
※原材料高騰等に対応するため、厚生労働省は9月1日から業務改善助成金を拡充しました。
※8月23日に、令和4年度・全国の最低労働賃金に対する答申が発表されました。都道府県別、最低労働賃金の一覧はこちらからどうぞ!
8月1日、厚生労働省の審議会で2022年の最低賃金の引き上げ額の目安が決定しました。労使の間で、早くから引き上げる方針では合意していましたが、物価上昇の影響が広がる中、どの程度の上げ幅になるのかという点で議論が長引いていました。
結果は全国平均で31円の引き上げとなり、日本商工会議所は「コロナ再拡大の影響が懸念される飲食・宿泊業や、企業物価の高騰を十分価格転嫁できていない企業には非常に厳しい結果だ」とする三村明夫会頭の談話を公表しています。
参考:JIJI.COM 最低賃金、上げ幅最大31円 時給961円、物価高騰で―厚労省審議会
最低賃金とは、労働者に賃金の最低限(最低賃金額)を保障する制度のことで、これにより、企業は一定以上の賃金を支払わなければならないことになっています。最低賃金の引き上げは、原材料高等に苦しむ企業に大きな影響をもたらすものです。そこで今回は、この最低賃金引き上げにおいて重要となる「生産性向上」についての考え方と、賃金引き上げで使える助成金について紹介していきます。
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この記事の目次
最低賃金の引き上げ決定
昨年度、最低賃金の引き上げは、全国平均28円と過去最大の上げ幅でした。その流れは今回も続き、上げ幅は31円となりました。これから最低賃金の目安に基づき各都道府県の審議会が行われ、都道府県ごとの最低賃金が決まります。その後、10月に最低賃金が改定されることになります。
各都道府県の引き上げ額の目安
各都道府県の引き上げ額の目安については、都道府県の経済実態に応じ、ABCDの4ランクに分けられています。今回AランクとBランクは31円、CランクとDランクは30円となります。各都道府県ごとに適用されるランクは以下のとおりです。
目安のランク | 都道府県 |
A(31円) | 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 |
B(31円) | 茨城、栃木、富山、山梨、長野、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、広島 |
C(30円) | 北海道、宮城、群馬、新潟、石川、福井、岐阜、奈良、和歌山、岡山、山口、徳島、香川、福岡 |
D(30円) | 青森、岩手、秋田、山形、福島、鳥取、島根、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 |
最低賃金引き上げに伴う弊害は?
最低賃金引き上げに伴い、どのような問題が起きるか考えてみましょう。例えば、現在人手不足に悩んでいるところでは、最低賃金の引き上げにより資金が圧迫され、必要な労働力を雇うことが難しくなり、更なる人手不足に陥る可能性があります。
ほかにも、最低賃金が上がった分、コストを抑えるためにシフトを削るとどうなるでしょうか。アルバイト・パート等の労働時間が減った影響で正社員等の労働時間が長くなる、必要な人員を確保できない影響で一部の働き手に負担が偏る可能性があります。個人事業主などの飲食店は、店主の過度な労働につながる場合もあるでしょう。また、労働時間を短縮すると、サービスの質の低下を招くことも考えられます。
コロナ再拡大や物価上昇の影響が広がる中での引き上げで、事業活動の継続に苦しむ企業が出てくるのではという懸念もあります。このように、簡単にはいかない最低賃金引き上げについて、企業はどのように取り組めばよいのでしょうか。
最低賃金を引き上げるために必要な対策
最低賃金引き上げには、払ったコスト以上の成果を出す「生産性の向上」がカギとなります。生産性とは、投入した労力や資源に対し、どれくらいの成果が生み出せているかを示すものです。
生産性の向上には2つの方向性が存在します。
・提供するサービスの価値を増大させる(売上げ向上)→【付加価値の向上】 |
・時間や工程の短縮(コスト削減)→【効率の向上】 |
これらに取り組み、より少ない資源で大きな成果を上げることを生産性の向上といいます。生産性が向上すると、売上げを確保し、利益も賃金も確保する経営を目指すことができます。つまり、生産性の向上は、最低賃金を引き上げるためだけでなく、企業が厳しい時代を生き抜くためにも取るべき対策といえます。
最低賃金引き上げに使える補助金・助成金
政府はさまざまな支援策で企業の生産性向上を支援しています。例えば、経済産業省の「中小企業生産性革命推進事業」では複数年にわたって中小企業の生産性向上を継続的に支援するため、ものづくり補助金、IT導入補助金、持続化補助金などで設備投資、IT導入、販路開拓等の支援を一体的に行っています。
その他、厚生労働省が実施する助成金で、賃金引き上げの支援策として最大600万円を助成する「業務改善助成金」があります。業務改善助成金は、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、生産性向上のための設備投資などを行った場合に、その費用の一部を助成するというものです。以下、業務改善助成金の内容(8月時点)をご紹介します。
業務改善助成金の対象者は?
事業場内で最も低い賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内で、事業場規模が100人以下の事業場の中小企業・小規模事業者が対象です。過去に業務改善助成金を受給したことがあっても補助の対象になります。
【主な支給要件】
1.賃金引上計画を策定し、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げること(就業規則等に規定する)
2.引き上げ後の賃金額を支払うこと
3.生産性向上に資する機器・設備などを導入して業務改善を行い、その費用を支払うこと
4.解雇、賃金引下げ等の不交付事由がないこと
【生産性向上に役立つ設備・機器の導入例】
機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練などが対象になります。導入例は以下のとおりです。
- 在庫管理の短縮のため…POSレジシステム導入
- 業務の効率化のため…顧客・在庫・帳票管理システムの導入
- 送迎時間の短縮のため…リフト付き特殊車両の導入
- 顧客回転率の向上のため …専門家による業務フロー見直し 等
業務改善助成金の助成額は?
申請コースごとに定める引き上げ額(30円、45円、60円、90円)以上、事業場内の最低賃金を引き上げた場合に、生産性向上のための設備投資等にかかった費用の一部が助成されます。
引き上げ額と引き上げる労働者数によって、助成上限額が異なります。
出典:令和4年度 業務改善助成金(通常コース)のご案内より抜粋
※「引き上げる労働者数」10人以上の上限額区分は、以下のいずれかに該当する事業場が対象となります。
1.事業場内最低賃金が900円未満の事業場
2.売上高や生産量などの指標の直近3か月間の月平均値が、前年または前々年の同じ月に比べて30%以上減少している事業者
業務改善助成金の特例は?
コロナ禍での最低賃金引き上げとなった令和3年度は、業務改善助成金の特例的な要件の緩和・拡充が行われています。
全ての事業主を対象に、45円コースの新設・同一年度内の複数回申請を可能にするなどの使い勝手の向上が図られ、特に業況の厳しい事業主へは「対象人数の拡大・助成上限額引き上げ」「設備投資の範囲の拡充」が行われました。
今年度は、物価高等に対応しながらの最低賃金引き上げとなりますので、昨年同様、時勢に合わせた助成金の要件の緩和・拡充が望まれます。
※原材料高騰等に対応するため、厚生労働省は9月1日から業務改善助成金を拡充しました!拡充後の業務改善助成金の内容は、下記リンク先の記事からご確認ください。
まとめ
今回は最低賃金の引き上げに伴い、必要な対策と賃金引き上げで使える支援策「業務改善助成金」についてご紹介しました。
最低賃金の見直しだけでなく、コロナ禍での経営、物価高騰への対応など、経営者が置かれる状況は厳しさを増しています。変化の多い時代に、国としての支援策である助成金を上手く活用し、経営に役立ててみてはいかがでしょうか。
補助金ポータルでは、最低賃金の大幅引き上げの前に業務改善助成金を使いたい、等のご相談を受け付けております。不明点など何でもお気軽にご連絡ください。
▼厚生労働省の令和5年度 概算要求はこちら!