会社の倒産により、給料や退職金が未払いのまま退職を余儀なくされた場合に活用できるのが、未払賃金立替払制度です。
「会社が突然倒産して、給料が払われないまま退職することになってしまった」「数か月分の給料と退職金が未払いのままで、生活が立ち行かない」――そんな状況に直面している方に、ぜひ知っておいていただきたい制度です。
この制度は、会社の倒産により賃金が未払いのまま退職を余儀なくされた労働者に対して、未払賃金の最大8割、最大296万円を国が立て替えてくれるものです。
制度の存在を知らずに請求期限(2年)を過ぎてしまう方も少なくありません。この記事では、対象要件・立替払の金額・申請の流れをわかりやすく解説します。
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この記事の目次
未払賃金立替払制度とは
未払賃金立替払制度は、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づき、企業倒産により賃金が未払いのまま退職した労働者に対して、未払賃金の一部を立替払する制度です。
事業主の代わりに支払いを行うのは、厚生労働省が所管する独立行政法人労働者健康安全機構(以下「機構」)です。機構は立替払を実施した後、倒産した企業(破産管財人等)に対して立替払した金銭を求償(返還請求)します。
つまり、倒産で会社からお金を受け取れなくなった労働者のために、国が一時的に肩代わりしてくれる「セーフティネット」の役割を担う制度です。正社員だけでなく、パートタイマー・アルバイト・外国人労働者も対象となります。
対象となる会社(事業主)の要件
本制度を利用するには、まず勤めていた会社が以下の要件を満たしていることが必要です。基本要件
- 労災保険の適用事業の事業主であること
- 1年以上事業を実施していたこと(設立から1年未満での倒産は対象外)
- 倒産したこと(下記ア・イのいずれか)
ア:法律上の倒産(企業規模問わず)
裁判所が関与する法的手続きによる倒産です。以下の4種類が該当します。
| 種類 | 根拠法 |
|---|---|
| 破産手続開始の決定 | 破産法 |
| 特別清算手続開始の命令 | 会社法 |
| 再生手続開始の決定 | 民事再生法 |
| 更生手続開始の決定 | 会社更生法 |
この場合、破産管財人等が未払賃金額等を証明した「証明書」の交付を受ける必要があります。
イ:事実上の倒産(中小企業事業主のみ)
法的な破産手続きを経ていなくても、事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金支払能力がないと労働基準監督署長が認定した場合に対象となります。
中小企業事業主の範囲は以下のとおりです。
| 業種 | 資本金の額等 | 労働者数 |
|---|---|---|
| 一般業種(下記以外) | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
※いずれかの条件を満たす場合に中小企業事業主に該当します。
対象となる労働者の要件
会社の倒産要件を満たしても、労働者側にも以下の要件があります。
- (1)破産手続開始等の申立て(または事実上の倒産の認定申請)の6か月前の日から2年間に退職していること
- (2)未払賃金額等について、法律上の倒産の場合は破産管財人等の証明を、事実上の倒産の場合は労働基準監督署長の確認を受けること
- (3)破産手続開始の決定等(事実上の倒産の認定)の日の翌日から2年以内に立替払を請求すること
期限を過ぎると立替払を受けることができません。「まだ大丈夫だろう」と後回しにせず、退職後はできるだけ早く最寄りの労働基準監督署に連絡を取りましょう。なお、事実上の倒産の場合、退職から6か月以内に認定申請書を労働基準監督署に提出する必要もあります。
立替払の対象となる賃金
立替払の対象となる賃金は、退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金に限られます。
| 区分 | 対象 |
|---|---|
| 定期給与 | ○(毎月の基本給・残業代・各種手当等) |
| 退職金 | ○ |
| ボーナス(賞与) | ×(対象外) |
| 結婚祝い金など臨時の賃金 | ×(対象外) |
| 解雇予告手当 | ×(対象外) |
未払賃金の合計額が2万円に満たない場合は、本制度を利用することができません。
立替払の金額(年齢別上限額)
立替払の額は、未払賃金総額の8割です。ただし、退職日における年齢に応じた上限額が設けられています。
| 退職日における年齢 | 未払賃金総額の限度額 | 立替払の上限額(×0.8) |
|---|---|---|
| 45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
| 30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
| 30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
例1)退職日に35歳・未払賃金が200万円の場合
→ 200万円 × 0.8 = 立替払額 160万円(上限176万円以内のため全額の8割)
例2)退職日に35歳・未払賃金が300万円の場合
→ 上限額220万円 × 0.8 = 立替払額 176万円(未払総額が上限を超えるため上限額の8割)
例3)退職日に25歳・未払賃金が120万円の場合
→ 上限額110万円 × 0.8 = 立替払額 88万円(未払総額が上限を超えるため上限額の8割)
なお、立替払金は税法上「退職所得」として扱われ、他の所得と分離して課税されます。請求書下欄の「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に記入することで退職所得控除が受けられます。
申請の流れ
申請の流れは、会社が「法律上の倒産」か「事実上の倒産」かによって異なります。
【法律上の倒産の場合】
STEP1:未払賃金額を確認する
給与明細・タイムカード等で未払賃金の金額・期間・支払日を確認します。不明な場合は破産管財人や会社の労務担当者に確認しましょう。
STEP2:破産管財人等から「証明書」の交付を受ける
破産管財人・再生債務者・管財人等に申請し、退職日・未払賃金額・立替払額・賃金債権の届出額等が記載された証明書の交付を受けます。必要な様式は労働基準監督署にも備え付けられています。
STEP3:立替払請求書を記入して機構へ提出する
「未払賃金の立替払請求書」(証明書と一体の様式)に、請求年月日・氏名・振込先口座番号(本人名義の普通預金口座)等を記入し、機構へ提出します。請求書は機構ウェブサイトからダウンロードも可能です。
STEP4:審査・振込
機構が書類を審査し、支払が決定した場合は「立替払決定支払通知書」が送付され、指定口座へ30日以内を目安に振込まれます。
【事実上の倒産の場合(中小企業のみ)】
STEP1:労働基準監督署へ「認定申請書」を提出する
退職日の翌日から6か月以内に、倒産した事業地を管轄する労働基準監督署長あてに認定申請書を提出し、倒産の認定を受けます。
STEP2:労働基準監督署から「確認通知書」の交付を受ける
未払賃金額等について労働基準監督署長の確認を受け、確認通知書の交付を受けます。
STEP3:立替払請求書を記入して機構へ提出する
確認通知書と一体となっている「立替払請求書」に必要事項を記入し、機構へ提出します(切り離さないように注意)。
STEP4:審査・振込
法律上の倒産と同様に、審査後に指定口座へ振込まれます。
【提出先・問い合わせ先】
独立行政法人 労働者健康安全機構(産業保健・賃金援護部 審査課)
〒212-0013 神奈川県川崎市中原区木月住吉町1番1号
相談・手続きは最寄りの労働基準監督署でも受け付けています。
未払賃金立替払制度に関するよくある質問
パートやアルバイトでも利用できる?
はい、利用できます。労働基準法では正規雇用と非正規雇用に違いはなく、パートタイマー・アルバイト・外国人労働者も未払賃金立替払制度の対象となります。雇用形態や国籍に関わらず、要件を満たせば申請可能です。
ボーナス(賞与)は立替払の対象になる?
なりません。本制度で立替払の対象となる賃金は「定期給与」と「退職金」のみです。ボーナス(賞与)や結婚祝い金などの臨時の賃金、解雇予告手当は対象外です。
請求期限の2年はいつから数える?
法律上の倒産の場合は、裁判所による破産手続開始等の決定日または命令日の翌日から2年以内です。事実上の倒産の場合は、労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から2年以内に請求する必要があります。この期間を過ぎると立替払を受けることができませんので、早めに手続きを進めてください。
立替払されなかった残り2割はどうなる?
立替払されなかった残り2割については、会社に対する賃金債権が失われるわけではありません。破産手続きなどの際に破産管財人等に対して債権を届け出ることで配当を受けられる可能性があります。ただし、倒産した会社の資産は不足していることが多く、実際に残り2割が支払われる可能性は低いのが実態です。
会社が法律上の倒産手続きをしていない場合でも利用できる?
中小企業であれば、法律上の倒産手続きをしていなくても「事実上の倒産」として利用できる場合があります。事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金支払能力がないと労働基準監督署長が認定すれば対象となります。まずは最寄りの労働基準監督署に相談してください。
立替払金が振り込まれるまでどのくらいかかる?
機構が請求書を受け付けてから支払までの期間は30日以内が目安です。書類の不備がなければ1か月以内に振り込まれるケースも多いですが、疑義照会や補正が必要な場合はさらに時間がかかることがあります。振込前に「支払通知書」が届きますので、1か月以上経過しても通知がない場合は機構に確認してください。
立替払金に税金はかかる?
かかります。立替払金は税法上「退職所得」として扱われ、他の所得と分離して課税されます。ただし、請求書下欄の「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に記入することで退職所得控除を受けられます。勤続年数が長いほど控除額が大きくなるため、忘れずに記入しましょう。
会社設立から1年未満で倒産した場合は対象外?
原則として対象外となります。ただし、個人事業から法人化した場合など、法人化前の事業期間と通算して1年以上の事業実績がある場合は対象となる可能性があります。詳しくは最寄りの労働基準監督署に確認してください。
不正に立替払を受けた場合はどうなる?
偽りその他不正の行為により立替払金を得た場合は、詐欺罪として刑事告発されることになります。また、不正受給が判明した場合は、立替払された金額の返還およびそれに相当する金額の納付(いわゆる倍返し)が命じられます。絶対に不正申請は行わないでください。
倒産した会社を退職後、すぐに別の会社に就職しても申請できる?
はい、申請できます。再就職の有無は本制度の利用要件に関係ありません。倒産した会社における未払賃金がある場合は、新しい勤務先に就職した後でも、請求期限(2年)以内であれば申請することができます。
まとめ
未払賃金立替払制度は、会社の倒産という不測の事態に直面した労働者を守るセーフティネットです。未払賃金総額の8割、最大296万円まで立替払を受けることができます。
最も重要なのは、請求期限(倒産決定等の翌日から2年以内)を絶対に守ることです。また事実上の倒産の場合は、退職から6か月以内に認定申請書を提出する必要があります。
「自分が対象になるかわからない」「手続きが複雑で不安だ」という場合は、まず最寄りの労働基準監督署に相談することをお勧めします。制度の対象かどうかの確認から手続きの案内まで、丁寧にサポートしてもらえます。
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