令和7年度の各概算要求が公表されました。厚⽣労働省予算においては、高齢化に伴う社会保障費の自然増が4100億円となったほか、ほとんどの項目で今年度の当初予算より増額となっています。
今回は、厚生労働省の令和7年度概算要求額と事業のポイントをまとめました。
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この記事の目次
厚生労働省 令和7年度予算概算要求は過去最大
厚生労働省の概算要求額では、一般会計の総額が前年度から4574億円増となりました。多くの項目で増額となりましたが、年金特別会計のみ、2兆4525億円の減額です。
まずは概算要求額の詳細とポイントを見ていきましょう。
令和7年度予算概算要求額
一般会計の総額は、34兆2763億円です。
内訳では、年⾦・医療等に係る経費32兆4375億円(3677億円増)のほか、重要政策推進枠として1508億円が設定されています。
特別会計では、労働保険特別会計が3兆3813億円(1400億円増加)、年⾦特別会計が70兆2559億円(2兆4525億円減)、⼦ども・⼦育て⽀援特別会計(育児休業等給付勘定)が1兆577億円(1266億円増)などとなっています。
出典:厚生労働省 令和7年度予算概算要求の概要
厚生労働省 概算要求の柱とは
概算要求では、今後の⼈⼝動態や経済社会の変化を⾒据えた保健・医療・介護の構築や包摂社会の実現、持続的・構造的な賃上げに向けた労働市場改⾰の推進、多様な⼈材の活躍促進を目指した事業が盛り込まれました。
⼀⼈ひとりが安⼼して⽣涯活躍できる社会の実現に向け、以下3つの柱が設定されています。
- 創薬⼒強化に向けたイノベーションの推進と医薬品等の安定供給確保
- 医療・介護におけるDX、地域医療・介護の基盤強化の推進等
- 国際保健への戦略的取組、感染症対策の体制強化
- 予防・重症化予防、⼥性の健康づくり、認知症施策の推進等
- 最低賃⾦・賃⾦の引上げに向けた⽀援、⾮正規雇⽤労働者への⽀援等
- リスキリング、ジョブ型⼈事(職務給)の導⼊、労働移動の円滑化
- ⼈材確保の⽀援の推進
- 多様な⼈材の活躍促進と職場環境改善に向けた取組
- ⼥性の活躍促進
- 地域共⽣社会の実現等
- 戦没者の慰霊、年⾦、被災地⽀援等
厚生労働省 概算要求の主な事業※9月19日更新
それでは、各テーマの主な事業を見ていきましょう。()内は、令和6年度当初予算額です。
全世代型社会保障の実現に向けた保健・医療・介護の構築
■次世代バイオ医薬品等創出に向けた人材育成支援事業:1.4億円(3,000万円) 令和4年度に策定したバイオシミラーの普及目標達成にあたり、国内におけるバイオ医薬品の製造人材の更なる育成を中心として、製造能力強化に関する支援を行います。 |
■日本医療研究開発機構(AMED)における研究の推進(医療研究開発推進事業費補助金等):527億円(443億円) 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が大学・研究開発法人等の研究機関の能力を活用して医療分野の研究開発を行うにあたり、その費用や環境整備費を交付します。 健康・医療戦略を推進し、健康長寿社会の形成に資することを目的としています。 |
■創薬力強化のための早期薬事相談・支援事業:6800万円(新規) PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の国内の新しい技術や研究開発を支援するための体制を強化します。①新規モダリティのの規制基準を早めに示し、②スタートアップ企業などに対して開発計画の相談や支援を増やします。また、国が支援を認めた場合、PMDAの相談費用を無料にし、英語での相談・資料提出にも柔軟に対応します。 |
■厚生労働科学研究の促進(厚生労働科学研究費補助金等):109億円(91億円) 厚生労働科学研究の振興を促進します。国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関する施策の科学的推進や、技術水準の向上を図ります。 |
■かかりつけ医機能研修事業:2,000万円 (新規) 「治し、支える医療」を実現するために、幅広い診療領域の全人的な診療を行う医師を増やすため、地域で新たに地域医療を担うことを検討している病院勤務医等の研修体制の整備等を支援します。 |
■訪問介護等サービス提供体制確保支援事業:地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分)の97億円の内数 訪問介護等サービスの人手不足解消を目指し、特に小規模な訪問介護等事業者の人材確保に向けた研修体系整備や、地域の介護事業所が協力して行う人材育成等を支援します。 |
■障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業:8.2億円(新規) 障害福祉の現場で職員の負担を減らして、仕事の効率を上げるために、ロボットやICTの導入にかかる費用を補助し、働きやすい職場作りを目指します(「障害福祉分野のロボット等導入支援事業」「障害福祉分野のICT導入モデル事業」の統合・支援メニューの再構築を行う)。 |
■介護テクノロジー導入支援事業:地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分)97億円の内数(97億円の内数) 介護事業者が職場環境の改善に取り組む際、テクノロジー導入にかかる費用を補助し、生産性を上げて働きやすい職場を作ることを目指します。(令和7年度からの「介護テクノロジー重点分野」に該当する介護ロボットや、介護ソフトやタブレット、インカム、クラウドサービスなど、業務効率化に役立つICT機器も対象) |
■成果指向型の保険者機能強化に向けた支援(保険者機能強化推進交付金):33億円の内数 地域包括ケアの構築に向けた基盤整備に取り組んでいる保険者を対象として、成果指向型の介護予防・健康づくりの取組に対する新たな支援の枠組みを構築します。 |
■地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金:12億円+事項要求(国土強靱化分)(12億円) 地震や火災発生時に外に避難することが困難な高齢利用者の安全を確保し、介護施設としての機能を維持するため、防災・減災対策を推進する施設および設備等の整備を推進します。 |
■救急現場に出動するドクターカー活用促進事業(救命救急センター運営・設備整備事業):9,000万円(医療提供体制推進事業費補助金261億円の内数) ドクターカーの導入・運用に必要な経費に対する財政支援を拡充します。 |
■外国人介護人材獲得強化事業(地方自治体への補助事業):1.2億円 海外現地での働きかけを強化し、外国人介護人材を確保する観点から、現地での人材確保を目指す事業所・介護福祉士養成施設・日本語学校等を支援します。 外国人介護人材の、日本の介護現場への受入れを促進するための対策です。 |
持続的・構造的な賃上げに向けた三位⼀体の労働市場改⾰の推進と多様な⼈材の活躍促進
■業務改善助成金:22億円(8.2億円) 最低賃金の引上げに向けた環境整備のため、事業場内最低賃金の引上げに取り組む中小企業・小規模事業者の生産性向上に向けて支援します。 【対象事業場】 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること 【来年度の助成率】 設備投資等に要した費用の3/4、4/5 (生産性要件は廃止) ※<参考>現行制度の助成率 950円以上:3/4(4/5) 900円以上950円未満:4/5(9/10) 900円未満:9/10 ( )内は生産性要件を満たした事業場の場合 【上限額】 引き上げる賃金額および引き上げる労働者数に応じて30万円~600万円 ※賃上げ支援の助成金については、記事の後半でまとめています。 |
■人材開発支援助成金:623億円(645億円) 職業訓練・教育訓練の実施等の支援を行う事業主等に対して、助成を行います。労働者の職業生活設計の全期間を通じて段階的かつ体系的な職業能力開発を促進し、企業内における労働者のキャリア形成の効果的な促進に資することが目的です。 |
■人材確保等支援助成金:20億円(35億円) 建設、介護分野等における人材不足解消を目指し、雇用管理改善等の取組みを通じて「魅力ある職場」の創出を支援します。 また、現在就業している従業員の職場定着等を高めることが必要であることから、事業主等による雇用管理改善等の取組みを助成します。 |
■高齢者活躍人材確保育成事業:16億円(15億円) 退職後の就業に意欲的な高齢者を支援し、シルバー人材センターの新規会員の増加等を通じて、高齢者の就業を推進します。 |
■教育訓練休暇給付金の創設:79億円(新規) 働く人が安心して教育や訓練に集中できるように、自分で休暇を取って学ぶ場合、基本手当に相当する給付として、賃金の一定割合を支給する給付を創設します。 【対象者】 雇用保険被保険者 【支給要件】 ・教育訓練のための休暇(無給)を取得すること ・休暇開始前2年間にみなし被保険者期間が12か月以上あること ・算定基礎期間が5年以上あること 【給付内容】 ・離職した場合に支給される基本手当の額と同じ ・給付日数は、算定基礎期間に応じて90日、120日、150日のいずれか |
■非正規雇用労働者等が働きながら学びやすい職業訓練試行事業の実施:3.1億円(3.1億円) 非正規雇用労働者等が働きながらでも学びやすく、自らの希望に応じた職業訓練を受講できるような仕組の構築など、非正規雇用労働者等のリスキリングを支援します。 |
■教育訓練期間中の生活を支えるための融資制度の創設:5.1億円(新規) 雇用保険に入っていない人が、安心してスキルアップのための教育や訓練を受けられるように、必要な費用を貸し出す制度を作ります。さらに、訓練後に給料が上がった場合は、借りたお金の一部を返さなくても良い仕組みも設けます。 【対象者】 雇用保険被保険者以外の者(雇用保険の適用がない雇用労働者や離職者、雇用されることを目指すフリーランスなど) 【融資対象】 教育訓練費用及び生活費 【内容(調整中)】 貸付上限:240万円/年(最大2年間) 利率:年2% |
■高年齢労働者安全衛生対策推進費(エイジフレンドリー補助金):7.6億円(6.9億円) 高年齢労働者の労働災害を、効果的に防止するための対策を支援します。令和7年度には、中小企業が専門家を使って効果的な対策を取れるように、エイジフレンドリー補助金を強化し、新しい「エイジフレンドリー総合対策コース」(補助率4/5)を始めます。このコースでは、専門家がリスクを評価して課題を見つけ、優先順位の高い対策を実施するため、他のコースよりも補助率を高くしています。 ①職場環境改善コース【既存】 高年齢労働者の身体機能の低下を補う設備・装置の導入その他の労働災害防止対策に関する経費 (補助率:1/2、上限額:100万円) ②転倒防止や腰痛予防のためのスポーツ・運動指導コース【既存】 転倒防止や腰痛予防のための運動指導等に関する経費 (補助率:3/4、上限額:100万円) ③コラボヘルスコース【既存】 コラボヘルス等の労働者の健康保持増進のための取組に関する経費 (補助率:3/4、上限額:30万円) ④エイジフレンドリー総合対策コース【新規】 専門家によるリスクアセスメントに要した経費、リスクアセスメント結果を踏まえた、優先順位の高い対策に要した経費(機器等の導入・工事の施工等) (補助率:4/5、上限額:100万円) |
■働き方改革推進支援助成金:70億円(71億円) 生産性向上に向けた設備投資等の取組に係る費用を助成し、労働時間の削減等に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主を支援します。 |
■キャリアアップ助成金:962億円(1106億円) 有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用労働者の企業内のキャリアアップを促進するため、正社員転換、処遇改善の取組を実施した事業主に対して包括的に助成します。 【令和7年度の賃金規定等改定コースについて】 有期雇用労働者等の賃金規定等を3%以上増額改定し、昇給させた事業主に対して助成するコース ※<参考>現行制度の支給額 ①【3%以上5%未満増額改定】1人あたり5万円 (中小企業以外3.3万円) ②【5%以上増額改定】6.5万円 (4.3万円) <令和7年度> ①【3%以上4%未満】 1人あたり4万円 (中小企業以外2.6万円) ②【4%以上5%未満】 5万円 (3.3万円) ③【5%以上6%未満】 6.5万円 (4.3万円) ④【6%以上】 7万円 (4.6万円) |
■両立支援等助成金:358億円(181億円) 働き続けながら子育てや介護を行う労働者の雇用の継続を図るための就業環境整備に取り組む事業主を支援します。 |
■共働き・共育て推進のための給付の創設:939億円(新規) 若い世代が結婚や子育てを自由に選べるように、夫婦で働きながら育児を行う「共働き・共育て」を推進します。特に、男性の育児休業のさらなる促進を目指し、夫婦が一緒に育児休業を取った場合には、現在の育児休業給付に加えて、雇用保険制度で新たな給付を行います。また、育児とキャリアの両立を支援するため、短時間勤務を選びやすくし、勤務時間が短くなり賃金が減った場合にも、雇用保険制度で新しい給付を行います。 |
⼀⼈⼀⼈が⽣きがいや役割を持つ包摂的な社会の実現
■女性支援機関におけるスーパービジョン整備事業:困難な問題を抱える女性支援推進等事業28億円の内数(26億円の内数) 女性支援機関の支援員の質の向上を図るとともに、業務における心理的負担を軽減し、その役割を果たすことができる職場環境の整備を推進します。 |
■「地域共生社会」の実現に向けた人材の養成等に関する調査・研究事業等:7,600万円(2,800万円) 一人の人材が複数の国家資格を取得しやすくするため、養成課程間で共通する科目を履修免除する方法等の検討に関する調査・研究等を実施します。 |
■家計改善支援事業の補助率引上げ:732億円の内数(657億円の内数) 生活困窮者自立支援制度における「家計改善支援事業」の全国的な実施を推進する観点から、補助率を引き上げます。具体的には、家計改善支援事業や就労準備支援事業を行う際に、自立相談支援事業と一緒に実施することが基本になります。そのため、補助率はすべて一律で2/3に統一されます。 |
令和7年度概算要求における「賃上げ」支援助成金パッケージ
労働市場全体の賃上げを支援するために、賃上げ支援助成金パッケージが設定されています。そのうち、拡充・見直しが計画されている助成金は以下のとおりです。
助成金名 | 拡充・見直し内容 |
---|---|
① 業務改善助成金 | 地域間格差に配慮した助成率区分の再編や、支援時期の見直しを実施。 |
② 働き方改革推進支援助成金 | 現行の賃上げ率3%、5%に加え、7%の場合の助成を強化。 |
③ 人材開発支援助成金 | 訓練終了後に賃上げを行った場合の賃金助成額を引き上げ(賃金上昇率を考慮)。 |
④ 人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース) | 令和7年度からの再開時に、本コースに人事評価改善等助成コースを統合し、賃上げ(5%)を実現した場合の加算を導入。 |
⑤ キャリアアップ助成金 | 賃金規定等改定コースにおいて、賃上げ率の新たな区分を設定し(2区分→4区分)、賃上げ率が6%以上の場合の助成額をさらに引き上げ。また、昇給制度を新たに設けた場合の加算措置を創設。 |
▼賃上げ支援助成金パッケージについてまとめた記事も、合わせてご参照ください。
まとめ
少子高齢化や各業界での人材不足が深刻化するなか、労働環境においてもさまざまな課題が浮き彫りとなっています。今回の概算要求では、外国人材や高齢者、女性など、多様な労働者を支援する事業が盛り込まれました。
企業にとっても、働く意欲のある人材が希望する形での労働を可能にする環境づくりは、将来的な成長に大きく影響する問題です。来年度の予算概算要求から支援施策を読み取り、企業計画の支えとすることで、負担の少ない改革を目指しましょう。