大企業に比べ予算的余力の少ない中小企業では、退職金が少ない、もしくは制度そのものがない企業が多くあります。東京都がまとめた「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」では、都内の中小企業のうち、20.9%が「制度なし」と回答しました。
独力では退職金制度の設立が難しい企業のために、国は「中小企業退職金共済制度(以下、中退共制度)」を設置しています。今回は中退共制度の内容や手続き方法についてまとめました。
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この記事の目次
中退共制度とは?
中退共制度とは、昭和34年に設立された国の退職金制度です。安心・確実・有利で管理が簡単な退職金制度として、38万近い企業が利用しています。まずはその概要やしくみについて、見ていきましょう。
概要
中退共制度は、独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)が運営する制度です。中退共が退職金の管理から支給までを管理するので企業側の負担が少なく、掛け金の一部は国から助成も受けられます。
しくみ
中退共と契約を結んだ企業は掛け金を納付し、従業員の退職時には、中退共から該当の従業員へ直接退職金が支払われます。短時間労働者向けの特別掛け金のほか、賃金・勤続年数によって掛け金が選択できるうえ、掛け金は全額非課税となります。
目的
中小企業者の相互共済と国の援助で、退職金制度の確立を目指します。中小企業の従業員の福祉の増進と、中小企業の振興に寄与することが目的の制度です。
【加入している企業】
37万8千所
【加入している従業員】
362万人
【運用資産額】
5兆2620億円
中退共制度のポイント
中退共制度には、「掛け金の一部を国が助成」「掛け金月額の選択」「簡単な管理」「短時間労働者の特典」「掛け金は非課税」「ポータビリティ」の6つのポイントがあります。そのうち「掛け金の一部を国が助成」では、「新規加入助成」と「月額変更助成」の2種類の助成が受けられます。
それぞれのポイントについて、詳しく見ていきましょう。
①掛け金の一部を国が助成 (新規加入助成の場合)
新しく中退共制度に加入する事業主は、以下の2つの助成が受けられます。
①加入後4か月目から1年間、掛け金月額の1/2(上限は従業員1人につき5,000円)を国が助成します
②パートタイマー等の短時間労働者の特例掛け金月額(掛け金月額4,000円以下)の加入者については、①にプラスして、掛け金月額に応じて以下のように上乗せして助成します。
・掛け金月額2,000円…300円
・掛け金月額3,000円…400円
・掛け金月額4,000円…500円
この内容を表したものが下の図になります。
出典:よくわかる中退共制度 詳細版
①掛け金の一部を国が助成 (月額変更助成の場合)
事業主が掛け金月額18,000円以下の従業員に対して掛け金を増額する場合には、増額分の1/3を1年間、国が助成します。ただし、20,000円以上の掛け金月額からの増額は助成の対象になりません。なお、月額変更助成期間中に再度、増額変更する場合には、前の「月額変更助成」は中止されて新しい「月額変更助成」が適用されます。
出典:よくわかる中退共制度 詳細版
ただし、新規加入助成・月額変更助成の対象にならない場合があります。「同居の親族とそれ以外の従業員」を雇用する場合はどちらの助成も対象となりますが、「同居の親族のみ」を雇用する事業主はどちらの助成も対象外です。そのほかの事業主の条件は、以下を参考にしてください。
出典:よくわかる中退共制度 詳細版
②掛け金月額の選択
掛け金月額は勤務年数や賃金などに応じて、従業員ごとに16種類から選択でき、いつでも変更することも可能です。
また、短時間労働者は、掛け金月額の他に3種類の特例掛け金月額も選択できます。
③簡単な管理
掛け金は口座振替です。振込の手間がなく、簡単に管理できます。また、従業員ごとの納付状況や退職金試算額は事業主に報告されます。
④短時間労働者の特典
短時間労働者の加入に際しては、特別掛け金や助成の上乗せなどの特典が受けられます。
⑤掛け金は非課税
掛け金は法人企業の場合は損金、個人企業の場合は必要経費として、全額が非課税になります。
⑥ポータビリティ
従業員の転職時、すでに積み立てられていた退職金を引き継ぐことができる「通算制度」があります。
中退共制度の加入条件
中退共制度は、企業と従業員それぞれに加入に関する条件があります。各条件等をまとめました。
【加入できる企業】
加入できる企業は、常用従業員数と資本金・出資金の額に制限があります。加入できる条件の範囲には業種によって異なりますので、注意してください。
業種ごとの範囲は以下のとおりです。
■一般企業
常用従業員…300人以下
資本金・出資金…3億円以下
■卸売業
常用従業員…100人以下
資本金・出資金…1億円以下
■サービス業
常用従業員…100人以下
資本金・出資金…5,000万円以下
■小売業
常用従業員…50人以下
資本金・出資金…5,000万円以下
【加入させる従業員】
原則として、従業員は全員加入させてください。ただし、次の条件にあてはまる従業員は加入させなくても良いことになっています。
■期間を定めて雇用される者
■季節的業務に雇用される者
■試みの雇用期間中の者
■短時間労働者
■休職期間中の者
■定年などで短期間内に退職することが明らかな者
手続き方法
制度の内容を確認したら、次は手続きの方法について見てみましょう。加入に必要な申込書は、金融機関等で入手できます。中退共制度に加入方法には、初めて中退共制度に加入する「新規加入」と、既に加入している企業が新たに採用した従業員を加入させる「追加加入」があります。
それぞれの手続きをまとめました。
新規加入の手続き
新規加入に必要な手続きは、以下の①~⑦です。
①従業員の同意
加入させる従業員から、加入の同意を取ります。
②掛け金月額の決定
従業員それぞれの掛け金月額を決めます。
③必要書類の記入
手続きに必要な書類は、以下の2つです。
■退職金共済契約申込書
■預金口座振替依頼書
④添付書類の確認
別途添付書類が必要な場合は、該当書類の確認をしてください。添付が必要な書類は以下の通りです。
■中小企業者であることの証明書
■短時間労働者であることの証明書
■「申込み従業員についての確認書」等、同居の親族が加入する際に必要な書類
⑤書類の提出
最寄りの金融機関または委託事業主団体の窓口に書類を提出します。申込書受付業務を取り扱っていない場合がありますので、事前を確認してください。
⑥解散存続厚生年金基金の残余財産の交付希望確認書類の送付
退職金共済契約申込書のD欄「平成26年4月1日時点で、存続厚生年金基金に加入していたか」の「1 加入していた」に○印をした事業主には、解散存続厚生年金基金から中小企業退職金共済制度への交付措置の希望についての確認書が送付されます。記入のうえで中退共本部・契約課まで返送してください。
➆契約の成立
窓口に書類を提出した日が、契約成立年月日です。審査の終了後、中退共本部から事業主へ、各従業員の「退職金共済手帳」が送付されます。
追加加入の手続き
加入していない従業員がいる場合は、追加加入の手続きが必要になります。
手続きの流れは新規加入とほとんど同じです。ただし、退職金共済契約申込書は「追加用」を使用してください。
①従業員の同意
②掛け金月額の決定
③必要書類の記入
④添付書類の確認
⑤書類の提出
⑥契約の成立
退職金額・支払い方法
退職金は、退職時に「一時金払い」で支払われます。
なお退職日に60歳以上で条件を満たしていれば、5年間または10年間で支払われる「全額分割払い」、「一部分割払い(併用払い)」を選択することもできます。それぞれの条件は、以下のとおりです。
【支払期限5年間】
■全額分割払い
退職金額80万円以上
■一部分割払い(併用払い)
退職金額100万円以上 (一時金払対象額20万円以上、分割払対象額80万円以上)
【支払期限10年間】
■全額分割払い
退職金額150万円以上
■一部分割払い(併用払い)
退職金額170万円以上 (一時金払対象額20万円以上、150万円以上)
その他、支払回数などは以下の表を参照してください。
出典:よくわかる中退共制度 詳細版
まとめ
退職金は、働いている間のモチベーションや、従業員の定着率にも大きく影響する項目です。しかし新しい制度を作るときには、予算的な負担や事務作業の増加も課題になってくるでしょう。
そんな時は、中退共制度を活用し、従業員にも企業にも負担の少ない退職金制度の設立を目指してみてはいかがでしょうか。