中小企業が新たな事業分野へ挑戦する際の設備投資を支援してきた「中小企業新事業進出補助金」は、第4回公募をもって受付を終了しました。2026年度からは、ものづくり補助金と統合された「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」がスタートし、新たな事業への進出は同補助金の「新事業進出枠」で支援されます。
新事業進出枠の申請にあたっては、取り組む事業が「新事業進出」の定義に当てはまることが前提です。自社にとって新しい事業というだけでなく、新市場性または高付加価値性を客観的な根拠とともに示す必要があります。
本記事では、新事業進出枠の要件をポイントを押さえてわかりやすく解説します。旧制度の「新事業進出指針」との違いも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の詳細は、こちらの記事をご覧ください。
あわせて読みたい:【2026年最新】新事業進出・ものづくり商業サービス補助金とは?最大9,000万円 第1回公募・統合後の変更点を解説
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この記事の目次
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金と「新事業進出枠」の概要
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、従来の「中小企業新事業進出補助金」と「ものづくり補助金」を統合し、2026年度に新設された制度です。中小企業等が行う、技術的革新性のある製品・サービスの開発や、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出、海外市場開拓(輸出)に向けた国内の輸出体制の強化に係る設備投資等を支援します。
本補助金には「革新的新製品・サービス枠」「新事業進出枠」「グローバル枠」の3つの申請枠があり、このうち新事業進出枠が、旧・中小企業新事業進出補助金の役割を引き継ぐ枠となります。
制度全体の詳細(3つの枠の違いや共通要件)については、以下の記事で解説しています。
あわせて読みたい:【2026年最新】新事業進出・ものづくり商業サービス補助金とは?最大9,000万円 第1回公募・統合後の変更点を解説
新事業進出枠の補助上限額・補助率
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助上限額 | 従業員数1〜20人:2,500万円(3,000万円) 従業員数21〜50人:4,000万円(5,000万円) 従業員数51〜100人:5,500万円(7,000万円) 従業員数101人以上:7,000万円(9,000万円) ※( )内は賃上げ特例適用時 |
| 補助下限額 | 750万円 |
| 補助率 | 1/2(地域別最低賃金引上げ特例適用時は2/3) |
| 補助事業実施期間 | 交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内) |
| 補助対象経費 | 機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費 ※機械装置・システム構築費または建物費のいずれかが必須 |
補助下限額が750万円に設定されているため、補助率1/2で考えると、総投資額1,500万円以上の比較的規模の大きな設備投資を想定した枠といえます。建物の建設・改修費が補助対象に含まれる点も、新事業進出枠の大きな特徴です。
申請できる事業者
日本国内に本社と補助事業実施場所を有する中小企業者等が対象です。ただし、以下の点に注意が必要です。
・従業員数が0名の事業者は申請できません(全枠共通)
・新規設立・創業後1年に満たない事業者は、新事業進出枠では申請できません(最低1期分の決算書の提出が必要)
・申請締切日から16か月以内に事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金等の採択を受けた事業者や、交付決定を受けて補助事業実施中の事業者は対象外です
・過去3年間に事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金の交付決定を合計2回以上受けた事業者は対象外です。また、過去3年間にものづくり補助金または新事業進出補助金の交付決定を1回受けた事業者は、審査で減点されます
個人事業主の申請可否や必要書類については、以下の記事もご参照ください。
あわせて読みたい:中小企業新事業進出補助金は個人事業主も申請できる!対象外となる場合も解説
補助対象となる「新事業進出」の2つの条件
新事業進出枠では、取り組む事業が以下の2つの条件をどちらも満たすことが、補助対象となる前提です。旧制度で「新事業進出指針」に定められていた考え方が、新制度では公募要領本文に直接規定されています。| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ①製品等の新規性 | 事業で新たに製造等する製品等が、事業を行う中小企業等にとって、新規性を有するものであること |
| ②市場の新規性 | 事業で新たに製造等する製品等の属する市場が、事業を行う中小企業等にとって、新たな市場であること |
※「製品等」は製品、商品もしくはサービスを、「製造等」は製造又は提供を指します。
①製品等の新規性
1つ目の条件は、これまでとは違う新しい製品等の製造等に取り組むことです。ここでの「新規性」とは、補助事業に取り組む中小企業等にとっての新規性であり、世の中における新規性(日本初・世界初)ではありません。他社がすでに手がけている製品・サービスであっても、自社にとって初めての取り組みであれば、この条件を満たします。
また、新制度では新規性の判定タイミングが明確化されました。申請予定の公募回の公募開始(=公募要領公開)日以降に初めて取り組んでいる事業について、「新規性」を有するものとみなされます。第1回公募であれば、令和8年6月29日より前から販売・提供している事業は対象外となる一方、公募開始後に着手した事業であれば申請時点で事業を開始していても新規性が認められる、という整理です。
なお、過去に製造等していた製品等を再製造等することは、新たな製品等の製造等とは認められず、補助対象外です。
②市場の新規性
2つ目の条件は、新たに製造等する製品等の属する市場が、自社にとって新たな市場であることです。
「新たな市場」とは、既存事業において対象となっていなかったニーズ・属性(法人/個人、業種、行動特性等)を持つ顧客層を対象とする市場を指します。つまり、これまでとは異なる顧客層にアプローチする事業である必要があるため、既存事業の顧客層を明確にしたうえで、新規事業の顧客層との違いを説明できるようにしておくことが大切です。
事業計画書でも、「過去に製造等した実績がない製品等の製造等に取り組むこと」「既存事業と新規事業の顧客層が異なること」を示すよう、公募要領で求められています。
新事業進出枠に該当しない例
公募要領では、以下の場合は新事業進出枠に該当しないと明記されています。
・既存の製品等の製造量又は提供量を増大させる場合
・過去に製造していた製品等を再製造等する場合
・単に既存の製品等の製造方法を変更する場合
・製品等の性能が定量的に計測できる場合に、その性能が有意に異なるとは認められない場合
・既存の製品等と対象とする市場が同一である場合(既存の製品等の需要が新製品等の需要で代替される場合・単なるメニューの追加と考えられる場合)
・既存の製品等の市場の一部のみを対象とするものである場合
・既存の製品等が対象であって、単に商圏が異なるものである場合
旧制度の指針とおおむね同じ内容ですが、「単なるメニューの追加と考えられる場合」が明示された点は新制度での追記です。たとえば飲食店が既存の顧客層に向けて新メニューを1品追加するような取り組みは、市場の新規性が認められない可能性が高いといえます。
【旧制度との違い】新事業売上高要件は規定されず
旧制度の「新事業進出指針」は、「製品等の新規性要件」「市場の新規性要件」「新事業売上高要件」の3つで構成されていました。
このうち新事業売上高要件は、事業計画期間の最終年度に、新事業の売上高が応募申請時の総売上高の10%以上(または新事業の付加価値額が総付加価値額の15%以上)となる見込みを示すことを求めるものでしたが、現行の公募要領には、この要件は規定されていません。
| 旧制度(中小企業新事業進出補助金) | 新制度(新事業進出枠)での扱い |
|---|---|
| 製品等の新規性 | 基本的な考え方を継続。公募開始日以降に初めて取り組んだ事業を「新規性あり」とみなす基準を明記 |
| 市場の新規性 | 基本的な考え方を継続 |
| 新事業売上高要件 (売上高10%または付加価値額15%) | 現行の公募要領には規定なし |
| 新規事業の新市場性・高付加価値性(審査項目) | 旧制度から継続して審査 |
なお、新制度でも全枠共通の基本要件として、補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において、以下を満たす事業計画の策定・達成が求められます。
・一人当たり給与支給総額の年平均成長率+3.5%以上の増加(未達の場合、補助金返還義務あり)
・事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高い水準(未達の場合、補助金返還義務あり)
これらの付加価値額や賃上げ、事業場内最低賃金に関する要件は旧制度にも設けられていたものです。賃上げ関連の要件には引き続き補助金の返還義務が伴うため、申請前に必ず確認しておきましょう。
賃上げ要件の詳細は、以下の記事で解説しています。
あわせて読みたい:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の賃上げ要件とは?
審査の最重要ポイント「新規事業の新市場性・高付加価値性」とは
新事業進出枠で最も注意したいのが、書面審査項目の「新規事業の新市場性・高付加価値性」です。旧制度から引き続き設けられている審査項目で、前章までの「新事業進出」の2条件(自社にとっての新規性)を満たすことを前提に、審査では次の①②のいずれかを満たすことが求められます。
| 審査項目 | 求められる内容 |
|---|---|
| ①新市場性 | 製造等する製品等の属するジャンル・分野の、社会における一般的な普及度や認知度が低いこと |
| ②高付加価値性 | 同一のジャンル・分野の中で、高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであること |
補助対象の条件としての「新規性」が自社を基準とするのに対し、この審査項目では、新市場性は社会全体、高付加価値性は一般的な付加価値・相場価格が基準となります。自社にとって新しいだけでは審査で評価されない二段構えの構造になっているため、事業計画の作成にあたっては、中小企業庁・中小機構が公開している解説資料「新市場・高付加価値事業の考え方」も必ず確認しましょう。
①新市場性:ジャンル・分野の区分ルールに注意
新市場性の審査では、まず新規事業で製造等する製品等の「ジャンル・分野」を特定し、そのジャンル・分野の社会における一般的な普及度や認知度が低いことを、客観的なデータ・統計等で裏付ける必要があります。
ここで重要なのが、ジャンル・分野を区分する際には、製品等の「性能」「サイズ」「素材」「価格帯」「地域性」「業態」「顧客層」「効果」等の要素を排除しなければならない、というルールです。
| 新規事業の内容 | ジャンルの区分の例 | 不適切な区分の例 |
|---|---|---|
| 東京都港区で高級焼肉店を経営する事業 | 焼肉店 | 東京都港区の高級焼肉店 (価格帯・地域性を含むため不適切) |
| 介護施設向けの栄養価の高い大豆食品の製造を行う事業 | 大豆食品 | 介護施設向けの栄養価の高い大豆食品 (顧客層・性能を含むため不適切) |
| 無人店舗でのセルフネイルサロンを経営する事業 | ネイルサロン | 無人店舗でのセルフネイルサロン (業態を含むため不適切) |
| 半導体製造装置用の大型部品の製造を行う事業 | 半導体製造装置部品 | 半導体製造装置用の大型部品 (サイズを含むため不適切) |
出典:中小企業庁・中小機構「新市場・高付加価値事業の考え方」をもとに作成
このルールにより、ジャンル・分野は広めに区分されることになります。たとえば高級焼肉店を開業する場合でも、審査で問われるのは「焼肉店」というジャンル自体の社会における認知度の低さです。焼肉店のように広く普及した業種で①を満たすのは難しく、①新市場性で申請できるのは、社会的にまだ普及していない新しい分野の製品・サービスに限られると考えられます。
なお、排除した「価格帯」「顧客層」などの事業の特色は、無視されるわけではなく、「事業の実現可能性」「公的補助の必要性」等のその他の審査項目で考慮されます。
②高付加価値性:相場との比較と強みの分析が必須
高付加価値性の審査では、同一のジャンル・分野の中で、自社の製品等が高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであるかが評価されます。具体的には、以下の2点が審査のポイントです。
・相場と比較して高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであり、その源泉となる価値・強みの分析が妥当か
解説資料では、既存事業の知見を活かして代替困難な価値を生み出す例として、以下のような事例が紹介されています。
| 新規事業の内容 | 区分 | 高付加価値化の源泉 |
|---|---|---|
| 建設事業者が金属素材の知見を活かし、加工が困難なアルミ素材へのメッキ加工に取り組む事業 | メッキ加工 | 難加工を実現する代替困難な技術 |
| リサイクル素材や低環境負荷の染色技術を活用し、機能性繊維製品を開発製造・販売する事業 | 染色 | 高機能性・環境性能・技術的差別性による選好性と価格優位性 |
| 建築事業者が独自の建築工法を活用し、工法に最適化された構造材や接合部材等の製造・販売に取り組む事業 | 建築工法 | 独自工法を活用した代替困難な価値 |
一般的な業種で新事業に進出するケースでは、①新市場性よりも②高付加価値性での申請が中心になると考えられます。その場合、市場調査に基づく相場価格の分析と、既存事業で培った強みが高付加価値化にどうつながるかの説明が、事業計画書の完成度を左右します。地域経済分析システム「RESAS」などの公的データも活用しながら、客観的な根拠を示しましょう。
なお、審査は外部審査員による採点と他の審査項目との総合評価で行われるため、①②のいずれかを満たす計画でも不採択となる可能性は十分にあります。詳しい審査項目と加点項目については、以下の記事を参考にしてください。
あわせて読みたい:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の審査項目と加点項目
よくある質問
日本初の事業じゃないと申請できない?
いいえ、補助対象の条件としての「新規性」は自社にとっての新規性で足ります。ただし審査では、ジャンル・分野の社会的な新規性(新市場性)か、同一ジャンル内での高付加価値化(高付加価値性)のいずれかを示す必要があります。
旧・新事業進出補助金とは別の制度?
はい、名称と考え方を引き継いでいますが、要件・補助額・審査項目は新たに定められた別制度です。旧制度は第4回公募で受付を終了しており、新規の申請は本補助金が対象となります。
売上高10%の要件はなくなった?
はい、旧制度の「新事業売上高要件」は現行の公募要領には規定されていません。なお、付加価値額(年平均+4.0%)や賃上げ(同+3.5%・未達で返還義務)などの基本要件は、旧制度から引き続き設けられています。
まとめ
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の「新事業進出枠」は、旧・中小企業新事業進出補助金の考え方をおおむね引き継ぎつつ、新事業売上高要件が規定されなくなるなどの変更が加えられています。
申請を検討している方は、まず自社の計画が「製品等の新規性」「市場の新規性」の2条件に当てはまるかを確認したうえで、審査項目である新市場性と高付加価値性のどちらで事業計画を組み立てるかを検討しましょう。
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