政府は平成29年度から始まった「働き方改革実行計画」の中で、全国の平均賃金時給1000円を達成すべく毎年約3%程度の継続的な賃金引き上げに取り組んできましたが、政府は新型コロナウイルスの感染拡大による経済への大きな影響を踏まえ、今年度については事実上最低賃金の引き上げを見送る方針を示しました。
9月4日に厚生労働省が発表した10月1日から適用される新たな地域別最低賃金額を見ると、40の県で僅かながら賃金の引き上げが行われているものの、全国の平均最低賃金としては去年の901円から僅か1円増加に留まる902円とほぼ据え置きといってよい結果に落ち着いています。
しかし、日本の最低賃金はかねてより先進国の中でも際立って低い水準といわれており、政府は地方の活性化のため最低賃金の全国的な引き上げについては今後も取り組んでいかなければならない重要な課題と捉えています。
そこで、今回は事業主が自ら行う事業所内の最低賃金の引き上げを支援するための助成金制度、厚労省の「中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(以下:業務改善助成金)」について紹介いたします。
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この記事の目次
10月からの最低賃金の引き上げについて
本年度の改定の内訳は下記の通りで、コロナの影響を強く受けた東京都や大阪、北海道などでは最低賃金の引き上げ事態が見送られ、わずかながら地方都市との賃金格差が是正されているのが本年度の特徴です。
政府が法定最低賃金の据え置きを決定するのは2003年以来実に17年ぶりのことで、こうしたことからも新型コロナウイルスの感染拡大による経済情勢の悪化が非常に深刻なレベルにあることが分かります。
【令和2年度地域別最低賃金改定状況※厚労省資料より】
厚労省 業務改善助成金
業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者が生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、その費用に対し助成を行う制度です。
申請計画が生産性要件を満たす場合には最大9/10の助成率で450万円が受給出来ますので、賃上げ分の負担を上回る生産性向上について具体的な計画がある場合は、法定最低賃金の引き上げによりメリットなく賃上げが必要になる前に、是非この制度の活用をご検討ください。
申請対象者
雇用保険の適用を受ける中小企業・小規模事業者
主な申請要件
1.賃金引き上げ計画を策定し、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げること
2.引き上げ後の賃金額を実際に支払う事
3.生産性向上に資する機器・設備などを導入することにより業務改善を行い、その費用を支払う事
4.一定期間において解雇や、賃金引下げなどの不交付事由がないこと など
助成対象事業
生産性向上に資する設備・機器の導入等について幅広く助成の対象としています。
【想定される導入例】
・POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
・リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
・顧客・在庫・帳簿管理システムの導入による業務の効率化
・専門家による業務フローの見直しによる顧客回転率の向上 など
※単なる経費削減のための経費、職場環境を改善するための経費、通常の事業活動に伴う経費は助成対象外となります。
助成額・助成率について
業務改善助成金では、申請コースごとに、引上げ額、引き上げる労働者数、助成の上限額、助成率が定められています。
助成額は最大で450万円、助成率については厚労省が定める「生産性要件」を満たした場合の引き上げ措置も含め、最大で9/10となります。
【業務改善助成金の申請コース区分】
生産性要件についての詳細は下記のリンクからご確認ください。
労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます。 ※厚労省HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137393.html
業務改善助成金の手続き
申請手続きは各都道府県の労働局が担当します。手続きについては下記の通りです。
1.助成金交付申請書の提出
厚労省のウェブサイトからダウンロードした交付申請書に、業務改善計画(生産性向上に資する設備投資等の実施計画)と賃金引上げ計画(事業場内最低賃金の引上げについての計画)を記載し、都道府県労働局に提出する。
助成金交付決定通知
都道府県労働局が交付申請書に基づき審査を行い、適正と認められれば交付決定通知が行われます。
※郵送で交付決定通知書が届きます。
業務改善計画と賃金引上げ計画の実施
交付決定通知書の通知前に計画に着手した場合助成額の減額や交付決定の取消しの可能性もあるため、必ず通知書を受け取ってから計画を実行します。
・業務改善計画に基づき、設備投資等を行う
・賃金引上計画に基づき、事業場内最低賃金の引上げを行う
事業実績報告書の提出
業務改善計画の実施結果と賃金引上げ状況を記載した事業実績報告書を作成し、都道府県労働局に提出する。
助成金の額の確定通知
都道府県労働局が事業実績報告書の内容を確認し、内容が適正である場合には助成金額を確定し事業主に通知します。
助成金の振込
助成金額の確定通知を受けた事業主が支払請求書を提出すると、指定した口座に助成金が振り込まれます。
まとめ
日本の少子高齢化の傾向は今後も数十年にわたり続いていくことが予想され、多くの企業にとって労働人口の減少への対応は最も重要な課題の一つと言えます。
今回紹介した業務改善助成金は企業の設備投資などへの支援を行い、企業の生産性向上の取り組みを推進することにより、労働力人口の減少が見込まれる中でも経済成長を図っていくことを目的としています。
企業にとっては直近の人材確保の観点から見ても賃上げの達成には大きなメリットがありますので、申請対象となる中小事業者の経営者の方は是非制度の活用をご検討ください。
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