令和2年度の概算要求が厚生労働省から公表されました。厚生労働省は、「ひと、くらし、みらいのために」をキャッチフレーズに、人々が安心して一生を送るためさまざまな角度から暮らしを支援しています。令和2年度予算の概算要求は32兆6234億円で、過去最大となりました。さっそくどのような内容だったのか調べてみようと思います。
参考:令和2年度厚生労働省予算概算要求の主要事項
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/20syokan/
令和2年度の要求額
厚生労働省の概算要求額は、一般会計総額 32兆6234億円で昨年予算よりも6593億円増額(+2.1%増)となり、高齢化による社会保障費の増加を見込んだものとなりました。その中で年金・医療等にかかる経費として30兆5269億円(年比 5353億円増)を要求しています。
団塊ジュニア世代が高齢者となり現役世代の減少が進む2040年頃を見据え、誰もがより長く元気に活躍でき安心して暮らすことができるよう、以下を柱として重点的な要求を行いました。
1、多様な就労・社会参加の促進
2、健康寿命延伸等に向けた保健・医療・介護の充実
3、安全・安心な暮らしの確保等
出典:令和2年度厚生労働省予算概算要求の概要 P.4
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/20syokan/
これらを通じて人生100年時代に対応した全世代型社会保障の構築に取り組み、成長と分配(消費の底上げ・現役世代の増・投資の拡大、持続的な経済成長の実現、社会保障の基盤強化)の好循環の拡大を図ることを目指します。さて3つの柱でどのような項目が重点的要求として上げられたのでしょうか。1つずつみていきましょう。
この記事の目次
1、多様な就労・社会参加の促進
2040年を展望すると、高齢者の人口の伸びは落ち着き、現役世代が急減するとみられています。そのため「総就業者数の増加」が必要となり、より多くの人が社会の担い手として長く活躍できるような取り組みが求められます。この詳細項目として以下の3つが上がりました。
●働き方改革の推進による誰もが働きやすい環境づくり
●多様な人材の活躍促進
●人材育成の強化と人材確保対策の推進
これらは中小企業・小規模事業者に対する支援、助成金の拡充・創設やハローワークにおける専門相談窓口の設置などを計画している模様です。主な取り組みを順番にみていきましょう。
※以下、計数は令和2年度概算要求額、( )内は前年度の当初予算額を表しています。
【働き方改革の推進による誰もが働きやすい環境づくり】
・長時間労働の是正や安全で健康に働くことができる職場づくり:359億円(309億円)
・最低賃金・賃金引上げに向けた生産性向上等の推進、同一労働同一賃金など雇用形態に関わらない公正な待遇の確保:1449億円(1223億円)
・柔軟な働き方がしやすい環境整備:6.4億円(4.9億円)
・総合的なハラスメント対策の推進:45億円(40億円)
・治療と仕事の両立支援:35億円(32億円)
誰もが働きやすい環境づくりのため、中小企業・小規模事業者に対する支援を拡充していくことが予想されます。たとえば「働き方改革推進支援センター」によるワンストップ型の相談支援、専門家派遣や出張相談、セミナーのほか、新たに専門家が直接企業を訪問し、課題に対応するプッシュ型支援の実施が計画されています。
また、長時間労働の是正、最低賃金・賃金引上げ、同一労働同一賃金など雇用形態に関わらない公正な待遇の確保に力を入れて取り組んでいくことも盛り込まれました。そのほか、雇用型テレワークの普及促進のための導入支援や、フリーランス等が契約などのトラブルを抱えたときに相談できる窓口の整備等を通して柔軟な働き方がしやすい環境整備を行う予定です。誰もが働きやすい環境づくりを推進するために、拡充・創設が予定されている助成金には以下のようなものが上がりました。
◎時間外労働削減、勤務間インターバル導入、年次有給休暇取得推進等に取り組む中小企業及び事業主団体への助成金の拡充(時間外労働等改善助成金)
◎最低賃金・賃金引上げに向けた生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者への助成金の拡充(業務改善助成金)
◎高齢者の特性に配慮した安全衛生確保対策を行う企業への助成金の創設
中小企業による高年齢労働者の安全・健康確保措置を支援するための助成金が創設される予定です。高齢者の就労・社会参加の促進をするにあたり、高齢労働者の安全衛生対策を進めることが狙いと思われます。
【多様な人材の活躍促進】
・高齢者の就労・社会参加の促進:313億円(289億円)
・就職氷河期時代活躍支援プランの実施:653億円(489億円)
・女性活躍の推進:222億円(172億円)
・障害者の就労促進:177億円(173億円)
・外国人材受入れの環境整備:125億円(108億円)
こちらは高齢者、就職氷河期世代、女性など、多様な人材が活躍できる環境を整備するための取り組みが並びました。65歳以上の再就職支援に重点的に取り組み、ハローワークに「生涯現役支援窓口」を増設する予定です。また、65歳超の継続雇用延長等に向けた環境整備や中途採用拡大を行う企業への助成を引き続き行っていきます。なお中途採用等支援助成金の見直しの方向性も示されたので、注目していきたいと思います。
ほかには、就職氷河期世代活躍支援プランの新規取り組みとして、「ハローワークにおける専門窓口の設置、専門担当者のチーム制による就職相談、職業紹介、職場定着までの一貫した伴走型支援」が上がりました。これは不安定な就労状態にある一人ひとりの課題・状況をふまえて専門担当者によるチームを結成、求職者とともに支援計画を作成し、職場定着までの計画的かつ総合的な支援を目指すものです。そのほか、子育て等により離職した女性の再就職支援、障害者の雇い入れ支援等の強化、新規の取り組みとして、自治体と連携した地域における外国人材の受入れ・定着のためのモデル事業の実施なども上がりました。高齢者、就職氷河期世代、女性、障害者、外国人などの多様な人材の意欲・能力を活かすことで、人手不足の解消につなげていく印象を受けました。なお、拡充が予定されている助成金には以下のようなものがあります。
◎就職氷河期世代の失業者等を正社員で雇い入れた企業への助成金の拡充(特定求職者雇用開発助成金)
◎男性の育休等の取得促進を図る企業への助成金の拡充(両立支援等助成金)
【人材育成の強化と人材確保対策の推進】
・高齢期も見据えたキャリア形成支援の推進:1734億円(1204億円)
・人材確保対策の総合的な推進:421億円(376億円)
高齢者の就業が当たり前になる今後に向けて、労働者のキャリアプランの再設計や企業内のキャリアコンサルティング導入等を支援する拠点の整備を新規で行います。企業の実情に応じた中高年齢層向けの訓練、リカレント教育の推進なども上がりました。そのほか福祉分野や、建設業、警備業、運送業など雇用吸収力の高い分野でのマッチング支援を強化するため、ハローワークの「人材確保対策コーナー」を拡充し、関係団体等と連携した人材確保支援に取り組む計画が上がっています。
2、健康寿命延伸等に向けた保健・医療・介護の充実
続いて、第2の柱についてみていきます。団塊の世代が75歳以上になり医療・介護等の需要の急増が予想される2025年だけでなく、その先を見据えた課題解決のための以下の取り組みに対して予算を要求しています。
出典:政府オンライン 社会保障PDF
https://www.gov-online.go.jp/cam/syaho2017/_shared/pdf/syaho_syakai.pdf
●地域包括ケアシステムの構築等
●健康寿命延伸、感染症・がん・肝炎・難病対策等の推進
●医療・福祉サービス改革による生産性の向上、Society5.0の実現に向けた科学技術・イノベーションの推進
●安定的で持続可能な医療保険制度の運営確保
●医療の国際展開・国際保護への貢献
●医薬品・食品等の安全の確保
●強靭・安全・持続可能な水道の構築
額の大きいものや新規の取り組みなど、抜粋して以下に記載します。
【地域包括ケアシステムの構築等】
・地域医療構想・医師偏在対策・医療従事者働き方改革の推進:979億円(844億円)
・介護の受け皿整備、介護人材の確保:811億円(792億円)
医師少数区域等の医師の勤務環境改善等の支援、総合診療医の養成支援、ICT活用やタスク・シフティング等の勤務環境改善・労働時間短縮に取り組む医療機関の支援などがあがりました。また、介護ニーズの増加を背景に、介護施設等の整備に関する事業の実施、介護人材確保対策のためアクティブシニア等の参入促進セミナーの実施や介護職員に対する悩み相談窓口の設置、若手介護職員同士のネットワーク構築など、多様な取り組みを支援する計画(一部新規)が上がっています。
【健康寿命延伸、感染症・がん・肝炎・難病対策等の推進】
・健康寿命延伸に向けた予防・健康づくり:1025億円(1004億円)
・ハンセン病対策の推進:10億円(7.2億円)
2040年までに健康寿命を男女ともに3年以上延伸し、75歳以上とすることをめざす「健康寿命延伸プラン」に基づき、個人・集団の健康格差を解消し、健康寿命の更なる延伸を図る取り組みを行います。また、ハンセン病問題に関する正しい知識の普及啓発の強化、相談支援体制の充実等への予算を求めています。
【医療・福祉サービス改革による生産性の向上、Society5.0の実現に向けた科学技術・イノベーションの推進】
・データヘルス改革、ロボット・AI・ICT等の実用化推進:607億円(723億円)
生産性向上に向けた医療・福祉サービス改革としてデータヘルス改革、ロボット・AI・ICT等の実用化推進のための予算を要求しました。
「データヘルス改革の推進(一部新規)」として、保健医療ビッグデータの利活用の推進のため、レセプト情報・特定検診等情報データベースで保有する健康・医療・介護情報を連携して分析可能な環境の整備等を行うとともに、保健医療情報を医療機関等で確認できる仕組みを推進していきます。なお、2020年からの本格運用を目指し、医療保険のオンライン資格確認等のシステム開発を行うことも含まれています。
「ロボット・AI・ICT等の実用化の推進(新規)」については、健康・医療分野における基礎研究から実用化までの一体的な研究開発支援(未来イノベーション事業)実施のための予算を要求しています。
第2の柱では、これらのほかに医薬品等に関する安全・信頼性の確保、薬物乱用対策、輸入食品などの食品の安全対策、強靱・安全・持続可能な水道の構築などを推進するとしています。
3、安全・安心な暮らしの確保等
最後に第3の柱についてみてみます。第1の柱は多様な就労・社会参加について、第2の柱は健康寿命の延伸・医療福祉サービス改革等についてでしたがこの柱は「全ての人が安心して暮らせる社会の構築」に関する項目の柱となっています。
●子どもを産み育てやすい環境づくり
●地域共生社会の実現に向けた地域づくり
●障害児・者支援、自殺総合対策、依存症対策の推進
●安心できる年金制度の確立 等
以下抜粋して記載します。
【子どもを産み育てやすい環境づくり】
・「子育て安心プラン」をはじめとした総合的な子育て支援:1305億円(1084億円)
・児童虐待防止対策・社会的養育の迅速かつ強力な推進:1725億円(1637億円)
・ひとり親家庭等への自立支援:1782億円(2237億円)
待機児童解消に向けて「子育て安心プラン」に基づく保育の受け皿整備をはじめとした総合的な子育て支援を行います。保育所等の整備や、保育人材確保のため保育士宿舎借り上げ支援の拡充、保育所等へのICT導入支援による保育士の業務負担軽減を目指しています。
児童虐待防止対策の推進では、児童相談所の設置促進・抜本的体制強化、弁護士・医師・警察OBの配置促進、SNS等を活用した相談窓口の促進、児童福祉司等の研修の充実などが上がっています。また市区町村において、子ども家庭総合支援拠点等による見守り活動の活性化を促すための補助を創設、訪問支援に関する補助を拡充するとしました。また訪問と併せて育児用品の配布を行うなど、保護者が支援を受け入れやすくする取り組みに対する補助を創設する予定です。
「ひとり親家庭等への就業・生活支援など総合的な支援体制の強化」としては、相談窓口のワンストップ化の推進、子どもの学習支援、居場所づくり、養育費確保支援などが上がりました。なかでも自立を促進するための経済的支援(児童扶養手当の支給等)に1647億円を要求しています。
【地域共生社会の実現に向けた地域づくり】
・断らない相談支援を中核とする包括的支援体制の整備促進:58億円(28億円)
・生活困窮者・ひきこもり支援の強化:527億円(439億円)
複合化・複雑化した課題等を受け止める、断らない相談支援を中核とし、生活困窮者自立支援・ひきこもり支援の強化に取り組みます。ひきこもり状態にある方などの社会的孤立に対するアウトリーチの充実や、ひきこもり地域支援センターと自立相談支援機関の連携強化、居場所づくりなどが上がりました。
【障害児・者支援、自殺総合対策、依存症対策の推進】
・障害児・者支援の促進:676億円(573億円)
・自殺総合対策の促進:35億円(31億円)
障害児・障害者の社会参加の機会の確保と地域社会における共生を支援するため、障害福祉サービスの充実、地域生活支援の実施や就労支援、精神障害者や発達障害者などへの支援の推進が上げられました。 地域の実情に応じた実践的な自殺対策の支援としては、「地域自殺対策強化交付金」が上がっています。また、自殺リスクの高い者に対して、自殺につながる可能性のあるさまざまな要因を排除するために、地域のネットワークによる包括的な支援体制を構築するとしています。
【安心できる年金制度の確立】
・持続可能で安心できる年金制度の運営:12兆1260億円(11兆9807億円)
国民の老後の安定したセーフティネットである公的年金制度について、長期的な給付と負担の均衡を図り、年金制度を将来にわたって持続可能なものにする、としました。
まとめ
今回は厚生労働省の令和2年度予算概算要求の内容をみてきました。人生100年時代に対応した全世代型社会保障の構築のために、「多様な就労・社会参加に向けた取り組み」、「健康寿命延伸、医療・福祉サービス改革に向けた取り組み」、「全ての人が安心して暮らせる社会の構築」を柱とし、それらに関連する取り組みに対し重点的に要求を行っていました。
重点要求にあった拡充・創設が予定されている助成金は以下の通りです。
◎時間外労働削減、勤務間インターバル導入、年次有給休暇取得推進等に取り組む中小企業及び事業主団体への助成金の拡充(時間外労働等改善助成金)
◎最低賃金・賃金引上げに向けた生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者への助成金の拡充(業務改善助成金)
◎高齢者の特性に配慮した安全衛生確保対策を行う企業への助成金の創設
◎就職氷河期世代の失業者等を正社員で雇い入れた企業への助成金の拡充(特定求職者雇用開発助成金)
◎男性の育休等の取得促進を図る企業への助成金の拡充(両立支援等助成金)
人々が安心して一生を送るためさまざまな角度から暮らしを支援している厚生労働省。この支援は大きく分けて、赤ちゃん、子どもから定年・老後までのライフステージ別の支援と、保険制度、健康づくり、医療・薬、食の安全、障害者支援、社会援護など、生涯を通じた支援の2つに分けられます。今回の概算要求では、2040年を展望し誰もがより長く元気に活躍できる社会の現実を目指す要求が行われました。1月にどのような閣議決定がなされるのか、注目してみていきたいと思います。