「契約社員やパートタイマー、派遣社員などの、いわゆる非正規雇用労働者のキャリアアップを促進する取り組みを行うともらえる助成金があるって聞いたけど、なにから取り組もうか・・・」とお考えの事業主の皆さま、「キャリアアップ助成金」は取り組み内容によりコースが7つに分かれており、正社員化かそれ以外の処遇改善のコースがあります。
たとえば処遇改善ですと、健康診断制度の規定、実施をする「健康診断制度コース」や正社員と共通の諸手当制度を新設、適用する「諸手当制度共通化コース」などがあります。今回は処遇改善コースのうちのひとつ、賃金の引き上げを行う事業主への支援である「賃金規定等改定コース」についてご紹介いたします。
この記事の目次
1、「賃金規定等改定コース」とは
すべてまたは一部の有期契約労働者等の基本給の賃金規定等を2%以上増額改定し、昇給した場合に助成するものです。賃金規定等は改定ではなく、新たに作成した場合でもその内容が過去3か月の賃金実態からみて2%以上増額していれば、助成対象になります。
このコースの受給額は条件によって異なり分かりにくいところですので、詳しくみていきたいと思います。ポイントとなるのは次の2つです。
(1) 賃金規定等を改定して、誰の賃金を何%増額したか
(2) 職務評価を実施した場合は、その結果をふまえて賃金規定等を改定しているか
出典:キャリアアップ助成金のご案内P.30
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
(1) 賃金規定等を改定して、誰の賃金を何%増額したか
すべての有期契約労働者等を対象に賃金を2%以上増額した場合、対象労働者が1~3人の事業所は、1事業所あたり12万円(中小企業で生産性の向上が認められる場合)が支給されます。または、雇用形態や職種別などの理由で対象者を限定し、一部の有期契約労働者等を対象に賃金を2%以上増額した場合、対象労働者が1~3人の事業所は、1事業所あたり6万円(中小企業で生産性の向上が認められる場合)の支給となります。つまりすべての有期契約労働者等を対象に賃金を増額した場合は、対象者を限定した時の2倍の金額が支給されるということがわかります。
さらに、増額の割合が3%以上の場合は、中小企業の場合に限りますが、1人当たりの助成額が加算されます。生産性の向上が認められ、対象者がすべての有期契約労働者等の場合、1人当たり18,000円が加算して助成されます。増額対象者を限定した時は1人あたり9,600円加算となっています。
(2) 職務評価を実施した場合は、その結果をふまえて賃金規定等を改定しているか
賃金規定等とは、賃金規定や労働協約または就業規則において賃金等の定めがあるもののことを指します。
出典:キャリアアップ助成金のご案内P.33
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
これらの金額を2%以上増額して、改定を行うのですが、「職務評価」※を実施し、その結果を賃金規定等の改定に反映させると1事業所あたり24万円(生産性の向上が認められる場合)が加算して助成されます。
しかし加算を受けようとする場合は、職務評価の結果に基づいて賃金規定等の改定をする必要があり、格付けした等級ごとに賃金を規定しただけでは、職務評価の結果がどの級に該当するか示されていないため、相関関係がないと判断されてしまいます。
職務評価の結果と格付け、改定後の賃金を並べて記載するなど、賃金規定等の改定に職務評価の結果が反映されていることが分かるようにしてください。以下は相関関係が示されている例です。
出典:キャリアアップ助成金のご案内P.36
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
※「職務評価とは」
職務の大きさ(職務内容、責任の程度)を相対的に比較し、その職務に従事する労働者の待遇が職務の大きさに応じたものになっているかを把握するもので、個々の仕事の取り組みや能力を評価(人事評価や能力評価)するものとは異なります。
参考「職務評価を使って処遇改善を行うと助成金がさらにアップします」
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000499347.pdf
助成金の上限はいくらか
このコースでもらえる助成金の上限は564万円で、申請は1年度1事業所当たり最大100人まで、1回のみの申請となります。(すべての有期契約労働者等100名の賃金を3%以上増額し、職務評価の結果を賃金規定等に反映。中小企業で生産性の向上が認められる場合で算出。)
2、このコースの対象者は?
受給額の詳細や賃金規定等の改定のポイントが理解できたところで、本コースの対象者についてみてみましょう。次の①から⑥までのすべてに該当する労働者が対象です。
① 労働協約または就業規則に定めるところにより、その雇用するすべてまたは一部の有期契約労働者等に適用される賃金に関する規定または賃金テーブルを増額改定した日の前日から起算して3か月以上前の日から増額改定後6か月以上の期間継続して、支給対象事業主に雇用されている有期契約労働者等であること。
② 増額改定した賃金規定等を適用され、かつ、増額改定前の基本給に比べて2%以上昇給している者(中小企業において3%以上増額改定し、助成額の加算の適用を受ける場合にあっては、3%以上昇給している者)であること。
③ 賃金規定等を増額改定した日の前日から起算して3か月前の日から支給申請日までの間に、合理的な理由なく基本給や定額で支給されている諸手当を減額されていない者であること。
④ 賃金規定等を増額改定した日以降の6か月間、当該対象適用事業所において、雇用保険被保険者であること。
⑤ 賃金規定等の増額改定を行った事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること。
⑥ 支給申請日において離職していない者であること。
出典:キャリアアップ助成金のご案内P.30~31
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
対象者は、賃金規定等を増額改定した日の前日から起算して過去3か月以上前から、増額改定後6か月以上の期間継続して有期契約労働者等として雇用されていて、増額改定前の基本給に比べて2%以上昇給している方で雇用保険被保険者、かつ事業主または取締役の親族以外で、支給申請日に離職していない方となります。
3、対象となる事業主は?
事業主は有期契約労働者等の賃金規定等を2%以上増額改定し、昇給させることの他にどのようなことが求められるのでしょうか。キャリアアップ助成金の全コース共通要件と、当該コースの要件をそれぞれみてみましょう。
キャリアアップ助成金(全コース共通)事業主要件
○ 雇用保険適用事業所の事業主であること
○ 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
○ 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労 働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
○ 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書 類を整備している事業主であること
○ キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
出典:キャリアアップ助成金のご案内P.4
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
キャリアアップ管理者とは、有期契約労働者等のキャリアアップに取り組む者として必要な知識および経験を有していると認められる者のことで、事業所ごとに1名配置します。キャリアアップ計画とは有期契約労働者等のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、今後のおおまかな取り組みイメージ(対象者、目標、期間、目標達成のために事業主が行う取り組み)をあらかじめ記載するものです。
「賃金規定等改定コース」事業主要件
次の①から⑧のすべてに該当する事業主であること。
① 有期契約労働者等に適用される賃金規定等を作成している事業主であること。
② すべてまたは一部の賃金規定等を2%以上増額改定(新たに賃金規定等を整備し、当該賃金規定等に属するすべてまたは一部の有期契約労働者等の基本給を、整備前に比べ2%以上増額する場合を含む。)し、当該すべてまたは一部の賃金規定等に属する有期契約労働者等に適用し昇給させた事業主であること。
③ 増額改定前の賃金規定等を、3か月以上運用していた事業主であること(新たに賃金規定等を整備する場合は、整備前の3か月分の有期契約労働者等の賃金支払状況が確認できる事業主であること。)。
④ 増額改定後の賃金規定等を、6か月以上運用し、かつ、定額で支給されている諸手当を減額していない事業主であること。
⑤ 支給申請日において当該賃金規定等を継続して運用している事業主であること。
⑥ 中小企業において3%以上増額改定し、助成額の加算の適用を受ける場合にあっては、平成28年8月24日以降、当該すべてまたは一部の賃金規定等を3%以上増額改定(新たに賃金規定等を整備し、当該賃金規定等に属するすべてまたは一部の有期契約労働者等の基本給を、整備前に比べ3%以上増額する場合を含む。)し、当該賃金規定等に属するすべてまたは一部の有期契約労働者等に適用し昇給させた中小企業事業主であること。
⑦ 職務評価を経て賃金規定等改定を行う場合にあっては、雇用するすべてまたは一部の有期契約労働者等を対象に職務評価を実施した事業主であること。
※ 職務評価の手法については、「単純比較法」、「分類法」、「要素比較法」、「要素別点数法」のいずれかの手法を用いても構いません。ただし、「単純比較法」または「分類法」による「職務評価」の手法を使う場合、職務分析(仕事を「職務内容」や「責任の程度」等に基づいて整理し、職務説明書に整理すること)を行うことが必要です。
⑧ 生産性要件を満たした場合の支給額の適用を受ける場合にあっては、当該生産性要件を満たした事業主であること。
出典:キャリアアップ助成金のご案内P.31
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
事業主は賃金規定等を改定(または新たに作成)するだけでなく、賃金増額前の記録の確認、昇給後の賃金の継続した運用などが必要です。制度をしっかりと運用させることが求められています。
4、申請時の提出書類
申請に必要な書類を確認しましょう。
提出書類は以下の通りです。全コース共通様式と、コースの提出書類、それに添付する書類となります。様式は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
(1) <全コース共通> 様式第3号 キャリアアップ助成金支給申請書
(2) <全コース共通> 様式第4号 事業所確認票
(3) 様式第3号 別添様式2 賃金規定等改定コース内訳
(4) 様式第3号 別添様式2 賃金規定等改定コース継紙
(5) 支給要件確認申立書(共通要領様式 第1号)
(6) 支払方法・受取人住所届
(7) 管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写)
(8) 賃金規定等が規定されている労働協約または就業規則
(9) 増額改定前および増額改定後の賃金規定等
※新たに賃金規定等を整備する場合は、増額改定前の賃金規定等は除く。
(10) 対象労働者の増額改定前および増額改定後の雇用契約書等
(11) 対象労働者の労働基準法第108条に定める賃金台帳または船員法第58条の2に定める報酬支払簿
※賃金規定等の増額改定前の3か月分および賃金規定等の増額改定後の6か月分
(12) 対象労働者の出勤簿等
※賃金規定等改定後の賃金の算定となる初日の前日から過去3か月分および賃金規定等改定後の賃金の算定となる初日から6か月分
(13) 中小企業事業主である場合、中小企業事業主であることを確認できる書類
(14) 生産性要件に係る支給申請の場合の添付書類
(15) 職務評価実施の場合の添付書類
(3) 様式第3号 別添様式2 賃金規定等改定コース内訳の記入例
出典:キャリアアップ助成金のご案内P.66
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf
5、申請の流れ
最後に申請の流れについて確認しておきましょう。5つのステップがあります。
- キャリアアップ計画の作成・提出(賃金規定等を増額改定する日までに提出)
雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置するとともに、労働組合等の意見を聞いて「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の認定を受けてください。 - 賃金規定等の増額改定の実施
増額改定後の雇用契約書や労働条件通知書を対象労働者に交付します。当該賃金規定等に属する有期契約労働者等は昇給している必要があります。 - 増額改定後の賃金に基づき6か月分の賃金を支給
増額改定時または増額改定後に、基本給や定額で支給されている諸手当を適用前と比べて減額していない必要があります。 - 助成金支給申請
増額改定後6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して、2か月以内に支給申請してください。 - 支給決定
※申請状況により、4~5か月など、審査に時間を要する場合があります。
まとめ
今回ご紹介したキャリアアップ助成金の「賃金規定等改定コース」は、すべてまたは一部の有期契約労働者等の基本給の賃金規定等を2%以上増額改定し、昇給した場合、助成されるものでした。また、賃金規定等は改定ではなく新たに作成した場合も対象になり、対象労働者が1人でも申請可能ですので、賃金の引き上げをお考えの方は活用をおすすめいたします。
非正規雇用労働者の処遇改善に取り組み、労働者の意欲向上を目指してみよう、とお考えの事業主の皆さま、キャリアアップ助成金を活用して労働環境整備に取り組んでみませんか。ご不明な点など、補助金ポータルまでお気軽にお問い合わせください