令和6年能登半島地震で事業活動の縮小を余儀なくされた能登地方の事業主が、従業員を他社へ出向させて雇用を維持する場合、賃金の最大4/5が助成される制度があります。それが産業雇用安定助成金の災害特例人材確保支援コースです。
制度改正により支給限度日数が最長2年に延長され、助成対象期間も令和8年12月31日まで拡張されました。
本記事では、対象となる事業主・労働者、助成額の計算方法、申請手続きの流れまで詳しく解説します。
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この記事の目次
産業雇用安定助成金(災害特例人材確保支援コース)とは
産業雇用安定助成金(災害特例人材確保支援コース)は、令和6年能登半島地震の影響で事業活動が一時的に縮小した事業主が、在籍型出向により従業員の雇用を維持する場合に、出向期間中の賃金の一部を助成する制度です。
この制度の最大の特徴は、出向元だけでなく出向先の事業主にも助成金が支給される点にあります。通常の雇用調整助成金(出向)が出向元のみを対象とするのに対し、本制度は双方を助成するため、企業間での人材マッチングが進みやすい設計となっています。
制度は令和6年12月17日に創設され、令和7年12月26日の改正で支給限度日数が1年から最長2年(730日)に延長、助成対象期間も令和8年12月31日まで拡張されました。労働者個人ではなく事業主に支給される助成金であるため、社長や役員、個人事業主の家族従事者などは対象外となります。
災害特例人材確保支援コースの内容
まずは本助成金の基本情報を一覧で確認します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成対象 | 出向元・出向先の双方 |
| 助成率 | 中小企業4/5、大企業2/3 |
| 上限額 | 1人1日あたり8,870円(出向元・出向先の合計) |
| 支給限度期間 | 最長2年(730日) |
| 対象地域(出向元) | 能登地方9市町 |
| 対象地域(出向先) | 全国 |
| 対象期間 | 令和6年12月17日〜令和8年12月31日 |
| 申請窓口 | 石川労働局・ハローワーク |
対象となる9市町は以下のとおりです。
| 管轄ハローワーク | 対象市町 |
|---|---|
| 七尾公共職業安定所 | 七尾市、中能登町、羽咋市、志賀町、宝達志水町 |
| 輪島公共職業安定所 | 輪島市、穴水町、珠洲市、能登町 |
出向先事業主については地域の指定はなく、全国の雇用保険適用事業所が対象となります。
自社は対象になる?チェックリスト
自社が本助成金の対象となるかを、出向元・出向先それぞれの立場から確認してみましょう。
| 出向元事業主のチェック項目 |
|---|
| 事業所が対象9市町にある |
| 雇用保険適用事業所である |
| 能登半島地震の影響で売上等が減少している |
| 最近1か月の生産指標が前年同期比10%以上減少 |
| 労使協定を締結できる |
| 出向先事業主のチェック項目 |
|---|
| 雇用保険適用事業所である(全国どこでも可) |
| 受入れ前後6か月で解雇等をしていない |
| 雇用指標が一定以上減少していない |
| 出向元との間に独立性がある(親子会社・同一代表者は不可) |
チェック項目にすべて該当しそうな場合は、事業所所在地を管轄する石川労働局またはハローワークへの相談をおすすめします。独立性の判定や生産指標の認定など、個別の事情によって判断が分かれるケースもあるため、早い段階で専門家や窓口に確認することが重要です。
対象事業主の要件
出向元事業主の要件
出向元事業主として助成を受けるには、対象9市町に所在する雇用保険適用事業所であることが前提となります。その上で、「令和6年能登半島地震に伴う経済上の理由」により事業活動が縮小していることが必要です。
具体的には、観光客のキャンセルによる売上減少、市民活動の自粛に伴う客数減少、施設や設備の修理業者手配が困難で早期の修復が不可能といったケースが該当します。逆に、例年繰り返される季節的変動や、法令違反による行政処分・司法処分によって事業活動が停止した場合は対象外です。
また、最近1か月の売上高や生産量といった生産指標が、前年同期比で10%以上減少していることも要件となります(生産量要件)。
出向先事業主の要件
出向先事業主は全国の雇用保険適用事業所が対象で、地域による制限はありません。ただし、出向労働者の受入れに際して、受入期間開始6か月前から支給対象期末日までの間に、事業主都合による解雇を行っていないことが必要です。
また、雇用保険被保険者数と受入派遣労働者数を合わせた「雇用指標」が、中小企業では前年同期比10%超かつ4人以上、大企業では5%超かつ6人以上減少していないことも条件となります(雇用量要件)。
両事業主に共通する独立性の要件
出向元と出向先が、資本的・経済的・組織的に独立している必要があります。親会社と子会社の間の出向や、代表取締役が同一人物である企業間の出向は対象になりません。資本金50%超の出資関係や、取締役会の過半数を兼務している場合も独立性が認められないと判断されます。
対象となる「出向」と労働者
助成対象となる出向の条件
本助成金で助成の対象となるのは「在籍型出向」に限られます。これは、労働者が出向元の従業員としての地位を保持したまま出向先で勤務し、出向終了後には出向元に復帰する形態の出向です。出向元との雇用関係が終了する「移籍型出向」は対象外となります。
助成対象となる出向は、次の要件をすべて満たす必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出向開始時期 | 令和6年12月17日〜令和8年12月31日の間に開始 |
| 出向期間 | 1か月以上2年以内 |
| 必要な合意 | 労使協定の締結、出向元と出向先の間の出向契約、出向労働者本人の書面同意 |
| 出向中の賃金 | 出向前賃金の85%〜115%の範囲内でおおむね同額 |
対象となる出向労働者
対象となるのは、出向元に雇用される雇用保険被保険者のうち、出向計画届に記載された労働者です。正社員に限らず、パートタイム労働者や契約社員も雇用保険被保険者であれば対象に含まれます。
ただし、次のいずれかに該当する労働者は助成対象外となります。
・解雇予告された者、退職願を提出した者、退職勧奨に応じた者
・日雇労働被保険者
・特例高年齢被保険者
・独立性のない事業主間で、役員や同居親族などを労働者として雇い入れた場合の当該労働者
・出向開始前1か月で管轄区域外の勤務日数が所定労働日数の半分以上である労働者
なお、出向期間中に出向元と出向先の両方で勤務する「部分出向」も、一定の条件を満たせば助成対象となります。
助成額はいくら?計算の仕組み
助成率は企業規模によって異なります。1人1日あたりの上限額は8,870円(出向元と出向先の合計)と定められています。
| 企業規模 | 助成率 | 1人1日あたり上限額 |
|---|---|---|
| 中小企業 | 賃金の4/5 | 8,870円(出向元・出向先の合計) |
| 大企業(中小企業以外) | 賃金の2/3 | 8,870円(出向元・出向先の合計) |
この上限額は雇用保険の基本手当日額の最高額(令和7年8月1日時点)に基づいており、毎年8月に改定されます。
中小企業の定義
「中小企業」に該当するかは業種ごとに次の基準で判断します。
| 業種 | 中小企業の基準 |
|---|---|
| 小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下または従業員50人以下 |
| サービス業 | 資本金5,000万円以下または従業員100人以下 |
| 卸売業 | 資本金1億円以下または従業員100人以下 |
| その他の業種 | 資本金3億円以下または従業員300人以下 |
計算の4ステップ
助成額は次の4つのステップで計算します。| 手順 | 計算式・ポイント |
|---|---|
| ①出向前の1日あたり賃金(A)を算出 | A = 1時間あたり賃金 ×(出向開始日前1週間の総所定労働時間数 ÷ 総所定労働日数) |
| ②出向前賃金(X)と支給対象期の賃金(Y)を比較 | X = A × 支給対象期の実労働日数 |
| ③出向元・出向先の負担額を按分し助成対象額を算定 | XとYの大小関係に応じて算定方法が変わる |
| ④助成率を掛け、上限と比較して助成額を決定 | 助成率(中小4/5、大企業2/3)を適用し、1人1日8,870円の上限と比較 |
助成額の目安
実際の助成額は、出向労働者の賃金、勤務日数、出向元と出向先の負担割合によって変動します。ざっくりした目安として、次のように考えるとイメージしやすいでしょう。| ケース | 目安 |
|---|---|
| 月給が低〜中程度(上限にかからない場合) | 中小企業は賃金の4/5、大企業は2/3が助成される |
| 月給が高い場合(上限にかかる場合) | 1人1日あたり8,870円(月20日勤務で約177,400円)が上限 |
月給が約22万円(時給約1,385円×8時間×20日)を超えると、多くの場合で1人1日8,870円の上限に達します。上限額は出向元と出向先の負担割合に応じて按分され、それぞれの口座に振り込まれます。
具体的な支給額のシミュレーションは、申請書類に含まれる「様式第6号(4) 支給対象者別支給額算定調書」に数値を入力すれば自動で算出されます。正確な金額を知りたい場合は、石川労働局または社会保険労務士にご相談ください。
雇用調整助成金(出向)との違い
本助成金と雇用調整助成金(出向)は、いずれも出向による雇用維持を支援する制度ですが、助成対象や助成率に大きな違いがあります。
| 項目 | 雇用調整助成金(出向) | 産業雇用安定助成金(災害特例人材確保支援コース) |
|---|---|---|
| 助成対象 | 出向元のみ | 出向元・出向先の双方 |
| 中小企業の助成率 | 最大2/3 | 4/5 |
| 大企業の助成率 | 最大1/2 | 2/3 |
| 対象地域 | 全国 | 出向元は能登地方9市町 |
| 対象期間 | 制限なし | 令和8年12月31日まで |
能登地方の事業主にとっては、より助成率の高い産業雇用安定助成金(災害特例人材確保支援コース)を優先的に検討するのが合理的です。両助成金の併給は、同一期間・同一賃金については認められていません。
ただし、出向させる労働者が異なる場合は、それぞれに別の助成金を活用することも可能です。現在雇用調整助成金(出向)を活用している場合でも、令和6年12月17日以降を出向開始日とする新たな契約を締結すれば、本助成金への切替も可能となります。
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申請手続きの流れ
申請は、出向計画の策定から支給決定までを次の5つのステップで進めます。
・ステップ1:出向計画の策定
労使協議を行い、出向労働者の本人同意を得た上で、出向元と出向先の間で出向契約を締結します。
・ステップ2:計画届の提出
出向開始日の前日まで(可能であれば2週間前を目安)に、計画届を石川労働局またはハローワークへ提出します。提出方法は窓口持参または郵送で、オンライン申請には対応していません。
・ステップ3:出向の実施
計画届に基づいて出向を実施します。計画から変更が生じた場合は、変更届の提出が必要です。
・ステップ4:支給申請
支給対象期の末日の翌日から2か月以内に支給申請を行います。申請頻度は1〜6か月単位で選択でき、一度決めた頻度は変更届がない限り継続します。
・ステップ5:審査・支給決定・振込
労働局での審査を経て支給決定となり、出向元と出向先それぞれの口座に助成金が振り込まれます。
主な必要書類
申請にあたって必要となる書類は、計画届提出時と支給申請時でそれぞれ異なります。
・出向実施計画届(様式第1号・第2号)
・出向先事業所別調書(様式第1号別紙1)
・事業活動状況・雇用指標状況の申出書(様式第3号・第4号)
・本人同意書(様式第5号)
・出向協定書
・出向契約書
・就業規則などの確認書類
【支給申請時に必要な書類】
・支給申請書(様式第6号(1))
・賃金補填額・負担額等調書(様式第6号(2)(3))
・支給対象者別支給額算定調書(様式第6号(4))
・支給要件確認申立書
・賃金台帳や出勤簿などの実績確認書類
2026年延長の重要ポイント【令和8年2月28日が重要期限】
令和7年12月26日の制度改正により、本助成金は大きく拡充されました。1人あたりの支給限度日数が従来の1年(365日)から最長2年(730日)に延長され、助成対象期間も令和8年12月31日まで拡張されました。これは被災事業主の雇用維持をより強力に支援するための措置です。
ただし、令和7年中にすでに計画届を提出している事業主が令和8年1月1日以降も継続して助成を受けるためには、原則として令和8年2月28日までに変更届を提出する必要があります。
この期限を過ぎて令和8年3月1日以降に計画届を提出した場合、提出日の翌日以降の出向のみが助成対象となります。現在受給中の事業主はご注意ください。
よくある質問
個人事業主も対象になる?
雇用保険適用事業所であれば対象となります。個人事業主は中小企業の区分に含まれるため、助成率は4/5が適用されます。ただし、個人事業主本人や同居親族は原則として対象労働者にはなりません。
新規採用者も出向対象になる?
出向元での継続雇用期間が6か月未満の場合は対象外です。新規採用者や、内定後まだ勤務していない者は助成対象となりません。
出向先がテレワークの場合も対象?
出向先での勤務形態(職場勤務・リモートワーク・在宅勤務)による対象可否の判断はありません。ただし審査では、賃金台帳などによる賃金の支払証明と、出勤簿などによる勤務実績の両方が確認されます。
雇用調整助成金から産業雇用安定助成金に切り替えできる?
可能です。ただし令和6年12月17日以降を出向開始日とする新たな出向契約を締結する必要があります。
この助成金は課税対象?
法人は法人税、個人事業主は所得税の課税対象となります。
まとめ
産業雇用安定助成金(災害特例人材確保支援コース)は、能登半島地震で影響を受けた事業主が在籍型出向によって雇用を維持する際に、出向元と出向先の双方に賃金の一部を助成する制度です。中小企業では賃金の4/5、大企業では2/3が助成され、1人1日あたり上限8,870円が支給されます。
対象期間は令和8年12月31日まで、支給限度日数は最長2年となっており、令和7年中に計画届を提出済みの事業主は令和8年2月28日までに変更届の提出が必要です。
制度の詳細や個別の要件判断については、石川労働局・ハローワーク、産業雇用安定センター、社会保険労務士などへの相談をおすすめします。
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