少子高齢化が進む日本では、労働力の確保が大きな課題となっています。2021年、労働力人口は6,860万人と、前年比で8万人の減少でした。労働力人口は2年連続で減少しています。ここ数年の推移では2019年までは増加傾向でしたので、この減少には、コロナ禍などの社会情勢の悪化が影響を及ぼしたことが推測されます。
参考:総務省 労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果の概要
厚生労働省は、就職が困難な者の雇用を対象にした特定求職者雇用開発助成金事業に、新たに「成長分野人材確保・育成コース」を設立しました。今回は、新設された「成長分野人材確保・育成コース」についてまとめています。
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この記事の目次
特定求職者雇用開発助成金とは
特定求職者雇用開発助成金はハローワークや職業紹介事業者を通じて、雇用が難しいと思われる労働者を雇用した場合にその事業者に助成金を支給する制度です。多くの人に雇用の機会を広げるとともに、雇用の安定を図ることを目的にしています。
本事業には、以下の7つのコースがあります。
①特定就職困難者コース
60歳以上65歳未満の高年齢者や障害者など、就職が特に困難な者を雇用する場合に助成を行います。
②生涯現役コース
65歳以上の離職者を、1年以上継続して雇用する場合に助成を行います。高年齢者が引き続き、その経験等を社会で活かす支援を目的としています。
③被災者雇用開発コース
東日本大震災による被災離職者等を、1年以上継続して雇用する場合に助成を行います。被災離職者等の再就職の支援や雇用の安定を図ることを目的としています。
④発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
発達障害者または難病患者を雇用する場合に助成を行います。発達障害者や難病患者の雇用を促進し、職業生活上の課題を把握することを目的としています。
⑤就職氷河期世代安定雇用実現コース
いわゆる就職氷河期に就職の機会を逃した等、十分なキャリア形成がなされずに正規雇用労働者としての就業が困難な者を正規雇用労働者として雇用する場合に助成を行います。
⑥生活保護受給者等雇用開発コース
生活保護受給者等を、継続して雇用する場合に助成を行います。生活保護受給者等の雇用機会の増大や雇用の安定を目的としています。
⑦成長分野人材確保・育成コース
①~⑥のいずれかに該当する者を雇用した事業主が、該当の労働者を成長分野等の業務に従事させる場合に助成を行います。助成の対象となる労働者の人材育成や職場定着など、成長分野への労働移動の円滑化を図ることを目的としています。
それでは、新設された「成長分野人材確保・育成コース」についてみていきましょう。
特定求職者雇用開発助成金「成長分野人材確保・育成コース」とは
前述のように、成長分野人材確保・育成コースはほかのコースの要件に該当する労働者を、指定の分野の業務に従事させた場合に活用できる助成金です。既存のコースよりも助成金額が高く設定されています。
まずは申請予定の労働者が既存のコースの要件を満たしているかどうかを確認し、次に成長分野人材確保・育成コースが活用できるかを検討するのがよいでしょう。
以下は、成長分野人材確保・育成コースの要件や内容についてまとめています。
要件
成長分野人材確保・育成コースの対象となるのは、各コースで定められた要件を満たす労働者の雇用に際し、以下の①~③を満たした場合です。
①対象労働者を、次のaまたはbのいずれかの業務に従事させる
a.デジタル、DX化関係業務
b.グリーン、カーボンニュートラル化関係業務
②対象の労働者について、雇用管理改善または職業能力開発に関する取組を実施する
③上記に関る計画書・報告書を提出する
対象となる事業主
助成の対象となる事業主の要件は、以下の①~③です。
①雇用保険適用事業所の事業主である
②支給のための審査に協力する
③申請期間内に申請を行うこと
なお、以下の事業主は助成の対象外です。
- 平成31年4月1日以降、雇用関係助成金の不正受給による不支給等を受けた場合、その決定日または支給決定取消日から5年を経過していない
- 平成31年4月1日以降、不正受給に関与した役員等がいる
- 指定の期間内の労働保険料を納入していない
- 支給申請日の前日から1年前までの間に労働関係法令の違反があった
- 性風俗関連営業等
- 暴力団と関わりがある
- 事業主等が暴力主義的破壊活動を行った、または行う恐れのある団体に属している
- 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している
- 不正受給が発覚した際に行う事業主名および役員名等の公表について、承諾していない
助成対象期間・支給対象期間と支給額
助成対象期間は、対象労働者の雇入れに関する日から以下のように起算します。
【短時間労働者以外】
・65未満の高齢者等
中小企業…1年
中小企業以外…1年
・65歳以上の高年齢者
中小企業…1年
中小企業以外…1年
・身体、知的障害者等
中小企業…2年
中小企業以外…1年
・重度障害者等
中小企業…3年
中小企業以外…1年6月
【短時間労働者】
・65未満の高齢者等
中小企業…1年
中小企業以外…1年
・65歳以上の高年齢者
中小企業…1年
中小企業以外…1年
・障害者、発達障害者等
中小企業…2年
中小企業以外…1年
また助成金は、助成期間を6か月単位で区分した「支給対象期」ごとに支給されます。各期間の詳細は以下の図を確認してください。
出典:厚生労働省パンフレットより抜粋
支給額は以下の通りです。なお、対象労働者に支払われる賃金が上限となります。
【短時間労働者以外】
・65未満の高齢者等
中小企業…90万円
中小企業以外…75万円
・65歳以上の高年齢者
中小企業…105万円
中小企業以外…90万円
・身体、知的障害者等
中小企業…180万円
中小企業以外…75万円
・重度障害者等
中小企業…360万円
中小企業以外…150万円
【短時間労働者】
・65未満の高齢者等
中小企業…60万円
中小企業以外…45万円
・65歳以上の高年齢者
中小企業…75万円
中小企業以外…60万円
・障害者、発達障害者等
中小企業…120万円
中小企業以外…45万円
申請の流れ
それでは、申請の手順について確認しましょう。申請から助成金受け取りまでの流れは、以下の通りです。
①ハローワーク等からの紹介
②対象者の雇い入れ
③計画書の提出
紹介を行ったハローワーク等に提出します。実施計画書とともに、対象労働者が成長分野等の業務に従事することが確認できる書類も提出が必要です。
④助成金の第1期支給申請(報告書の提出)
それぞれの支給対象期の末日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書と必要な書類を管轄の労働局へ提出します。
⑤支給申請書の内容の調査・確認
⑥支給・不支給決定
⑦助成金の支給
特定求職者雇用開発助成金活用のメリット
労働者を雇用する際には、即戦力になり得るかどうかも重視されます。その場合、障害を持つ人や高年齢者はできる業務がほかの人より劣る、と判断されてしまうことがあります。しかし彼らは、適切な支援や補助を受けることで優秀な労働力として活躍しうる人材でもあります。
一方で支援のための予算的な負担から、企業側がそうした人たちの雇用を断念するケースも推測されます。それは企業にとっても、雇用の安定を望む人たちにとっても不幸なことです。
特に中小企業にとっては大きな負担となる予算の問題は、特定求職者雇用開発助成金を活用すれば軽減することができます。なかでも成長分野人材確保・育成コースは助成額が高く設定され、予算的負担をより大きく軽くすることができます。
まとめ
コロナ禍も落ち着きを見せ始め、店舗の経営時間や人出も戻りつつあります。経済状況が改善しつつある中、労働力の確保は急務です。しかし、痛手を受けた収益はすぐには元に戻りません。限られた予算の中での労働力の確保と雇用の安定の両立に対し、特定求職者雇用開発助成金の活用は大きなメリットをもたらします。
経済活動の活性化や持続可能な社会への貢献を志す企業にこそ、活用してほしい制度です。