今回ご紹介する業態転換支援事業は、宅配やテイクアウトなど「新規の取り組み」に挑戦する飲食店を応援する制度です。新規事業に必要な経費の一部を負担するもので、コロナ禍の影響で減少した売り上げを回復させるために、宅配など「店内飲食以外」の新規施策を検討している都内飲食店であれば、知っておきたい制度です。申請期限は令和4年6月30日までのため、今回の記事を読み、スムーズに申請できる準備を整えておきましょう。
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この記事の目次
新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店が受けた影響は
2020年頃から流行し始めた新型コロナウィルスへの対策として人の流れが抑制された結果、多くの業界が影響を受けました。
とくに飲食店は「三密を避ける」という目的のもと、時短営業や臨時休業、席数減少などを実施した結果、2020年の業界売り上げが「2000年以降で過去最大の減少率」というレベルまで落ち込んでいます。
2022年5月時点では緊急事態宣言も解除され、時短営業要請も強制ではなくなりました。しかし、コロナ禍を通じて「在宅で食事をする」という意識が一般的になりつつある今、従来通り店舗営業のみで営業する飲食店が、客足を回復させるのは難しいといえるでしょう。
参考:新型コロナウイルス感染症禍の外食産業の動向~需要側・供給側からの振り返り~
業態転換支援事業とは
業態転換支援事業とは、都内飲食店が「宅配」「テイクアウト」「移動販売」を新規で開始する際に、必要経費の一部を補助する制度です。
前項で解説したように、多くの飲食店が売り上げ減少に悩まされています。そのため、売り上げ確保に向けてテイクアウトなどの取り組みを開始して、「自宅で食事をする」という消費者のニーズに合わせようとする飲食店もあるでしょう。
業態転換支援事業を活用することで、新規の取り組み開始時に必要な資金負担を軽減できます。
助成対象者
(個人事業者も含めて)東京都内で飲食業を運営しており、新たに「宅配」「テイクアウト」「移動販売」を開始する中小企業者
申請要件
以下1〜5の要件をすべて満たす事業者が対象です。なお、特別な事情がある場合を除き、助成対象期間が終了するまで、申請要件を満たし続ける必要があります。
1.業態転換支援事業が規定する中小企業者に該当している
【規定する中小企業者とは】
- 日本標準産業分類上の分類大分類M(宿泊業、飲食サービス業)のうち、中分類76(飲食店)に該当する中小企業者、および個人事業者を含む小規模事業者
- 中小企業基本法で定義する中小企業者(資本金額あるいは出資総額が5,000 万円以下の会社、あるいは常時の従業員数が50人以下の会社および個人)
2.東京都内で飲食事業を行い、以下①および②を満たしている
【法人】
①登記簿謄本(履歴事項全部証明書)により、都内の本店あるいは支店の所在を確認できる
②都税事務所発行の「法人事業税及び法人都民税の納税証明書」を提出できる
③1期に満たない法人(以下、「未決算企業」と記載)の場合は、代表者の直近の「所得税納税証明書(その1)」および「住民税納税証明書」を提出する
【個人事業者】
①税務署に提出した「個人事業の開業・廃業等届出書」の写し(税務署受付印がある)により、店舗の都内所在を確認できる
②都税事務所発行の「個人事業税の納税証明書」および区市町村発行の「住民税納税証明書」が提出できる。非課税の場合は、税務署発行の「所得税納税証明書(その1)」および区市町村発行の「住民税の非課税証明書」を提出する。
③1期に満たない個人事業者は、代表者の直近の「所得税納税証明書(その1)」および「住民税納税証明書」を提出する
3.1期以上の決算を経ており、「税務署に確定申告済み」かつ「受付印がある」直近1期分の確定申告書の写しが提出できる
【法人】
1期分の確定申告書。未決算企業の場合は、代表者の直近の「源泉徴収票」あるいは「所得税納税証明書(その2)」を提出する。
【個人事業者】
直近の所得税および復興特別所得税の確定申告書。1期に満たない個人事業者の場合は、代表者の直近の「源泉徴収票」あるいは「所得税納税証明書(その2)」を提出する。
4.保健所の許可(必要となる食品関係許可)を取得しており、各許可書等の写しを提出できる
5.以下のすべてに該当している
- 助成対象として申請した内容(経費)に関して、公社・国・都道府県・区市町村等が実施する他の制度(補助金等)から支援を受けていない。ただし、「感染拡大防止協力金」「持続化給付金」を支給している場合においては、業態転換支援事業を活用できる
- 業態転換支援事業への申請は、「一事業者につき1回」と理解している
- 東京都および公社に対する賃料・使用料等の債務の支払いが滞っていない
- 過去に公社・国・都道府県・区市町村等から助成を受けた際に、不正等の事故を起こしていない
- 事業税等を滞納していない。分納期間中は申請不可
- 「東京都暴力団排除条例」に規定する暴力団関係者あるいは遊興娯楽業のうち風俗関連業、ギャンブル業、賭博等、社会通念上適切でないと判断される事業を営んでいない。その他、連鎖販売取引、ネガティブ・オプション(送り付け商法)、催眠商法、霊感商法など、公的資金の助成先として不適切な業態を営んでいない
- 民事再生法あるいは会社更生法による申し立てをしている等、助成事業の継続性が不確実な状況になっていない
- 助成事業の実施に必要な許認可を取得し、関係法令を遵守している
- その他、公社が公的資金の助成先として適切でないと判断されるものでない
- 申請に必要な書類をすべて提出できる
助成対象経費
助成対象経費となるのは、以下1〜4の条件を満たし、対象経費に認定されているものです。
1.業態転換支援事業の対象となった取り組みを実施するための必要最小限の経費である
2.助成対象期間内に「契約→実施→支払い」のすべてが完了する経費である
3.単価や仕様、数量、使途などの助成対象を報告書類(写真や帳簿など)で確認でき、新規の取り組みである「宅配」「テイクアウト」「移動販売」に必要なものとして明確に区分できる
4.生業かつ主要業務である業者に対して、直接委託・契約している
主な助成対象経費は、「販売促進費」「車両費」「器具備品費」「各種手数料」「工事費」で、それぞれの詳細は以下のとおりです。
販売促進費
◆印刷物制作費(チラシやポスター等、印刷物の制作委託費)…上限度額:30万円
新規の取り組み(宅配・テイクアウト・移動販売)に関する内容が記載された、チラシやポスター等の印刷物制作を外部に委託する経費
【助成対象外の例】
・チラシやポスター以外にも使用できるもの(試供品、ノベルティ等)
・新規取り組みのPRに直接は関わらない配布物
◆広告掲載費(PRに必要な広告掲載費)…上限度額:20万円
新規の取り組み(宅配・テイクアウト・移動販売)のPRを目的として、折り込みチラシ・新聞・雑誌・DM・WEB広告などへ広告を掲載する際の経費。掲載枠の確保に必要な経費、およびデザイン・撮影・キャッチコピー・文章作成等、掲載枠確保以外の経費にも適用可能
【助成対象外の例】
・掲載媒体の現物を提供できないもの
・求人や懸賞、他社の名称、ブランド等を含んでいるもの
◆PR映像制作費…上限度額:20万円
新規の取り組み(宅配・テイクアウト・移動販売)に関する内容等が表示された動画の制作委託費
【助成対象外の例】
・制作物に申請者以外の事業者名やブランド名が記載されているもの
・申請事業者自身が制作・編集しているもの
◆WEBサイト等制作委託費…上限度額:50万円
新規の取り組み(宅配・テイクアウト・移動販売)のPRを目的として、「既存のWEBサイト変更」「新規のWEBサイト制作」を外部へ委託する経費。予約受付システム(テイクアウト、宅配用)の搭載費用も対象。
【助成対象外の例】
・運用費や保守・管理費等
・ショッピングサイトやSNS(他者の管理するウェブサイト)の一部であるもの
◆看板等の制作費等(看板・POP・のぼり制作費)…上限度額:20万円
新規の取り組み(宅配・テイクアウト・移動販売)に関する内容等が記載された、のぼり・看板・POPの制作に必要な経費、および設置費や旧看板の撤去費。PRに必要なデジタルサイネージの購入、リース・レンタル料、設置費。
【助成対象外の例】
・新規の取り組み(宅配・テイクアウト・移動販売)のPRに直接的に関わらない配布物
・デジタルサイネージに掲載する有料コンテンツ利用料(時事ニュースや映画、音楽等)
車両費
◆バイク・自動車(デリバリーバイク等のリース・レンタル料)
宅配や移動販売の実施に必要なデリバリーバイク等のリース・レンタル料(最長3か月間)。自動車等を使い食品を調理・販売する場合、保健所の許可が必要なケースもあるため、保健所への事前相談が必須。
【助成対象外の例】
・車両の購入費用
・移動販売等を行う際に必要となる保健所の営業許可等の証明を提出できないもの
◆その他の車両(自転車等の購入費等)…上限度額:20万円(購入費用)
宅配や移動販売の実施に必要な自転車、リアカー、台車等の購入費、あるいはリース・レンタル料(最長3か月間)。新規で移動販売を実施する場合、保健所の許可が必要なケースもあるため、保健所への事前相談が必須。
【助成対象外の例】
・リース・レンタル等に付随する保険、事業者自身が加入する保険等
・助成対象期間外に使用するリース・レンタル料
器具備品費
◆通信機器・サービス等
- 通信環境設備導入費…上限度額:10万円
※通信環境設備のリース・レンタル料は最長3か月間 - 通信料(最長3か月間)
- タブレット端末等の購入…上限度額:15万円
※タブレット端末等のリース・レンタル料は最長3か月間
◆梱包・包装資材等…上限度額:15万円
新規に取り組むテイクアウトや宅配等に必要な、食器類、包み紙、手提げ袋、おてふき、ナイロン手袋、調理器具等の購入費用
【助成対象外の例】
・新規の取り組みに直接関係しないもの
・既存の器具の買い替え
各種手数料
◆宅配代行サービス利用等
宅配代行サービス等の利用時に必要な初期登録料や月額使用料、配送手数料等(最長3か月間)
【助成対象外の例】
・助成対象期間外または利用が3か月間を超えるもの
◆営業許可等取得手数料
新たに移動販売等を実施する際に必要な、営業・販売・製造等の許可取得手数料
【助成対象外の例】
・初めての飲食店開業に必要な飲食営業許可
工事費
◆店舗等内装工事…上限度額:50万円
テイクアウト用の小窓やショーウィンドーの設置、自費で購入する移動販売用の車両に必要な制作・改造費、および車両に設置する器具設備費(換気設備、保管設備、洗浄設備等)等
【助成対象外の例】
・トイレのリフォーム工事等、新規の取り組みと直接関係しない内装工事
・新規の取り組み(宅配・テイクアウト)に必要な内装工事が明確に証明できないもの
助成対象外経費
助成対象経費に記載のない経費はすべて助成対象外となります。主な助成対象外経費の例は以下のとおりです。
- 交通費・宿泊費・保険料(輸送に必要なものを除く)・飲食費・雑費等の間接経費
- セミナーやレクチャー、ワークショップ等の開催、あるいは参加費用や招待券購入費、駐車場代等の経費
- 消費税、印紙代等の租税公課
- 調査・企画・提案・ディレクション・打ち合わせ、およびコンサルティング的要素を含む経費 等
助成限度額・助成率
限度額:100万円
助成率:助成対象として認定された経費の4/5以内(1,000円未満は切り捨て)
【助成対象期間】
交付決定日を起点として令和4年9月30日(金)まで ※最長3か月
期間内に契約、実施、支払いのすべてが完了する事業が対象です。ただし、「令和3年11月1日以降」かつ「交付決定前に着手した経費」に関しても、見積書や契約書、請求書、領収書などによって契約および支払いの確認ができれば、業態転換支援事業の対象となります。
【実績報告書提出期限】
助成事業実施期間終了後、14日以内を目安に提出します。
申請について
申請の流れは、以下のとおりです (太字部分が申請者の手続きです)。
- 交付申請
- 書類審査
- 交付決定
- 新規事業の取り組み開始
- 実績報告(助成対象経費報告)
- 完了検査
- 助成金額の確定
- 助成金請求
- 助成金交付
申請受付期間
令和4年4月1日〜令和4年6月30日(当日消印有効)
予算額に到達した場合、期間内であっても申請を締め切ることがあります。
【申請に必要な書類】
- 交付申請書の原本(様式第1号)
- 登記簿謄本等
- 納税証明書の原本:事業税
- 納税証明書の原本:住民税
- 直近1期分の確定申告書の写し(税務署受付印あるいは電子申告の受信通知やメール詳細があるもの)
- 食品関係営業許可書の写し
- 申請金額根拠資料の写し
出典:業態転換支援事業 募集要項より抜粋
【申請方法】
申請は「郵送のみ」です。東京都中小企業振興公社WEBサイトなどから必要書類を準備し、以下の宛先に郵送します。
〒101-0029
東京都千代田区神田相生町1番地
秋葉原センタープレイスビル15階
公益財団法人東京都中小企業振興公社
業態転換事務局
必ず「簡易書類」等の郵送記録が残る方法でお送りください。
業態転換支援事業活用のメリット
業界転換支援事業を活用する一番のメリットは「新規の取り組みに必要な負担を軽減できる」という点です。
これまで店内飲食をメインとしてきた店舗が宅配やテイクアウトを始める場合、移動手段や専用のお皿、設備投資、PR用のコストなどが発生します。売り上げが減少する中で、上記の費用を負担するのは楽なことではありません。
業態転換支援事業を活用できれば、新規事業開始に必要なコストを削減できるため、店舗の負担を軽くできます。事業継続に向けて新しいことへ挑戦する飲食店にとって心強い制度といえるでしょう。
まとめ
業態転換支援事業は、新規で宅配やテイクアウト事業などに取り組む飲食店をサポートする制度で、店側の負担を軽減し、新しい挑戦へのハードルを下げることができます。今回実施分(第23回)の申請受付は「令和4年6月30日」までのため、期限間近です。書類の不備等で間に合わないという事態を引き起こさないためにも、余裕を持って申請しましょう。