日本は現在、農林漁業者の減少・高齢化、人口減少に伴う国内マーケットの縮小という大きな課題を抱えています。生命を支える「食」と、安心して暮らせる「環境」を未来の子供たちに継承することをミッションとする農林水産省では、来年度の予算概算要求で9つのテーマを掲げました。
今回は、農林水産省の令和5年度概算要求について概要を紹介します。
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この記事の目次
令和5年度の要求額
農林水産予算総額は2兆6808億円で、対前年度比17.7%の増加となりました。世界の食料需給を巡るリスクの顕在化への対応と、農林水産業の成長産業化と農山漁村の次世代への継承実現に向けた「食料安全保障の確立」と「農林水産業の持続可能な成長推進」のための予算を要求しています。
出典:令和5年度農林水産予算概算要求の骨子
以下の項目は事項要求として提出し、予算編成過程で検討するとしています。
- 「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に係る経費
- 「総合的なTPP等関連政策大綱」を踏まえた農林水産分野における経費
- 食料安全保障の強化に向けた対応に係る経費
令和5年度農林水産関係予算の9つのテーマ
農林水産省の概算要求は9つのテーマで構成されています。
ここからは、各テーマの実施予定の事業について、予算の大きい所や、予算が増加している所などを抜粋して記載します。(以下、参考・出典:令和5年度農林水産関係予算概算要求の重点事項)
1.生産基盤の強化と経営所得安定対策の着実な実施、需要拡大の推進
1.生産基盤の強化と経営所得安定対策の着実な実施、需要拡大の推進 ※( )内は令和4年度予算額 | |
持続的生産強化対策事業 | 201億円 (174億円) |
水田活用直接支払交付金 | 3,460億円 (3,050億円) |
畜産生産力・生産体制強化対策事業 | 15億円の内数 (9億円の内数) |
収入保険制度の実施 | 334億円 (184億円) |
ニッポンフードシフト総合推進事業等 | 133億円の内数 |
野菜、果樹、花き、茶・薬用作物等の持続的な生産基盤強化に向けて、農業者や農業法人、民間団体等が行う生産性向上や販売力強化の取組、国際水準GAPの推進、地方公共団体が主導する産地全体の発展を図る取組を総合的に支援するための予算の増額を要求しています。
また、水田の麦、大豆、米粉用米等の本作化などに向けた水田活用直接支払交付金のほか、収入保険制度の実施(収入保険、ゲタ・ナラシ、野菜価格安定対策、マルキン等の経営安定対策の実施)などの増額も目指しています。
食と環境を支える農林水産業・農山漁村の魅力等について、メディア・SNS等を活用した情報発信(国民の理解醸成)を行い、国産農林水産物や有機農産物の国内外の需要拡大を推進するニッポンフードシフト総合推進事業等にも予算を計上しています。
2.2030年輸出5兆円目標の実現に向けた農林水産物・食品の輸出力強化、食品産業の強化
2.2030年輸出5兆円目標の実現に向けた農林水産物・食品の輸出力強化、食品産業の強化 | |
マーケットインによる海外での販売力の強化 | 42億円 (31億円) |
輸出産地・事業者の育成・展開 | 13億円 (10億円) |
知的財産の実効的な管理・保護と海外流出の防止 | 6億円 (3億円) |
サステナブル食品産業モデル実証事業 | 1億円(ー) |
5兆円目標の実現に向けて、官民一体となった海外での販売力の強化、マーケットインの発想で輸出にチャレンジする農林水産事業者の後押し、省庁の垣根を超えた政府一体となった輸出の障害の克服等を支援します。
具体的には、輸出先国での支援体制の強化、改正輸出促進法に基づく品目団体の取組の強化、海外需要の開拓など輸出を後押しする食産業の海外展開等の取り組みを支援します。輸出産地・事業者の育成・展開としては、GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)を通じた輸出産地育成、安定供給体制の強化を図るための予算増額を要求しています。
そのほか、知的財産の実効的な管理・保護と海外流出の防止のため、育成者権管理機関等による知的財産の実効的な管理・保護にかかる予算も計上しています。
新事業の創出と食品産業の競争力強化として、国産原材料への切替による新商品開発や輸入原材料の使用節減の取り組みなどを支援する、サステナブル食品産業モデル実証事業に1億円を計上しています。
3.環境負荷低減に資する「みどりの食料システム戦略」の実現に向けた政策の推進
3.環境負荷低減に資する「みどりの食料システム戦略」の実現に向けた政策の推進 | |
みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業 | 80億円 (35億円) |
みどりの食料システム戦略推進総合対策 | 30億円の内数 (8億円の内数) |
環境保全型農業直接支払交付金 | 28億円 (27億円) |
ニッポンフードシフト総合推進事業 | 2億円(1億円) |
環境負荷低減のための「みどりの食料システム戦略」の実現に向けて、持続的な食料システムの構築を目指す地域の取り組みを支援する交付金等の活用に加えて、資材・エネルギーの調達から生産、流通、消費までの各段階の取り組みとイノベーションを推進します。
化学農薬・化学肥料の使用量低減と高い生産性を両立する新品種・技術の開発や、スマート農業技術やペレット堆肥の活用技術の実証等を行う「みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業」や、持続的な食料システムの構築に向けた中長期的な研究開発を実施する「ムーンショット型農林水産研究開発事業」などの増額を要求しています。
4.スマート農林水産業、eMAFF等によるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
4.スマート農林水産業、eMAFF等によるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進 | |
スマート農業の総合推進対策 | 39億円 (14億円) |
林業デジタル・イノベーション総合対策 | 32億円 (ー) |
スタートアップへの総合的支援 | 10億円 (4億円) |
eMAFF等によるDXの推進 | (デジタル庁計上)77億円(45億円) |
スマート農業の社会実装を加速するため、必要な技術開発・実証やスマート農業普及のための環境整備等について総合的に取り組むための予算を計上しています。
ほかに、農林漁業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進として、農林水産省が所管する全ての行政手続の業務の抜本的な見直しを進めながら、行政手続におけるオンライン申請の割合を高めていきます。これは農林漁業者の高齢化や労働力不足等の課題がある中で、担い手が経営に集中できる環境を整備することを目的としています。
新規の林業デジタル・イノベーション総合対策では、林業機械の自動化・遠隔操作化や木質系新素材等の開発・実証、森林資源情報のデジタル化の推進、ICT等を活用した生産管理の効率化など「デジタル林業戦略拠点」の構築を図ります。
5.食の安全と消費者の信頼確保
5.食の安全と消費者の信頼確保 | |
家畜衛生等総合対策 | 70億円 (65億円) |
消費・安全対策交付金等 | 37億円の内数 (21億円の内数) |
「家畜衛生等総合対策」で、家畜の伝染性疾病の発生・侵入予防とまん延の防止、デジタル技術を活用した獣医療提供体制の強化に取り組みます。このほか「消費・安全対策交付金」では、消費・安全対策交付金豚熱・鳥インフルエンザ等の家畜の伝染性疾病や農作物の安定生産に影響のある病害虫の発生予防・まん延防止、国産農畜水産物の安全性の向上及び食育の推進に向けた都道府県等の取組支援のための予算等を計上しています。
6.農地の効率的な利用と人の確保・育成、農業農村整備
6.農地の効率的な利用と人の確保・育成、農業農村整備 | |
地域計画の策定の推進 | 24億円 (ー億円) |
農地中間管理機構を活用した農地の集約化の推進 | 104億円 (51億円) |
新規就農者の育成・確保に向けた総合的な支援 | 224億円 (207億円) |
農業農村整備事業(公共) | 3,933億円(3,322億円) |
高齢化・人口減少が本格化し、地域の農地が適切に利用されなくなることが懸念される中、農業者等による協議(話合い)を踏まえ、地域の農業の在り方や農地利用の姿を明確化した地域計画の策定支援のための予算を新たに計上しています。
そのほか、新規就農者の育成・確保、女性の活躍推進として、新規就農者の育成・確保に向けた支援の予算増額を求めています。
農業農村整備事業(公共)では、競争力強化のための農地の大区画化や汎用化・畑地化や、国土強靱化のための農業水利施設の適切な更新・長寿命化、省エネ化・再エネ利用、ため池の防災・減災対策等を推進します。
7.農山漁村の活性化
7.農山漁村の活性化 | |
農山漁村振興交付金 | 138億円 (98億円) |
鳥獣被害防止対策とジビエ利活用の推進 | 127億円 (101億円) |
多面的機能支払交付金 | 493億円 (487億円) |
農山漁村における定住等の促進や農山漁村に関わる関係人口の創出・拡大を図るため、地域資源を活用した計画策定や各種取組の実践、デジタル技術を活用した課題解決を支援する交付金の増額などを要求しています。ICTを活用した鳥獣被害防止対策の推進とジビエ利活用の拡大支援、森林におけるシカ被害の効果的な抑制のための林業関係者による捕獲効率向上・新規参入の促進や国有林野におけるシカ捕獲等を実施します。
ほかに、農業・農村の多面的機能の維持・発揮や地域全体で担い手を支えることを目的として、農業者等で構成される活動組織が行う農地を農地として維持するための地域活動等を支援する交付金の予算を計上しています。
8.カーボンニュートラル実現に向けた森林・林業・木材産業によるグリーン成長
8.カーボンニュートラル実現に向けた森林・林業・木材産業によるグリーン成長 | |
森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策 | 155億円 (116億円) |
森林整備事業(公共) | 1,478億円 (1,248億円) |
カーボンニュートラルを見据えた森林・林業・木材産業によるグリーン成長を実現するための取り組みを総合的に支援するための予算を計上しています。森林整備事業(公共)では、森林吸収量の確保・強化や国土強靱化、林業の持続的発展等のため、間伐の着実な実施に加え、主伐後の再造林、幹線となる林道の開設・改良等を推進するための予算を計上しています。
9.水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化
9.水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化 | |
漁業経営安定対策の着実な実施 | 642億円 (335億円) |
漁業構造改革総合対策事業 | 100億円 (20億円) |
水産多面的機能の発揮等 | 56億円 (42億円) |
水産基盤整備事業(公共) | 860億円(727億円) |
資源調査・評価の拡充、次世代人材の育成・確保など、漁業経営安定対策の着実な実施のための予算のほか、多目的漁船や大規模沖合養殖システム等の導入実証、共同利用施設の整備を支援する漁業構造改革総合対策事業の予算増額を要求しています。
水産基盤整備事業(公共)では、国民に安心で高品質な水産物を安定的に供給し、輸出の拡大等による水産業の成長産業化を実現するための予算を計上しています。具体的には、拠点漁港の流通機能強化と養殖拠点の整備の推進、環境変化に対応した漁場整備や藻場・干潟の保全・創造のほか、漁港施設の強靱化・長寿命化対策などがあけられます。
まとめ
令和5年度の農林水産関係予算では、世界的に食料需給をめぐるリスクが高まる中、国産穀物・飼料の供給体制強化などの「食料安全保障の確立」と、農林水産業の成長産業化と農山漁村の次世代への継承実現に向けた「農林水産業の持続的な成長促進」のための予算を要求しました。なお、食料安全保障の確立については、予算の要求額を示さない事項要求としており、今後の予算編成で検討されます。
予算については今後の予算編成によって変動する可能性もありますが、重点事項については出そろった形になります。昨今のキーワードである、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、カーボンニュートラルの実現にかかわる事業は、農林水産業においても実施予定です。生産者の方は、9つのテーマを来年度の経営計画などの参考にしてください。