少子高齢化や大都市への人口集中を背景に「地域活性化」への関心が高まっています。2014年には日本創成会議にて「2040年には全国896の市区町村が「消滅可能性都市」に該当する」と発表され、大きな話題になりました。
観光庁は地域の観光の復興を目指す取り組みを支援する制度として、地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業を行っています。この事業は令和4年3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震の被災地域の支援するため、追加公募が行われることが決定しました。
今回は地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業と追加公募について、紹介します。
▼▼▼日々配信中!無料メルマガ登録はこちら▼▼▼
メルマガ会員登録する
この記事の目次
観光業界の抱える問題
観光庁の発表によると、2022年2月の宿泊施設客室稼働率は34.5%です。コロナ禍前の平成31年の同月は61.9%なので、客室稼働率は半数近くまで落ち込んでいることがわかります。
参考:観光庁 宿泊旅行統計調査
また令和3年の観光白書では、2020年度の日本人国内旅行消費額も前年と比べて半数近くになったことが報告されました。
出典:観光庁 令和3年版観光白書について(概要版)
近年、観光事業の復興は全国的な課題となっています。特に福島県沖を震源とする地震のような自然災害に見舞われると、被災地は来訪客の激減などの大きな打撃を受けることになるのです。今回の追加公募は、こうした観光地の抱える問題を解決するための支援として実施されます。
地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業とは
本事業は、地域経済を支える観光の復興を目指す企業者を支援する制度です。申し込み期間は令和4年3月30日(水)~4月15日(金)でしたが、福島県沖を震源とする地震の被災地域を支援するため、宮城県・福島県を対象に追加公募が行われます。
まずは地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業の概要からみていきましょう。
【目的】
地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業では、地方公共団体、DMO、民間事業者等の地域の関係者が連携して実施する事業に対して補助金が支給されます。
「地域の稼げる看板商品の創出」を図るため、自然、食、歴史・文化・芸術、生業、交通等の地域ならではの観光資源を活用したコンテンツの造成から販路開拓まで一貫して支援することを目的とした制度です。
「一般型」と「文化資源連携型」
補助の対象となる事業は「一般型」と「文化資源連携型」の2類型に分類されます。それぞれの内容は以下のとおりです。
①一般型…「文化資源連携型」以外の事業
②文化資源連携型…文化財保護法又は文化財保護条例に基づき、指定、選定、登録等を受けた文化財、日本遺産の構成文化財、その他の文化資源を主として活用するもの
文化資源連携型は、各要件に加えて以下の文化資源連携型事業共通要件とA~Gの区分ごとの要件を満たす必要があります。
文化資源連携型事業共通要件
①事業実施に当たり活用する文化資源の所有者・管理者等から同意を得ていること
②国・地方公共団体から指定等を受けている文化財にあっては、事業実施について都道府県・市区町村の文化財保護部局へ事前に相談、情報共有していること
【区分とそれぞれの要件】
A…先端技術を活用した文化財の魅力発信に係る事業
- 先端技術を活用して、多言語解説を含むわかりやすい展示解説及び体験型コンテンツの整備等を行い、国指定等文化財の魅力を高める取組であること
※たとえば、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)等を利用した国指定等文化財を公開・展示するコンテンツを制作する事業などが例としてあげられます。
B…地域ゆかりの文化資産を活用した展示・発信に係る事業
- 国等が有する地域ゆかりの文化資産の借用等により、先端技術を活用したコンテンツの整備や多言語解説を含む分かりやすい展示解説を行い、当該地域の歴史・文化・風土・芸術等を効果的・魅力的に展示・発信することで文化資産の付加価値を高める取組であること
- 申請主体が、地方公共団体、博物館に基づく登録博物館若しくは同法基づく博物館相当施設、又は文化財保護法に基づく公開承認施設、その他文化庁長官が認める施設又は地方公共団体若しくは博物館を構成員とする実行委員会等であること
C…食文化に係る事業
- 特色ある食文化や伝統的なわざに関する食文化コンテンツを造成する取組であること
- 食文化を活用した観光を通じ、地域の活性化にも資する取組であること
D…Living History(文化財の生きた歴史体感)に係る事業
- 史実(資料)に基づく事業内容であること
- 文化財に関わる往時のくらしや祭事などを再現することにより、文化財の新たな付加価値(歴史の楽しみ方)を生み出す事業であること
- 来訪者が文化財の魅力を体感・体験することができる事業であること
- 対象とする文化資源は、国指定・選定・登録文化財を核としたものであること
E…日本遺産に係る事業
- 事業内容について、地方公共団体又は日本遺産の構成文化財の所在する地方公共団体等によって構成される協議会等の同意を得ていること
- 来訪者に日本遺産ストーリーについての理解を深める機会を提供するコンテンツを造成する取組であること
F…文化資源の多言語解説整備に係る事業
- 文化資源について、来訪者がその魅力を理解するための多言語解説コンテンツ・媒体を整備することで、地域へ来訪する新たな客層の開拓につながる取組であること
- 英語解説文は観光庁が作成したマニュアルに準拠したものであること
- 対象とする文化資源は、国指定・選定・登録文化財を核としたものであること
G…文化資源の高付加価値化に係る事業
- 文化施設文化資源を活用して、高付加価値旅行層に訴求する上質な文化観光コンテンツを造成し、文化資源等の高付加価値化を図る取組であること
- 事業収益が文化資源等の保存・継承に還元され、その価値を守り、高めていく事業であること
なお「一般型」と「文化資源連携型」の重複応募はできません。また「文化資源連携型」は1つの区分のみに応募が可能です。
対象事業者
補助の対象となる事業者は、以下の①~③の要件をすべて満たしている必要があります。
①地域の関係者と連携すること
②地方公共団体、観光地域づくり法人(DMO)、観光協会、民間企業等であること
③地方公共団体でない場合は、事業に係る全ての市区町村の同意を得ること
対象事業
以下の①~⑤の要件すべてを満たす事業が、補助対象です。
①地域ならではの観光資源を活用した、ツアー、アクティビティ、体験、イベント等のコンテンツの磨き上げを図る取組であること
②国内居住者を主なターゲットとしつつも、将来的なインバウンドへの活用を見据えた取組であること
③事業期間内において、モデルツアーをはじめとした、地域に実際に旅行者が訪れる取組、販路形成、プロモーションなど、販売を想定した総合的な取組であること
④本事業終了以降、磨き上げたコンテンツを販売する、又は継続的に実施することを前提とした取組であること
⑤総事業費が700万円以上の取組であること
補助率・上限額
補助率及び補助上限額は、以下のとおりです。
・補助率…500万円まで定額(10/10)・500万円を超える部分については1/2
・補助上限額…1000万円
対象経費
対象となる経費は、以下①~④です。経費によって、補助額の上限が決まっているものがあります。
①観光資源を活用したコンテンツの造成に係る経費
・ 滞在型コンテンツ、旅行商品等の企画開発
・ 観光イベントの実施
・ 共通クーポン券等の企画開発
・ 名産品の企画開発
・ 観光戦略の策定
・ ワークショップ、協議会等の開催
・ 地域事業者や地域住民に対するセミナーの開催
・ 専門家からの意見聴取
・ ガイドの育成
・ 造成したコンテンツに関するモニターツアーの開催
・ 地域資源の多言語情報提供、媒体の整備 等
②備品の購入・設備の導入に係る経費(補助額上限200万円)
・ コンテンツの造成等に必要となる備品の購入や設備の導入 等
③プロモーションに係る経費(補助額上限200万円)
・ 企画開発したコンテンツを販売するために必要となる写真、動画、ホームページ、チラシ、パンフレット等、対外的な情報発信のための素材やツールの作成
・ 造成したコンテンツの販路拡大を目的とした広告宣伝 等
④新型コロナウイルス感染症対策に係る経費
・ 必要となる物品(マスク、消毒液、アクリル板等)の購入・レンタル・リース 等
【対象外となる経費】
・本事業に直接関係のない経費
・交付決定前に発生した経費
・事業者における経常的な経費(運営に係る人件費及び旅費、事務所等に係る家賃、保証金、敷金、仲介手数料、光熱水費、通信料等)
・旅行者が受益する、景品の購入や割引に係る経費
・実施主体の会食費、弁当代等の飲食費
・本事業における資金調達に必要となった利子 等
追加公募について
次に、追加公募の詳細についてみていきましょう。通常の公募に関する要項と重なる部分もありますが、対象や機関などは変更になっていますので、注意してください。
追加公募の対象
追加公募の対象は、宮城県・福島県における事業のみです。また、すでに申請した事業を重複して申請することはできません。
追加公募受付期間
令和4年4月16日(土)~4月22日(金)17:00 締切厳守
追加公募内容
補助対象事業者の要件・補助内容・補助対象事業・補助額・補助対象経費については、通常の申請から変更はありません。
申請方法
それでは、申請の方法について確認しましょう。手続きの流れや申請に必要な書類についてまとめました。
【申請の流れ】
申請手続きの流れとスケジュールは以下のとおりです。
①応募(令和4年4月16日~4月22日)
②採択内示通知(5月中下旬を目途に通知)
③必修研修受講(5月中下旬を目途にオンライン受講)
④事業計画書提出(5月中下旬を目途に提出)
⑤交付申請書提出(5月中下旬を目途に提出)
⑥交付決定(6月上旬を目途に通知)
⑦事業実施(交付決定後~令和5年2月28日)
⑧完了実績報告・精算書類提出(令和5年2月28日締切)
⑨精算(令和5年3月中)
【申請方法】
申請はWebサイトにて受け付けられます。必要書類を用意し、以下の特設 Web サイトより申請を行なってください。申請後、採択事業者はオンラインで研修を受講する必要があります。
▼地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業 申請手続き
https://kanban-soshutsu.com/first-application/
【必要書類】
手続きの必要な書類は以下の①~⑥です。様式は特設サイトからダウンロードできます。
①事業計画書
②費用積算書
③事業実施スケジュール
④事業概要
⑤市区町村の同意書
⑥連携先の同意書
地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業活用のメリット
新型ウイルスの世界的流行や自然災害の影響で、観光業はさまざまな問題に直面しています。一方で生活様式の変化を受けた社会的需要は、新たな方向性へと伸びています。
地域の活性化と新しいニーズへの対応を同時に実現するためには、これまで手掛けていなかった分野の開拓や事業形態の変革が必要不可欠です。しかし度重なる自然災害で被害を被った企業には、新事業へ着手する余力がないことが予想されます。
そんなときは地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業を申請してください。今回の追加公募で観光事業復興に必要な予算を得れば、そのぶん地震による被害の修繕や業務の立て直しもスムーズに進めることができるでしょう。
まとめ
自然災害や病気の流行は、いつ起こるかわかりません。日頃から備えていたとしても、予想以上に被害が広がってしまうこともあります。
被害を最小限に食い止め、一刻も早い復興のためには、将来に向けて柔軟に変化していく必要があります。地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業は、地域に根付いた観光事業者だけでなく、これから一歩を踏み出そうとする若い事業者にも利用してほしい制度です。そうして若い人材が地域で活躍することが、日本全体の活性化に繋がります。
変化を続ける世界情勢に対応し、新しい社会を創り出す一助として、地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業を活用してください。