令和4年9月1日より、人材開発支援助成金の見直しが行われました。一部の要件の緩和や申請の簡易化により、助成金を利用しやすくするのが目的です。
助成の対象が広がったことで、新たに制度を利用できるようになった施設もあります。これまで人材開発支援助成金を利用したくても助成の対象外だった事業者は、今回の改正内容を確認してください。
見直しの内容は、各コースで異なります。今回は令和4年9月の人材開発支援助成金の改正についてまとめました。
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この記事の目次
人材開発支援助成金の8つのコース
人材開発支援助成金は、労働者が職業訓練を受けた際に訓練費用等の助成を行う制度です。まずはその概要と、令和4年から新設された「人への投資促進コース」について見ていきましょう。
【概要】
人材開発支援助成金では、事業主が雇用する労働者の職業能力開発を行った場合に、その費用や賃金の一部が助成されます。これは労働者が、職業生活設計の全期間を通じて段階的かつ体系的なスキルアップを図ることができるようにするための支援です。令和4年からは民間のニーズに応え、海外の大学院での訓練や定額制訓練も助成の対象にする「人への投資促進コース」が設置されました。
人材開発支援助成金は以下の8つのコースから成り立ちます。
①特定訓練コース
雇用する正社員に対して、厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練等、訓練効果の高い10時間以上の訓練を実施した場合に、その経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成します。
②一般訓練コース
雇用する正社員に対して、専門的な知識及び技能を習得させるための20時間以上の訓練(特定訓練コースに該当しないもの)を実施した場合に、その経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成します。
③教育訓練休暇等付与コース
有給教育訓練休暇等制度を利用し、労働者が訓練を受けた場合に助成を行います。
④特別育成訓練コース
有期契約労働者等の人材育成に取り組んだ場合に助成を行います。
⑤建設労働者認定訓練コース
認定職業訓練等のうち建設関連の訓練に対して助成を行います。
⑥建設労働者技能実習コース
「安全衛生法に基づく教習および技能講習等」「能開法に規定する技能検定試験のための事前講習」「建設業法施行規則に規定する登録基幹技能者講習」等に対して助成を行います。
➆障害者職業能力開発コース
「障害者職業能力開発訓練施設等の設置等」「障害者職業能力開発訓練運営費(人件費、教材費等)」等に対して助成を行います。
⑧人への投資促進コース
デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練等を実施した場合に、その経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。
このうち、令和4年9月に見直しが行われたのは①特定訓練コース②一般訓練コース④特別育成訓練コース⑧人への投資促進コースの4つのコースです。
令和4年から6年までの間に設置される「人への投資促進コース」について
「人への投資促進コース」は令和4年から令和6年までの間に設置されます。助成の対象となる訓練は、次の①~⑤です。
5つの訓練 | |
①デジタル/成長分野 | 高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練 |
②IT分野未経験 | 情報技術分野認定実習併用職業訓練 |
③サブスクリプション | 定額制訓練 |
④自発的能力開発 | 自発的職業能力開発訓練 |
⑤教育訓練休暇 | 長期教育訓練休暇等制度 |
人材開発支援助成金 令和4年9月1日からの改正内容
令和4年9月1日からの改正には、対象コースすべてに共通の改正と各コースの改正があります。それぞれの内容は以下のとおりです。
【対象コース共通の改正】
①訓練施設の要件変更
②提出書類の省略
【各コースの改正】
■人への投資促進コース
①定額制訓練の要件変更
②OJT訓練指導者の要件変更
③短時間勤務等制度の要件変更
④OJTの実施要件の変更
■特定訓練コース・特別育成訓練 コース
①OJTの実施要件の変更
改正の詳しい内容は、以下のとおりです。
対象コース共通の改正
①訓練施設の要件変更
各コースの対象となる訓練施設から除外されていた「申請事業主と関係性が認められる者が設置する施設」が、助成の対象に加わりました。
改正により対象となる施設 |
---|
・申請事業主の3親等以内の親族が設置する施設 ・申請事業主の取締役が設置する施設 ・申請事業主が雇用する労働者が設置する施設 ・グループ事業主が設置する施設で、不特定の者を対象とせずに訓練を実施する施設 ・申請事業主が設置する別法人の施設 ・申請事業主の代表取締役が、個人事業主として設置する施設 |
②提出書類の省略
同時双方向型の通信訓練を実施した場合、「出席状況が分かるログ、訓練受講時のスクリーンショット等」の提出は不要になりました。
特定訓練コース・特別育成訓練コース
特定訓練コースと特別育成訓練コースの「対象コース共通の改正」以外の改正の内容は、以下のとおりです。
①OJT訓練指導者が1日に指導できる人数の、制限が廃止されました
人への投資促進コース
人への投資促進コースの「対象コース共通の改正」以外の改正の内容は、以下①~⑧です。
①利用が始まっている定額制サービスも助成の対象となりました
②複数の異なる定額制サービスの訓練も対象となりました
③「受講を修了した教育訓練を2つ以上必要とする」が、「1つ以上」に緩和されました
④同時双方向型の通信訓練で実施されるものも対象になりました
⑤情報技術分野認定実習併用職業訓練におけるOJT訓練指導者の実務経験は、「通算で10年以上」から「5年以上」に緩和されました
⑥OJT訓練指導者が1日に指導できる人数の、制限が廃止されました
⑦所定外労働時間が免除される場合の所定外労働時間に関する制限が廃止されました
⑧教育訓練短時間勤務等制度の適用回数が、「30回以上」から「1回以上」に緩和されました
助成金申請の流れ
人材開発支援助成金 各コースの申請の基本的な流れは以下のとおりです。
なお、申請の前提として、「社内の職業能力開発推進者の選任」と「社内の事業内職業能力開発計画の策定」を行う必要があります。(特別育成訓練コース以外)
【特定訓練コース・一般訓練コース】
➢訓練実施計画届の提出
➢訓練の実施等
➢支給申請書の提出
計画届等は、訓練開始日の1か月前までに提出する必要があります。
【教育訓練休暇等付与コース】
➢制度導入・適用計画の作成・提出
➢制度導入および周知
➢制度導入・訓練の実施
➢支給申請書の提出
計画届等の提出期間は制度導入・適用計画期間の初日から起算して、6か月前から1か月前までです。
【特別育成訓練コース】
➢訓練計画届の作成・提出
➢キャリアコンサルティングの実施
➢訓練の実施
➢訓練の終了・支給申請
計画届等は、訓練開始日の1か月前までに提出する必要があります。
【人への投資促進コース】
①高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練・情報技術分野認定実習併用職業訓練・定額制訓練
➢事業内計画の作成等
➢計画提出
➢訓練実施
➢支給申請
②自発的職業能力開発訓練
➢事業内計画の作成等
➢制度導入
➢計画提出
➢訓練実施
➢支給申請
③長期教育訓練休暇等制度
➢事業内計画の作成等
➢計画提出
➢制度導入
➢制度適用
➢支給申請
計画届等は、訓練開始日の1か月前までに提出する必要があります。
まとめ
優秀な人材の開発は、企業の発展にも大きな影響を及ぼします。特に従業員の少ない中小企業にとって、ひとりひとりがそれぞれの強みを活かして活躍することは企業全体の成長の鍵です。
一方で、人材開発には予算がかかります。研修等の費用はもちろん、訓練に参加している間の賃金の補償も必要です。そうした費用的負担を軽くするために、ぜひ人材開発支援助成金を活用してください。
今回の改正で、より多くの事業者が人材開発支援助成金を利用しやすくなりました。これまで人材開発にまで手が回らずにいた企業こそ、この機会に、従業員のスキルアップを目指しましょう。
参考:人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇等付与コース、特別育成訓練コース、人への投資促進コース)