近年、政府が進めてきた働き方改革のなかで、社員の労働時間に対する規制が強化され、2020年4月からは、これまで中小企業等は除外されていた時間外労働の上限規制が、事業規模に関わらず全ての事業者に適用されることになりました。
今後は法律で定められた法定労働時間の1日8時間・週40時間の範囲を超える場合には、中小企業であっても労働者との間で36協定の締結が必要になり、36協定を結んでいた場合においても時間外労働の上限は月45時間、年360時間を超えてしまうと法律によって罰則が適用されてしまいます。
そこで、今回は中小企業等が従業員の労働時間の適正管理に向けた環境整備に取り組む場合に助成金が交付される、厚労省の「働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)」について紹介します。
この記事の目次
働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)
厚労省の助成金制度「働き方改革推進支援助成金」のコースの一つで、生産性を向上させ、労務・労働時間の適正管理の推進に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主に対し、最大50万円(同時に従業員の賃金引上げを行う場合は最大290万円)の助成を行います。
対象となる事業主
(1)労働者災害補償保険の適用を受ける中小事業主であること。
(2)全ての対象事業場において、交付決定日より前の時点で、勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるような統合管理ITシステムを用いた労働時間管理方法を採用していないこと。
(3)全ての対象事業場において、交付決定日より前の時点で、賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することが就業規則等に規定されていないこと。
(4)全ての対象事業場において、交付申請時点で、36協定が締結・届出されていること。
(5)全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。
【中小事業主の範囲】
・製造業その他: 資本金3億円以下の会社 又は 従業員数300人以下の会社及び個人
・卸売業: 資本金1億円以下の会社 又は 従業員数100人以下の会社及び個人
・小売業: 資本金5千万円以下の会社 又は 従業員数50人以下の会社及び個人
・サービス業: 資本金5千万円以下の会社 又は 従業員数100人以下の会社及び個人
支給対象となる取組
いずれか1つ以上の実施が必要です。
※下記の6~9の取組については助成率の引上げ措置が設けられています。
1.労務管理担当者に対する研修
2.労働者に対する研修、周知・啓発
3.外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
4.就業規則・労使協定等の作成・変更
5.人材確保に向けた取組
6.労務管理用ソフトウェアの導入・更新
7.労務管理用機器の導入・更新
8.デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
9.労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)
※研修には、業務研修も含みます。
※原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンなどは助成対象となりません。
成果目標の設定
支給対象となる取組は、以下の「成果目標」1から3まで全ての目標達成を目指して実施する必要があります。
(1)全ての対象事業場において、新たに勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるような統合管理ITシステムを用いた労働時間管理方法を採用すること。
※ネットワーク型タイムレコーダー等出退勤時刻を自動的にシステム上に反映させ、かつ、データ管理できるものとし、当該システムを用いて賃金計算や賃金台帳の作成・管理・保存が行えるものであること。
(3)全ての対象事業場において、新たに賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することを就業規則等に規定すること。
(3)全ての対象事業場において、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に係る研修を労働者及び労務管理担当者に対して実施すること。
上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加え、助成額の引上げを行う事が可能です。
事業実施期間
事業実施期間中(交付決定の日から2022年1月31日(月)まで)に取組を実施してください。
支給額
取組の実施に要した経費の一部を、成果目標の達成状況に応じて支給します。
助成率:3/4~4/5
※常時使用する労働者数が30名以下かつ、支給対象の取組で6から9を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合の補助率は4/5
成果目標達成時の上限額:50万円
助成額の引上げについて
賃金額の引上げを成果目標に加えた場合の加算額は、指定した労働者の賃金引上げ数の合計に応じて、次の表のとおり、上記上限額に加算します。※引上げ上限人数は30人までとします。
賃金を3%以上引上げ
1~3人:15万円
4~6人:30万円
7~10人:50万円
11人以上:一人当たり5万円※上限150万円
賃金を5%以上引上げ
1~3人:24万円
4~6人:48万円
7~10人:80万円
11人以上:一人当たり8万円※上限240万円
締め切り
申請の受付は2021年11月30日(火)まで(必着)です。
支給対象事業主数は国の予算額に制約されるため、11月30日以前に受付を締め切る場合があります。
まとめ
今回は厚労省が実施している雇用関係の助成金制度「働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)」について紹介しました。
日本の労働生産性は先進国の中では極めて低い水準にあり、今後も国際的な競争力を維持するためには、中小事業者の労働環境の整備や、生産性の向上に対し政府は積極的に後押しを続けていく必要があります。
2020年4月1日からは、賃金台帳等の労務管理書類の保存期間が5年(当面の間は3年)に延長されるなど、労働法規の改定なども相次いでいますので、事業者の方は助成金を活用し、専門家による労務のコンサルティング等を受けてみるのはいかがでしょうか。