ホルムズ海峡の封鎖リスクが現実味を帯び、中東からの原油調達が一時的に滞る事態となっています。日本の原油輸入の約90%以上を中東に依存しているだけに、その影響は燃料市場にも直結しました。
ガソリン全国平均は一時的に190.8円、軽油は178.4円に。政府は3月19日から激変緩和措置を発動し、ガソリン170円程度・軽油157円程度への抑制を図っていますが、情勢は依然として不透明です。
トラック運送業・銭湯・漁業・農業など、燃油コストが経営を直撃しやすい業種では、「軽油がこれ以上上がったら運べない」「出漁するたびに赤字が出る」という声が相次いでいます。そうした事業者を支えるため、政府はいくつかの支援制度を設けています。
廃業や解雇を検討する前に、まず使える制度を確認しましょう。本記事では、今の局面で活用できる支援策を整理して紹介します。
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この記事の目次
政府が認めた「国家的危機」中東情勢による燃油高騰の影響

参照:中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保のための対応方針(案)
2026年4月10日、政府は首相官邸で「中東情勢に関する関係閣僚会議(第3回)」を開催しました。各省庁が提出した資料から、現在どのような事態が起きているのかを整理します。
停戦合意と、なお続く不透明感
2026年4月8日、日本を含む15か国とEUは共同声明を発表し、米・イラン間で合意された2週間の停戦を歓迎しました。声明では「今後数日以内に恒久的な戦争終結に向けた交渉を行う」とし、ホルムズ海峡における航行の自由を確保するための貢献も表明しています。停戦合意は一歩前進ですが、恒久的な解決には至っておらず、エネルギー供給の不安定さは当面続く見通しです。
代替調達と備蓄放出で「年越し」を確保

参照:中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保のための対応方針(案)
経済産業省の資料によると、3月16日(月)にガソリン190.8円、軽油178.4円を記録した後、3月19日から緊急的な激変緩和措置を開始。ガソリン170円程度、軽油157円程度、灯油139円程度の水準への抑制を実現しました。
原油の代替調達については、4月に前年実績比2割以上、5月には過半の代替調達に目途がついており、国家備蓄原油の第二弾放出(約20日分)も5月上旬以降に実施予定です。供給自体は「年を越えて確保できる目途がついた」としながらも、流通段階での「目詰まり」が各地で発生しており、九州地方のバス事業者やトラック事業者への軽油供給が一時ストップした事例も報告されています。
医療現場でも深刻な影響
医薬品や医療機器の製造に必要なA重油・酸化エチレンガスの供給不足が相次いで報告されました。厚労省・経産省は共同で「医薬品・医療機器等の確保対策本部」を設置。4月8日時点で543件の相談が寄せられており、小児カテーテルや注射器のシリンジ、消毒液などについて解決済みまたは解決の道筋が立っている状況です。
トラック・バス・旅客船が直撃
燃料油の流通に目詰まりが生じたバス8社、トラック3社、旅客船4社、下水道4自治体の計19社・団体について、国交省と経産省が連携して個別対応を実施。4月9日時点で13社・団体において燃料油供給が再開しています。トラック・バスなど国土交通分野の業界団体に対しては、燃料油価格高騰を踏まえた価格転嫁の徹底を文書で要請しています。
農業・漁業・食品製造にも波及
農林水産省は4月10日に「中東情勢に伴う食料の安定供給・確保のための対応チーム」を省内に設置。乳製品工場でのA重油供給不足や、活魚運搬船・漁船の燃油調達困難などの事案に対応しています。4月9日時点で241件の問い合わせが寄せられており、経済産業省と連携して対応中です。
- 道路貨物運送業(トラック):2025年度の倒産321件(過去4番目の高水準)。軽油が一時180円に迫り、物価高倒産の9.4%を占める
- 銭湯(公衆浴場):重油高騰で年間60万円超のコスト増も。入浴料は都道府県が上限規制しており価格転嫁が困難
- 漁業・内航船舶:出漁コストの急増で自主的な操業縮小が発生。燃油補塡制度も十分に機能していない状況
- 農業・食品製造:温室ハウスの暖房用重油、乳製品工場のボイラー用A重油などの供給が逼迫
【雇用を守る①】雇用調整助成金——従業員を休業させた費用を最大2/3助成
燃油高騰による売上減少で、従業員を雇い続けることが難しくなっている事業者に活用していただきたいのが「雇用調整助成金」です。解雇の前に、まずこの制度を確認してください。雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員を解雇せず休業・教育訓練・出向によって雇用を維持した場合に、その費用を国が助成する制度です(雇用保険法に基づく)。
- 助成率:中小企業2/3、大企業1/2(訓練実施率によって変動あり)
- 上限:1人1日あたり8,870円(令和7年8月1日時点)
- 支給日数:1年間で最大100日、通算3年で最大150日
- 教育訓練加算:1人1日あたり1,200円〜1,800円
- 申請要件(主なもの):最近3か月の売上高が前年同期比10%以上減少 / 労使協定の締結 / 雇用保険適用事業主であること
今回の燃油高騰による受注減少・売上減少は「経済上の理由」に該当します。ただし、漁業者が「不漁を直接の理由」とした休業は対象外となる点に注意が必要です。燃油コスト増による経営悪化が理由であれば対象となりえます。
制度の詳細・申請方法・よくある質問は、以下の記事で詳しく解説しています。
【雇用を守る②】未払賃金立替払制度——万が一の倒産に備えた最後の砦
経営が逼迫し、もし事業が立ちゆかなくなった場合に従業員が未払いとなった賃金をどうするか——。そうした最悪の事態に備えた制度が「未払賃金立替払制度」です。
未払賃金立替払制度とは、企業が倒産した場合に、退職した労働者が未払いのまま受け取れなかった賃金・退職金の一定範囲を、国(独立行政法人労働者健康安全機構)が立て替えて支払う制度です。
- 対象:倒産した企業(法的整理・事実上の倒産)に勤務していた退職者
- 対象となる未払賃金:退職日の6か月前から立替払請求日の前日までの間の未払賃金・退職金
- 立替払の上限:未払賃金総額の80%(年齢によって上限額が異なる)
- 申請窓口:労働基準監督署
この制度は事業主向けではなく、万が一の際に従業員を守るためのセーフティネットです。事業者として従業員への責任を果たすためにも、制度の存在を知っておくことが重要です。詳しくは以下の記事をご確認ください。
【資金繰りを守る】セーフティネット貸付——売上が減少した中小企業への低利融資

参照:(参考資料2)セーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)の概要
燃油高騰で資金繰りが苦しくなった事業者には、日本政策金融公庫の「セーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)」の活用も選択肢のひとつです。
- 対象:社会的・経済的環境の変化等の外的要因により一時的に売上が減少しているが、中長期的に回復が見込まれる中小企業・小規模事業者
- 対象要件:最近3か月の売上高が前年同期または前々年同期比で5%以上減少等
- 貸付限度額:中小企業事業7億2,000万円、国民生活事業7,200万円
- 対象資金:設備資金・運転資金
- 貸付期間:設備資金20年以内、運転資金10年以内(据置期間3年以内)
- 貸付利率:基準利率(中小企業事業2.40%、国民生活事業3.10%)※令和8年3月現在
さらに注目すべき点として、原油価格上昇をはじめとした原材料・エネルギーコスト増の影響を受けており、かつ売上高総利益率または売上高営業利益率が前期比5%以上減少している場合は、貸付利率から0.4%が控除される優遇措置が設けられています。燃油高騰の影響を直接受ける運送業・銭湯・漁業などの事業者にとって、活用しやすい制度です。
中東情勢に伴う影響が生じている事業者向けに、日本政策金融公庫では特別相談窓口が設置されています。通常の数値要件(売上5%以上減少)を満たさない場合でも、「資金繰りに著しい支障をきたしている又はきたすおそれがある」と認められれば対象となります。まずは最寄りの日本政策金融公庫に相談してみてください。
公式ページ:経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)
【燃料費負担を軽減する】ガソリン激変緩和措置の最新動向
政府は3月19日から緊急的な激変緩和措置を実施中です。ガソリン・軽油・灯油・重油の補助を実施し、制度開始前の3月16日(月)と比較して以下の水準への抑制を実現しました。
| 激変緩和措置による価格変化(2026年3月) | ||
|---|---|---|
| 燃料種別 | 3月16日(措置前) | 措置後の水準 |
| ガソリン | 190.8円/L | 170円程度/L |
| 軽油 | 178.4円/L | 157円程度/L |
| 灯油 | 154.1円/L | 139円程度/L |
| 重油 | (高騰) | ガソリンと同額補助 |
補助率・実施期間などの最新情報は随時更新されます。ガソリン・燃料補助の最新動向については、以下の記事でも詳しく解説しています。
その他、活用を検討したい支援制度
燃油高騰・中東情勢に伴う影響への対応として、以下の制度も確認しておきましょう。
セーフティネット保証(信用保証協会)
中小企業信用保険法に基づく制度で、原油価格高騰などの経営環境変化により売上が減少した中小企業が、信用保証協会の保証を受けやすくなる制度です。セーフティネット保証4号・5号などが対象となります。申請は各市区町村の担当窓口で認定を受けた後、金融機関・信用保証協会に申し込む流れとなります。
公式ページ:中小企業庁 セーフティネット保証制度
小規模事業者持続化補助金
燃油高騰を受けた省エネ設備の導入(省エネ型ボイラーへの更新、LED照明導入など)や、新たな販路開拓・生産性向上に取り組む小規模事業者が活用できる補助金です。従業員数20名以下(商業・サービス業は5名以下)の事業者が対象で、補助率は2/3(上限50万円〜)です。
業務改善助成金
事業場内の最低賃金引き上げと設備投資を組み合わせた助成制度です。省エネ機器や高効率設備の導入を検討している場合、生産性向上のための設備投資に活用できます。
中東情勢・燃油高騰の影響を受けた事業者向けよくある質問
燃油が高騰してコストが増えたが、売上はそれほど下がっていない。雇用調整助成金は使えますか?
雇用調整助成金の申請には、最近3か月の売上高が前年同期比で10%以上減少していることが必要です(生産量要件)。燃油コストが増加しても、売上自体が10%以上減少していなければ要件を満たせません。ただし、燃油高騰を受けて荷主からの受注が減少したり、顧客が離れたりして売上が落ちている場合は対象となります。まず過去3か月の売上を前年同期と比較してみてください。
詳しくはこちら:雇用調整助成金【2026年・令和8年】休業・教育訓練の支援内容と申請方法を解説
セーフティネット貸付とセーフティネット保証の違いは何ですか?
セーフティネット貸付は日本政策金融公庫から直接融資を受ける制度です。一方、セーフティネット保証は信用保証協会が保証人になることで、民間金融機関から融資を受けやすくする制度です。どちらも売上減少などを要件としていますが、限度額・利率・申請窓口が異なります。両制度を組み合わせて活用することも可能です。
参考:経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)
参考:中小企業庁 セーフティネット保証制度
燃料の供給が止まって操業できない。どこに相談すればよいですか?
経済産業省が燃料・化学製品の供給に関する相談窓口を設置しています。国土交通省管轄の輸送事業者(トラック・バス・旅客船など)は国土交通省、農業・水産業・食品製造は農林水産省にも相談窓口があります。流通の目詰まりが生じている場合、関係省庁が連携して個別に対応する体制が整っています。まずは業種に応じた省庁または地方経済産業局に連絡してみてください。
参考:国土交通省 燃料油や石油製品等の供給に関する相談窓口
未払賃金立替払制度は、倒産していなくても使えますか?
未払賃金立替払制度は、法的整理(破産・民事再生など)または事実上の倒産(事業が停止し、再開する見込みがない状態)が前提となります。まだ事業を継続している段階では利用できません。経営が苦しい段階では、まず雇用調整助成金やセーフティネット貸付など、事業継続を支援する制度の活用をご検討ください。
漁業の燃油補塡(漁業経営セーフティネット構築事業)と雇用調整助成金は同時に使えますか?
漁業経営セーフティネット構築事業(燃油価格差補塡)と雇用調整助成金は制度の目的・所管省庁が異なるため、要件を満たせば両制度を活用することは可能です。ただし、雇用調整助成金の申請にあたっては「雇用保険被保険者を雇用していること」が前提となるため、個人漁業者が単独で漁を行っている場合は対象外となります。複数の従業員を雇用している漁業法人等であれば対象となりえます。
参考:水産庁 漁業経営セーフティーネット構築事業
セーフティネット貸付の申請はどこでできますか?
日本政策金融公庫の各支店が申請窓口です。中東情勢の影響を受けている事業者については特別相談窓口が設けられており、通常の売上減少要件(5%以上減少)を満たさない場合でも、資金繰りに著しい支障をきたしている、またはきたすおそれがあれば対象となります。まずは最寄りの日本政策金融公庫支店に電話または来店で相談してみてください。
参考:セーフティネット貸付(日本政策金融公庫)
ガソリン・軽油の激変緩和措置はいつまで続きますか?
2026年3月19日から開始された緊急的な激変緩和措置の終期は、中東情勢の動向を踏まえて政府が判断する方針です。4月8日の停戦合意を受け、情勢が安定すれば段階的に縮小・終了する可能性があります。最新の動向は資源エネルギー庁のホームページや補助金ポータルの関連記事でご確認ください。
詳しくはこちら:ガソリン補助金の詳細と今後の見通しを解説
価格転嫁ができず燃油高騰分を自社で全部負担しています。何か相談できる窓口はありますか?
価格転嫁に関しては、中小企業庁が「価格交渉促進月間」を設けるなど支援を行っています。国土交通省はトラック・建設業者団体に対して価格転嫁の徹底を要請しています。
また、中小企業庁や各地域のよろず支援拠点・商工会議所などでは、価格交渉・経営相談に応じています。一人で抱え込まず、まずは専門家への相談をご検討ください。
複数の支援制度を同時に使うことはできますか?
制度によって異なります。セーフティネット貸付(資金調達)と雇用調整助成金(雇用維持)は、目的が異なるため原則として同時に活用可能です。同じ雇用関係の助成金同士では「併給調整」が働く場合があります。燃料の激変緩和措置は補助金ではなく価格抑制策のため、他の支援制度との併用に制約はありません。個々の要件・制約については、各制度の申請窓口や補助金専門家にご相談ください。
まとめ
2026年のイラン情勢に端を発した原油価格急騰は、政府が関係閣僚会議を開催するほどの「国家的な緊急事態」です。各省庁が連携して燃料の供給確保・流通の目詰まり解消に動いていますが、現場の事業者の苦境はリアルタイムで進行しています。
廃業・解雇の前に、以下の支援制度を確認・活用してください。
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