けの栄養価の高い大豆食品の製造 | 大豆食品 |
| 食品製造 | 長期保存可能なチョコレートの製造 | チョコレート |
| IT・サービス | 外国人労働者向け就職プラットフォームの運営 | 就職プラットフォーム |
| 飲食 | 高級焼肉店の経営 | 焼肉店 |
| 美容 | 無人店舗でのセルフネイルサロンの経営 | ネイルサロン |
| サービス | 高所得層向けプライベートサウナの経営 | サウナ |
また、高付加価値性の例として次の3つが挙げられています。
| 業種 | 新規事業の内容 | 区分 | 高付加価値化の源泉 |
|---|---|---|---|
| 建設業→製造業 | 金属素材の知見を活かし、加工が困難なアルミ素材へのメッキ加工に取り組む | メッキ加工 | 難加工を実現する代替困難な技術 |
| 繊維 | リサイクル素材や低環境負荷の染色技術を活用し、機能性繊維製品を開発製造・販売 | 染色 | 高機能性・環境性能・技術的差別性による選好性と価格優位性 |
| 建築業→製造業 | 独自の建築工法を活用し、工法に最適化された構造材や接合部材等を製造・販売 | 建築工法 | 独自工法を活用した代替困難な価値 |
これらの例に共通するのは、既存事業で培った知見や技術を、これまで対象にしていなかった顧客層向けの製品・サービスに転用している点です。自社の計画を考える際は、「既存事業の何を活かすか」と「誰が新しい顧客か」の2点を整理すると、2つの条件に沿った説明がしやすくなります。
審査の最重要ポイント「新規事業の新市場性・高付加価値性」
新事業進出枠には、他の枠にはない書面審査項目「新規事業の新市場性・高付加価値性」があります。前述の2つの条件を満たすことを前提に、次の①②のいずれかを満たす計画であることが求められます(①②は選択制)。
| 審査項目 | 求められる内容 |
|---|---|
| ①新市場性 | 製造等する製品等の属するジャンル・分野の、社会における一般的な普及度や認知度が低いこと |
| ②高付加価値性 | 同一のジャンル・分野の中で、高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであること |
補助対象の条件と審査項目は「二段構え」
補助対象の条件としての新規性は自社を基準に判断されますが、この審査項目では、新市場性は社会全体、高付加価値性はジャンル・分野の一般的な付加価値・相場価格が基準になります。解説資料でも、自社にとっての新規事業であることを前提に、社会においても一定程度の新規性を有するか、または同一ジャンル内で高水準の高付加価値化を図るかが審査されると説明されています。
つまり、自社にとって新しいだけでは審査で評価されません。新市場でも高付加価値事業でもない場合は対象外となるため、事業計画の作成前にどちらで組み立てるかを決めておく必要があります。
①新市場性:ジャンル・分野の区分ルールに注意
新市場性の審査では、まず新規事業で製造等する製品等の「ジャンル・分野」を特定し、そのジャンル・分野の社会における一般的な普及度や認知度が低いことを、客観的なデータ・統計等で裏付ける必要があります。
ジャンル・分野を区分する際は、製品等の「性能」「サイズ」「素材」「価格帯」「地域性」「業態」「顧客層」「効果」等の要素を排除しなければなりません。
| 新規事業の内容 | 適切な区分 | 不適切な区分 | 不適切な理由 |
|---|---|---|---|
| 東京都港区で高級焼肉店を経営 | 焼肉店 | 東京都港区の高級焼肉店 | 「価格帯」「地域性」は排除 |
| 介護施設向けの栄養価の高い大豆食品の製造 | 大豆食品 | 介護施設向けの栄養価の高い大豆食品 | 「顧客層」「性能」は排除 |
| 無人店舗でのセルフネイルサロンを経営 | ネイルサロン | 無人店舗でのセルフネイルサロン | 「業態」は排除 |
| 半導体製造装置用の大型部品の製造 | 半導体製造装置部品 | 半導体製造装置用の大型部品 | 「サイズ」は排除 |
| 長期保存可能なチョコレートの製造 | チョコレート | フードロス問題に資する長期保存可能なチョコレート | 「効果」「性能」は排除 |
| 外国人労働者向け就職プラットフォームの運営 | 就職プラットフォーム | 外国人労働者向け就職プラットフォーム | 「顧客層」は排除 |
出典:「新市場・高付加価値事業の考え方」3-2
このルールにより、ジャンル・分野は広めに区分されます。解説資料の審査イメージでも、「焼肉店」の社会における認知度が低いかどうか、「医療機器部品」の普及度が低いかどうかが問われるとされています。
焼肉店やネイルサロンのように広く普及した業種で「①新市場性」を満たすのは難しいため、新市場性で申請できるのは、社会的にまだ普及していない分野の製品・サービスに限られると考えられます。多くの事業者は高付加価値性での申請が現実的です。
なお、排除した「価格帯」「顧客層」などの事業の特色は無視されるわけではなく、「事業の実現可能性」「公的補助の必要性」などの他の審査項目で考慮されます。
②高付加価値性:相場との比較と強みの分析が必須
高付加価値性の審査では、次の2点が問われます。
・相場と比較して高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであり、その源泉となる価値・強みの分析が妥当か
前掲の3事例(メッキ加工、染色、建築工法)は、いずれも既存事業で得た技術・知見を「代替困難な価値」につなげている点が高付加価値化の源泉とされています。事業計画書では、市場調査に基づく相場価格の分析と、既存事業で培った強みが高付加価値化にどうつながるかの説明が重要になります。
公募要領では、業界動向や地域データの確認に地域経済分析システム「RESAS」の活用が案内されています。活用する際のID登録は不要・全メニュー無料で利用できます。
「足下の賃上げ」も審査で評価される
公募要領の「事業の実現可能性」の審査項目では、事業計画期間中の賃上げ率に加えて、補助事業の完了を待たずに実施する「足下の賃上げ」も評価されます。
応募申請時の直近事業年度から基準年度(補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度)までの一人当たり給与支給総額の年平均成長率が、最低でも物価上昇率を上回る程度の賃上げが達成されない場合、審査上大幅に不利になるとされています。足下の賃上げは採択後、交付決定までに従業員への表明が必須で、実績はモニタリングの対象です。
新事業進出枠に固有の項目ではありませんが、新市場性・高付加価値性と並んで事業計画の説得力を左右するため、申請前に確認しておきましょう。
新事業進出枠だけの注意点
全枠共通の要件(付加価値額、賃上げ、事業場内最低賃金、一般事業主行動計画の公表など)とは別に、新事業進出枠に固有の注意点があります。
・機械装置・システム構築費または建物費のいずれかが補助対象経費に含まれていなければなりません。
・建物費は建設・改修が対象で、建物の単なる購入や賃貸は対象外です。老朽化した建物の補強や雨漏りの修理など、維持管理を目的とした修繕費も原則として対象外です。
・補助下限額は750万円です。補助率1/2で逆算すると、補助対象経費1,500万円以上の投資が前提となります。
全枠共通の要件と申請できない事業者の一覧は概要記事、賃上げ要件の詳細は賃上げ要件の記事で解説しています。
旧・中小企業新事業進出補助金との違い
旧制度の「中小企業新事業進出補助金」は第4回公募で受付を終了し、統合後の本補助金では「新事業進出枠」として引き継がれました。制度の正式名称は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」です。
旧制度の「新事業進出指針」は、製品等の新規性・市場の新規性・新事業売上高要件の3つで構成されていました。このうち新事業売上高要件(事業計画期間の最終年度に新事業の売上高が総売上高の10%以上、または付加価値額が総付加価値額の15%以上)は、現行の公募要領には規定されていません。
| 旧制度 | 新制度(新事業進出枠)での扱い |
|---|---|
| 製品等の新規性 | 考え方を継続。公募開始日以降に初めて取り組んだ事業を「新規性あり」とみなす基準を明記 |
| 市場の新規性 | 考え方を継続 |
| 新事業売上高要件 | 現行の公募要領には規定なし |
| 新規事業の新市場性・高付加価値性(審査項目) | 継続して審査 |
よくある質問
日本初の事業じゃないと申請できない?
いいえ、補助対象の条件としての新規性は自社にとっての新規性で足ります。ただし審査では、ジャンル・分野の社会的な新規性(新市場性)か、同一ジャンル内での高付加価値化(高付加価値性)のいずれかを示す必要があります。
飲食店の新メニューは該当する?
公募要領では「単なるメニューの追加と考えられる場合」は市場が同一とみなされ、新事業進出枠に該当しないとされています。既存の顧客層とは異なる顧客層を対象にする事業であることを示せるかがポイントです。
創業1年未満でも申請できる?
新事業進出枠では申請できません。基準日は応募申請時で、最低1期分の決算書が必要です。
売上高10%の要件はなくなった?
はい、旧制度の新事業売上高要件は現行の公募要領には規定されていません。なお、付加価値額や賃上げなどの全枠共通の基本要件は引き続き設けられています。
過去にものづくり補助金で不採択だった場合も申請できる?
はい、補助対象者・補助対象事業・補助対象要件を満たしていれば再応募できます。事務局は、審査項目に沿って事業計画をブラッシュアップしたうえでの応募を勧めています。
出典:公募要領1-2-2、1-4-2、事務局FAQ Q9・Q15
まとめ
新事業進出枠で申請するには、①製品等の新規性と②市場の新規性の2条件を満たしたうえで、審査項目である新市場性・高付加価値性のどちらで事業計画を組み立てるかを決める必要があります。
まずは公募要領の「該当しない7つのケース」に当てはまらないかを確認し、解説資料の事例を参考に、既存事業の何を活かして誰を新しい顧客にするのかを整理しましょう。そのうえで、ジャンル・分野の区分ルールに従って新市場性を示すか、相場価格との比較で高付加価値性を示すかを判断すると、審査項目に沿った事業計画になります。
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