「自社でも退職金制度を整えたいけれど、独自に積み立てる余力がない」――そう感じている中小企業の経営者は少なくないのではないでしょうか。厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付制度がある企業は全体で74.9%。ところが従業員30〜99人の企業では70.1%にとどまり、1,000人以上の企業(90.1%)と比べて20ポイントの差があります。
こうした中で活用したいのが、国が運営する中小企業のための退職金制度「中小企業退職金共済(中退共/ちゅうたいきょう)」です。掛金の一部を国が助成し、掛金は全額損金(個人事業主は必要経費)にできます。退職金は中退共から従業員の口座へ直接振り込まれるため、会社が支払い事務を抱える必要もありません。
一方、従業員の側からは「退職金はいつ振り込まれるのか」「自分はいくらもらえるのか」という疑問が多く寄せられます。この記事では、中退共の仕組みと加入要件に加え、退職金の振込時期・請求期限、掛金月額と加入年数別の退職金額早見表、退職金が少なくなるケースまで、中退共公式サイトの情報をもとに解説します。
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この記事の目次
中退共(中小企業退職金共済)とは?国が運営する中小企業向けの退職金制度
中退共は、1959年(昭和34年)に中小企業退職金共済法にもとづいて設けられた、中小企業のための国の退職金制度です。運営しているのは、独立行政法人 勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部です。「中退金」「中小企業退職金共済制度」と呼ばれることもあります。
事業主が毎月の掛金を中退共に納め、従業員が退職したときに中退共から退職金が支払われます。掛金は会社の外に積み立てられる「外部積立型」のため、会社の資金繰りに左右されずに退職金を準備できます。
中退共の仕組みは?事業主が掛金を払い、中退共が従業員に直接支給
中退共では、事業主が掛金を納め、退職金は中退共から従業員本人へ直接支払われます。流れは次の4段階です。
②事業主が従業員ごとの掛金を毎月、口座振替で納付する
③従業員が退職したら、従業員本人が中退共に退職金を請求する
④中退共から従業員本人の口座へ退職金が振り込まれる
退職金を受け取る権利は従業員本人(死亡時は遺族)にあり、事業主(会社)が退職金を受け取ることはできません。退職金を受け取る権利は、譲り渡したり担保にしたりすることも禁じられています。
中退共の加入企業数・加入者数はどれくらい?
中退共公式サイトによると、令和7年度の加入企業は375,555所、加入従業員は3,571,957人、運用資産額は約5.6兆円です。
| 年度 | 加入企業 | 加入従業員 | 運用資産額 |
|---|---|---|---|
| 令和7年度 | 375,555所 | 3,571,957人 | 約5.6兆円 |
| 令和6年度 | 377,734所 | 3,575,790人 | 約5.5兆円 |
| 令和5年度 | 379,372所 | 3,587,181人 | 約5.6兆円 |
中退共の退職金はいつもらえる?請求から振込までは1か月〜2か月半
中退共の退職金は、請求書類が中退共に受け付けられてから、1か月から2か月半程度で振り込まれます。書類に不備がないことが前提で、事業所の掛金の納付方法や納付状況によっては2か月以上かかることもあります。
退職日から自動的に振り込まれるわけではありません。退職した従業員本人が請求書を送らない限り、退職金は支払われない点に注意してください。
振込予定日は請求者に届く「退職金等振込通知書」で確認できます。通知書は振込予定日の2週間ほど前に発送されます。
退職から振込までの手続きの流れは?事業主と従業員がそれぞれ行うこと
中退共の退職金は、事業主の手続きと従業員の請求の両方がそろって初めて支払われます。中退共のQ&Aによる流れは次のとおりです。
| 順番 | 誰が | 何をするか |
|---|---|---|
| 1 | 事業主 | 退職金共済手帳の2枚目「被共済者退職届」を中退共本部保全課へ送る |
| 2 | 事業主 | 手帳3枚目「退職金(解約手当金)請求書」の事業主欄を記入し、手帳を従業員に渡す |
| 3 | 従業員 | 請求書に記入し、口座確認印を受けるか通帳のコピーを添付する |
| 4 | 従業員 | 請求書と添付書類を中退共本部給付業務部へ書留郵便等で送る(電子申請フォームも利用可) |
| 5 | 中退共 | 振込予定日の約2週間前に「退職金等振込通知書」を送付(事業主にも通知) |
| 6 | 中退共 | 請求書に記入された本人名義の口座へ振り込む |
従業員が請求時に用意する書類は、次の3点が基本です。
- 退職金(解約手当金)請求書(退職金共済手帳の3枚目)
- 住民票(マイナンバー入り、発行日から3か月以内、コピー不可)
- 身元確認書類のコピー(運転免許証、パスポートなどいずれか1通)
会社からも別に退職金を受け取る場合や、過去4年以内に退職金を受け取っている場合などは、「退職所得の受給に関する申告書」などの追加書類が必要です。
退職金共済手帳はいつもらえる?請求書が手元にないときは
退職金共済手帳は、加入時に中退共から事業主へ送られ、在職中は事業所で保管されます。従業員が手帳を受け取るのは退職するときで、事業主が「被共済者退職届」を切り離したあとの手帳を渡します。
退職後に請求書が届かない場合は、まず事業所に連絡し、中退共へ請求書の再発行を依頼してもらいます。事業所に連絡して3週間程度たっても交付されないときは、中退共本部給付業務部 給付推進管理課(03-6907-1234、平日9:00〜16:30)に相談できます。
中退共の退職金が振り込まれない・遅いときに確認すること
中退共の退職金が遅れる主な原因は、掛金の入金待ちと書類の不備です。退職金は、退職した月の分までの掛金が中退共に入金されたことを確認してから支払われます。
・事業主が「被共済者退職届」を中退共へ送っているか
・退職月分までの掛金が納付されているか(翌月振替の事業所は時間がかかりやすい)
・請求書の記入漏れ、口座確認印や通帳コピーの添付漏れがないか
・住民票が発行から3か月以内の原本か
・不備の連絡が郵送で届いていないか
なお、退職金額や振込予定日は、電話やメールでは回答していないと中退共は案内しています。振込日は「退職金等振込通知書」で確認しましょう。振込の時刻は公表されておらず、振込予定日当日の入金時刻は受取金融機関によって異なります。ネット銀行も受取口座に指定できますが、中退共と代理店契約がないため、振込予定日当日に振り込めないことがあるとされています。
中退共の退職金はいつまでに請求する?期限は退職した日から5年
中退共の退職金を請求できるのは、退職した日から5年間です。5年を過ぎると、時効によって請求する権利が消滅します。
5年の間に請求できない事情があった場合は、中退共本部給付業務部に相談するよう案内されています。中退共は、事業主から提供された情報をもとに、未請求の人へ請求を促す文書を送る取り組みも行っています。そうした手紙が届いた場合は、早めに手続きを進めましょう。
中退共の退職金はいくらもらえる?掛金月額・加入年数別の早見表
中退共の退職金は、「基本退職金+付加退職金」で決まります。たとえば掛金月額10,000円で30年(360か月)加入した場合の基本退職金は4,213,100円で、掛金総額360万円を約61万円上回ります。
中退共の退職金の計算方法は?基本退職金と付加退職金の2本建て
退職金の額は、掛金月額と納付月数で決まる基本退職金に、付加退職金を加えた額です。
・基本退職金:掛金月額と納付月数に応じて法令で固定的に定められた額。制度全体の予定運用利回りを年1.0%として設計されている
・付加退職金:運用収入の状況などに応じて上乗せされる額。43か月目とその後12か月ごとに、その時点の基本退職金相当額に厚生労働大臣が定める年度ごとの支給率を掛けて累計する
付加退職金は毎年必ず出るものではありません。中退共によると、令和8年度(2026年度)の支給率は0.61%で、それ以前に上乗せがあったのは令和6年度です。
掛金月額・加入年数別の基本退職金早見表
中退共公式サイトの「基本退職金額表」から、主な掛金月額の金額を抜き出すと次のとおりです。付加退職金を含まない金額で、掛金月額を途中で変更しなかった場合の数値です(単位:円)。
| 加入年数 | 5,000円 | 8,000円 | 10,000円 | 20,000円 | 30,000円 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年(12か月) | 18,000 | 28,800 | 36,000 | 72,000 | 108,000 |
| 2年(24か月) | 120,000 | 192,000 | 240,000 | 480,000 | 720,000 |
| 3年(36か月) | 180,000 | 288,000 | 360,000 | 720,000 | 1,080,000 |
| 4年(48か月) | 240,850 | 385,360 | 481,700 | 963,400 | 1,445,100 |
| 5年(60か月) | 304,100 | 486,560 | 608,200 | 1,216,400 | 1,824,600 |
| 10年(120か月) | 632,800 | 1,012,480 | 1,265,600 | 2,531,200 | 3,796,800 |
| 15年(180か月) | 975,000 | 1,560,000 | 1,950,000 | 3,900,000 | 5,850,000 |
| 20年(240か月) | 1,333,300 | 2,133,280 | 2,666,600 | 5,333,200 | 7,999,800 |
| 25年(300か月) | 1,710,400 | 2,736,640 | 3,420,800 | 6,841,600 | 10,262,400 |
| 30年(360か月) | 2,106,550 | 3,370,480 | 4,213,100 | 8,426,200 | 12,639,300 |
| 35年(420か月) | 2,522,900 | 4,036,640 | 5,045,800 | 10,091,600 | 15,137,400 |
| 40年(480か月) | 2,958,950 | 4,734,320 | 5,917,900 | 11,835,800 | 17,753,700 |
表にない掛金月額(6,000円〜28,000円や短時間労働者の2,000円〜4,000円)の金額は、中退共公式サイトの「基本退職金額表」で確認できます。掛金月額を途中で変えた場合の概算は、公式の「退職金試算」で計算できます。
掛金月額1万円なら30年でいくら?掛金総額との比較
掛金月額10,000円の場合、基本退職金は10年で1,265,600円、20年で2,666,600円、30年で4,213,100円、40年で5,917,900円です。掛金総額との差は、加入期間が長いほど大きくなります。
掛金月額1万円の場合、1年で退職すると基本退職金は36,000円で、掛金総額12万円の3割にとどまります。2〜3年は掛金総額と同額で、4年目以降に上乗せが始まります。
付加退職金はいくら上乗せされる?令和8年度の支給率0.61%の例
中退共の案内では、掛金月額10,000円で令和8年度末に加入10年(120か月)となる人の場合、令和8年度分の付加退職金は7,381円です。付加退職金は加入月数が43か月以上になった人が対象で、退職時まで累計されて基本退職金に上乗せされます。
付加退職金の支給率は、中退共の運用収入や財務状況を踏まえて年度ごとに決まります。支給率が0の年度もあるため、早見表の基本退職金を「最低限の目安」として考えるとよいでしょう。
中退共の退職金が少ない・もらえないのはなぜ?
中退共の退職金が少ないと感じる主な理由は、加入期間が短いと掛金総額を下回る設計になっていることです。中退共は、勤続年数の長い人ほど有利になる「退職金カーブ」で設計されています。
加入期間が短いと掛金総額を下回る?納付月数別の支給ルール
中退共の退職金は、掛金の納付月数によって次のように扱いが分かれます。
| 掛金納付月数 | 退職金の扱い |
|---|---|
| 11か月以下 | 支給されない |
| 12か月以上23か月以下 | 掛金総額の約2分の1から3分の1 |
| 24か月以上42か月以下 | 掛金総額と同額 |
| 43か月以上 | 掛金総額に運用利息と付加退職金が加算される |
11か月以下で支給されない場合の掛金や、掛金総額を下回る分は、長期加入者の退職金の財源に充てられ、事業主には返金されません。通算制度や他制度からの引継ぎを利用している場合は、11か月以下でも支給されることがあります。
自己都合退職だと中退共の退職金は減る?
中退共の退職金は、自己都合退職でも会社都合退職でも金額は変わりません。退職金額は、掛金月額と納付月数だけで決まります。
例外は懲戒解雇などの場合です。事業主が退職日の翌日から20日以内に厚生労働大臣へ減額認定を申請し、認定を受けたときに限り、退職金を減額できます。ただし全額を減額することはできず、減額分は事業主に返金されません。
中退共の退職金がもらえないのはどんなとき?
中退共の退職金がもらえない主なケースは、次の3つです。
- 掛金の納付月数が11か月以下で退職した(通算制度などを利用した場合を除く)
- 退職した日から5年以内に請求せず、時効で請求権が消滅した
- 事業主が掛金を12か月以上続けて未納にし、中退共が契約を解除した(この場合は解約手当金の扱い)
在職中に契約を解除した場合は「退職金」ではなく「解約手当金」として支払われます。掛金助成を受けていた場合、解約手当金は助成金相当額か解約手当金額の3割のどちらか少ない額が減額されます。
自分の中退共の退職金額を確認する方法は?
加入中の従業員が退職金の見込み額を確認するには、毎年5月中旬ごろに事業主経由で配られる「加入状況のお知らせ」を見るのが確実です。中退共は、掛金納付状況票と退職金試算票を事業主へ送り、従業員配付用を本人に渡すよう依頼しています。
手元にない場合は勤務先の担当者に確認しましょう。掛金月額と加入年数がわかれば、中退共の基本退職金額表や公式の退職金試算で概算することもできます。
中退共の8つの特色とメリット|国の助成と税制優遇
中退共には、国の掛金助成や掛金の全額損金算入など、次の8つの特色があります。
②掛金は全額非課税(損金・必要経費に算入)
③口座振替で管理が簡単
④掛金月額を16種類(短時間労働者は+3種類)から選べる
⑤掛金を12か月分まで前納できる
⑥転職しても加入期間を通算できる
⑦60歳以上なら退職金を分割で受け取れる
⑧提携施設の割引サービスを利用できる
中退共の助成金はいくら?新規加入助成と月額変更助成
中退共に新規加入する事業主は、掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)を、加入後4か月目から1年間、国から助成を受けられます。
・掛金月額の2分の1(従業員ごと上限5,000円)を加入後4か月目から1年間助成
・短時間労働者の特例掛金月額で加入した場合は上乗せあり(2,000円→300円、3,000円→400円、4,000円→500円)
【月額変更助成】
・掛金月額18,000円以下の従業員の掛金を増額した場合、増額分の3分の1を1年間助成
・20,000円以上の掛金月額からの増額は対象外
同居の親族のみを雇用する事業主や、適格退職年金制度から移行した事業主などは、新規加入助成の対象外です。月額変更助成の期間中(12か月)に掛金を減額すると、助成は打ち切られます。
中退共の掛金助成とは別に、独自の補助金を設けている地方自治体もあります。自治体の一覧は中退共公式サイトの「掛金助成自治体等」で確認できます。
中退共の掛金は損金になる?全額非課税の税制優遇
中退共の掛金は、法人は損金、個人事業主は必要経費として全額非課税です。退職金を積み立てながら、法人税や所得税の負担を抑えられます。
ただし、資本金または出資金が1億円を超える法人の法人事業税には外形標準課税が適用されます。
中退共の管理は簡単?口座振替で毎月18日に自動納付
中退共の掛金は、事業主が指定した口座から当月または翌月の18日(金融機関の休業日は翌営業日)に口座振替で納付されます。加入後の事務は、従業員の入退社や掛金月額の変更などの届出が中心です。従業員ごとの納付状況や退職金額は、中退共から事業主へ通知されます。
中退共の掛金はいくらから?月額5,000円〜30,000円の16種類
中退共の掛金月額は、従業員ごとに次の16種類から選べます。
| 5,000円 | 6,000円 | 7,000円 | 8,000円 |
| 9,000円 | 10,000円 | 12,000円 | 14,000円 |
| 16,000円 | 18,000円 | 20,000円 | 22,000円 |
| 24,000円 | 26,000円 | 28,000円 | 30,000円 |
週の所定労働時間が通常の従業員より短く、かつ30時間未満の短時間労働者は、特例として2,000円・3,000円・4,000円でも加入できます。掛金月額の増額はいつでもできますが、減額は従業員の同意がある場合か、厚生労働大臣が継続困難と認めた場合に限られます。
中退共の前納とは?12か月分まで一括納付で減額金あり
中退共の掛金は、12か月分を限度にまとめて前納できます。前納すると、年1.0%の率をもとに計算した「前納減額金」が差し引かれます。
前納を希望する月の前月25日までに「掛金前納申出書(様式2)」を中退共本部収納課へ送る必要があります。前納減額金の対象は前納開始から3か月目以降の月分で、掛金月額5,000円を12か月分前納した場合の減額金は1人あたり233円です。前納期間が終わっても自動継続はされないため、毎回の申し出が必要です。
転職しても通算できる?退職後3年以内に新しい会社で加入すれば引継ぎ可能
中退共に加入している企業から別の加入企業へ転職した場合、次の条件を満たして申し出れば、前の会社の掛金納付実績を通算できます。
・前の会社を退職した後3年以内に、新しい会社で中退共に加入すること
・前の会社の退職金を請求していないこと
退職日が平成26年3月31日以前の人は、期間が2年以内となります。会社都合などで退職した場合は、厚生労働大臣の認定を受ければ12か月未満でも通算できます。特定業種退職金共済制度(建退共・清退共・林退共)や、商工会議所などが運営する特定退職金共済制度との通算も可能です。
中退共の退職金は分割で受け取れる?60歳以上なら5年・10年の分割も可能
退職日に60歳以上の人は、一時金のほか、全部または一部を5年間または10年間の分割で受け取れます。分割払いは年4回(2月・5月・8月・11月)です。
分割で受け取るには、退職金額が5年分割で80万円以上、10年分割で150万円以上であることも必要です。一時金は退職所得、分割払いは雑所得(公的年金等控除の対象)として課税されます。在職中の契約解除による解約手当金は、分割では受け取れません。
中退共の割引サービスとは?提携ホテル・レジャー施設を優待料金で利用
中退共に加入している事業主と従業員は、中退共と提携しているホテルやレジャー施設などを割引料金で利用できます。提携先の一覧は、冊子「中退共だより」や「加入状況のお知らせ」の裏面に記載されたパスワードで、公式サイトのお客様サービスコーナーから確認できます。
有期雇用労働者やパートタイマーに新たに退職金制度を設ける場合、中退共などの外部積立を利用して、キャリアアップ助成金(賞与・退職金制度導入コース)の対象になることがあります。要件の詳細はキャリアアップ助成金(賞与・退職金制度導入コース)の解説記事で確認できます。
中退共に加入できる中小企業・従業員の条件は?
中退共に加入できるのは、業種ごとに「常時雇用する従業員数」または「資本金・出資金」のどちらかが基準以下の中小企業です。
中退共に加入できる企業の範囲(業種別)
業種ごとの基準は次のとおりです。個人企業や公益法人などは、常時雇用する従業員数で判断します。
| 業種 | 常時雇用する従業員数 | 資本金・出資金 |
|---|---|---|
| 一般業種(製造業・建設業等) | 300人以下 | 3億円以下 |
| 卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
| サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
| 小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
新規加入時の従業員数が、一般業種で250人、卸売業・サービス業で90人、小売業で40人以上の場合は「中小企業者であることの証明」が必要です。加入後に中小企業でなくなった場合は、一定の要件を満たせば確定給付企業年金などへ資産を移すことができます。
中退共に加入させる従業員は?パート・家族従業員・役員の扱い
中退共では、従業員は原則として全員加入させる必要があります。ただし、次の人は加入させなくてもよいとされています。
- 期間を定めて雇用される従業員、季節的業務に雇用される従業員
- 試用期間中の従業員
- 短時間労働者
- 休職期間中の人など
- 定年などで相当の期間内に雇用関係が終了することが明らかな従業員
一方、次の人は中退共に加入できません。
- 事業主本人、代表者や専務・常務などの役員(使用人兼務役員の一部を除く)
- すでに中退共や特定業種退職金共済制度に加入している人
- 小規模企業共済制度に加入している人
- 被共済者になることに反対の意思を表明した従業員
部長や工場長などを兼ね、従業員として賃金を受けている使用人兼務役員は、実態として雇用関係があると認められれば加入できます。事業主と同居する家族も、従業員としての実態があれば加入できますが、労働条件通知書の写しや賃金台帳などで使用従属関係を確認されます。
中退共の申込先と加入手続きの流れ
中退共への新規加入は、「退職金共済契約申込書」を記入し、次のいずれかの窓口に提出します。
・業務委託事業主団体(商工会議所・商工会・中小企業団体中央会など)
・委託保険会社
加入後、中退共から事業主へ「退職金共済契約関係書類綴」が届き、従業員ごとの退職金共済手帳が同封されます。加入後に採用した従業員を加入させるときは、追加の申込みを行います。
中退共のデメリットは?導入前に確認したい3つの注意点
中退共のデメリットは、短期退職だと掛金が戻らないこと、掛金が全額事業主負担であること、基本退職金の利回りが年1.0%で固定されていることの3点です。
【短期で退職すると掛金総額を下回る】
掛金納付月数が11か月以下なら退職金は支給されず、23か月以下では掛金総額を下回ります。差額は事業主にも返金されません。入れ替わりの多い職場では、加入のタイミングを検討する必要があります。
【掛金は全額事業主負担で、従業員と折半できない】
中退共の掛金は全額事業主が負担します。掛金の一部でも従業員に負担させることはできず、給与からの天引きもできません。
【懲戒解雇でも会社の判断だけでは減額できない】
退職金は中退共から従業員へ直接支払われます。懲戒解雇などで減額するには厚生労働大臣の認定が必要で、全額の不支給はできません。
【運用利回りは年1.0%が基本】
基本退職金は予定運用利回り年1.0%で設計されています。付加退職金の上乗せは年度ごとの運用状況しだいで、企業型確定拠出年金のように加入者が運用商品を選ぶ仕組みはありません。
中退共と他の退職金制度の違いは?小規模企業共済・特退共・建退共
中退共は「中小企業の従業員」のための制度です。経営者本人の退職金、業種別の制度、商工会議所などの制度とは、対象者や運営主体が異なります。
中退共と小規模企業共済の違いは?対象が従業員か経営者か
中退共は従業員の退職金、小規模企業共済は個人事業主や会社役員など経営者自身の退職金を準備する制度です。
| 項目 | 中退共 | 小規模企業共済 |
|---|---|---|
| 対象者 | 中小企業の従業員 | 小規模企業の個人事業主・会社役員など |
| 運営 | 勤労者退職金共済機構 | 中小企業基盤整備機構 |
| 掛金負担 | 事業主が全額負担 | 加入者本人が負担 |
| 掛金月額 | 5,000円〜30,000円(短時間労働者は2,000円から) | 1,000円〜70,000円(500円単位) |
| 税制 | 事業主の損金・必要経費 | 本人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除) |
役員は原則として中退共に加入できないため、経営者自身の退職金は小規模企業共済で備えるのが一般的です。小規模企業共済に加入している人は、別の会社で従業員として働いても中退共には加入できません。
中退共と特退共(特定退職金共済)の違いは?
特定退職金共済(特退共)は、商工会議所・商工会などが、所得税法施行令第73条にもとづく税務署長の承認を受けて運営する退職金制度です。
| 項目 | 中退共 | 特退共 |
|---|---|---|
| 運営主体 | 独立行政法人 勤労者退職金共済機構 | 商工会議所・商工会など |
| 国の掛金助成 | あり(新規加入助成・月額変更助成) | なし |
| 掛金・給付 | 法令で定められた16種類(+短時間労働者3種類) | 団体ごとに異なる |
| 企業規模の制限 | 中小企業のみ | 団体ごとに異なる |
中退共と特退共は併用でき、退職金引渡契約を結んでいる団体との間では通算も可能です。通算契約を結んでいる特退共団体は、令和8年7月末時点で223団体です。
中退共と建退共など特定業種退職金共済の違いは?
特定業種退職金共済は、建設業・清酒製造業・林業で期間を定めて雇用される人を対象にした制度です。
| 制度名 | 対象業種 |
|---|---|
| 建退共(建設業退職金共済) | 建設業 |
| 清退共(清酒製造業退職金共済) | 清酒製造業 |
| 林退共(林業退職金共済) | 林業 |
企業としては中退共と特定業種退職金共済の両方に加入できますが、同じ従業員が両方の制度に加入することはできません。たとえば建設会社なら、事務職の正社員は中退共、現場の期間雇用者は建退共と使い分けることができます。制度間を移動した場合は、一定の条件で通算できます。
中退共と会社独自の退職金は両方もらえる?
中退共と会社独自の退職金制度は併用でき、従業員は両方を受け取れます。「退職金規程の支給額のうち、中退共から出る分を差し引いた残りを会社が支払う」といった運用もあります。
両方から退職金を受け取る場合は、税金の計算のために支払う順番を決め、「退職所得の受給に関する申告書」や「退職所得の源泉徴収票」を受け渡す手続きが必要です。会社が中退共の退職金を代わりに受け取って支払うことはできません。
中退共(中小企業退職金共済)に関するよくある質問
中退共の退職金はいつ振り込まれますか?
請求書類が中退共に受け付けられてから、1か月から2か月半程度で振り込まれます。退職月分までの掛金の入金確認や書類の不備対応によっては、2か月以上かかることもあります。振込予定日は、予定日の約2週間前に届く「退職金等振込通知書」で確認できます。
中退共の退職金の請求はいつまでにすればいいですか?
退職した日から5年以内に請求する必要があります。5年を過ぎると時効により請求権が消滅します。5年以内に請求できない事情があった場合は、中退共本部給付業務部に相談してください。
中退共の振込日や退職金額を電話で教えてもらえますか?
中退共は、退職金額と振込予定日について電話やメールでの回答はしていないと案内しています。支払いの準備ができると、請求人に「退職金等振込通知書」、事業主に「退職金等支払のお知らせ」が届くので、そちらで確認してください。
中退共の退職金は掛金月額1万円・30年でいくらもらえますか?
掛金月額10,000円を30年(360か月)納付した場合の基本退職金は4,213,100円です。掛金総額360万円を約61万円上回ります。付加退職金が支給される年度があれば、この金額に上乗せされます。
中退共の退職金は自己都合退職だと減りますか?
減りません。中退共の退職金額は、自己都合か会社都合かに関係なく、掛金月額と納付月数で決まります。懲戒解雇などの場合に限り、厚生労働大臣の認定を受けて減額されることがありますが、全額を減額することはできません。
中退共に1年未満しか加入していないと退職金はもらえませんか?
掛金納付月数が11か月以下の場合、退職金は支給されません。12か月以上23か月以下では掛金総額の約2分の1から3分の1、24か月以上42か月以下では掛金総額と同額になります。ただし、中退共に加入している別の会社に転職して通算の手続きをすれば、前の会社の加入期間を引き継げる場合があります。
中退共の退職金と会社の退職金は両方もらえますか?
両方受け取れます。中退共と会社独自の退職金制度は併用でき、中退共分に会社独自の退職金を上乗せする運用もあります。両方から受け取る場合は、税金の計算のため「退職所得の受給に関する申告書」などの書類が必要です。
中退共は何歳まで加入できますか?
中退共に加入年齢の上限はありません。従業員として雇用されていれば、雇用関係が終わるまで加入を続けられます。ただし、掛金納付月数が11か月以下では退職金が支給されず、23か月以下では掛金総額を下回る点に注意が必要です。
中退共の退職金共済手帳はいつもらえますか?
退職金共済手帳は、加入時に中退共から事業主へ送られ、在職中は事業所で保管されます。従業員は退職時に事業主から受け取り、手帳の3枚目の請求書で退職金を請求します。手元に届かない場合は、事業所を通じて中退共に再発行を依頼してください。
中退共の掛金を従業員と折半することはできますか?
できません。中退共の掛金は全額事業主が負担し、一部でも従業員に負担させることはできません。掛金は法人の場合は損金、個人事業主の場合は必要経費として全額非課税になります。
解約手当金と退職金の違いは何ですか?
退職金は雇用関係が終わったときに支払われ、解約手当金は雇用が続いている間に契約を解除したときに支払われます。計算方法は同じですが、掛金助成を受けた人の解約手当金は減額されます。税法上、退職金は退職所得、解約手当金は一時所得として扱われます。
定年延長や再雇用のとき、中退共はどうなりますか?
60歳で定年退職して再雇用される場合は、定年時に退職として退職金を受け取れます。一方、65歳まで定年延長して雇用が続いている場合に、65歳より前に積立てをやめると解約扱いになり、解約手当金として支払われます。
同居の家族も中退共に加入できますか?
従業員としての実態があれば、同居の親族も加入できます。加入時に確認書(チェックシート)、労働条件通知書の写し、賃金の支払いが確認できる書類の提出が必要で、加入中や退職時にも確認があります。同居の親族のみを雇用する事業主は、国の掛金助成の対象外です。
まとめ|中退共は中小企業が手軽に導入できる国の退職金制度
中小企業退職金共済(中退共)は、勤労者退職金共済機構が運営する中小企業のための国の退職金制度です。新規加入助成(掛金の2分の1、上限5,000円を1年間)、掛金の全額損金算入、口座振替による簡単な管理が主なメリットです。
退職金は、請求書類の受付から1か月〜2か月半程度で従業員本人の口座へ振り込まれます。請求期限は退職した日から5年なので、退職後は早めに手続きしましょう。
退職金額は掛金月額と加入年数で決まり、掛金月額10,000円なら30年で基本退職金4,213,100円です。一方で、23か月以下の退職では掛金総額を下回るため、従業員の定着状況も踏まえて掛金月額や加入のタイミングを検討してみてください。
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