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農林水産省の令和3年度補正予算の規模について
農林水産省が令和3年度の概算要求を発表しました。
今年度当初比20%増加の2兆7734億円が計上されており、総額分については農林水産業の「スマート産業化」や「輸出拡大」等に関連する事業に大きく割り振られている印象です。
国内ではコロナ禍の影響により働き方の変革が一気に加速しており、スマート化が進む農林水産業の分野でも、管理業務等を中心に「テレワーカー」の活躍の場が少しずつ拡大しています。
過疎化が進む農村漁村などにとっては、テレワークを通じた地域交流なども大きな魅力でもあるため、コロナを契機とした担い手の確保や生産様式の転換等に取り組む生産者にとって、令和3年度は大きな変革期となるのではないでしょうか。
令和3年度農林水産関係予算の8つの柱を紹介
農林水産省の概算要求は8つのテーマ(柱)で構成されています。
下記では一つずつその概要と実施予定の事業について触れていきたいと思います。
1.生産基盤の強化と経営所得安定対策の着実な実施
~コロナ禍でも揺るがない生産基盤・セーフティネットの構築~
農畜産分野における生産体制、流通体制の強化、ICTの導入による事業の高効率化等に対する支援のほか、意欲のある生産者が経営の継続・発展に取り組める環境を整備するための給付金制度などを実行し、農畜産業の持続性の確保に取り組みます。
この項目では前年度からの継続事業を中心に、全体的な予算の上乗せが実施されています。
実施予定の事業
(1)畜産生産体制の強化
①畜産体制の強化 【14億円】
②ICTを活用した畜産経営体の生産性の向上 【関連予算の内数】
③畜産環境対策の推進<一部公共> 【関連予算の内数】
④草地関連基盤整備<公共> 【関連予算の内数】
⑤家畜・食肉の流通体制の強化 【53億円】
⑥畜産・酪農経営安定対策 【(所要額)2234億円】
(2)農業の持続性の確保に向けた生産基盤の強化
①持続的生産強化対策事業 【215億円】
②水田フル活用の推進
◇水田活用の直接支払い交付金 【3050億円】
◇水田農業の高収益化の推進<一部公共> 【関連予算の内数】
◇「麦・大豆増産プロジェクト」の推進 【60億円+関連予算の内数】
◇農業再生協議会の強化 【91億円】
◇米穀周年供給・需要拡大支援事業 【50億円】
◇米粉の需要拡大、米の民間規格の制定 【1億円】
③強い農業・担い手づくり総合支援交付金 【245億円】
④畑作構造転換事業 【30億円】
⑤甘味資源作物 【159億円】
⑥土づくり、有期農業、環境に配慮した農業の推進
◇スマート農業総合推進対策事業 【関連予算の内数】
◇持続的生産強化対策事業 【関連予算の内数】
⑦農業資材価格等の調査 【1億円】
(3)経営安定対策の着実な実施
①収入保険制度の実施 【188億円】
②畑作物の直接支払い交付金 【(所要額)1986億円】
③収入減少影響緩和対策交付金 【(所要額)714億円】
④野菜価格安定対策事業 【(所要額)156億円】
2.スマート農業・DX・技術開発の推進、食に対する理解の醸成
~コロナと共存する生活・生産様式への転換~
農畜産業へのICTやAI、ロボット等の最先端技術の開発、導入・実証の加速を通し、DX(デジタルトランスフォーメーション※最先端のデジタル技術を活用した変革)の推進を図ります。
また、農畜産業においては本年度のコロナの影響を受けて業務の非接触化の動きも徐々広まっているため、来年度はこれを契機に農業ICT、農業AI、ドローン、ロボット技術などを活用した省力化・精密化された高品質な生産体制『スマート農業』の普及を推進し、コロナに対応した「新たな生産様式」への転換を促進します。
そのほか2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」や、地域固有の多様な食文化の保護、継承のための普及活動、担い手の育成等、新たな事業としては「営農型太陽光発電(太陽光を農業生産と発電とで共用する取り組み)」への支援事業なども計画されています
実施予定の事業
(1)スマート農業・DXの推進
①スマート農業総合推進対策事業 【55億円】
②農業支援サービス事業育成対策
◇農業支援サービス事業育成対策 【10億円】
◇強い農業・担い手づくり総合支援交付金 【関連予算の内数】
③ICTを活用した畜産経営体の生産性の向上 【関連予算の内数】
④林業イノベーション推進総合対策 【関連予算の内数】
⑤「スマート水産業」の推進 【29億円】
⑥農林水産省共通申請サービス(eMAFF)によるDXの推進 【93億円】
(2)イノベーション・技術開発の推進
①農林水産研究の推進 【70億円】
②「知」の集積と活用の場によるイノベーションの創出 【70億円】
③スタートアップ総合支援事業 【10億円】
④開発技術の迅速な普及・定着 【24億円】
⑤次世代技術を取り入れた新たな食糧産業創造事業 【3億円】
(3)食と農に対する理解の醸成のための国民運動の推進
①新たな国民運動の推進 【16億円】
②食品ロス削減、プラスチック資源循環の推進 【2億円】
③再生可能エネルギーの導入等の推進 【7億円】
3.5兆円目標の実現に向けた農林水産物・食品の輸出力強化と高付加価値化~コロナを契機とした地方での事業・雇用の創出~
生産者等への輸出ビジネスへの参画支援(生産から輸出に至るまでの一貫支援)を拡大、輸出本部の下での輸出先国の規制緩和撤廃に向けた取組の強化や、輸出手続きの円滑化等に取り組み、農林水産物・食品の輸出拡大を図ります。
そのほか関連機関による国産の農林水産物・食品の戦略的な国外マーケティング活動の強化、流通の合理化・高度化、農家の6次産業化(農家による加工品の販売や農家レストラン、体験農園など)の支援について前年度からの大幅な予算増加が行われています。
実施予定の事業
(1)5兆円目標の実現に向けた農林水産物・食品の輸出力強化
①グローバル産地づくりの強化 【36億円】
②輸出本部の下での輸出先国の規制緩和・撤廃に向けた取組の強化、輸出手続きの円滑化 【32億円】
③輸出向けHACCP施設の整備 【79億円】
④戦略的なマーケティング活動の強化 【56億円】
⑤食産業による海外展開、多様なビジネスモデルの創出 【14億円】
(2)知的財産の流出防止、企画・認証の国際化対応
①植物品種等海外流出防止総合対策事業 【6億円】
②農業知的財産保護・活用支援事業 【1億円】
③GAP(農業生産工程管理)拡大の推進
◇持続的生産強化対策事業 【関連予算の内数】
◇グローバル産地づくりの強化 【関連予算の内数】
④地理的表示保護・活用総合推進事業 【3億円】
(3)農林水産物・食品の高付加価値化と流通の合理化・高度化
①6次産業化の推進 【関連予算の内数】
②流通の合理化・高度化
◇強い農業・担い手づくり総合支援交付金 【関連予算の内数】
◇食品等流通持続化モデル総合対策事業 【25億円】
4.農業農村整備、農地集積・集約化、担い手確保・経営継承の推進
~コロナを契機とした需要変化への対応と流通の革新~
公共事業として農村の情報通信環境、農道、集落排水施設等の整備、農業用地の整備等を実施、各地方の裁量によって実施する農林水産業の基盤整備や農山漁村の防災・減災対策などには交付金を交付します。
DXによる各農家の生産性向上を後押しするため、農地の大区画化・汎用化等の推進、雇用就農を促進するための実践研修の実施、農業経営の法人化等に関する支援等にも大きな予算が計上されています。
実施予定の事業
(1)競争力強化・国土強靭化のための農業農村整備の計画的な推進
①農業農村整備事業<公共> 【3983億円】
②農地耕作条件改善事業 【300億円】
③農業水路等長寿命化・防災減災事業 【333億円】
④農産漁村地位整備交付金<公共> 【1131億円】
(2)農地中間管理機構による農地集積・集約化と農業委員会による農地利用の最適化
①人・農地プランの実質化を踏まえた農地中間管理機構等による担い手への農地集積・集約化の加速化 【(執行見込額)213億円】
②農地の大区画化・汎用化等の推進<公共> 【関連予算の内数】
③農地耕作条件改善事業 【300億円】
④樹園地の集積・集約化の促進 【関連予算の内数】
⑤農業委員会による農地利用の最適化の推進 【53億円】
⑥機構集積支援事業 【41億円】
(3)家族農業経営、法人経営等の担い手の確保と経営継承の促進
①農業人材力強化総合支援事業 【240億円】
②経営発展・経営承継の推進 【70億円】
③女性が変える未来の農業推進事業 【1億円】
④外国人材受入総合支援事業 【4億円】
⑤農林水産業・食品産業における作業安全の推進 【関連予算の内数】
⑥農業協同組合の監査コストの合理化の促進 【1億円】
5.食の安全と消費者の信頼確保
~家畜伝染病の発生予防対策等の強化と食の安全確保~
家畜の伝染病予防に向けた衛生対策や、安全な生産資材の安定供給への投資を実行します。
予算についてはほぼ例年同様となっています。
実施予定の事業
①消費・安全対策交付金 【33億円】
②家畜衛生等総合対策
◇家畜伝染病予防費 【50億円】
◇国内防疫・水際対策 【43億円】
③安全な生産資材の安定供給の推進 【8億円】
④生産・製造現場と連携したリスク管理 【2億円】
6.農産漁村の活性化
~コロナを契機とした都市部から地方への移住を促す環境の整備~
各地域の農業・農地を維持するため、日本型直接支払制度(多面的機能支払制度、中山間地域等直接支払制度、環境保全型農業直接支払制度)を実施します。
その他、都市農業の振興、農村漁村の荒廃化対策、鳥獣被害防止対策と併せたジビエ利活用の推進など様々な取り組みが計画されています。
実施予定の事業
(1)日本型直接支払の実施
①多面的機能支払い交付金 【491億円】
②中山間地域等直接支払交付金 【268億円】
③環境保全型農業直接支払交付金 【25億円】
(2)中山間地農業の所得向上を始めとした農山漁村の活性化
①中山間地農業ルネッサンス事業<一部公共> 【490億円】
②棚田・中山間地域対策<公共>
◇中山間地域農業農村総合整備事業 【70億円】
◇農産漁村地域整備交付金 【関連予算の内数】
③農山漁村振興交付金 【103億円】
④鳥獣被害防止対策とジビエ利活用の推進 【162億円】
⑤特殊自然災害対策施設緊急整備事業 【3億円】
(3)地方への定住促進に向けた環境整備
①農山漁村の情報通信環境や生活インフラの整備<公共>
◇農村整備事業 【73億円】
◇漁村整備事業 【14億円】
7.森林資源の適切な管理と林業の成長産業化の実現
~コロナを契機とした山村での事業・雇用と定住環境の創出
森林整備や治山事業などの公共事業を中心に、林業の成長産業化に向けた支援事業なども計画されています。
林業の分野にも、今後はICT等の導入による「スマート林業」の普及、新素材開発等の「林業イノベーション」、都市部の建築物の木造化促進等、様々な新たな取り組みが期待されています。
実施予定の事業
①森林整備事業<公共> 【1493億円】
②治山事業<公共> 【741億円】
③農山漁村地域整備交付金<公共> 【1131億円】
④林業成長産業化総合対策 【173億円】
⑤「緑の人づくり」総合支援対策 【53億円】
⑥新たな森林空間利用創出対策 【2億円】
⑦森林・山村多面的機能発揮地域力支援対策 【19億円】
⑧花粉発生言対策推進事業 【2億円】
8.水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化の実現
~コロナ禍でも揺るがない生産基盤・セーフティネットの構築~
2020年に施行された「改正漁業法」に基づく新たな資源管理の推進、ICT等の活用による「スマート水産業」の推進、沿岸漁業の成長産業化、水産バリューチェーンの生産性向上等への支援を実施します。
その他、コロナへの対応なども踏まえ、デリバリーやネット販売を利用した鮮魚店や流通事業者等が共同して魚食を提供する仕組みづくり等にも支援を行います。
また、年々緊迫感が高まる外国漁船の違法操業等に対する漁業取締体制等の強化には、前年度から28%増加の231億円の予算が計上されています。
実施予定の事業
(1)改正漁業法に基づく新たな資源管理の推進
①資源調査・評価の着実な実施 【101億円】
②「スマート水産業」の推進 【29億円】
③TAC(漁獲可能量)・IQ(個別漁獲割当)等の数量管理の導入と漁業者の自主的管理の推進 【22億円】
④漁業経営安定対策の着実な実施 【701億円】
(2)漁業の成長産業化の実現
①経営体育成総合支援事業 【15億円】
②沿岸漁業の成長産業化
◇浜の活力再生・成長促進交付金 【70億円】
◇水産業成長産業化沿岸地域創出事業 【30億円】
③沖合・遠洋漁業の競争力強化 【85億円】
④戦略的な養殖業の成長産業化
◇養殖業成長産業化推進事業 【3億円】
◇漁業構造改革総合対策事業 【関連予算の内数】
(3)競争力のある加工・流通構造の確立
①水産バリューチェーンの生産性向上 【18億円】
(4)水産基盤の整備、漁港機能の再編・集約化と強靭化の推進
①水産基盤整備事業<公共> 【868億円】
②漁港の機能増進・漁村の交流促進
◇漁港機能増進事業 【20億円】
◇浜の活力再生・成長促進交付金 【70億円】
③農産漁村地域整備交付金<公共> 【1131億円】
(5)漁業取締体制の増強、国境監視機能等のお多面的機能の発揮
①外国漁船対策等 【231億円】
②漁村の多面的機能の発揮等
まとめ
今回は先日発表された農林水産省の令和3年度概算要求について紹介しました。
8つの項目中7つで「コロナ」という言葉が使われていることから、農林水産省でもこの問題への対策が来年度の最重要課題であることが見て取れます。
予算については今後の予算編成によって変動する可能性もありますが、おおむね実施事項については出そろった事になりますので、生産者の方は来年度の経営計画などの参考にご利用ください。