2026年7月28日、熊本県で最大震度7を観測する「令和8年熊本地震」が発生し、能登半島地震から続く大規模地震の連鎖が改めて社会に衝撃を与えました。2024年1月の令和6年能登半島地震、2025年1月の埼玉県八潮市道路陥没事故など、想定を超える災害・インフラ事故が相次ぐなか、政府の防災・減災の羅針盤となっているのが「国土強靱化」の枠組みです。
2025年6月6日には、これまでの「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策(2021〜2025年度)」の後継となる第1次国土強靱化実施中期計画(2026〜2030年度、事業規模おおむね20兆円強)が閣議決定され、2026年度から本格的にスタートしました。
この記事では、国土強靱化基本法から始まる政策の系譜、5か年加速化対策の実績、第1次実施中期計画の5つの柱と主な施策、そして事業者・個人が今すぐ活用できる関連補助金までを、公式資料に基づいてわかりやすく整理します。
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この記事の目次
国土強靱化とは?基本法から実施中期計画までの全体像
国土強靱化とは、大規模自然災害等に備え、事前防災・減災と迅速な復旧復興に資する強くしなやかな国づくりを進める政策の総称です。2013年12月に施行された「国土強靱化基本法」を根拠法とし、基本計画→年次計画→実施中期計画という3層構造で運用されています。
政策の系譜は以下のとおりです。
2013年12月:国土強靱化基本法 施行
2014年 6月:国土強靱化基本計画 策定
2018年12月:防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策 閣議決定(2018〜2020年度、約7兆円、160項目)
2020年12月:防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策 閣議決定(2021〜2025年度、事業規模おおむね15兆円、123対策)
2023年 6月:改正国土強靱化基本法 公布・施行(実施中期計画が法定計画化)
2025年 6月:第1次国土強靱化実施中期計画 閣議決定(2026〜2030年度、事業規模おおむね20兆円強、114推進施策)
2026年 7月:国土強靱化年次計画2026 決定
国土強靱化基本法(2013年)と基本計画
国土強靱化基本法は、2011年の東日本大震災の教訓を踏まえ、「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」として2013年12月に成立・施行されました。翌2014年6月に、同法に基づく上位計画として「国土強靱化基本計画」が策定され、国と地方公共団体の他の計画等の指針となっています。
3か年緊急対策から5か年加速化対策への展開
2018年の西日本豪雨・台風21号等の激甚災害を受け、2018〜2020年度を対象に3か年緊急対策(約7兆円・160項目)が実施されました。続いて2020年12月、2021〜2025年度の5年間を対象とする5か年加速化対策(当初事業規模おおむね15兆円・123対策)が閣議決定されました。
2023年改正で実施中期計画が法定計画化
2023年6月に公布・施行された改正国土強靱化基本法により、これまで閣議決定ベースだった中期的な実施計画が「国土強靱化実施中期計画」として法定計画に位置付けられました。第1次実施中期計画は、この改正法に基づく初めての法定計画として2025年6月6日に閣議決定されています。
5か年加速化対策(2021〜2025年度)の実績
5か年加速化対策は令和7年度末(2026年3月)で計画期間が終了し、事業規模は当初目標のおおむね15兆円を上回る約15.6兆円(うち国費約8.0兆円)が確保されました(内閣官房調べ、令和6年度補正予算まで累計)。
3つの柱と実績配分は以下のとおりです。
| 柱 | 対策数 | 当初事業規模 |
|---|---|---|
| Ⅰ.激甚化する風水害・切迫する大規模地震等への対策 | 78対策 | おおむね12.3兆円 |
| Ⅱ.予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策 | 21対策 | おおむね2.7兆円 |
| Ⅲ.国土強靱化に関する施策のデジタル化等の推進 | 24対策 | おおむね0.2兆円 |
代表的な成果には、流域治水プロジェクトの全国展開、緊急輸送道路上の橋梁耐震化率の向上、ダムの事前放流の推進、線状降水帯の予測精度向上などがあります。国土交通省は「国土強靱化5か年加速化対策事例集」として全国の取組をまとめており、5か年加速化対策の効果として被害軽減・早期復旧への貢献、地域防災力の高まり等が第1次実施中期計画の前文でも評価されています。
第1次国土強靱化実施中期計画(2026〜2030年度)の全体像
第1次国土強靱化実施中期計画は、計画期間 令和8〜12年度(2026〜2030年度)の5年間、事業規模おおむね20兆円強を目途とする、法定計画として初めて策定された国土強靱化の実施計画です。
計画の骨格を数字で押さえると次のようになります。
【第1次国土強靱化実施中期計画のサマリー】
・閣議決定日:2025年6月6日
・計画期間:2026年度〜2030年度(5年間)
・全施策数:326施策
・推進が特に必要となる施策:114施策(234指標)
・事業規模の目途:おおむね20兆円強(うちⅠ.5.8兆円、Ⅱ.10.6兆円、Ⅲ.0.3兆円、Ⅳ.1.8兆円、Ⅴ.1.8兆円)
3つの変化への対応
計画では、5か年加速化対策からの環境変化を「災害外力・耐力の変化」「社会状況の変化」「事業実施環境の変化」の3つに整理し、それぞれに対応する方針を打ち出しています。気候変動、人口減少、建設業の担い手不足といった構造的課題を織り込んでいる点が特徴です。
反映された近年の災害教訓
計画には、能登半島地震・豪雨、秋田・山形豪雨、台風10号、日向灘地震、そして2025年1月の埼玉県八潮市道路陥没事故など、直近の災害・事故で得られた教訓が反映されています。特に上下水道の戦略的維持管理、広域支援に不可欠な陸海空の交通ネットワーク連携、スフィア基準を踏まえた避難所環境改善が明確に位置付けられました。
実施中期計画・5つの柱と主要施策
第1次国土強靱化実施中期計画では、施策を次の5つの柱に整理しています。
| 柱 | 施策数 | 指標数 | 事業規模 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ.防災インフラの整備・管理 | 28施策 | 76指標 | おおむね5.8兆円 |
| Ⅱ.ライフラインの強靱化 | 42施策 | 87指標 | おおむね10.6兆円 |
| Ⅲ.デジタル等新技術の活用 | 16施策 | 24指標 | おおむね0.3兆円 |
| Ⅳ.官民連携強化 | 13施策 | 18指標 | おおむね1.8兆円 |
| Ⅴ.地域防災力の強化 | 16施策 | 29指標 | おおむね1.8兆円 |
Ⅰ.防災インフラの整備・管理
流域治水対策、水災害リスク情報の充実、線状降水帯・大規模地震等の情報高度化、道路橋梁の耐震機能強化などが柱となります。代表的な指標として、緊急輸送道路(約11万km)上の橋梁(約6.5万橋)の耐震化率を令和5年度の82%から令和12年度に88%、令和38年度に100%とする目標が設定されています。
Ⅱ.ライフラインの強靱化
事業規模10.6兆円と最大の柱で、上下水道システムの耐震化、送電網の強化、通信システムの災害時自立性強化、道路施設の老朽化対策等が含まれます。埼玉県八潮市の陥没事故を受け、損傷リスクが高く事故発生時に社会的影響が大きい大口径下水道管路(全国特別重点調査対象約5,000km)の健全性確保率を令和12年度までに100%とする目標が新たに掲げられました。
Ⅲ.デジタル等新技術の活用
AI・ドローン・衛星等の技術を防災対応に組み込む柱です。マイナンバーカードを活用した避難所運営効率化、衛星通信システムに関する制度整備、フェーズフリーなデジタル体制の構築などが含まれます。国管理河川(約1万km)における河川巡視の無人化に対応するドローン通信環境の整備率を、令和6年度の0%から令和12年度に22%、令和15年度に100%とする目標が設定されています。
Ⅳ.官民連携強化
住宅・建築物の耐震化、密集市街地の火災対策、保健・医療・福祉支援の連携強化、立地適正化計画と国土強靱化施策の連携が含まれます。住宅の耐震化率は令和5年度の90%から令和12年度に95%、令和17年度には耐震性が不十分なものをおおむね解消することを目指しています。事業継続計画(BCP)の策定、サプライチェーンの複線化など、民間事業者の取組もこの柱に位置付けられています。
Ⅴ.地域防災力の強化
スフィア基準等を踏まえた避難所環境の抜本的改善、国等によるプッシュ型支援物資の分散備蓄強化、学校施設の耐災害性強化、避難所での自立分散型エネルギーシステム構築などが柱です。避難所等にもなる公立小中学校の体育館等(32,616室)の空調設備設置完了率を、令和6年度の18.9%から令和12年度に68.1%、令和17年度に100%とする目標が示されています。
事業者・個人が活用できる国土強靱化関連の補助金・支援策
国土強靱化は国・自治体主体のインフラ投資が中心ですが、事業者や個人が自ら備えを進める場合にも、関連する補助金・助成金が数多く用意されています。ここでは代表的な制度をカテゴリ別に紹介します。
事業者向け:BCP・事業継続支援
Ⅳ.官民連携強化の柱に沿った制度として、BCP(事業継続計画)の策定・実践を支援する助成金が全国の自治体で用意されています。代表的なのが東京都の「BCP実践促進助成金」で、令和8年度は最大1,000万円・補助率1/2で、非常用電源やクラウド化、耐震対策等の設備投資を支援します。宮城県などでも同様のBCP補助金が整備されています。
個人・世帯向け:耐震化・防災用品の補助
Ⅳ.官民連携強化の「住宅・建築物の耐震化」に対応する住宅向け支援としては、耐震診断・耐震改修への補助、耐震シェルター・防災ベッドの設置補助、家具転倒防止金具の助成、感震ブレーカーの設置補助などがあります。全国の自治体で防災用品購入や家具固定への補助制度が用意されており、地域によって上限額・補助率が異なります。
予算面の動向:国交省の令和8年度予算
国土強靱化関連の公共事業予算は毎年の当初予算・補正予算で措置されます。国土交通省の令和8年度概算要求額は7兆812億円で、防災・インフラ老朽化対策の加速が重点とされています。事業者向けの補助金公募も、この予算措置に連動して各省庁・自治体から順次公表されます。
【補助金活用のポイント】
国土強靱化に関連する補助金は、国交省・経産省・農水省・環境省・厚労省など多省庁にまたがり、実施主体も国・都道府県・市区町村と多層です。公募時期・要件は制度ごとに異なるため、自社・自宅の所在地の自治体HP、および各省庁の公募情報を定期的に確認するとともに、当ポータルの補助金検索や無料相談をご活用ください。
国土強靱化に関するよくある質問
国土強靱化と防災・減災はどう違うのですか?
防災・減災は個々の災害への対策を指す用語ですが、国土強靱化はより上位の概念で、平時からのインフラ整備や社会システムの見直しを通じて、大規模災害時にも社会経済機能が致命的な被害を受けず、迅速に回復できる「強くしなやかな国」を構築する取組を指します。防災・減災は国土強靱化を構成する要素の一つと位置付けられます。
第1次国土強靱化実施中期計画はいつから始まりますか?
第1次国土強靱化実施中期計画は2025年6月6日に閣議決定され、計画期間は令和8年度(2026年度)から令和12年度(2030年度)までの5年間です。2026年度からすでに執行が始まっており、事業規模はおおむね20兆円強を目途としています。
5か年加速化対策と第1次実施中期計画の違いは何ですか?
5か年加速化対策(2021〜2025年度、事業規模おおむね15兆円)は閣議決定ベースの計画でしたが、第1次国土強靱化実施中期計画(2026〜2030年度、おおむね20兆円強)は2023年改正国土強靱化基本法に基づく初の法定計画です。事業規模が拡大したほか、施策数が326(うち推進施策114)に増え、5つの柱に再編されました。近年の能登半島地震や埼玉県八潮市道路陥没事故の教訓も反映されています。
5か年加速化対策の最終的な事業規模はいくらでしたか?
当初目標のおおむね15兆円に対し、令和6年度補正予算までの累計で約15.6兆円(うち国費約8.0兆円)の事業規模が確保されました。内閣官房国土強靱化推進室が公表しています。
第1次実施中期計画の5つの柱とは何ですか?
Ⅰ.防災インフラの整備・管理(おおむね5.8兆円)、Ⅱ.ライフラインの強靱化(おおむね10.6兆円)、Ⅲ.デジタル等新技術の活用(おおむね0.3兆円)、Ⅳ.官民連携強化(おおむね1.8兆円)、Ⅴ.地域防災力の強化(おおむね1.8兆円)の5つです。合計事業規模はおおむね20兆円強を目途としています。
埼玉県八潮市の道路陥没事故は計画にどう反映されていますか?
2025年1月の埼玉県八潮市道路陥没事故を受け、第1次実施中期計画では「上下水道施設の戦略的維持管理・更新」が推進施策に明記されました。損傷リスクが高く事故発生時に社会的影響が大きい大口径下水道管路(全国特別重点調査対象約5,000km)について、令和12年度までに健全性の確保率を100%とする目標が新たに設定されています。
中小企業が使える国土強靱化関連の補助金はありますか?
はい、あります。代表的なのが東京都の「BCP実践促進助成金」で令和8年度は最大1,000万円・補助率1/2を支援します。宮城県などでも同様のBCP補助金があり、非常用電源・耐震対策・クラウド化などの投資に活用できます。また、地震対策・防災備蓄関連の補助金も自治体単位で整備されています。所在地の自治体HPと当ポータルの補助金検索で最新の公募情報を確認してください。
個人が使える耐震・防災の補助金はありますか?
全国の自治体で、住宅の耐震診断・耐震改修、耐震シェルター・防災ベッドの設置、家具転倒防止金具の設置、感震ブレーカー、防災用品の備蓄などに対する補助制度が整備されています。上限額・補助率は自治体ごとに大きく異なるため、居住する市区町村の防災担当部署の情報を必ず確認してください。
住宅の耐震化率の目標はどうなっていますか?
第1次実施中期計画では、居住世帯のある住宅のストック総数のうち、大規模地震時に倒壊等しないよう耐震性が確保されている住宅の割合(住宅の耐震化率)を、令和5年度の90%から令和12年度に95%、令和17年度には耐震性が不十分なものをおおむね解消することを目標としています。
国土強靱化年次計画とはどのようなものですか?
国土強靱化年次計画は、基本計画・実施中期計画の下で毎年度策定される具体的な施策推進の方針です。最新版は2026年7月に決定された「国土強靱化年次計画2026」で、第1次実施中期計画の推進や地域計画の内容充実、官民連携の促進、地域の強靱化への交付金・補助金の重点化などが盛り込まれています。
まとめ
第1次国土強靱化実施中期計画は、5か年加速化対策の後継として2026年度からスタートした、事業規模おおむね20兆円強の5か年計画です。2023年改正国土強靱化基本法に基づく初の法定計画として、法的な位置付けも一段引き上げられました。
計画は「防災インフラの整備・管理」「ライフラインの強靱化」「デジタル等新技術の活用」「官民連携強化」「地域防災力の強化」の5つの柱で構成され、114の推進施策と234の指標により進捗管理が行われます。埼玉県八潮市の道路陥没事故や能登半島地震の教訓を踏まえ、上下水道の維持管理や交通ネットワークの連携強化、スフィア基準の避難所環境などが新たに強化されました。
事業者・個人にとっては、この大きな政策の流れに連動して、BCP補助金・耐震補助・防災用品補助など多岐にわたる支援制度が用意されています。自社・自宅の状況に合った制度を見つけ、着実な備えを進めていきましょう。
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