新型コロナウイルスやオミクロン株の世界的な流行により、インバウンド(訪日外国人旅行者)の需要が大きく落ち込みました。ポストコロナを見据え、国ではインバウンド早期回復のためのあらゆる政策を促進しています。
そんな中、これまで課題となっていたのが、災害発生時や急病時における訪日外国人旅行者への対応です。言語・習慣・文化などの違いから、非常時に訪日外国人旅行者へ適切な措置を行えず、多くのトラブルが起きていました。
そこで制定されたのが、安心・安全な旅行環境を整備するための「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業(インバウンド安全・安心対策推進事業)」です。この記事で概要を詳しく解説するので、これまでインバウンドに関する問題を抱えていた観光業・医療機関の事業者は、ぜひ参考にして下さい。
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この記事の目次
災害時における訪日外国人旅行者の実態・課題とは
新型コロナウイルス感染症拡大防止のための渡航制限により、2020年の訪日外国人旅行者数は、前年度3,188万人から著しく減少し412万人でした。また、訪日外国人旅行者による消費額に関しても、2020年度は大幅に下がっています。
参考:観光庁 令和3年版観光白書について(概要版)
これに対し、政府は2030年訪日外国人旅行者数6,000万人の実現を掲げています。しかしこれまで、多くの自治体・観光関連事業者等において、外国人旅行者のための事前準備や災害対応マニュアルが整っていませんでした。その結果浮き彫りになった、主な実態の具体例は以下の通りです。
◆災害についての知識・経験にばらつきが見られる
◆言語・文化の違いが原因で日本人避難者とトラブルが起きた
◆避難所等でのアナウンスや掲示について、外国語の情報が少なく通訳できる者も限られていたため、外国人避難者の悩みごとを解決できなかった
外国人避難者は災害についての知識や備えが不十分なため、観光地や宿泊施設などで被災した際に居場所を失くす事例が確認されています。また、外国人避難者が一部の避難所に集中してしまい、地域住民の避難が滞ってしまった場面も散見されました。
こういった課題を解決し、なおかつ観光施設等における感染症拡大防止を促すことで、訪日外国人旅行者が日本国内を快適に旅行できるよう、環境を整備することが重要です。
訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業(インバウンド安全・安心対策推進事業光振興事業)とは
本事業は、訪日外国人旅行者が災害などの非常時に直面した場合の、安全・安心対策を促進する3つのメニューに対して、対象経費の一部を補助します。
1.観光施設等での感染症対策機器等整備
2.災害時における観光施設等での避難所機能強化
3.災害時・急病時における観光施設等での多言語対応機能強化
【3つの補助メニューにおける共通要件】
①交付申請書の提出先:
策定した事業計画等を交付申請書に添付し、地方運輸局等へ提出します。
②軽微な変更についての取扱い:
交付要綱第83条第1項第1号ただし書きに規定する、大臣が決定する軽微な変更の範囲は以下の通りとします。
- 様式第4-1別紙に記載の「補助対象事業の目的・内容」又は「費用総額」の内容の変更
③立地要件:
訪日外国人旅行者の受け入れについて一定の仕組みを整えている地域、もしくは訪日外国人旅行者の誘致等、観光振興に意欲的な地域が立地要件となります。なお、以下の地域で実施される事業は優先採択されます。
- 「非常時における外国人旅行者の安全・安心の確保に向けた指針」に則り、観光危機管理計画を作成した地域
- 地域防災計画等に関して、訪日外国人旅行者の避難計画等を制定した地域
④補助対象外の経費:
補助対象外となる経費は以下のとおりです。
- 土地取得に必要な経費
- 故障・老朽化等に対処するためなど、明確な機能改善が付随しない修理修繕や代替更新のみに必要な経費
- SIMカードや通信費等のランニングコスト、リース・レンタル契約における経費
⑤多言語での案内標識や案内表示に関して:
多言語での案内標識・案内表示は英語併記を原則とします。なお、中国語(簡体字/繁体字)又は韓国語、その他求められる言語に関しては、視認性・美観等に支障がない範囲で表記を行うものとし、翻訳にあたっては校正を取り入れ、必要であればピクトグラムの使用も有効とします。
⑥無料公衆無線LAN環境の整備について:
本事業での補助金を運用し、無料公衆無線LAN環境を整備する場合は、共通シンボルマーク「Japan.Free Wi-Fi」の掲示に関する登録申請も同時に行います。
次に補助メニューごとに、補助対象となる事業者・要件・経費を解説します。
1.観光施設等での感染症対策機器等整備
この補助メニューでは、訪日外国人旅行者を受入れる観光施設等における感染症の拡大防止の取り組みを支援します。
【補助対象事業者】
- 観光案内所・観光施設等を設置又は管理を行う者
- 観光地での店舗・事業所等を経営する者
【補助対象要件】
①補助対象施設等
②立地要件
③その他要件
①補助対象施設等について…訪日外国人旅行者が毎年一定数訪れている又は訪れると推定される以下の施設等が補助対象となります。
- 神社、寺院、又は教会
- 城跡、城郭、又は宮殿
- 庭園又は公園
- 動植物園又は水族館
- 博物館又は美術館
- テーマ公園又はテーマ施設
- 外国人観光案内所
- 道の駅、みなとオアシス等
- 上記以外で訪日外国人旅行者の利用が見込まれる施設等
②立地要件について…以下A・B又はCのいずれかの範囲内に所在するものとします。
※補助対象経費が感染症対策機器の際にはA及びBとする
A.補助対象施設内
B.補助対象施設の周囲
C.補助対象施設へのアクセス経路
③その他の要件について…補助対象事業者は、補助対象施設等において、感染症予防に必要な措置を講じさせることが求められます。ほかにも、トイレ、非接触式キャッシュレス決済環境、混雑状況の「見える化」と推奨ルートの表示に関する要件があります。
- トイレは広く開放しているものが対象で、利用料を負担しなければ入れなかったり、地域住民の利用がメインであったりするトイレは除く。また、トイレの所在を多言語又はピクトサインで周囲に表示している。
- 非接触式キャッシュレス決済環境について、観光地での店舗・事業所等を対象とし、主たる利用が地域住民である店舗・事業所等は対象外とする。
- 混雑状況を把握する機器等の場合、二次交通拠点から補助対象施設等までの経路上で複数個所以上とする。また、把握した混雑状況を多言語で発信し、訪日外国人が情報取得しやすい体制を整える。
補助率
補助対象経費の1/2以内
補助対象経費
①補助対象施設における感染症対策機器の整備費
②トイレに関する整備費
③非接触式キャッシュレス決済環境の整備費やソフトウエア購入費等
④混雑状況を把握・掲示するための機器整備費やシステム開発費
⑤その他①~④に伴う経費
たとえば、①について、使用可能期間が1年未満のものや消耗品は対象外です。
②のトイレは、和式便器の洋式化、洋式便器の交換、洗面器(自動水栓化等)、室内空調設備等が対象になります。なお、和式便器・躯体等の整備費用は対象になりません。
補助対象経費の内容は下記資料で確認できます。
出典:事業概要及び申請スキーム
2.災害時における観光施設等での避難所機能強化
この補助メニューでは、災害時に訪日外国人旅行者を受け入れる観光施設等における避難所機能の強化を支援します。
【補助対象事業者】
- 観光案内所・観光施設等を設置又は管理を行う者
- 観光地での店舗・事業所等を経営する者
【補助対象要件】
①補助対象施設等
②その他要件
①について、前述の補助メニュー「観光施設等での感染症対策機器等整備」の補助対象施設等と同じです。
②について、以下のような要件があります。
- 災害時の利用に関して、関係地方公共団体との調整が済んでいる
- 災害等が補助対象施設等の業務時間外に発生した場合、安全確認などを実施した上でできる限り業務を継続する
- 災害時、訪日外国人旅行者からの要求に伴い、災害情報・公共交通機関の運行状況・宿泊や避難に関する情報等を提示する。加えて、情報端末の充電・トイレ利用・避難所利用等を無償で提供し、また提供内容について多言語で明瞭に表示する
- 災害時、多言語案内・翻訳用タブレット端末又は多言語案内・翻訳システム機器等の運用を含め、英語やその他外国語での対応も可能にしておく 等
補助率
補助対象経費の1/2以内
補助対象経費
①非常用電源装置
②情報端末への電源供給機器
③災害用トイレ
④避難所機能に係る施設整備・改良
⑤案内標識
⑥案内表示
⑦その他
補助対象経費には、整備した機器等が確実に使用できる状態を維持することを目的とした「平時の使用を前提とする整備」も補助の対象に含まれます。①については、安定的に電源供給が可能な機器であれば、太陽光発電等も補助対象になります。
出典:事業概要及び申請スキーム
3.災害時・急病時における観光施設等での多言語対応機能強化
このメニューでは災害時に訪日外国人旅行者の避難誘導を行う観光施設等と、訪日外国人旅行者の診療を受け入れる医療機関における多言語対応を推進します。
Ⅰ.災害時の観光施設等について、多言語対応機能強化を目的とした整備
【補助対象事業者】
- 観光案内所・観光施設等を設置又は管理を行う者
- 観光地での店舗・事業所等を経営する者
【補助対象要件】
①補助対象施設等
②その他要件
①について、前述の補助メニューの補助対象施設等と同じです。
②についても、前述の補助メニューと同様に以下のような要件があります。
- 災害時の利用に関して、関係地方公共団体との調整が済んでいる
- 災害等が補助対象施設等の業務時間外に発生した場合、安全確認などを実施した上でできる限り業務を継続する
- 災害時、訪日外国人旅行者からの要求に伴い、災害情報・公共交通機関の運行状況・宿泊や避難に関する情報等を提示する。加えて、情報端末の充電・トイレ利用・避難所利用等を無償で提供し、また提供内容について多言語で明瞭に表示する
- 災害時、多言語案内・翻訳用タブレット端末又は多言語案内・翻訳システム機器等の運用を含め、英語やその他外国語での対応も可能にしておく 等
補助率
補助対象経費の1/2以内
補助対象経費
①多言語案内機能の整備
②無料公衆無線LAN環境の整備
③スタッフ研修(多言語対応研修、視察研修、災害対応訓練研修に要する経費)
④その他(多言語対応機能に係る整備に附随する経費)
①では、災害時に訪日外国人旅行者が必要となる、多言語案内機能に関する下記の整備費が対象です。
- デジタルサイネージ
- 多言語案内・翻訳用タブレット端末
- 多言語案内・翻訳システム機器
- 案内標識
- 掲示物・配布物
- ホームページ
- 案内放送
Ⅱ.医療機関における多言語対応機能強化のための整備
【補助対象事業者】
- 病院・診療所等を設置又は管理を行う者
補助対象施設
「外国人患者を受け入れる医療機関の情報を取りまとめたリスト」に登録済み、あるいは登録見込みのある病院・診療所・歯科診療所
補助率
補助対象経費の1/2以内
補助対象経費
前述の補助メニューの通りとします。ただし、診療において必要であることが前提となります。
①多言語案内機能の整備
②無料公衆無線LAN環境の整備
③スタッフ研修(多言語対応研修、視察研修、災害対応訓練研修に要する経費)
④その他(多言語対応機能に係る整備に附随する経費)
出典:事業概要及び申請スキーム
訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業の申請方法
【応募期間】
令和4年3月24日(木)~令和4年9月30日(金)17時【必着】
※期間中、毎月末が応募締切日になります。
補助対象施設等1項目につき、事業計画書を1件提出しますが、同一の設置主体がいくつかの補助対象施設等に関して応募を望む場合、補助対象施設等ごとに事業計画書を作成する必要があります。(同一の設置主体が複数の整備事業について応募する場合は、事業ごとに事業計画書を作成します)
【提出書類】
- 事業計画書
- 補助対象経費の算出基礎となる見積書などの資料
- 地方公共団体等の補助(予定)額等を確認できる資料等
- その他計画を審査する上で参考となる書類(観光施設等で案内に使用しているパンフレット等)
原則として電子データ(電子申請システム「jGrants」)で申請を行いますが、困難な場合は書類での提出も可能となっています。書類提出の場合は、簡易書留や特定記録など、配達が証明できる方法で提出します。提出先は、各地に担当部署がありますので、各事業の応募要領をご参照ください。
申請の流れ
最後に、申請の流れを確認しましょう。
応募から補助金交付までの流れは、以下のとおりです。
①事業計画書提出
②審査結果通知受領
③交付申請書提出
④交付決定通知書受領
⑤事業実施
⑥事業完了実績報告書提出
⑦補助金額確定通知書受領
⑧支払請求書提出
⑨補助金交付
訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業のメリット
コロナ禍により、訪日外国人旅行者の受け入れが規制され、観光業を取り巻く環境は厳しいものとなりました。しかし、ポストコロナを見据えた環境作りに取り組み、訪日外国人旅行者が災害や急病時でも快適に旅行できれば、将来的に大きな経済効果が期待できます。
また、本事業を活用し必要な設備を整えれば、安心・安全の新たな事業スタイルが確立するでしょう。コロナ禍で落ち込んだ観光業の再生だけでなく、他業種との連携や新ビジネスの創出などにも繋がります。
まとめ
地震や豪雨など災害が多い日本では、訪日外国人旅行者へのマニュアルが整っていなければ、対応が後手に回ってしまいます。今後、観光業の景気を促進するためには、インバウンド対策・強化が必須と言えるでしょう。
コロナ禍が長引く中、条件次第では渡航可能となった国が徐々に増えています。コロナ禍が落ち着いたらすぐ経営に力を注げるよう、対象事業者は今のうちに本事業による補助を検討してみてはいかがでしょうか。