米国関税政策の影響、日中関係の悪化に伴うレアアース輸出規制、中東情勢の緊迫化による原油価格高騰など、2025年以降の中小企業を取り巻く事業環境は激変が続いています。帝国データバンクの調査によれば、2026年3月の景気動向指数はすべての規模・業界・地域で悪化する結果となり、既存市場のみに依存した事業モデルの限界が浮き彫りとなりました。「既存事業の需要が縮小している」「新しい柱となる事業を立ち上げたい」と考えている都内中小企業経営者も多いのではないでしょうか。
こうした事業環境変化に対応するため、公益財団法人東京都中小企業振興公社は令和8年度(2026年度)から「経営力強化に向けた創意工夫チャレンジ促進事業」の新市場・新分野進出コースをスタートしています。新製品・新サービスの開発と新市場・新分野への進出を同時に行う取組を、最大1,000万円・助成率2/3以内(賃上げ計画策定時は3/4)で支援する制度です。
この記事では、新市場・新分野進出コースの対象取組、助成率、対象経費、令和8年度の申請スケジュール、他コースとの違いまでを詳しく解説します。
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この記事の目次
新市場・新分野進出コースとは?最大1,000万円で新製品開発+新市場開拓を支援する助成金
新市場・新分野進出コースは、経営力強化に向けた創意工夫チャレンジ促進事業の3コースの一つで、新製品・新サービスの開発と新市場・新分野への進出を同時に行う取組を、助成上限1,000万円・助成率2/3以内で支援する制度です。既存事業の枠を明確に超える取組が対象で、3コースの中で最も助成上限額が大きく、事業再構築や新規事業立ち上げを目指す事業者にとって有力な選択肢となります。
・正式名称:経営力強化に向けた創意工夫チャレンジ促進事業(新市場・新分野進出コース)
・実施主体:公益財団法人 東京都中小企業振興公社
・助成上限額:1,000万円
・助成率:対象経費の2/3以内(賃上げ計画策定時は3/4、小規模事業者は4/5)※賃上げ未達成時は2/3
・対象取組:新製品・新サービス開発 かつ 新市場・新分野への進出
・申請回数:年2回
・申請方法:Jグランツによる電子申請(GビズIDプライム必須)
・問い合わせ:経営力強化に向けた創意工夫チャレンジ促進事業事務局 TEL:03-4405-0707
他コースとの助成上限額の違い
新市場・新分野進出コースの助成上限額1,000万円は、業務改善コース・賃上げ重点コース(各600万円)と比べて1.67倍の規模です。大規模な設備投資・システム開発・販路開拓が必要な新事業立ち上げに対応できる設計となっています。
| コース | 助成上限額 | 助成率(通常時) | 助成率(賃上げ計画時) |
|---|---|---|---|
| 業務改善コース | 600万円 | 2/3以内 | ― |
| 賃上げ重点コース | 600万円 | ― | 3/4以内(小規模4/5) |
| 新市場・新分野進出コース | 1,000万円 | 2/3以内 | 3/4以内(小規模4/5) |
新市場・新分野進出コースの対象取組|「新製品開発」と「新市場進出」の両立が必須
新市場・新分野進出コースの対象取組は、「新製品・新サービスの開発」と「新市場・新分野への進出」を同時に行うことが必須条件です。どちらか一方のみの取組は対象外となる点が、業務改善コース・賃上げ重点コースとの決定的な違いです。
「新製品・新サービス」の定義
新市場・新分野進出コースにおける「新製品・新サービス」とは、申請者がこれまで開発・提供したことのない製品またはサービスを指します。既存製品の軽微な改良や機能追加は対象外で、新たな技術・ノウハウ・アイデアを活用した本格的な開発が求められます。
「新市場・新分野への進出」の定義
「新市場・新分野への進出」とは、申請者がこれまで参入していなかった市場・分野へ新たに事業展開することを指します。具体的には以下のような取組が該当します。
| 進出パターン | 取組例 |
|---|---|
| 顧客層の転換 | BtoB事業からBtoC事業への展開/法人向けサービスを個人向けに再設計 |
| 業種・機能の拡張 | 製造業が飲食・物販機能を追加/サービス業が製造機能を内製化 |
| 販路・地域の拡張 | 国内市場から海外市場への進出/地域限定販売から全国展開 |
| 技術・分野の転換 | 産業財産権や新技術を活用した新分野開拓/異分野への技術転用 |
対象外となる取組
新市場・新分野進出コースでは、以下のような取組は対象外となります。「新製品開発」と「新市場進出」のどちらか一方のみの取組は対象外となる点を必ず確認してください。
・すでに売上実績があり、提供体制が確立されている取組
・既存の製品・サービスをそのまま別の市場に展開する取組(新製品開発を伴わない)
・新製品を開発するが、既存市場・既存顧客への提供に留まる取組(新市場進出を伴わない)
・法令改正への対応など、義務的な取組
・単なる老朽設備の維持更新など、競争力や生産性の向上に寄与しない取組
新市場・新分野進出コースの対象者|業績要件と申請要件
新市場・新分野進出コースの対象者は、業務改善コース・賃上げ重点コースと同じく直近決算期の営業利益が前期比で減少している、または損失を計上している都内中小企業等です。事業環境変化により経営基盤の強化が必要な事業者を支援する趣旨から、業績が堅調な事業者は対象外となります。
対象者の共通要件
新市場・新分野進出コースの対象者は、以下の要件をすべて満たす必要があります。
・実施場所が都外(神奈川・埼玉・千葉・群馬・栃木・茨城・山梨の7県)の場合は、都内に本店の登記があること
・個人事業主の場合、納税地が東京都内にあること
・募集要項に定める中小企業者(資本金・従業員数基準)に該当すること
・直近決算期の営業利益が前期比で減少している、または損失を計上していること
・事業税・都民税等の税金を滞納していないこと
・暴力団関係者、風俗営業等の事業者でないこと
・令和8年度中小企業収益力強化サポート事業のハンズオン支援決定を受けていないこと
賃上げ計画策定で助成率3/4にアップ
新市場・新分野進出コースでは、賃金引上げ計画の策定は任意です。ただし、賃金引上げ計画を策定すると助成率が2/3から3/4に、小規模事業者は4/5まで引き上げられます。助成上限額1,000万円と組み合わせることで、最大で助成対象経費の80%を助成金でカバーできる計算となり、資金負担を大幅に軽減できます。
なお、賃上げ計画を策定したものの達成できなかった場合は、助成率が2/3に引き下げられる点は賃上げ重点コースと同様です。
助成対象経費|11経費区分と単独申請の可否
新市場・新分野進出コースの対象経費は、業務改善コース・賃上げ重点コースと共通で以下の10区分となっています。単独申請ができない経費区分があるため、必ず単独申請可の経費区分を主軸に事業計画を組み立てる必要があります。
| 経費区分 | 単独申請 |
|---|---|
| 原材料・副資材費 | 可 |
| 機械装置・工具器具費 | 可 |
| 委託・外注費 | 可(うち市場調査費は不可) |
| 産業財産権出願・導入費 | 可 |
| 規格等認証・登録費 | 可 |
| 設備等導入費 | 可 |
| システム等導入費 | 可 |
| 専門家指導費 | 不可(他区分と組み合わせ必須) |
| 不動産賃借料 | 可 |
| 販売促進費 | 不可(他区分と組み合わせ必須/既存事業分は対象外) |
| その他経費 | 不可(他区分と組み合わせ必須) |
新市場・新分野進出コースでは、新製品開発と新市場開拓を組み合わせるため、機械装置費や設備等導入費(開発用)と販売促進費(新市場向け)を組み合わせて申請するケースが多くなる見込みです。
なお、販売促進費は上限200万円、その他経費は上限100万円と経費区分ごとの上限が設定されています。広告宣伝や展示会出展を主軸にした事業計画では上限に注意が必要です。
令和8年度の申請スケジュール|新市場・新分野進出コースは年2回のみ
新市場・新分野進出コースの申請機会は年2回のみで、業務改善コース・賃上げ重点コース(各年4回)よりも申請機会が限られている点に注意が必要です。令和8年度のスケジュールは以下のとおりです。
| 募集回 | 申請受付期間 |
|---|---|
| 第1回 | 令和8年7月1日〜7月14日 |
| 第2回 | 令和9年1月4日〜1月14日 |
年2回のため、第1回を逃すと次回まで半年程度待つ必要があります。事業計画の策定・GビズIDプライムの取得・必要書類の準備は申請受付開始の少なくとも2〜3か月前から始めることをおすすめします。
申請の流れ|Jグランツ電子申請と事業計画の作り込み
新市場・新分野進出コースの申請は、Jグランツによる電子申請のみで受け付けます。助成上限額が大きい分、審査は他コースよりも詳細に行われる見込みで、事業計画書の作り込みが重要となります。
申請から助成金交付までの流れ
新市場・新分野進出コースの申請から助成金交付までは、以下の8ステップで進みます。賃上げ計画を策定した場合は、助成金交付後に賃上げ計画の実施・報告も必要となります。
・事業計画書・賃金引上げ計画(任意)の策定
・Jグランツによる電子申請(受付期間内)
・専門家による書類審査
・面接審査(書類審査通過者のみ)
・交付決定・通知
・助成事業の実施(新製品開発・新市場開拓)
・実績報告・完了検査・助成金交付
3コース重複申請不可
新市場・新分野進出コース、業務改善コース、賃上げ重点コースの3コースは重複申請できません。既存事業の深化・発展に取り組む場合は業務改善コースまたは賃上げ重点コース、新製品開発+新市場進出を目指す場合は新市場・新分野進出コースというように、取組内容に応じて1コースを選ぶ必要があります。
新市場・新分野進出コース(創意工夫チャレンジ促進事業)に関するよくある質問
新市場・新分野進出コースは新製品開発だけでも申請できますか?
新製品開発のみの取組は対象外です。新市場・新分野進出コースは「新製品・新サービスの開発」と「新市場・新分野への進出」を同時に行う取組が必須条件となります。新製品開発を既存市場・既存顧客のみに提供する場合は、業務改善コースまたは賃上げ重点コースの「既存事業の発展」として申請することを検討してください。
既存製品を新しい市場に展開する取組は対象になりますか?
既存製品をそのまま別の市場に展開する取組は対象外です。新市場・新分野進出コースは、新製品・新サービスの開発と新市場進出の両立が必須条件のため、既存製品の販路拡大のみでは要件を満たしません。ただし、既存製品を基に新たな機能や仕様を加えた新製品を開発し、新市場に投入する取組であれば対象となる可能性があります。
BtoBからBtoCへの転換は新市場進出に該当しますか?
BtoBからBtoCへの転換は新市場進出に該当する典型的な例です。ただし、BtoC向けに新製品・新サービスを開発することも同時に必要となります。既存のBtoB製品をそのままBtoC向けに販売するだけの取組は対象外となる点にご注意ください。
新市場・新分野進出コースの助成率を3/4にする方法はありますか?
賃金引上げ計画を策定することで、助成率を通常の2/3から3/4(小規模事業者は4/5)に引き上げられます。助成上限額1,000万円と組み合わせることで、助成対象経費の最大80%を助成金でカバーできる計算となります。ただし、賃上げ計画を達成できなかった場合は助成率が2/3に引き下げられます。
新市場・新分野進出コースの申請は年何回ですか?
新市場・新分野進出コースの申請機会は年2回のみです。業務改善コース・賃上げ重点コース(各年4回)よりも申請機会が限られています。令和8年度は第1回が令和8年7月1日〜7月14日、第2回が令和9年1月4日〜1月14日に設けられています。
ものづくり補助金や事業再構築補助金と併用できますか?
新市場・新分野進出コースは東京都の助成金、ものづくり補助金や事業再構築補助金は国の補助金で実施主体が異なるため、同一経費でなければ併用の余地があります。ただし、同じ設備投資・同じ経費に対して複数の補助金・助成金を重複して受給することはできません。それぞれの制度の対象経費や併用可否については、事前に各事務局に確認してください。
GビズIDプライムの取得にどれくらいかかりますか?
GビズIDプライムアカウントの発行には、書類に問題がない場合でも審査に1週間程度、実際の運用では2〜3週間程度かかります。Jグランツによる電子申請にはGビズIDプライムが必須ですので、新市場・新分野進出コースへの申請を検討している場合は、申請受付開始の少なくとも1か月前までにGビズIDの取得手続きを始めることをおすすめします。
申請書類の主な内容は何ですか?
申請時に提出が必要な主な書類は、事業計画書、収支予算書、直近2期分の決算書、履歴事項全部証明書(法人)または開業届の控え(個人事業主)、納税証明書などです。事業計画書には、新製品・新サービスの内容、新市場・新分野の定義、進出戦略、事業実施による効果を具体的に記述する必要があります。賃上げ計画を策定する場合は、賃金引上げ計画書も添付します。
不採択となった場合、次の回に再申請できますか?
不採択となった場合でも、次の申請回に再申請できます。ただし、新市場・新分野進出コースは年2回のみのため、次回まで半年程度待つ必要があります。不採択理由を踏まえて事業計画を大幅に見直し、再チャレンジすることをおすすめします。業務改善コースや賃上げ重点コースへの切り替えも選択肢となります。
まとめ|新市場・新分野進出コースで新事業立ち上げに最大1,000万円を活用しよう
新市場・新分野進出コースは、新製品・新サービスの開発と新市場・新分野への進出を同時に行う都内中小企業を最大1,000万円・助成率2/3以内で支援する制度です。賃金引上げ計画を策定すれば助成率が3/4(小規模事業者は4/5)まで引き上げられ、助成対象経費の最大80%を助成金でカバーできる計算となります。
3コースの中で最も助成上限額が大きく、大規模な設備投資・システム開発・販路開拓が必要な新事業立ち上げに対応できる設計です。ただし、「新製品開発」と「新市場進出」の両方が必須条件となる点、申請機会が年2回のみである点、審査が他コースよりも詳細に行われる見込みである点には注意が必要です。
令和8年度は第1回が令和8年7月1日〜7月14日、第2回が令和9年1月4日〜1月14日に予定されています。事業計画の作り込みには相応の時間が必要なため、申請受付開始の2〜3か月前から準備を始めましょう。GビズIDプライムアカウントの取得も忘れずに進めてください。
既存事業の深化・発展のみに取り組む場合は業務改善コースや賃上げ重点コースが選択肢となります。取組内容と自社の状況に応じて最適な1コースを選び、事業環境変化を乗り越える経営基盤の強化を実現してください。
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