12月2日に成立した令和4年度の第2次補正予算案では、賃上げ支援や人への投資を促進する事業の拡充などが発表されました。そのなかには、産業雇用安定助成金に「スキルアップ支援コース(仮称)」が新設されることが盛り込まれています。これは企業が在籍型出向による労働者のスキルアップを図り、さらに該当労働者の賃金を向上させたとき、その費用の一部が助成されるコースです。
今回はこの新コースの利用を検討している事業者に向けて、産業雇用安定助成金の概要と新しいコースの内容についてまとめました。
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この記事の目次
在籍型出向とは
在籍型出向とは、出向元企業と出向先企業との間で契約を交わすことで、労働者が一定期間、出向元企業との雇用関係を維持したまま、出向先企業で働くことです。産業雇用安定助成金では、この在籍型出向にかかる費用の一部が助成されます。
在籍型出向には出向元は従業員の雇用を守り、労働力に対する需要が回復した時には人材がスムーズに確保できるという利点が、出向先には即戦力の人材を確保したり、自社従業員の業務負担を軽減したりできるというメリットがあります。また、労働者にとってもモチベーションの維持や新しいスキル獲得が期待でき、特にコロナ禍の影響によって休業を余儀なくされたときなどに活用が広がりました。
出典:産業雇用安定助成金ガイドブック
令和4年度第2次補正予算案では、賃上げや人への投資が大きなポイントとして取り上げられました。
生活様式や多様な価値観に対応するには、新しい技術を持った人材の育成が不可欠です。また不安定な社会情勢から長期化している物価の上昇を好景気につなげるために、賃金の上昇が急務となっています。
そうした状況を背景に、雇用を守るために設立された産業雇用安定助成金でも在籍型出向によってスキルアップと賃金の上昇を図る労働者を支援する枠組みが導入されたのです。
産業雇用安定助成金の拡充内容
産業雇用安定助成金は令和3年2月に創設された、比較的新しい助成金です。新型コロナウイルスの流行拡大による影響で一時的に事業の縮小を余儀なくされた事業主の雇用維持を支援するために設置されました。
助成は出向元と出向先の双方の事業主に対して行われ、労務管理に関する調整経費や備品整備などの費用も対象です。
まずは従来の産業雇用安定助成金の概要について、見ていきましょう。
産業雇用安定助成金とは
コロナ禍による外出自粛や経済活動の停滞に伴い、多くの企業は一時的な事業縮小に追い込まれました。そうした場合に出勤できなくなった労働者の雇用や就業へのモチベーション維持を図るため、在籍型出向を選択した企業に対して、産業雇用安定助成金は経費の一部を助成しています。
対象経費
対象となる経費は、以下の3つです。
①出向運営経費
賃金・教育訓練、労務管理など、出向中に必要となる経費
②出向初期経費
就業規則・備品の整備など、出向のために必要となる初期経費
③出向復帰後訓練助成
出向から復帰した労働者に対して、出向で得たスキル・経験をブラッシュアップさせる訓練(OffーJT)を行った際の経費と訓練期間中の賃金の一部
助成額
主な助成額は以下のとおりです。
①出向初期経費
■1人あたり10万円 (出向元・出向先それぞれに支給されます)
②出向初期経費
■出向元が労働者の解雇などを行っていない場合
9/10
■出向元が労働者の解雇などを行っている場合
4/5
など
③出向復帰後訓練助成
■経費
実費(上限30万)
■賃金
1人1時間あたり900円(上限600時間)
主な要件
助成の対象となる出向元・出向先の企業には、要件があります。それぞれの主な要件は次のとおりです。
■出向元企業
・新型コロナウイルス感染症の影響により、事業活動の一時的な縮小を行ったこと
■出向先企業
・出向の受け入れに際して別の人を離職させていないこと
・雇用量が一定以上減少していないこと
なお、令和3年8月からは、要件を満たせば親会社子会社間の出向なども認められることになりました。
また、出向復帰後の訓練(OffーJT)に対する助成では訓練の開始時期や期間などに要件があります。訓練開始日前日までに「復帰後訓練計画」の提出も必要です。
各要件の詳細については、ガイドブック等で確認してください。
令和4年10月の改正での変更点
令和4年10月、産業雇用安定助成金には以下の①~③の改正が行われました。
①出向者1人あたりの助成金支給期間が、「最長1年」から「最長2年」に延長
②一部の支給対象労働者数の上限を撤廃
③出向復帰後の訓練(off-JT)に対する助成
今回の補正予算では、さらにスキルアップによる賃金上昇を目指す「スキルアップ支援コース(仮称)」の新設が予定されています。
スキルアップ支援コースの内容
「スキルアップ支援コース」は、賃金上昇につながるスキルアップを目的とした在籍型出向を支援するコースです。在籍型出向によって労働者のスキルアップを図る出向元が、復職後の労働者の賃上げを行った場合に助成が受けられます。
現在発表されている新コースの内容は、以下のとおりです。
【目的】
このコースは在籍型出向として他企業で働くことで新しい技術を身につけ、出向元企業での賃金や業績アップにつなげる取り組みを促進するものです。
雇用機会の増大などの雇用の安定を図ることを目的としています。
【概要】
在籍型出向によって労働者のスキルアップを行い、復帰した労働者の賃金を出向前より5%以上上昇させた出向元事業主に対し、出向中の賃金の一部を助成します。
【助成率】
助成率は、中小企業とそれ以外とで異なります。それぞれの助成率は以下のとおりです。
■中小企業
2/3
■それ以外
1/2
【上限額】
助成の上限額は、1人1日あたり8,355円です。なお、1事業主あたりでは1,000万円が上限となります。
【支給対象期間】
支給対象期間は、1か月から1年間です。
助成金支給までの流れ
助成金支給までの流れは、以下のとおりです。
■出向元事業主と出向先事業主が出向の契約を結ぶ
■労働組合などとの協定を結ぶ
■出向予定者の同意を得る
■労働局・ハローワークに、スキルアップ計画を含んだ出向計画届を提出する
■在籍型出向の実施する
■復帰
■賃金の上昇を実行する
■労働局・ハローワークに支給を申請する
■助成金を受給する
産業雇用安定助成金 スキルアップ支援コース活用のメリット
本来、インフラによる賃金の上昇は、物価の高騰による企業の利益向上が前提となるものです。しかし現在のインフラは企業努力では吸収しきれない負債を価格に転嫁せざるを得なくなった結果生まれたもので、企業には賃上げの余裕がない状況です。
一方で、経済の立て直しのために賃上げと経済の活性化が強く望まれています。
在籍型出向は出向元、出向先、労働者にそれぞれの利益があるうえに、労働者のスキルアップも期待されています。さらに産業雇用安定助成金のスキルアップ支援コースでは、出向中の労働者の賃金に対して助成が行われ、人件費の削減にもつながります。
賃上げと人材のスキルアップによる業績向上を目指す企業には、ぜひ活用してほしい助成金です。
まとめ
賃上げは企業にとって負担になる反面、消費者の購買意欲が高まれば、企業利益の向上につながります。企業の業績が上がれば、賃金はさらに増えるという好循環が見えてきます。
また、研修や外部指導による人材育成は費用面が課題のひとつです。多くの労働者にスキルアップの機会を用意しようとすると、大きな負担になるケースがあります。
そんなときは、産業雇用安定助成金のスキルアップ支援コースを活用してください。助成金を受けて在籍型出向を行えば、費用的な負担が少ない人材育成を行うことができます。スキルアップによる賃上げは、従業員の企業への信頼と貢献度も向上させます。
産業雇用安定助成金のスキルアップ支援コースを活用し、「良いインフレ」のサイクルを目指しましょう。