2026年4月1日、離婚後に父母双方を親権者とする共同親権を定めることができる改正民法が施行されました。これを機に、離婚や養育費などについて裁判所以外の場で話し合う「ADR(裁判外紛争解決手続)」にも注目が集まっています。
ADRのうち、離婚や養育費、親子交流、相続などの家事問題を扱うものは「家事ADR」と呼ばれています。家事ADRでは、当事者同士だけでは話し合いが難しい場合に、中立的な第三者を交えて解決を目指します。
家事ADRの料金体系は事業者によって異なり、調停の回数や合意文書の作成などによって費用も変わります。共同通信が紹介した事例では、3回の調停を経て約1か月で合意し、合意文書の作成を含めた費用は約31万円でした。
出典(報道):共同通信「円満離婚へ『家事ADR』に注目 利用は手軽、自治体補助も」
一方、自治体の中には、養育費の取り決めを目的としてADRを利用した場合に、申込料や調停費用などの一部を補助する制度を設けているところがあります。
この記事では、ADRと家事ADRの違いや費用、養育費の取り決めにADRを利用した場合の自治体補助、全国の主な自治体16市区の補助金額・条件を一覧で解説します。
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この記事の目次
ADRとは?離婚・養育費などの家事問題を扱う「家事ADR」
ADR(Alternative Dispute Resolution/裁判外紛争解決手続)とは、裁判所を利用せず、中立的な第三者を交えて話し合いによる解決を目指す手続です。ADRは家族問題に限らず、金銭や不動産、労働問題など、さまざまな紛争で利用されています。
このうち、離婚や養育費、親子交流、相続などの家事問題を扱うものが「家事ADR」です。
日弁連では、家事ADRで取り扱う問題として、離婚や養育費のほか、別居・離婚後に生じる子どもの進路や進学費用の負担、親の介護をめぐるきょうだい間の話し合い、遺産分割、お墓の承継などを挙げています。
各地の弁護士会が運営するADRでは、弁護士が仲裁人やあっせん人として双方の話を聞き、話し合いによる解決を支援しています。また、家族に関する問題を取り扱う、法務大臣の認証を受けた民間ADR事業者もあります。
つまり、「家事ADR」という別の法制度があるのではなく、ADRのうち、離婚や養育費などの家事問題を取り扱うものを「家事ADR」と呼んでいます。
参考:日本弁護士連合会「家事ADR」
参考:法務省「かいけつサポート」
家庭裁判所の離婚調停は平日日中の対応が原則です。一方、家事ADRの中には、オンラインや平日夜間・土日祝日に対応している事業者もあり、家庭裁判所と比べて柔軟な日時で利用できる場合があります。
2026年4月の改正民法で養育費の仕組みも変更
家事ADRが注目される背景の一つに、2026年4月1日に施行された改正民法があります。離婚後に父母双方を親権者とする共同親権を定めることができるようになり、離婚後の親権や子の養育について新たなルールが設けられました。
さらに改正民法では、2026年4月1日以降に離婚した場合、養育費の取り決めがなくても子1人あたり月額2万円の「法定養育費」を請求できるようになりました。養育費債権に先取特権が付与されるなど、養育費を確保するための仕組みも強化されています。
法定養育費は、養育費の取り決めをするまでの暫定的・補充的な制度です。月額2万円が養育費の最低額という意味ではありません。子どもの生活状況や父母の収入などを踏まえ、個別に適正な養育費を取り決めることが重要です。
なお、養育費債権について先取特権が付与される額の上限は、子1人あたり月額8万円です。
参考:法務省「りこんポータル|離婚を考えている方へ」
参考:法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」
家事ADRの費用は事業者によって異なる
家事ADRの費用は事業者によって異なります。先述の共同通信の取材事例では、3回の調停と合意文書作成まで含めて約31万円だったと報じられています。ただし、これは一つの利用事例であり、家事ADR全体の費用相場を示すものではありません。
出典(報道):共同通信「円満離婚へ『家事ADR』に注目 利用は手軽、自治体補助も」
- 申立料・申込料
- 相手方の依頼料・応諾料
- 調停期日ごとの手数料
- 合意成立時の手数料
- 合意文書の作成費用
実際にかかる費用や料金体系はADR事業者によって異なります。認証ADR事業者は、法務省「かいけつサポート」で料金や対応内容を確認できます。
参考:法務省「かいけつサポート」
家事ADRでは、離婚そのものだけでなく、養育費や親子交流などについて話し合うことができます。このうち、自治体によっては、養育費の取り決めを目的としてADRを利用した場合の費用を補助しています。
養育費の取り決めにADRを利用した場合の費用補助とは?
自治体の中には、養育費について話し合うためにADRを利用した際の費用を一部補助しているところがあります。
通常のADRのうち、養育費の取り決めを目的として利用したケースについて、自治体が申立料や調停費用などを補助する仕組みです。
制度名称や補助額、対象となる費用は自治体によって異なります。
誰が対象になる?離婚前の親も対象になり得る
対象要件は自治体によって異なります。今回確認した制度では、主に次のような条件が設けられています。
- 申請日時点で当該自治体に住民登録がある
- 自治体が定める年齢の児童を養育している
- 弁護士会や法務大臣の認証を受けたADR事業者など、自治体が指定するADRを利用している
- 養育費の取り決めを目的としている
- 同種の補助を受けていない
ここで押さえておきたいのが、離婚前や離婚協議中でも対象になり得るという点です。金沢市や港区、船橋市などでは、離婚成立後だけでなく、離婚を検討中・協議中の人も一定の条件で対象になります。
対象になる費用の範囲
補助対象となる費用は自治体によって異なりますが、申立料・依頼料や1回目の期日にかかる調停手数料を対象としている自治体があります。
名古屋市のように成立手数料は対象外としている自治体もあれば、板橋区や足立区のように、一定の条件のもとで2回目以降の調停期日費用まで補助する自治体もあります。
参考:名古屋市「養育費に関する公正証書作成費等補助事業」
参考:板橋区「養育費確保支援補助金」
参考:足立区「養育費に関する相談と支援」
【自治体別】養育費の取り決めに関するADR利用費用の補助一覧(2026年8月時点)
養育費の取り決めを目的としてADRを利用した際の費用を補助している主な自治体と補助上限額を、公式サイトで確認できる範囲でまとめました。補助額・対象費用・申請条件は自治体ごとに異なるため、必ず居住自治体の公式ページで最新情報を確認してください。
石川県金沢市:ADR利用料を上限10万円まで助成
金沢市の「養育費確保サポート事業」では、養育費の取り決め・変更のためのADR利用料を上限10万円まで助成しています。弁護士会または認証ADR事業者による、養育費の取り決めや変更を目的としたADRが対象で、離婚を検討中の人も対象になり得ます。
東京23区・多摩地域でも複数の自治体が実施
東京都内では、複数の区市が養育費の取り決めに関するADR利用費用を補助しています。港区・大田区・新宿区は上限5万円、杉並区は上限4万3,000円、文京区・北区は上限3万円です。板橋区と足立区では、一定の条件を満たした場合に2回目以降の調停期日費用も補助しています。多摩地域では府中市が上限5万円で実施しています。
| 自治体 | 補助上限額 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 石川県金沢市 | 上限10万円 | 養育費の取り決め・変更のためのADR。離婚検討中の人も対象となり得る |
| 東京都港区 | 上限5万円 | 養育費・親子交流等の取り決めを目的としたADR |
| 東京都大田区 | 上限5万円 | 養育費の取り決めに関するADRの申立手数料・期日手数料・成立手数料など |
| 東京都府中市 | 上限5万円 | ADRの申立てに要する手数料・第1回期日の手数料 |
| 東京都新宿区 | 上限5万円 | 養育費の取り決めに関するADRの申込料・依頼料・1回目の調停費用 |
| 愛知県名古屋市 | 上限5万円 | 養育費に関するADRの申立料・依頼料・1回目の調停費用(成立手数料は対象外) |
| 宮城県仙台市 | 上限4万4,000円 | 養育費の取り決めを目的としたADR。2026年4月1日以降に負担した費用が対象 |
| 東京都杉並区 | 上限4万3,000円 | ADRの申込料・依頼料・1回目の調停期日費用など |
| 千葉県船橋市 | 申立等上限1万1,000円+期日手数料上限3万3,000円 | 養育費の取り決めに関するADR。期日手数料は3回まで |
| 東京都板橋区 | 1回目 上限2万円+2回目以降上限3万円 | 2回目以降はADRによる調停成立・公正証書作成が条件 |
| 東京都足立区 | 1回目 上限2万円+2回目以降上限3万円 | 2回目以降は調停成立と養育費の取り決めに関する債務名義の作成が条件 |
| 東京都文京区 | 上限3万円 | 養育費等の取り決めを行うADRの申込料・依頼料等 |
| 東京都北区 | 上限3万円 | 養育費の取り決めに関するADR利用費用 |
| 東京都中央区 | 1回目 上限2万円+2回目以降上限3万円 | ADRの申立料・依頼料・1回目の調停期日費用、2回目以降の調停期日費用 |
| 東京都中野区 | 上限2万円 | ADRの申込料・依頼料に相当する費用・1回目の調停に要した費用 |
| 大阪府羽曳野市 | 実費・上限4万円 | 養育費の取り決めに関するADRの申込み・調停に要した費用 |
上記16市区は2026年8月時点で確認した自治体の一部です。上記以外の自治体でも、養育費の取り決めに関するADR利用費用を補助している場合があります。「〇〇市(区) 養育費 ADR 補助」などで検索し、必ず居住自治体の最新情報を確認してください。
養育費の取り決めに関するADR利用費用の補助|申請の流れと注意点
手続は自治体によって異なり、ADRを利用する前の事前相談や事前手続が必要な場合もあります。そのため、まず居住自治体の制度を確認してください。
おおまかな流れは次のとおりです。
2.自治体が補助対象としている認証ADR事業者や弁護士会などのADRを利用する
3.ADR費用を支払い、領収書を保管する
4.ADR終了後、自治体の要件に応じて合意書や債務名義など必要な書類を用意する
5.補助金交付申請書・領収書・合意書または不成立を確認できる書類など、自治体が指定する書類を提出する
6.審査・交付決定後、補助金を受け取る
申請時の3つの注意点
補助対象となるADR実施機関は自治体によって異なります。弁護士会や法務大臣の認証を受けたADR事業者を対象としている自治体があるため、利用前に確認してください。認証ADR事業者は法務省「かいけつサポート」(https://www.adr.go.jp/)で確認できます。
②他自治体の同種補助との重複に注意
過去に他自治体で同種の補助を受けている場合、対象外となる自治体があります。転居した場合は、前住所地での受給状況にも注意してください。
③申請期限を確認する
申請期限は自治体によって異なります。1回目の調停期日やADR終了日、合意成立日などを基準として期限が設けられているため、利用前に確認してください。
養育費の取り決めに関するADR利用費用の補助についてよくある質問
離婚前でもADR利用費用の補助を受けられますか?
自治体によって異なりますが、金沢市・港区・船橋市など、離婚を検討中・協議中の人も対象となり得る自治体があります。居住自治体の要件を確認してください。
養育費以外の親子交流の取り決めも補助対象になりますか?
自治体によって異なります。港区では、養育費だけでなく親子交流等に関する取り決めもADR利用助成の対象としています。補助対象となる内容は自治体ごとに異なるため、利用前に確認してください。
補助対象となる認証ADR事業者はどこで探せますか?
法務省が運営する「かいけつサポート」(https://www.adr.go.jp/)で、法務大臣の認証を受けた事業者を検索できます。弁護士会のADRを補助対象としている自治体もあります。実際に利用する前に、自治体が定める対象要件も確認してください。
ADRで和解できず不成立になった場合も補助を受けられますか?
自治体によって異なります。たとえば船橋市では、ADRによる合意が成立しなかったことが分かる文書も申請書類として認めています。羽曳野市でも、取り決めが成立しなかった場合はADRが終了したことを確認できる書類を提出します。一方、板橋区や足立区では、2回目以降の期日費用について調停成立や公正証書等の作成といった条件があります。
合意した養育費は公正証書にする必要がありますか?
すべてのADR合意について、公正証書の作成が必須というわけではありません。ただし、自治体の補助制度によっては、ADR成立後に公正証書などの債務名義を取得することを条件としている場合があります。また、認証ADRで成立した一定の「特定和解」は、裁判所の執行決定を得ることにより強制執行が可能です。
家事ADRと家庭裁判所の調停はどう違いますか?
家庭裁判所の調停は家庭裁判所で行う手続です。一方、家事ADRは裁判所以外で、中立的な第三者を交えて話し合います。家事ADRにはオンラインや平日夜間・土日祝日に対応している事業者もあります。料金や手続方法はADR事業者によって異なります。
2026年4月に施行された共同親権とADRはどう関係しますか?
2026年4月1日施行の改正民法により、離婚後に父母双方を親権者とする共同親権を定めることができるようになりました。ただし、養育費や親子交流の取り決めは共同親権の場合だけに必要となるものではありません。共同親権・単独親権にかかわらず、子どもの利益を踏まえて話し合うことが重要であり、ADRはその話し合いに利用できる手段の一つです。
補助金はいつ振り込まれますか?
補助金の交付・振込時期は自治体によって異なります。申請後に審査や交付決定、請求手続などが必要になる場合があります。振込時期を知りたい場合は、申請先の自治体に確認してください。
自分の住む自治体に補助制度がない場合はどうすればいいですか?
まずは自治体のひとり親家庭支援窓口や子ども家庭部門に、ADR利用費用の補助制度があるか問い合わせてください。制度がない場合でも、養育費相談支援センターの無料相談や、法テラスの民事法律扶助などを利用できる場合があります。
まとめ:養育費の取り決めにADRを利用する場合は自治体補助も確認
ADRは、裁判所を利用せず、中立的な第三者を交えて話し合いによる解決を目指す手続です。そのうち離婚や養育費、親子交流などの家事問題を扱うものが「家事ADR」と呼ばれています。
家事ADRを含むADRの利用には費用がかかりますが、金沢市の上限10万円をはじめ、養育費の取り決めを目的としてADRを利用した場合の費用を補助している自治体があります。
2021年の調査では、養育費の取り決めをしている母子世帯は46.7%にとどまっています。養育費については、後日のトラブルを防ぐためにも、口約束ではなく書面で取り決め、必要に応じて強制執行に備えた形にしておくことが重要です。
離婚を検討中の方、離婚協議中の方、すでに離婚しているものの養育費が決まっていない方は、まず居住自治体の公式サイトでADR利用費用の補助制度があるか確認してください。認証ADR事業者は、法務省「かいけつサポート」で検索できます。
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