企業にとって、従業員の賃上げを実施することは重要な事項です。賃上げの実施は従業員のモチベーション引き上げにも関わりますし、最終的には企業全体の生産性向上にもつながるでしょう。
とはいえ企業の資金には限界があるため、中小企業等の中には賃上げの実施が厳しいケースもあるはずです。今回の記事では「賃上げを実施したいが資金の問題で対応に悩んでいる」という中小企業事業者へ向けて、積極的に活用してほしい賃上げ支援制度を紹介します。
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この記事の目次
賃上げは何のために行うのか
政府は令和4年度の第2次補正予算案の中で、総合経済対策の一環として「構造的な賃上げ」を掲げています。物価上昇などに伴い生活が苦しくなる従業員に対して継続的な賃上げを実現し、状況を改善することを目的としています。
とはいえ、賃上げを実施する企業に資金的な余力がなければ実現は困難です。今回紹介する以下4つの賃上げ支援制度では、賃上げを積極的に実施する中小企業を強力にサポートしてくれます。
- 中小企業向け 賃上げ促進税制
- 事業再構築補助金
- ものづくり・商業・サービス補助金
- 事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)
一つずつ確認していきましょう。
賃上げ促進税制(中小企業向け)
「中小企業向け 賃上げ促進税制」とは、中小企業者や個人事業主等が前年度より給与を増加させた際、給与増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。控除額は要件ごとで異なりますが、最大40%を法人税(個人事業主は所得税)から控除できます。
具体的な要件と控除額は以下のとおりです。
適用要件 | 税額控除率 | |
通常要件 | 雇用者給与等支給額が、前年度と比べて「1.5%以上」増加している | 控除対象雇用者給与等支給増加額の「15%」を法人税額あるいは所得税額から控除 |
上乗せ要件① | 雇用者給与等支給額が、前年度と比べて「2.5%以上」増加している | 通常要件の控除率に加えて「15%」が上乗せされる |
上乗せ要件② | 教育訓練費の額が前年度と比べて「10%以上」増加している | 通常要件の控除率に加えて「10%」が上乗せされる |
上記の税額控除は併用できるため、すべてを適用すれば最大で「15%+15%+10%=40%」を控除できます。控除が適用されるのは「令和4年4月1日〜令和6年3月31日の期間内に開始する事業」です。(個人事業主については、令和5年及び令和6年の各年が対象です)
詳細は「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」をご覧ください。
事業再構築補助金における賃上げ支援
「事業再構築補助金」とは、新分野展開・事業転換・業種転換など、思い切った事業再構築に乗り出す中小企業等を支援する補助金です。
以下、第2次補正予算での拡充点を含む各枠の概要です。6枠に分類されており、それぞれで補助上限額や要件などが異なるためチェックしておきましょう。
申請類型 | 補助上限額 | 補助率 | 追加の支援措置(成長枠とグリーン成長枠のみ) |
【成長枠】 成長分野への大胆な事業再構築に取り組む事業者向け |
・2,000万円 ・4,000万円 ・5,000万円 ・7,000万円 (※) |
中小:1/2 中堅:1/3 |
①事業終了後3〜5年の間に、一定水準以上の賃上などを行うことで、上限3,000万円を上乗せ ②継続的な賃金引き上げおよび従業員増加に取り組む事業者に対して上限を上乗せ ③補助事業期間内に賃上げ要件を達成した場合、補助率を「中小:2/3」「中堅:1/2」に引き上げ |
【グリーン成長枠】 研究開発・技術開発あるいは人材育成を行いながら、グリーン成長戦略「実行計画」14分野の課題解決に対応できる取り組みを行う事業者向け |
・エントリー 中小:4,000万円・6,000万円・8,000万円(*) 中堅:1億円 ・スタンダード 中小:1億円 中堅:1.5億円 |
中小:1/2 中堅:1/3 |
①事業終了後3〜5年の間に、一定水準以上の賃上などを行うことで、上限3,000万円を上乗せ ②継続的な賃金引き上げおよび従業員増加に取り組む事業者に対して上限を上乗せ ③補助事業期間内に賃上げ要件を達成した場合、補助率を「中小:2/3」「中堅:1/2」に引き上げ |
【産業構造転換枠】 国内市場縮小等の構造的な課題に直面している業種・業態の事業者向け |
・2,000万円 ・4,000万円 ・5,000万円 ・7,000万円 (※) 廃業を伴う場合は、2,000万円を上乗せ |
中小:2/3 中堅:1/2 |
|
【サプライチェーン強靱化枠】 海外で製造する部品等の国内回帰を進め、国内サプライチェーンの強靱化および地域産業の活性化に必要な取り組みを行う事業者向け |
5億円 | 中小:1/2 中堅:1/3 |
|
【物価高騰対策・回復再生応援枠】 業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む事業者向け |
・1,000万円 ・1,500万円 ・2,000万円 ・3,000万円 (※) |
中小:2/3(一部3/4) 中堅:1/2(一部2/3) |
|
【最低賃金枠】 最低賃金引上げの影響を受け、その原資の確保が困難な特に業況の厳しい事業者向け |
・500万円 ・1,000万円 ・1,500万円 (※) |
中小:3/4 中堅:2/3 |
(※)従業規模に応じて上限額は異なります。
補助要件も各枠で異なりますが、例えば以下のような内容が設定されています。
- 事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関と策定し、一体となって事業再構築に取り組むこと
- 補助事業終了後3〜5年で付加価値額の年率平均3〜5%(申請類型により異なる)以上増加している 等
上の表の「追加の支援措置」欄にあるように、事業再構築補助金では、大胆な賃上げに取り組む場合に補助率・補助上限の引き上げといった「更なるインセンティブ」を設置しており、賃上げを強力に支援していくことがわかります。
詳細は「事業再構築補助金公式サイト」をご覧ください。
ものづくり・商業・サービス補助金における賃上げ支援
「ものづくり・商業・サービス補助金」とは、革新的製品・サービスの開発やプロセス改善等に必要な設備投資を支援する補助金制度です。以下の要件を満たす「3〜5年の事業計画」を実施し、生産性向上を目指す中小企業等であれば利用できます。
- 付加価値額が「+3%以上/年」を達成している
- 給与支給総額が「+1.5%以上/年」を達成している
- 事業場内最低賃金が「地域別最低賃金+30円」を達成している
第2次補正予算事業において、ものづくり・商業・サービス補助金には以下の5枠が設定されています。※上限額は従業規模に応じて異なります。
申請枠 | 補助上限額 | 補助率 |
【通常枠】 新製品・新サービス開発・⽣産プロセスの改善に必要な設備投資および試作開発を支援 |
750万~1,250万円 | ・1/2 ・2/3(小規模、再⽣事業者) |
【回復型賃上げ・雇用拡大枠】 業況が厳しい事業者(*)が、賃上げや雇用拡大に取り組むための革新的な製品サービス開発、あるいは⽣産プロセス・サービス提供方法の改善に必要な設備・システム投資等を支援 *前年度の事業年度の課税所得がゼロである事業者に限る |
750万~1,250万円 | 2/3 |
【デジタル枠】 DXに必要な革新的な製品やサービス開発、あるいは⽣産プロセス、サービス提供方法の改善による⽣産性向上に必要な設備・システム投資等を支援 |
750万~1,250万円 | 2/3 |
【グリーン枠】 温室効果ガスの排出削減に必要な取り組みに応じて、革新的な製品やサービス開発、あるいは炭素⽣産性向上を伴う⽣産プロセス・サービス提供方法の改善による⽣産性向上に必要な設備・システム投資等を支援 |
<エントリー> 750万~1,250万円 <スタンダード> 1,000万~2,000万円 <アドバンス> 2,000万~4,000万円 |
2/3 |
【グローバル市場開拓枠】 海外事業の拡大等を目的とした設備投資等を支援。海外市場開拓(JAPANブランド)類型では、海外展開に必要なブランディング・プロモーション等に発生する経費も支援 |
3,000万円 | ・1/2 ・2/3(小規模、再⽣事業者) |
ものづくり補助金では第2次補正予算分から、補助事業終了後3〜5年で大幅な賃上げに取り組む事業者に対して、上記枠の補助上限を100万~1,000万円上乗せします。(回復型賃上げ・雇用拡大枠を除く)
詳細は「ものづくり補助金の概要」をご覧ください。
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)における賃上げ支援
「事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)」とは、事業承継やM&A後の経営革新(設備投資や販路開拓等)、M&A時の専門家活用等に対して発生する費用を補助する制度です。第2次補正予算分から新たに加わる内容として、経営革新事業において一定の賃上げを実施する場合、補助上限が600万円から800万円に引き上げられます。
名称 | 種別 | 補助上限額 | 補助率 |
【経営革新事業】 事業承継・M&A後の経営革新(設備投資・販路開拓等)に必要な費用を補助 |
創業支援型: 他の事業者が保有している経営資源を引き継いで創業した場合 経営者交代型: 親族内承継等により経営資源を引き継いだ場合(後継者が引き継ぎ予定の場合を含む) M&A型: M&A(株式譲渡、事業譲渡等)により経営資源を引き継いだ場合 |
最大600万円 ※一定の賃上げで上限額を最大800万円まで引き上げ |
2/3、または1/2以内 |
【専門家活用事業】 M&A時の専門家活用に必要な費用(ファイナンシャルアドバイザーや仲介に必要な費用、デューディリジェンス、セカンドオピニオン、表明保証保険料等)を補助 |
買い手支援型: M&Aに伴い経営資源を譲り受ける予定の中小企業等 売り手支援型: M&Aに伴い自社が有する経営資源を譲り渡す予定の中小企業等 |
600万円(M&Aが未成約の場合は300万円) | 2/3 |
なお、「原状回復費・在庫処分費」などの事業承継・M&Aに伴う廃業に係る経費は、上記事業に上乗せして補助されます。(上限:150万円、補助率:2/3)
詳細は「事業承継・引継ぎ補助金の概要」をご覧ください。
まとめ
今回紹介した4つの賃上げ施策は、従業員への待遇改善に取り組む中小企業を強力にサポートしてくれる制度です。
賃上げを実施して従業員のモチベーションを改善し、最終的な企業の生産性向上を目指す場合は積極的に活用してみてはいかがでしょうか。