2026年7月30日、政府は令和9年度(2027年度)予算の概算要求に当たっての基本的な方針を閣議了解しました。今回の大きな特徴は、国内投資を通じた潜在成長率の引き上げにつながる政策を対象に「強く豊かな日本」投資枠を新設し、要求上限(シーリング)を設けないとしたことです。
片山さつき財務相も閣議了解当日の会見で、必要な予算要求を十分に行える仕組みとして「もはやシーリングと呼ぶべきものはありません」と説明しています。一方で、補助金や基金を含む歳出全般について施策の優先順位を見直し、予算の重点化を進める方針も示しています。
各府省は8月末までに概算要求を提出します。その内容は、令和9年度にどの政策分野へ予算を重点配分しようとしているのかを確認する重要な材料になります。中小企業の経営者や補助金活用担当者にとっても、次年度の設備投資や事業計画を考えるうえで注目したい動きです。
本記事では、令和9年度概算要求基準の全体像と要求ルール、そして中小企業向け補助金に考えられる影響を、財務省の閣議了解文書と日本成長戦略をもとに解説します。
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この記事の目次
令和9年度予算「概算要求基準」が2026年7月30日に閣議了解|まず押さえるべき3つの要点
令和9年度概算要求基準は、2026年7月30日に閣議了解された「令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」という文書に基づきます。まず全体像を3点で押さえておきましょう。
① 「強く豊かな日本」投資枠を新設し、通常歳出とは別に設ける
② 投資枠は要求上限を設けず、事項要求も可能。国内投資を通じた潜在成長率の引き上げにつながる政策が対象
③ 補正予算依存から脱却し、恒常的な施策は当初予算への計上を進める
概算要求基準とは、翌年度予算の概算要求を各府省が財務省に提出する際の共通ルールを定めたものです。令和9年度は8月末日が要求・要望の期限とされています。基本的な予算編成の年間スケジュールや概算要求そのもののしくみは以下の関連記事で詳しく解説しています。
今回の令和9年度基準は、2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太方針2026)」や「日本成長戦略」などを踏まえて設けられています。骨太方針の内容と補助金への波及については以下も参考にしてください。
出典:財務省「令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」
成長投資枠は「要求上限を設けず」|「強く豊かな日本」投資枠とは何か
「強く豊かな日本」投資枠は、令和9年度の概算要求基準で新設された、要求上限を設けない投資枠です。
財務省は、国内投資を通じた潜在成長率の引き上げに向けて、日本成長戦略や地域未来戦略などを踏まえた効果の高い政策を対象としています。
GX、AI・半導体については、それぞれ「GX2040ビジョン」「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を踏まえて特別会計でも要求するとされています。また、経済安全保障上とくに重要な分野などについては、複数年度で財源を確保したうえで、特別会計において別枠で管理することを予算編成過程で検討します。
つまり、GX・AI・半導体や経済安全保障上重要な分野は注目分野ではありますが、投資枠の対象がこれらだけに限定されているわけではありません。
また、要求上限がないのは各府省が概算要求を行う段階です。要求した金額がそのまま令和9年度予算として認められるわけではありません。実際の予算額は、その後の予算編成過程で事業の効果や必要性などを精査したうえで決まります。
通常の要求ルールとの違い
通常の概算要求では、経費区分に応じて要求できる範囲や要望枠が設定されています。令和9年度基準では、こうした通常の要求ルールを残しながら、「強く豊かな日本」投資枠については要求上限を設けず、事項要求も含めて所要額を適切に要求できる仕組みとしました。
| 項目 | 通常の要求ルール | 令和9年度「強く豊かな日本」投資枠 |
|---|---|---|
| 要求上限 | 経費区分に応じた要求ルールあり | 要求上限を設けない |
| 対象 | 通常歳出の各政策経費など | 国内投資を通じた潜在成長率の引き上げにつながる効果の高い政策 |
| 複数年度の取組 | 制度・事業により異なる | 複数年度の計画に基づくものを基本とする |
| 特別会計での別枠管理 | 制度・事業により異なる | 経済安全保障上とくに重要な分野などについて予算編成過程で検討 |
| 事項要求 | 令和9年度は「その他の経費」でも可能 | 可能 |
投資枠の背景にある「日本成長戦略」
「強く豊かな日本」投資枠の背景には、2026年7月21日に閣議決定された日本成長戦略があります。
政府は2040年度に国内民間設備投資250兆円、名目GDP1,100兆円に迫る規模を目指す方針を示しています。
また、日本成長戦略では17の戦略分野を設定し、62の主要な製品・技術等について官民投資ロードマップを策定しています。2040年までの官民投資額は、現時点の規模として370兆円超とされています。
研究開発についても、第7期科学技術・イノベーション基本計画で、2026~2030年度の5年間に官民合わせた研究開発投資180兆円を目指す目標が設定されています。
このような中長期の投資を予見可能性を持って進めるため、令和9年度概算要求基準では、投資枠について要求上限を設けず、複数年度の計画に基づくものを基本とする仕組みが導入されました。
要求上限を設けない一方、予算の重点化も進める
要求上限を設けない投資枠が設けられた一方、すべての要求を認める仕組みではありません。
財務省は概算要求基準で、歳出全般について施策の優先順位を洗い直し、予算の中身を重点化するとしています。また、補助金・基金の自己点検結果を要求・要望に反映し、予算編成過程で精査する方針です。
片山財務相も7月30日の会見で、成長への寄与や民間投資の誘発効果などを見ながら優先順位を判断する考えを示しています。
そのため、中小企業向けの補助金についても、成長投資に関連する政策が注目される一方で、既存制度を含めた見直しが行われる可能性があります。
出典:財務省「片山財務大臣兼内閣府特命担当大臣臨時閣議後記者会見の概要(令和8年7月30日)」
経費区分ごとの要求ルール|令和8年度当初予算額と令和9年度の扱い
令和9年度の通常歳出については、前年度当初予算額などを基礎とした経費区分ごとの要求ルールが示されています。一方、国内投資を通じた潜在成長率の引き上げにつながる政策については、「強く豊かな日本」投資枠を活用できます。
| 経費区分 | 令和8年度当初予算額(参考) | 令和9年度の要求ルール |
|---|---|---|
| 年金・医療等 | 37.0兆円 | 前年度当初予算額に自然増3,900億円を加算した範囲内で要求 |
| 防衛力整備計画対象経費 | 8.8兆円 | 「防衛力整備計画」を踏まえ、所要額を要求 |
| 裁量的経費 | 14.5兆円 | 前年度当初予算に相当する額の範囲内で要求し、その額の20%以内を要望可能。「強く豊かな日本」投資枠の活用や事項のみの要求も可能 |
| 義務的経費 | 9.9兆円 | 人件費は人事院勧告を踏まえて予算編成過程で対応。その他は義務的性格に基づいて所要額を要求 |
| 地方交付税交付金等 | 20.9兆円 | 骨太方針2026との整合性に留意しつつ要求 |
| 国債費 | 31.3兆円 | 所要額を予算編成過程で検討 |
| 「強く豊かな日本」投資枠 | ― | 要求上限を設けず、事項要求も含めて所要額を適切に要求 |
※表中の金額は令和8年度一般会計当初予算の金額です。
出典:財務省「令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について(概要)」
裁量的経費「+20%」の意味
裁量的経費は、前年度当初予算に相当する額の範囲内で要求したうえで、その額の20%以内を追加で「要望」できる仕組みです。
「前年度から一律20%増額できる」という意味ではなく、あくまで追加の要望枠です。また、要望した金額がそのまま予算化されるわけでもありません。
どの政策をこの要望枠で要求するかは各府省の判断となるため、中小企業向け補助金への配分についても、各府省の概算要求内容を確認する必要があります。
補正予算依存からの脱却
今回の基準では「補正予算依存からの脱却」が明記された点も見逃せません。
財務省は、補正予算依存の財政運営から脱却するため、当初予算での措置を要する恒常的な施策などについて、適切に要求・要望する方針を示しています。
近年、中小企業向けの支援策には補正予算や基金を財源として実施されてきたものもあります。令和9年度は、恒常的に実施する必要がある施策の一部が当初予算側で要求される可能性があります。
ただし、これによって中小企業向け補助金の当初予算が必ず増えると決まったわけではありません。補助金・基金については自己点検結果を反映し、予算編成過程で精査する方針も示されています。
今後の概算要求スケジュールと事業者が注目すべきポイント
各府省は8月末までに概算要求を財務省へ提出し、その後の予算編成を経て、年末に政府予算案が取りまとめられるのが通常の流れです。
令和9年度予算の年間スケジュール
| 時期 | プロセス |
|---|---|
| 2026年7月30日 | 概算要求基準を閣議了解 |
| 2026年8月末 | 各府省が概算要求を財務省へ提出 |
| 2026年9~12月 | 財務省による査定・予算編成 |
| 2026年12月ごろ | 政府予算案の取りまとめ |
| 2027年1~3月 | 国会で予算案を審議 |
| 2027年3月末まで | 通常であれば令和9年度予算が成立 |
| 2027年4月以降 | 成立した予算に基づく事業を順次実施。補助金の公募時期は制度により異なる |
事業者がウォッチすべき3つの視点
① 経済産業省・中小企業庁の概算要求:省力化・設備投資・成長投資など、中小企業支援にどのような予算を要求するか
② 「強く豊かな日本」投資枠の活用分野:GX・AI・半導体などを含む成長投資分野で、中小企業向け支援策がどのように位置付けられるか
③ 補助金・基金の見直し:既存制度が継続・見直し・再編のどの方向に進むか
とくに経済産業省・中小企業庁の概算要求は、中小企業向け支援の翌年度の方向性を確認するうえで重要です。新しい支援策の有無や既存制度の扱いについて、公表資料を確認していく必要があります。
中小企業・補助金への5つの影響|令和9年度に何が変わる可能性がある?
「強く豊かな日本」投資枠の新設により、成長投資に関連する政策へどのような予算要求が行われるかが注目されます。
ただし、概算要求基準だけでは個別の補助金の継続・廃止・増額までは決まりません。日本成長戦略などで示されている政策分野を踏まえると、次の5点が確認ポイントになります。
影響① GX・省エネ関連の設備投資支援に注目
日本成長戦略では、ペロブスカイト太陽電池、次世代革新炉、フュージョンエネルギーなどが戦略分野に位置付けられています。また、令和9年度概算要求基準では、GXについて「GX2040ビジョン」を踏まえて特別会計でも要求するとされています。
そのため、GX・省エネ・脱炭素に関連する設備投資支援が、令和9年度の概算要求でどのように位置付けられるかが注目されます。
ただし、既存の省エネ補助金やGX関連補助金の継続・増額が、この段階で決まっているわけではありません。
影響② AI導入・DX支援で投資枠が活用される可能性
AI・半導体についても、概算要求基準で「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を踏まえて特別会計でも要求するとされています。
中小企業のAI導入やDX、生産性向上に関する支援についても、令和9年度にどのような予算要求が行われるかがポイントになります。
ただし、既存のIT・DX関連補助金が「強く豊かな日本」投資枠へ移る、あるいは統合されると決まったわけではありません。
影響③ 省力化投資支援の扱いに注目
人手不足への対応や生産性向上は、中小企業政策の重要なテーマです。日本成長戦略でも中堅・中小企業の稼ぐ力の強化や省力化投資に関する取組が示されています。
そのため、令和9年度概算要求でも省力化投資に関する支援がどのように要求されるかが注目されます。
一方、現在実施されている個別の省力化関連補助金が令和9年度も同じ制度内容で継続すると、この段階で断定することはできません。
影響④ スタートアップ・SBIR関連支援に注目
日本成長戦略では、スタートアップ支援も分野横断的な重要課題とされています。国内のスタートアップ数は約2.5万社まで増加しており、政府は将来的に10万社を目指す目標を掲げています。
SBIRについても、研究開発から社会実装までの支援強化などが示されています。
令和9年度概算要求でスタートアップや研究開発型企業への支援がどの程度盛り込まれるのかが注目点ですが、現段階で補助金・委託事業の増額が確定しているわけではありません。
影響⑤ 賃上げ環境整備と補助金の関係に注目
政府は、2029年度までの5年間で実質賃金を年1%程度上昇させることを賃上げの社会的な定着目標として掲げています。また、日本成長戦略の労働市場改革では、5年間で労働生産性を15%上昇させることが目標の一つとされています。
こうした政策方針を踏まえると、賃上げや生産性向上に取り組む企業への支援が令和9年度予算でどのように位置付けられるのかも確認ポイントです。
ただし、既存補助金の賃上げ加点や優遇措置が一律に強化されると決まったわけではありません。
主要補助金の最新動向は以下の関連記事でも確認できます。
令和9年度概算要求基準に関するよくある質問
令和9年度概算要求基準はいつ閣議了解されましたか?
2026年7月30日に「令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」として閣議了解されました。財務省の令和9年度予算関連ページで公表されています。
「強く豊かな日本」投資枠とは何ですか?
令和9年度予算の概算要求基準で新設された投資枠です。国内投資を通じた潜在成長率の引き上げに向け、日本成長戦略や地域未来戦略などを踏まえた効果の高い政策を対象とし、要求上限を設けず、事項要求も含めて所要額を要求できます。経済安全保障上とくに重要な分野などについては、特別会計での別枠管理を予算編成過程で検討する方針です。
なぜ投資枠には要求上限が設けられていないのですか?
危機管理投資・成長投資をはじめ、国内投資を通じた潜在成長率の引き上げにつながる施策を予見可能性を持って実施できるようにするためです。財務省は「強く豊かな日本」投資枠について、要求上限を設けず、事項要求も含めて所要額を適切に要求する仕組みとしています。
令和9年度の社会保障費の自然増額はいくらですか?
年金・医療等については、前年度当初予算額に自然増3,900億円を加算した範囲内で要求することとされています。予算編成過程では、高齢化による増加分に加え、経済・物価動向等を踏まえた対応分を加算します。
裁量的経費はどれくらい要求できますか?
「その他の経費」は、前年度当初予算に相当する額の範囲内で要求したうえで、その額の20%以内を追加で要望できます。このほか「強く豊かな日本」投資枠の活用や、事項のみの要求も可能です。
各府省の概算要求はいつ提出されますか?
令和9年度の要求・要望は8月末日が期限です。各府省の公表時期は資料によって異なるため、関係省庁の公式サイトを確認してください。
令和9年度予算はいつ成立しますか?
概算要求後に政府が予算案を編成し、国会で審議されます。通常の予算編成日程で進めば、2027年3月末までの成立が想定されますが、審議状況によって時期が変わる可能性があります。
中小企業向け補助金への影響はどうなりますか?
概算要求基準だけでは、個別の補助金の継続・拡充・廃止までは決まりません。GX、AI・DX、省力化、成長投資、スタートアップ、賃上げ環境整備などの政策分野について、各府省がどのような予算を要求するかが今後の確認ポイントです。また、補助金・基金については自己点検結果を要求・要望に反映し、予算編成過程で精査する方針も示されています。
「事項要求」とは何ですか?
概算要求の段階では金額を示さず、施策の項目を要求する方法です。令和9年度基準では「強く豊かな日本」投資枠で事項要求が認められているほか、「その他の経費」でも事項のみの要求が可能です。
骨太方針2026・日本成長戦略との関係は?
「経済財政運営と改革の基本方針2026」と「日本成長戦略」は2026年7月21日に閣議決定されました。令和9年度の概算要求基準は、これらの政府方針などを踏まえて策定されています。
まとめ|「要求上限なし」と補助金・基金の見直しをあわせて確認
令和9年度概算要求基準では、通常歳出とは別に「強く豊かな日本」投資枠を新設し、要求上限を設けずに所要額を要求できる仕組みが導入されました。
ただし、要求上限がないのは概算要求段階です。要求額がそのまま予算化されるわけではなく、その後の予算編成で事業の効果や必要性などが精査されます。
中小企業向け補助金についても、GX・AI・DX・省力化・成長投資・スタートアップ・賃上げ環境整備などの政策分野がどのように予算要求へ反映されるかが注目されます。一方で、補助金・基金の自己点検や施策の優先順位の見直しも行われるため、既存制度については継続・拡充だけでなく、見直しや再編の可能性も考えておく必要があります。
今後は、経済産業省・中小企業庁をはじめとする各府省の概算要求、その後の政府予算案を確認することで、令和9年度の補助金・支援策の方向性がより明確になります。
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