脱炭素への取り組みや省エネ設備の導入を検討している中小企業や個人事業主の方に、ぜひ知っておいていただきたい税制があります。それが「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制(CN税制)」です。
CN税制は令和8年度税制改正で見直しのうえ延長されることが決まりました。計画認定の期限は2028年3月31日まで2年間延長される一方、税額控除率・特別償却率は縮小され、求められる炭素生産性の向上率は引き上げられます。また、大企業が取引先の中小企業の排出削減を支援する「サプライチェーン連携」の特例が新設されます。
この記事では、令和8年度税制改正による変更点を新旧対照で整理したうえで、制度の全体像から対象者・対象設備,申請の流れ、補助金との違いや併用までわかりやすく解説します。
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この記事の目次
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制(CN税制)とは
CN税制は、企業が脱炭素化に向けた設備投資を行う際に、法人税や所得税の税額控除または特別償却を受けられる優遇税制です。国が掲げる2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、民間企業の脱炭素投資を後押しする目的で、2021年に産業競争力強化法にもとづいて創設されました。
CN税制のポイントは、単に省エネ設備を入れれば使える制度ではないという点です。「エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画」という計画を作成して所管省庁の認定を受け、その計画にもとづいた設備投資を行うことが要件になります。
【令和8年度税制改正】何が変わった?
令和8年度税制改正によるCN税制の変更点は、大きく次の3つです。
①適用期限が2028年3月31日まで2年延長
改正前の制度では「2026年3月31日までに計画の認定を受けること」が要件でしたが、この期限はすでに到来しています。令和8年度税制改正により、適用期限は「2028年3月31日までに計画の認定を受け、その認定を受けた日から3年を経過する日まで」に延長されました。
これから計画認定を受ける事業者には、以下で解説する改正後の控除率・要件が適用されます。改正前の手厚い控除率(中小企業者等で最大14%)での新規認定は、期限経過によりすでに受けられなくなっている点に注意してください。
②控除率・償却率の縮小と向上率要件の引き上げ
税額控除率と特別償却率は縮小され、求められる炭素生産性の向上率は引き上げられました。新旧の対照は以下のとおりです。
| 企業区分 | 改正前 (向上率→措置) | 改正後 (向上率→措置) |
|---|---|---|
| 中小企業者等 | 17%→税額控除14% 又は特別償却50% | 22%→税額控除10% 又は特別償却30% |
| 中小企業者等 | 10%→税額控除10% 又は特別償却50% | 17%→税額控除5% 又は特別償却30% |
| 中小企業者等以外 | 20%→税額控除10% 又は特別償却50% | 25%(※)→税額控除8% 又は特別償却30% |
| 中小企業者等以外 | 15%→税額控除5% 又は特別償却50% | 20%(※)→税額控除3% 又は特別償却30% |
※中小企業者等以外の事業者が後述のサプライチェーン連携による取組支援を行った場合、向上率要件はそれぞれ20%・15%(改正前と同水準)に緩和されます。
中小企業者等の場合、最大の税額控除率は14%から10%へ、特別償却率は50%から30%へ縮小されました。あわせて、最低ラインとなる炭素生産性の向上率が10%から17%へ引き上げられており、「使いやすさ」の面では要件が厳しくなったといえます。
③サプライチェーン連携の特例を新設
今回の改正の目玉が、サプライチェーン連携による特例の新設です。
特定大企業(サプライチェーン連携を実施している中小企業者等以外の法人)が、自社のサプライチェーン上にある国内の中小企業者等(グループ会社を除く)の排出削減を目指す取組を支援した場合、炭素生産性の向上率要件が改正前と同水準(25%→20%、20%→15%)に緩和されます。
この特例の適用には、取組支援により連携先の中小企業者等の炭素生産性の向上率が30%以上となることが必要です。また、一定の要件を満たした場合には、支援を受けた連携企業(中小企業者等)自身もCN税制の適用を受けることが可能とされています。
大企業にとっては自社の税制メリットを確保しながら取引先の脱炭素を支援できる仕組みであり、中小企業にとっては大企業の支援を受けながら自社も税制優遇を受けられる可能性がある、双方にメリットのある枠組みです。具体的な要件・手続きは今後公表される資料での確認が必要です。
どれだけ税負担を軽減できる?税額控除・特別償却の内容
CN税制で受けられる優遇措置は、税額控除または特別償却の2種類です。企業区分(中小企業者等かどうか)と、認定を受けた計画全体での炭素生産性の向上率によって、控除率が変わります(前掲の新旧対照表参照)。
中小企業者等であれば、最大で設備取得価額の10%を法人税から直接差し引くことができます。たとえば1,000万円の設備を導入した場合、最大100万円の税額が軽減される計算です。特別償却の場合は、通常の減価償却に加えて取得価額の30%を追加で経費計上できるため、初年度の税負担を下げられます。
税額控除と特別償却はどちらを選ぶべき?
税額控除と特別償却の、それぞれの特徴は以下のとおりです。
| 税額控除 | 法人税額から直接差し引くため、節税効果が確定的。ただし控除しきれない分の翌年繰越しはできない |
|---|---|
| 特別償却 | 初年度に大きく経費計上でき、キャッシュフローを改善しやすい。使いきれない分は1年間だけ翌年に繰越し可能 |
利益が出ている企業は税額控除が有利になりやすく、短期的なキャッシュを重視するなら特別償却が有効という考え方が一般的です。同じ計画のなかで、設備ごとに使い分けることも可能です。
投資額の上限と控除税額の上限
CN税制には金額面のルールがあります。
| 対象となる投資額の上限 | 500億円まで |
|---|---|
| 税額控除の上限 | 法人税額または所得税額の20%まで |
なお、改正前は「DX投資促進税制と合算して20%まで」とされていましたが、DX投資促進税制は2025年3月末で終了しています。
計画認定の期限は2028年3月31日
CN税制を受けるためには、2028年3月31日までに計画の認定を受ける必要があります。認定を受けた日から3年以内に設備を取得して事業に使う必要もあります。
期限までは時間がありますが、計画認定には事前相談を含めて数か月かかるのが通例です。また、必ず計画認定を受けてから設備を取得する必要があるため、設備投資のスケジュールから逆算して早めに動き出すことが重要です。
対象となる事業者
CN税制の対象になるのは、青色申告書を提出している個人・法人です。業種や資本金の規模は問われないため、中小企業だけでなく個人事業主も対象になり得ます。ただし、事業適応計画の認定を受けることが前提条件です。
「中小企業者等」の定義に要注意
高い控除率を受けられる「中小企業者等」とは、租税特別措置法第10条の5の5第3項第1号に規定する中小事業者、または同法第42条の12の6第2項第1号に規定する中小企業者を指します。この定義は中小企業基本法の「中小企業者」とは異なるため、自社が該当するか必ず確認してください。
本制度で、中小企業者等に該当するのは以下の事業者です。
| 個人事業主 | 常時使用する従業員1,000人以下 |
|---|---|
| 法人 | 資本金または出資金1億円以下、または資本を有しない法人で従業員1,000人以下 |
一方、以下のいずれかに該当すると、資本金1億円以下でも中小企業者等の扱いにはなりません。
・同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受けている法人
・2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受けている法人
・前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人(適用除外事業者)
「大規模法人」とは、資本金1億円超の法人、資本を有しない従業員1,000人超の法人、資本金5億円以上の大法人の100%子法人などを指します。親会社が大企業の子会社などは中小企業者等に該当しないケースがあるため、税理士や中小企業診断士に確認しておくと安心です。
大企業は「賃上げ・設備投資」の要件にも注意
中小企業者等以外の大企業には、追加のハードルがあります。所得が前年度より増加しているにもかかわらず賃上げや国内設備投資に消極的な場合、税額控除の適用が制限される仕組み(特定税額控除規定の適用除外)があり、令和8年度税制改正でCN税制についてはこの判定が厳格化されました。
改正後は、継続雇用者の賃上げ要件と国内設備投資額要件の「いずれか」を満たさない場合に税額控除が使えなくなります(改正前は「いずれも」満たさない場合)。令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるため、大企業でCN税制の税額控除を検討する場合は、自社の賃上げ・投資状況もあわせて確認が必要です。
対象となる設備 何を導入すれば使える?
対象となる設備については、現行制度に基づき解説します。制度の基本的な枠組みは改正後も維持される見込みですが、改訂版資料の公表後に最新の内容をご確認ください。
対象は「生産工程効率化等設備」
CN税制の対象になる設備は「生産工程効率化等設備」と呼ばれます。設備を導入することで、その設備を導入した事業所(工場や店舗など)の炭素生産性が1%以上向上する設備が対象です。
対象になる設備区分は以下のとおりです。
・器具備品
・建物附属設備
・構築物
・車両(国土交通大臣が定める鉄道車両に限る)
対象にならない設備
以下のような設備は、たとえ省エネ効果があってもCN税制の対象にはなりません。
・一般的なLED照明:家電量販店やホームセンターで買えるようなオフィス用LEDは対象外
・一般的なエアコン:使用者の快適性のためのエアコンは対象外(工業用クリーンルームの空調設備などは対象)
・中古品・貸付設備:新品の取得が要件
・単なる修繕:設備の修理や部品交換は対象外
・計画認定前に取得・製作を開始した設備:認定前に着手した設備は対象外
・PPA契約で設置した発電設備:PPA事業者の資産となるため、利用者側では対象外
「広く一般に流通する」という基準がポイントで、オーダーメイド調整をしたLEDやエアコンでも、既製品ベースの規格品であれば対象外となります。
「組み合わせ設備」として一式で判定できるケース
複数の設備をセットで使うことが前提の場合、一式の設備として炭素生産性1%以上向上を判定できます。
組み合わせに該当する例は以下のとおりです。
・太陽光発電設備とセットで使うことが前提の蓄電池
・同じEMS(エネルギーマネジメントシステム)で制御する熱源設備一式
一方、生産ラインの加工装置と、事業所全体に電気を供給する自家発電設備のように用途が異なるものは、組み合わせに該当しません。
「炭素生産性」の考え方と計算方法
CN税制のカギは「炭素生産性」という指標です。単純な省エネ率ではなく、同じCO2排出量でどれだけの付加価値を生めているかを示す指標で、次の式で計算します。
※付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費
「営業利益」は「売上総利益」に置き換えることもできます。
計画全体で満たすべき目標
事業適応計画の認定を受けるためには、炭素生産性を3年以内に向上させる目標を立てる必要があります。令和8年度税制改正後の水準は以下のとおりです。
| 企業区分 | 3年以内の炭素生産性向上目標 |
|---|---|
| 中小企業者等 | 17%以上 (税額控除10%を狙うなら22%以上) |
| 中小企業者等以外 | 20%以上(税額控除8%を狙うなら25%以上) ※連携企業への取組支援をした場合は15%以上(同20%以上) |
設備単位では1%以上向上が必要
計画全体の目標に加えて、税制対象となる設備は事業所単位で炭素生産性1%以上を向上させる必要があります。事業所全体の複数設備をまとめて1%以上ではなく、各設備(または組み合わせ設備一式)ごとに1%以上を示さなければならない点に注意してください。
炭素生産性の計算で使えないもの
以下は炭素生産性の算定に含めることができません。
・再生可能エネルギー由来電力メニューへの切替による削減
・J-クレジット制度による削減量
・JCM(二国間クレジット制度)による削減量
・PPA契約による発電設備の効果
また、目標年度の炭素生産性を計算する際は、基準年度の計算に使ったのと同じ排出係数を使う必要があります。あくまで設備投資による物理的なエネルギー効率の改善が評価される制度です。
申請から税制適用までの流れ
CN税制の適用を受けるまでには、以下のようなステップを踏みます。なお、以下は現行資料に基づく流れです。改正後の手続き詳細は、経済産業省の改訂版資料で確認してください。
①所管省庁への事前相談
計画認定を予定する時期の約2か月前を目安に、事業を所管する省庁に相談します。要件に合致するか、必要書類は何かなどを確認します。
主な省庁の窓口は以下のとおりです。
| 業種 | 担当省庁 |
|---|---|
| 製造業、流通・小売業 | 経済産業省 |
| 通信・放送業 | 総務省 |
| 医薬品製造業 | 厚生労働省 |
| 食品産業 | 農林水産省 |
| 運輸業、鉄道業、造船業、建設業 | 国土交通省 |
| 廃棄物処理業 | 環境省 |
経済産業省所管業種で、資本金100億円以下かつ投資額10億円以下の計画であれば、地方経済産業局への申請も可能です。
②計画の申請
事前相談で内容が固まったら、原則としてWeb申請(gBizFORM)で認定申請を行います。現行資料で必要とされている添付書類は以下のとおりです。
・直近の事業報告、貸借対照表、損益計算書
・生産性が相当程度向上することを示す書類(炭素生産性の向上率の根拠資料)
・財務内容の健全性が向上することを示す書類(計画終了年度に黒字となる計画であること)
・事業適応に係る経営の方針の決議・決定の過程を示す書類(取締役会議事録など)
・計画実施に必要な資金の使途および調達方法の内訳
・暴力団でないことを示す書類
③計画の認定
申請から認定までは概ね1か月程度が目安ですが、内容によって前後します。認定期限(2028年3月31日)に対して余裕はありますが、審査期間を見込んだスケジュール設計が重要です。
④設備の取得・事業供用
計画認定後、認定日から3年以内に設備を取得して事業に使う必要があります。必ず計画認定を受けてから設備を取得してください。認定前に取得を開始した設備は対象外になります。
⑤税務申告
対象設備を事業に使い始めた年度の確定申告で、税額控除または特別償却を申告します。認定計画の写しと認定書の写しの添付が必要です。
⑥実施状況の報告
計画期間中は毎事業年度、実施状況を所管省庁に報告する義務があります。原則として事業年度終了後3か月以内が提出期限で、報告内容は公表されます。
CN税制は補助金と併用できる?
CN税制は税制優遇であり、補助金とは仕組みが異なりますが、他の補助金と併用することが可能なケースが多くあります。具体的には、ものづくり補助金や省エネ補助金などと併用が可能です。ただし、法人税法上の「圧縮記帳」を適用する場合は、圧縮後の金額が税務上の取得価額となるため、CN税制の計算基礎も縮小する点に注意が必要です。
補助金と税制は「もらえるお金」か「税金の軽減」かという違いがあります。補助金は入金までのタイムラグや採択率のリスクがある一方、税制は認定と要件充足で確実にメリットを受けられます。自社の資金繰りや投資計画に応じて、どちらを主軸にするか、または両方を組み合わせるかを判断しましょう。
参考記事:
他税制との重複について
同一の設備に対して、CN税制と他の税制優遇を重複して適用することはできません。ただし、法人税・所得税の措置と税目が異なる固定資産税の特例措置については、重複して利用することが可能です。
よくある質問
個人事業主でも使える?
青色申告を行っており、事業適応計画の認定を受けられる個人事業主であれば対象になります。ただし実務上は法人での活用が中心で、投資規模によっては中小企業向け補助金の活用が現実的な場合もあります。
リース契約の設備も対象になる?
所有権移転ファイナンスリースは税額控除・特別償却とも対象です。所有権移転外ファイナンスリースは税額控除のみ対象で、オペレーティングリースはいずれも対象外です。
太陽光と蓄電池はセットで扱える?
セットで使うことが前提の蓄電池は「組み合わせ設備」として一式で炭素生産性1%以上向上を判定できます。合わせた効果で1%以上向上していれば、両方とも税制対象になります。
投資額の下限はある?
投資額の下限はありません。ただし、事業適応計画の作成・申請にかかる労力を考えると、あまりに小額の投資には向いていない面もあります。
認定後に設備を追加できる?
計画変更申請を行い、変更認定を受ければ設備を追加できます。ただし、追加した設備も最初の計画認定日から3年以内に事業供用する必要があります。
過去に投資決定した設備は使える?
改正前の制度では、2024年3月31日までに組織として投資決定していた設備は原則対象外とされていました。改正後にこの基準日がどう設定されるかは執筆時点で確認できないため、必ず事前相談で確認してください。
J-クレジットや電力メニュー切替は使える?
炭素生産性の算定には含められません。あくまで設備投資による物理的なエネルギー効率改善が評価されます。
サプライチェーン連携は中小企業にもメリットがある?
あります。特定大企業から排出削減の取組支援を受けた連携企業も、一定の要件を満たせば自社でCN税制の適用を受けられるとされています。具体的な要件は今後公表される資料で確認してください。
申請サポートは必要?
事業計画の策定や炭素生産性の計算など専門的な作業が多いため、自社での対応が難しい場合は税理士・中小企業診断士・脱炭素コンサルタントなど専門家への相談が現実的です。認定支援機関に登録された士業に相談すると、補助金との組み合わせ提案も受けられます。
まとめ
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制(CN税制)は、脱炭素と生産性向上を両立する設備投資を後押しする税制優遇制度です。令和8年度税制改正により2028年3月31日まで延長された一方、控除率の縮小と向上率要件の引き上げにより従来より要件は厳しくなりました。
また、サプライチェーン連携の特例という新しい活用ルートが生まれ、大企業と中小企業が連携して脱炭素に取り組むインセンティブが強化されています。
活用を検討している事業者は、まず所管省庁への事前相談(CN税制の窓口:経済産業省GXグループ環境政策課GX推進企画室、直通03-3501-1679)か、脱炭素・補助金に詳しい専門家への相談から始めてみてください。
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参考:
・経済産業省「令和8年度 経済産業関係税制改正について」(令和7年12月)
・財務省「令和8年度税制改正の大綱」
・経済産業省「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」
・経済産業省「エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画(CN税制)の申請方法・審査のポイント」
・経済産業省「エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画(CN税制)Q&A」


