電気料金の高止まり、エアコンの「2027年問題」、そして2050年カーボンニュートラルに向けた脱炭素の流れ——いま、業務用の換気・空調設備を「更新するなら今」と考える事業者が増えています。省エネ性能の高い設備に入れ替えれば、CO2排出量を抑えながら、毎月の電気代も下げられるためです。
そうした設備更新の初期費用を抑える手段が、国や自治体の補助金制度です。さらに、2025年6月施行の改正労働安全衛生規則で職場の熱中症対策が義務化されたこともあり、従業員の体調管理という観点でも空調環境の見直しが後押しされています。
この記事では、業務用の換気・空調設備の導入・更新に使える補助金を、国の制度と自治体の制度に分けて、2026年(令和8年度)時点の最新情報で整理します。「換気扇の補助金はあるのか?」というよくある疑問にも、最初にお答えします。
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この記事の目次
換気や空調設備に使える補助金とは
換気や空調設備に使える補助金とは、CO2排出量の削減や省エネルギー化、脱炭素社会の実現などを目的とした制度です。地球温暖化や電気料金の上昇が課題となるなか、国や自治体は、省エネ効果の高い設備へ更新する企業の取り組みを支援しています。
対象になるのは、主に業務用エアコン(高効率空調機)や全熱交換器(高機能換気設備)など、省エネ効果を数値で示せる設備です。逆にいえば、「省エネになるかどうか」が対象選定の軸になっている、と理解しておくと制度を選びやすくなります。
空調・換気設備の更新が注目される理由
設備更新を急ぐ背景のひとつが、エアコンの「2027年問題」です。2027年4月から家庭用エアコンの省エネ基準(トップランナー基準)が引き上げられ、基準を満たさない低価格モデルが製造・販売できなくなる見込みで、価格上昇が懸念されています。
地球温暖化係数の高い冷媒(R410Aなど)の規制も進み、古い空調機は修理・部品調達が難しくなるリスクも指摘されています。「価格が上がる前に」「修理が難しくなる前に」という更新需要が、補助金の活用と結びついています。
もうひとつの後押しが、職場の熱中症対策の義務化です。2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則により、一定の暑熱環境での作業について、事業者の熱中症対策が義務(罰則付き)となりました。職場の暑さを抑える空調環境の整備も重要性を増しており、空調・換気設備の更新は、省エネと職場環境の改善を同時に進められる取り組みといえます。
換気扇の補助金はある?対象になる「換気設備」の考え方
「換気扇を補助金で交換したい」と考える事業者の方は多いものの、実は換気扇そのものをピンポイントで対象とする補助金は、国・自治体ともにほとんどありません。省エネ・脱炭素を目的とした補助金は「CO2削減・省エネ効果」を評価の軸としているため、消費電力の小さい換気扇単体では、その効果を示しにくいからです。
とはいえ、「換気にまつわる設備」が補助の対象になるケースはあります。事業者が押さえておきたいのは、次の3つの考え方です。
省エネ効果のある「全熱交換器」なら対象になりやすい
補助金の世界で「換気設備」として想定されているのは、多くの場合、全熱交換器(高機能換気設備)です。全熱交換器は、給気と排気の両方を機械で行い、その際に排気側の熱と湿気を給気側に移すことで、換気をしながら冷暖房のロスを抑えられます。
一般的な換気扇が「室内の空気を外に出すだけ(出た分は外気がそのまま入る)」なのに対し、全熱交換器は「換気しても室温・湿度を保ちやすい」点が違いです。
この省エネ効果が評価され、本記事で紹介する東京都の事業をはじめ、国や都道府県の省エネ補助金で対象設備に含まれることが一般的です。単なる換気扇ではなく、全熱交換器への更新・新設として検討するのがポイントです。
別目的の補助金で「経費の一部」として認められることも
小規模事業者持続化補助金や、自治体の店舗改装・開業支援などでは、取り組み全体のなかで換気扇やダクトの工事費が対象経費の一部として認められる場合があります。これらは「換気扇のための補助金」ではなく、販路開拓や店舗改善といった主目的に付随する費用としての扱いになる点に注意しましょう。
飲食店の厨房換気・ダクトは省エネ補助の対象になりにくい
飲食店の厨房で使われる業務用の排気設備(有圧換気扇やダクトなど)は、全熱交換器とは異なる設備のため、省エネ補助金の主な対象からは外れます。こうした設備の更新は、上記の店舗改装系の補助金や、自治体独自の制度を個別に確認するのが現実的です。
補助金制度は自治体ごとに内容が大きく異なり、年度によって新設・終了もあります。「(自治体名)+補助金」で検索するか、補助金ポータルの検索機能から対象エリア・設備で絞り込み、最新情報を確認することをおすすめします。
換気・空調設備の導入・更新に使える補助金【令和8年度版】
ここからは、具体的な補助金制度を「国の制度」と「自治体の制度(例)」に分けて紹介します。国の制度は毎年度継続して公募される傾向があり、年間を通じて狙いやすいのが特徴です。
一方、自治体の制度は地域・年度ごとに内容が大きく異なるため、ここで挙げるのはあくまで代表例として、お住まいの地域の制度を確認する手がかりにしてください。
①脱炭素ビルリノベ事業(環境省)
国が実施する、既存のビル・店舗・学校などを「建物まるごと」脱炭素改修する事業者向けの、規模の大きい補助金です。
既存の業務用建築物を対象に、外皮(窓・断熱)の高断熱化と高効率機器の導入をまとめて支援し、建物全体のCO2排出量削減を促す事業です。2026年度(令和8年度)は「脱炭素ビルリノベ2026事業」として実施されます。
| 対象設備 | 断熱窓、断熱材、高効率空調(業務用エアコン等)、制御機能付きLED照明器具、業務用給湯器、BEMS |
|---|---|
| 主な要件 | 改修後の外皮性能(BPI)が1.0以下になること 一次エネルギー消費量を省エネ基準から用途に応じて削減すること(ホテル・病院・百貨店・飲食店等は30%、事務所・学校等は40%程度以上) BEMS等によるエネルギー管理を行うこと など |
| 補助率 | 補助対象となる設備費・工事費・設計費の1/2〜1/3 |
| 補助上限・下限 | 上限10億円/1事業、下限200万円/1事業(予算は令和10年度までで95億円) |
| スケジュール(令和8年度) | 公募開始は2026年5月下旬ごろの予定。 交付決定額が予算額に達した場合、期間内でも受付を終了。 申請はjGrantsで行い、GビズIDプライムのアカウントが必要です(契約・発注は必ず交付決定後に) |
※令和8年度の公募要領は本記事執筆時点で公表前のため、上記は事業概要に基づく内容です。申請を検討する際は、必ず最新情報をご確認ください。
詳しくはこちら:
②省エネ・非化石転換補助金(経済産業省)
省エネ・非化石転換補助金は、工場・事業場の省エネ設備更新を幅広く支える、国の代表的な省エネ補助金です。空調設備の更新も要件を満たせば対象になります。
この補助金は、大きく2つの申請型(工場・事業場型/設備単位型)と、4つの事業区分(Ⅰ〜Ⅳ型)で構成されています。エアコンなどの空調設備や制御機能付きLEDといった汎用設備を更新したい場合は、設備単位型の「(Ⅲ)設備単位型/GX設備単位型」が主な対象です。
2026年度(令和7年度補正予算)からは、GXに取り組むメーカーの設備を対象とする「GX設備単位型」(メーカー強化枠・トップ性能枠)が新設され、省エネ性能の高い設備ほど手厚く支援される仕組みになっています。
| 対象設備(設備単位型の例) | 空調設備、冷凍・冷蔵設備、制御機能付きLED照明、変圧器、産業用モータ など、SIIが定める基準を満たす指定設備 |
|---|---|
| 補助率 | 申請タイプにより異なる(一般枠で1/3、トップ性能枠で1/2 など) |
| スケジュール(2026年度/令和7年度補正予算) | 1次公募は2026年3月30日〜4月27日で終了。 2次公募は2026年6月上旬〜7月上旬ごろを予定。 3次公募は詳細が決まり次第SIIサイトで公表予定 |
型・区分が多く、自社がどこに当てはまるか迷いやすい制度です。まず全体像を把握してから申請型を選ぶのがおすすめです。
詳しくはこちら:省エネ・非化石転換補助金とは?2つの申請型と4つの事業区分をわかりやすく整理
③ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援事業(東京都)
本制度は、都内の中小規模事業所が、空調・全熱交換器・LEDなどの省エネ設備を更新するときに使える、人気の高い助成金です。
東京都が「2050年CO2排出実質ゼロ(ゼロエミッション東京)」の実現に向けて、中小企業等の省エネルギー化を支援する事業です。令和8年度(2026年度)も実施され、令和8年度が最終年度となる予定です。
高効率空調設備、全熱交換器、LED照明設備、高効率ボイラー、高効率変圧器、断熱窓、高効率コンプレッサ、高効率冷凍冷蔵設備 など(人感センサー等による運用改善も対象)
【対象経費】
設計費・設備費・工事費
助成率・助成上限額は、取り組み内容により次の3段階です。
| 取り組み内容 | 助成率 | 助成上限額 |
|---|---|---|
| 年間CO2排出量を更新前比28t-CO2以上削減できる省エネ設備の導入・運用改善 | 3/4 | 4,500万円 |
| 省エネ診断の提案に基づき、年間CO2排出量を更新前比3t-CO2または30%以上削減 | 2/3 | 2,500万円 |
| 自ら計画を作成し、年間CO2排出量を更新前比3t-CO2または30%以上削減 | 2/3 | 1,000万円 |
申請受付は年6回で、前年度の年5回から増加しました。第1回は2026年4月21日〜5月8日、以降おおむね2か月ごとに申請を受け付けています。
詳しくはこちら:
④スマートCO2排出削減設備導入事業(埼玉県)
本制度は、埼玉県内の中小企業が、高効率空調への更新や太陽光発電の新設などを行うときに使える補助金です。令和8年度の詳細はまだ公開されていないため、以下は令和7年度の内容を参考として掲載します。
(1)高効率省エネルギー設備への更新(空調・ボイラー・コンプレッサー・変圧器・冷凍冷蔵設備等)
(2)再生可能エネルギー利用設備の導入(蓄電池の設置を伴う太陽光発電等)
(3)CO2排出量の少ない燃料等への設備更新
(4)EMSと(1)〜(3)の同時導入
| 対象事業 | 補助率 | 補助上限額 |
|---|---|---|
| (1)高効率省エネ設備更新/ (3)燃料転換等 | 補助対象経費の1/3以内 | 上限300万円 |
| (2)再エネ利用設備の導入 | 補助対象経費の1/3以内 | 上限500万円 |
| (4)EMSと(1)〜(3)の同時導入 | 補助対象経費の1/2以内 | 上限1,000万円 |
補助対象経費30万円以上の事業が対象で、照明設備は対象外です。申請時点で1年以上(再エネ設備は1か月以上)営業している事業所が対象となります。
参考:令和8年度 スマートCO2排出削減設備導入事業(埼玉県)
⑤中小事業者高効率空調機導入支援事業補助金(大阪府)
本制度は、大阪府内の工場・事業場で、既存の空調機を高効率空調機へ「更新」する中小事業者向けの補助金です。
大阪府が、脱炭素化と電気料金の削減による経営力強化を目的に、高効率空調機への更新を支援する事業です。令和8年度(2026年度)版が実施されています。
| 対象者 | 大阪府内で運営する工場・事業場において、既存の空調機を高効率空調機へ更新する中小事業者。府の「脱炭素経営宣言登録制度」に基づく宣言が必要。リースの活用でも申請可能(リース事業者を代表、利用者を共同申請者とする) |
|---|---|
| 対象設備 | グリーン購入法の基準を満たすエアコン、ガスヒートポンプ式冷暖房機(GHP) |
| 対象経費 | 設備費(高効率空調機本体+付帯設備)、工事関連費(設計、工事、既存空調機の撤去・処分) |
| 補助率・上限 | 補助対象経費の1/2以内、上限500万円(1法人あたり)、下限20万円 |
| スケジュール(令和8年度) | 応募期間は2026年4月13日〜6月30日(当日消印有効)。 先着順で、予算額に達した時点で期間内でも受付終了。 2026年5月時点で残り枠が少なくなっているため、検討中の事業者は早めの確認をおすすめします |
| 注意点 | 交付決定後に発注・契約を行うこと(決定前の契約は対象外)。補助金は原則、事業完了後の精算払い(後払い) |
人気が高く、応募期限を前倒しして終了する可能性もあります。検討している方は、早めの行動をおすすめします。
参考:令和8年度 中小事業者高効率空調機導入支援事業補助金(大阪府)
換気や空調設備の補助金に関する注意点
補助金の情報収集から採択までをスムーズに進めるために、あらかじめ注意点を把握しておきましょう。
着工前(交付決定前)の発注・契約は対象外
最も多い失敗が、補助金の交付決定を待たずに設備を発注・契約してしまうケースです。今回紹介した制度の多くは、交付決定の前に発注・契約・工事に着手すると補助対象外になります。「申請して採択されてから動く」が大原則です。
正確な情報をもとに申請する
補助金は、対象要件や必要書類が明確に定められています。国や自治体の正式な公募要領を確認し、提出書類の不足や認識のずれがないように準備しましょう。要件を満たしていない、書類に不備がある、といった理由で不採択になることもあります。
申請期間を確認する
補助金には申請期間があり、期間を過ぎると申請できません。また、期間内でも予算上限に達した時点で受付を終了する制度(先着順など)もあります。設備更新を考えている事業者は、早めの準備と申請を意識しましょう。
採択されないこともある
補助金は審査があるため、申請すれば必ず受け取れるわけではありません。条件を満たすことはもちろん、事業計画書が必要な場合は、補助金の必要性や事業の整合性、企業の優位性・将来性が伝わる内容になっているかを改めて確認しましょう。
よくある質問
換気扇の交換に補助金は使える?
換気扇そのものを対象とする補助金はほとんどありません。省エネ・脱炭素を目的とした補助金は省エネ効果で対象を判断するため、消費電力の小さい換気扇単体では対象になりにくいためです。一方、給気と排気の熱を交換して冷暖房のロスを抑える全熱交換器(高機能換気設備)であれば、国や都道府県の省エネ補助金の対象設備に含まれることが一般的です。換気設備の更新を補助金で行いたい場合は、全熱交換器への更新・新設として検討するのがおすすめです。
業務用エアコン(空調設備)の更新に使える補助金はある?
あります。国の「省エネ・非化石転換補助金」では設備単位型で空調設備が対象になり、環境省の脱炭素ビルリノベ事業でも高効率空調が対象です。自治体でも、東京都のゼロエミッション補助金や大阪府の高効率空調機導入支援事業など、業務用エアコンの更新に使える制度があります。工場・事業場での既存設備の更新が対象になりやすいので、所在地の自治体制度とあわせて確認しましょう。
補助金を申請する前に気をつけることは?
最も注意したいのは、交付決定の前に設備を発注・契約・着工しないことです。多くの制度では、交付決定前に着手すると補助対象外になります。また、先着順で予算に達すると受付を終了する制度や、申請期間が短い制度もあるため、公募要領で要件と期間を早めに確認し、余裕をもって準備することが大切です。
まとめ
ここまで、換気・空調設備の導入・更新に使える補助金を、国の制度と自治体の制度に分けて紹介しました。
電気料金の高止まり、エアコンの「2027年問題」、2050年カーボンニュートラルに向けた脱炭素対応、さらに職場の熱中症対策の義務化と、設備更新を後押しする要因は重なっています。省エネ性能の高い換気・空調設備への更新は、コスト削減と職場環境の改善を同時に進められる取り組みです。
制度ごとに対象や期間、補助率は異なり、年度ごとに内容も変わります。世の中の動きに合わせてさまざまな補助金が実施されていますので、自社に合った支援制度を見つけて、早めに準備・申請してみてください。
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