
▼12月2日分更新
※12月2日、人材開発支援助成金の制度が改正されました。また、新たにリスキリング支援コースが創設されました。これに伴い記事内容を更新しました。
令和4年度の第2次補正予算案が公表される中で厚生労働省は、企業の負担を軽減するために助成金制度の拡充を発表しました。助成金拡充の一環として複数の新たなコースも設置されており、今回紹介する「リスキリング支援コース」も新設された制度の一つです。
リスキリング支援コースの新設により、企業は労働者のスキルアップに向けた施策を実施する際、サポートを受けられます。
今回の記事では「リスキリング支援コース」の具体的な拡充内容を解説します。自社の負担を軽減しつつ労働者のスキルアップを図りたい企業はぜひ活用しましょう。
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この記事の目次
リスキリングとは
リスキリングとは、従業員が持つスキルや知識をアップデートし、新しい業務に対応できるようにすることを指します。従業員のスキルには、経験や知識、技術などが含まれますが、これらは時代とともに変化していくものです。
企業が業務改革を行い、新しい技術や業務に取り組む場合、従業員のスキルも新しい環境に適応できるように、リスキリングが必要になってきます。例えば、デジタル技術が普及してきた現代では、デジタル技術に精通している人材が求められます。企業は、既存の従業員に対してデジタル技術のトレーニングやスキルアップの支援を行い、新しい業務に対応できるようにすることが必要となってきます。
また、リスキリングは、従業員のキャリアアップややりがいの向上にもつながります。従業員は、自分自身のスキルアップに努めることで、自己実現を感じ、仕事に取り組むモチベーションが高まると同時に、企業にとっても、スキルアップした従業員が生み出す新しいアイデアやビジネスモデルが、企業の成長や発展につながることがあります。
リスキリングは、現代のビジネスにおいて重要な課題のひとつです。企業は、従業員のスキルアップに注力することで、企業の競争力や生産性の向上につながるとともに、社員の働きやすさやキャリアアップの可能性を広げることができます。
現在ではAIの発達やDX化の推進などにより、働き方が大きく変化しています。例えば「単純作業のロボット化」「社内システムの一括管理」などが促進されることで、今まで人力で行っていた仕事が不要となり、新たな業務に取り組む必要性が出てくるでしょう。実際、2020年のダボス会議においても「2030年までに10億人をリスキリングする」という宣言が出されました。
経済産業省が「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を立ち上げたり、厚生労働省も「教育訓練給付制度(専門実践教育訓練)」と連携した助成金の仕組みを策定したりなど、新たなスキルの獲得に向けて動く事業主を積極的に支援する動きを見せています。
リスキリングとリカレントの違い
リスキリングとリカレントは、両者とも従業員のスキルアップに関する用語ですが、異なる意味を持ちます。リスキリングは、従業員が持つスキルや知識をアップデートし、新しい業務に対応できるようにすることを指します。つまり、従業員が企業の業務改革に対応できるよう、新しいスキルや知識を習得することを目的としています。
一方、リカレントは、現在の仕事に必要なスキルを維持・向上させることを指します。従業員がすでに持っているスキルを、より深めたり、最新の情報や技術を取り入れたりすることで、現在の仕事に対応できるようにすることを目的としています。
つまり、リスキリングは、従業員が新しい業務に対応するために必要なスキルアップを図ることを目的としており、一方のリカレントは、従業員が現在の業務に対してより高いスキルを持つことを目的としています。
両者は、従業員のスキルアップに関する異なる目的を持っているため、取り組み方や研修内容も異なることがあります。企業が従業員のスキルアップに取り組む場合には、目的に合わせてリスキリングやリカレントの取り組みを行い、従業員のスキルアップを促進していくことが大切です。
人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金は、厚生労働省が中小企業の人材開発を支援するために設けた補助金制度です。具体的には、従業員のスキルアップに関する研修や、資格取得にかかる費用の一部を補助することで、企業の人材開発に貢献します。
この助成金制度は、中小企業に対しては特に支援的な措置が講じられており、従業員数が300人以下の企業が対象となっています。また、非営利団体や一部の自治体が実施する場合もあります。
人材開発支援助成金は、研修費用や資格取得費用の補助だけでなく、研修機関の選定支援や研修プログラムの策定支援、研修後の効果検証など、人材開発に必要な様々な支援を行うことができます。
この助成金制度を活用することで、企業は従業員のスキルアップに積極的に取り組み、経営効率の向上や新規事業の展開など、ビジネスの成長につなげることができます。
人材開発支援助成金のコースは以下の8種です。
コース名 | 訓練等の内容 |
1.特定訓練コース | 訓練効果が高い10時間以上の訓練を実施 |
2.一般訓練コース | 職務に関連した20時間以上の訓練を実施 |
3.教育訓練休暇等付与コース | 教育訓練休暇制度、長期教育訓練休暇制度、教育訓練短時間勤務制度の導入 |
4.特別育成訓練コース | 有期契約労働者等に対する訓練を実施 |
5.建設労働者認定訓練コース | 建設労働者に対する訓練を実施 |
6.建設労働者技能実習コース | 建設労働者に対する訓練を実施 |
7.障害者職業能力開発コース | 障害者に対する訓練事業を実施 |
8.人への投資促進コース | デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)等を実施 |
人材開発支援助成金 令和4年10月1日からの主な改正内容
上記の人材開発支援助成金は、令和4年10月1日から主に以下の点が改正されました。
(1)見直しが実施されたコース名
- 特定訓練コース
- 一般訓練コース
- 特別育成訓練コース
- 人への投資促進コース
(2)全コース共通で見直された内容
【提出書類の省略】
従来は上記4コースをもとに訓練等を実施した際、支給申請時に「一般教育訓練等の経費負担額に関する申立書」が必要でしたが、令和4年10月1日〜は不要になりました。
(3)各コースで見直された内容
▼人への投資促進コース
【定額制訓練の要件変更及び提出書類の簡略化】
従来とは以下の点が異なります。
- 特別な理由なく、契約期間の初日(計画届の提出日から1ヶ月後)から起算して1ヶ月前までの提出期限を経過し、かつ契約期間の初日が到来していない定額制サービスについても、助成対象となる
- 計画届の際に提出が必要な「訓練別の対象者一覧(様式第4-1号)」について、定額制訓練では記載内容を簡略化して、「定額制訓練に関する対象者一覧(様式第4-2号)」を提出することになった
- 計画届の際に提出が必要な「対象者全員分の雇用契約書等の写し」を省略し、支給申請の際に「受講時間数が10時間以上の要件を満たす対象者分の雇用契約書等の写しを提出する」という点に変更した
【高度デジタル人材訓練の要件変更】
対象事業主の要件に、「企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるために企業経営や人材育成の方向性の検討を行い、この検討を踏まえて事業内計画等の計画を策定している事業主」が追加されました。
上記の要件を適用する場合は、計画届の添付資料に「事業主におけるDXの推進に関する申立書(様式第3-4号)」および「検討を踏まえて策定した事業内計画等」が必要です。
【情報技術分野認定実習併用職業訓練の要件変更及び提出書類の省略】
従来とは以下の点が異なります。
- 対象労働者について、従来は「未経験者あるいはキャリアコンサルティングの中で過去の職業経験の実態等から必要と認められる者(情報処理・通信技術者としての業務経験が概ね1年未満の者)」としていたが、経験年数が1年以上であっても「キャリアコンサルティングの結果、職業経験の実態等から必要と認められる(当該業務から長期間離れていたなど)者」を対象とすることになった
- 計画届の際に提出が必要な「認定実習併用職業訓練の実施計画認定通知書の写し」が省略された
- 計画届の際に提出が必要な「対象労働者の生年月日がわかる書類」が省略された
▼特定訓練コース
【認定実習併用職業訓練の提出書類の省略】
計画届の際に提出が必要な「認定実習併用職業訓練の実施計画認定通知書の写し」が省略されました。
令和4年12月2日からの主な改正内容
(1)助成限度額の引き上げ
人への投資促進コースの1事業所が1年度に受給できる助成限度額を1,500万円から2,500万円に引き上げ(成長分野等人材訓練を除く)
(2)定額制訓練の助成率の引き上げ及び対象訓練の緩和
・経費助成率の引き上げ
中小企業:45%→60%へ
大企業:30%→45%へ
・対象訓練の緩和
訓練の実施目的が、職務に間接的に必要となるスキルや共通的なスキルを習得させるものであっても、デジタル・DX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるために実施する教育訓練である場合は経費助成の対象になります。
(3)自発的職業能力開発訓練の助成率及び助成限度額の引き上げ
・経費助成率を、30%から45%に引き上げ
・自発的職業能力開発訓練の1事業所が1年度に受給できる助成限度額を、200万円から300万円に引き上げ
(4)高度デジタル人材訓練の支給対象訓練の追加
支給対象訓練に、国のデジタル人材育成プラットフォーム「マナビDX(デラックス)」における講座レベルがITSSレベル4相当または3相当に区分される講座を支給対象訓練に追加
【注意点】
訓練開始日が令和4年12月2日以降である場合は、12月2日よりも前に訓練実施計画届を提出している場合でも、引き上げ後の助成限度額や経費助成率が適用されます。
人材開発支援助成金 第2次補正予算案における拡充内容
令和4年度の第2次補正予算案では、上記に加え新たに「事業展開等リスキリング支援コース(仮称)」が設置されます。リスキリング支援コースは、企業内で新規事業の立ち上げなどを行う事業主が労働者に対して、「新たな分野で必要な知識・技能を習得させるための訓練」を実施した際の費用を助成します。費用を助成することで人材育成を後押ししたり、多様なスキルを保有する人材の創出をサポートしたりすることが狙いです。
従来の人材開発支援助成金においても、職務に関連した計画に沿い訓練を実施した事業主に対して、訓練経費や賃金の一部を補助していました。リスキリング支援コースでは、従来よりも高率な助成を受けられます。
具体的な助成率等は以下の通りです。なお、いずれも「OFF-JTを実施した」という場合を想定しています。
【助成率・助成限度額】
経費助成率 | 賃金助成額 | 1事業所1年度あたりの助成限度額 | |
中小企業 | 75% | 960円 / 時・人 | 1億円 |
大企業 | 60% | 480円 / 時・人 | 1億円 |
【受講者1人あたりの経費助成限度額】
10時間以上100時間未満 | 100時間以上200時間未満 | 200時間以上 | |
中小企業 | 30万円 | 40万円 | 50万円 |
大企業 | 20万円 | 25万円 | 30万円 |
【支給対象訓練】
1.助成対象とならない時間を除いた訓練時間数が10時間以上であること
2.OFF-JT(企業の事業活動と区別して行われる訓練)であること
3.職務に関連した訓練であって以下のいずれかに該当する訓練であること
(1)企業において事業展開を行うにあたり、新たな分野で必要となる専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練
(2)事業展開は行わないが、事業主において企業内のデジタル・デジタルトランスフォーメーション化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるにあたり、これに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練
参考:厚生労働省
事業展開等リスキリング支援コース活用のメリット
リスキリングは、日本だけでなく世界的にも推進されている動きです。世の中のスタンダードとして、働き方の変化に対応するためのスキルアップは必須となるでしょう。
とはいえ、スキルアップに必要な研修や教育にはコストがかかります。教育をしている間は業務も止まるため、徐々に企業の売り上げにも影響を与えるでしょう。
リスキリング支援コースを活用すれば、教育や研修にかかる企業のコストを削減できます。企業内にハイスキルな人材を輩出しやすくなるため、自社の負担を抑えつつ事業全体の底上げを実施できる点が大きなメリットです。
リスキリングや人材開発に使える補助金・助成金一覧(2023年3月10日時点)
補助金名 | 上限金額 | 補助率 |
---|---|---|
茨城県常陸太田市:「常陸太田市市民雇用奨励金」 | 10万円/人 | 定額支給 |
北海道「せたな町産業等活性化補助金(新規起業者等応援補助金)」 | 補助上限100万円、対象経費の下限30万円 | 1/3以内 |
北海道「せたな町産業等活性化補助金(新規事業補助金)」 | 補助上限100万円、対象経費の下限30万円 | 1/3以内 |
北海道「せたな町産業等活性化補助金(雇用奨励補助金)」 | 補助上限(雇用者1人当たり)50万円、対象経費の下限15万円 ※3年間対象となります。 | 1/3以内 |
富山県魚津市:「魚津市男性の育児休業取得促進補助金」 | 5万円 | 定額 |
東京都「企業誘致促進制度(雇用促進奨励金)」《羽村市》 | 雇用した市民一人につき5万円(当該市民が障害者であるときは、一人につき5万円を加算)を交付。ただし、1企業に対する奨励金の総額は、100万円を限度(障害者に対する加算は算入しません)。 | |
東京都「企業誘致促進制度(企業誘致協力奨励金)」《羽村市》 | 固定資産税・都市計画税相当額を1年間交付(1企業誘致協力者に交付する奨励金の総額は、3千万円を限度) | |
愛媛県松山市:「松山市テレワーク在宅就労促進事業(就労奨励金)」 | 22万5000円 | 定額支給 ※指定事業者の受給実績年数に応じて支給額の変動あり。 |
「松山市テレワーク在宅就労促進事業(発注奨励金)」 | 500万円 | 10% |
「企業誘致促進制度(企業誘致奨励金)」《羽村市》 | 固定資産税・都市計画税相当額(本社機能の移転を行った場合は10%加算)を3年間交付(1企業に交付する奨励金の総額は、1億円を限度) | |
広島県:「人材開発支援助成金活用支援補助金」 | 50万円 | ・リスキリング推進宣言企業:4/5 ・その他の企業:1/2 ※対象事業者により上限額の変動あり |
富山県:「とやま人材リスキリング補助金」 | 100万円 | ・経費補助:75% ・賃金補助:定額 |
まとめ
リスキリング支援コースを活用すれば、企業は自社の負担を抑えながら、労働者のスキルアップに向けた施策を実施できます。今後、労働者の教育や研修に力を入れたい企業は積極的に活用しましょう。