中小企業庁の調べによると、日本の若者や女性の創業に対する意識は、世界的に見ても非常に低い水準にあり、その要因調査では「周囲に起業に有利な機会がないこと」が最も多数の回答として挙げられています。
職能給(年功序列の給与)制度が一般的な日本では、年齢が若い人ほど開業資金の確保が難しい傾向にあり、特に初期投資が大きい実店舗型のビジネスでは、金銭面において起業が非現実的というのが現状のようで、小売業や飲食業、サービス業などの店舗型ビジネスを中心として形成される商店街などでは、新たな開業者や後継者の不足による地域経済の空洞化が進んでいます。
今回の記事では、東京都が都内の商店街の活性化に向けて、新規開業・事業承継に対し支援を行う助成制度「商店街起業・承継支援事業」と「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」についてご紹介します。
この記事の目次
はじめに
かつては地域経済の中心を担い若者や女性客で賑わっていた商店街も、バブルの崩壊が起こった1990年代半ばごろからは商店や事務所が次々と閉店、閉鎖し、シャッターの下りた店舗が目立つ商店街を指す「シャッター通り(シャッター商店街)」という言葉が使われるようになりました。
原因としては、高度成長期の自動車普及による生活圏の拡大、1980年頃から始まる少子化や女性の社会進出による主婦層の購買縮小、1990年頃からは社会の情報化により顧客の購買行動が実店舗からネットに移り、2000年には大店法(大型小売店の出店に事実上の規制を設けていた)の廃止により大型のショッピングモールなどの出店が相次いだ事など、様々なものが考えられます。
今回紹介する事業では、不遇な時代を抜け近年徐々に活気を取り戻しつつある商店街の活性化を図ると共に、若者や女性の開業に対し、より手厚い支援を行うことによって将来の担い手を創出することを目的としています。
【女性の就業率と専業主婦世帯の推移】※出典:総務省「労働力調査」を基に作成
【運転免許保持者の推移】※出典:警察庁運転免許統計データを基に作成
商店街起業・承継支援事業とは
各自治体が地域振興や若者の開業などを支援する制度が設けていますが、今回紹介するのは東京都の助成制度で、都内の商店街で新たな開業を行う場合や、商店街において事業承継を行う場合に、商店街組織に加入する事を条件に、様々な支援を受けることが可能な制度です。
この制度では39歳以下の若い世代や女性の創業に対しては「若手・女性リーダー応援プログラム助成」という枠を設け、より手厚い支援を行うことによって創業の促進を図っています。
※東京都中小企業振興公社HPより
「商店街企業・承継支援事業」「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」は下記のような包含関係にあり、若年層や女性の新規の開業については「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」として、助成金の上限や助成率の引き上げを行っています。
地域コミュニティへの参加が条件となりますが、起業家が活用できる補助金・助成金制度の中でも助成額・助成率は高い水準となっています。
対象事業者
「商店街起業・承継支援事業」
都内商店街の店舗において「開業」・「多角化」による新規店舗開設又は「事業承継」による店舗改装等をする方
「若手・女性リーダー応援プログラム」
都内商店街で開業予定であり、実店舗を持たない女性、又は39歳以下の若手男性(2021年3月31日時点)
▼申請対象となるかを確認したい方は、下記フローチャートをご利用ください。
助成期間
交付決定日から開業日の翌々月(最長1年間) ※店舗賃借料は交付決定日から2年間
対象事業
下記の業種が対象で、都内商店街で新たに実店舗を開設する事業が対象となります。
※実店舗を持たないネットショップ等が、新たに実店舗を開設する場合等も対象となります。
「卸売業」「小売業」「不動産」「物品賃貸業」「宿泊業・飲食サービス業」「生活関連サービス」「娯楽業」「教育・学習支援業」「医療・福祉」「サービス業(他に分類されないもの)」
助成内容
【商店街起業・承継支援事業】
商店街起業・承継支援事業の助成率は2/3以内で、助成上限額はそれぞれの項目に応じて決まっています。
・事業所整備費(店舗新装・改装工事、設備・備品購入、宣伝・広告費)上限250万
・実務研修受講費 上限6万円
・店舗賃借料 1年目上限180万円(15万円/月)2年目上限144万円(12万円/月)
3つの項目を合計すると、助成金の上限は580万円となります。
【若手・女性リーダー応援プログラム助成事業】
若手・女性リーダー応援プログラム助成事業の助成率は3/4以内(実務研修受講費のみ2/3以内)で、助成上限額は以下のとおりです。
・事業所整備費(店舗新装・改装工事、設備・備品購入、宣伝・広告費)上限400万
・実務研修受講費 上限6万円
・店舗賃借料 1年目上限180万円(15万円/月)2年目上限144万円(12万円/月)
3つの項目を合計すると、助成金の上限は730万円となります。
なお、どちらの事業も「店舗新装・改装工事費」または「設備・備品購入費」の申請は必須となっています。
まとめ
政府や自治体は徒歩で買い物ができ地域のコミュニケーションの場としても機能する商店街を、子どもや高齢者、社会的弱者が安心して暮らせる地域社会の中心地と位置づけており、近年は地価の下落によって市街地中心部に大規模な分譲マンションなどが次々と建てられ、人々の生活圏が再び市街地へと戻る「都心回帰現象」によって活気をとりもどした商店街の成功例も数多く存在します。
今回ご紹介した「商店街起業・承継支援事業」では、商店街の活性化の為に開業や事業承継を支援し、「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」では若者・女性起業者の誘致・育成に向けて手厚い支援を行っています。
これから起業を考える若者や女性にとっても、有利な機会となるのではないでしょうか。