不妊治療の検査や治療を受けたことがある夫婦は22.8%、約4.4組に1組に上ります(国立社会保障・人口問題研究所「第17回出生動向基本調査」)。厚生労働省の資料でも、不妊治療や月経、更年期の症状を理由に「職場で何かをあきらめなくてはならないと感じた経験」がある女性従業員は約4割いるという調査結果となりました。生理休暇や更年期の不調への配慮など、女性の健康課題を経営課題として捉える企業も増えています。
こうした流れを受けて厚生労働省が設けているのが、両立支援等助成金の「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」です。令和7年度(2025年度)に「不妊治療両立支援コース」を拡充する形で始まり、令和8年度(2026年度)も実施されています。不妊治療・月経・更年期の3区分ごとに30万円、1事業主あたり最大90万円を会社が受け取れる、中小企業向けの助成金です。
この記事では、令和8年度(2026年度)の支給要領とQ&Aに沿って、支給額、4つの要件、対象となる制度、申請の流れと必要書類、令和9年度の見直し案までをわかりやすく解説します。
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・出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
・介護離職防止支援コース
・育児休業等支援コース
・育休中等業務代替支援コース
・柔軟な働き方選択制度等支援コース
・【★本記事】不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース
合わせて読みたい:両立支援等助成金とは 各コースを徹底解説
この記事の目次
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースとは?中小企業に最大90万円
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースは、不妊治療・月経(PMSを含む)・更年期の3つの健康課題と仕事の両立を支援する制度を整備し、対象となる労働者に利用させた中小企業事業主に助成金が支給されるコースです。3つの区分は独立しており、それぞれ要件を満たせば1事業主あたり合計最大90万円を受給できます。
| 区分 | 助成額 | 1事業主あたりの上限 |
|---|---|---|
| 不妊治療 | 30万円 | 1回限り |
| 女性の健康課題対応(月経) | 30万円 | 1回限り |
| 女性の健康課題対応(更年期) | 30万円 | 1回限り |
各区分とも1事業主につき1回限りの支給ですが、同一年度内に複数の区分を申請することも、同一の労働者が異なる区分の制度を利用した場合に複数区分で申請することも可能です。
なお、過去に旧「不妊治療両立支援コース」を受給した事業主は、不妊治療区分は受給できません。ただし、月経・更年期は新たに要件を満たせば対象になります。
令和8年度(2026年度)の変更点
令和8年度の不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースは、支給額や主な要件、対象となる制度が令和7年度と同じです。令和8年度の支給要領は令和8年4月1日に施行されています。
Q&Aは令和8年6月29日に差し替えられ、残業免除(所定外労働制限制度)の利用実績に関する問いが追加されました。申請前に厚生労働省サイトで最新版を確認してください。
対象となる企業は?中小企業事業主の範囲
本コースの対象は、以下の「資本金の額または出資の総額」または「常時雇用する労働者の数」のいずれかに該当する中小企業事業主です。大企業は対象外となります。
| 業種 | 資本金または出資金 | 常時雇用する労働者数 |
|---|---|---|
| 小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
いずれか一方を満たしていれば「中小企業事業主」に該当します。資本金等のない事業主については、常時雇用する労働者の数のみで判定します。判定の基準日は、支給申請日の属する月の初日です。
助成金は事業所単位ではなく事業主単位で支給されます。複数の事業所がある場合も、法人全体で1事業主として扱われます。
助成金を受給するために必要な4つの要件
本コースは、制度を就業規則等に整備するだけでは支給対象になりません。「①制度を整える → ②担当者を決める → ③労働者に利用してもらう → ④雇用を継続する」の4つの要件を順に満たす必要があります。
要件①支援制度を整備し、就業規則に規定する
不妊治療・月経・更年期のそれぞれについて、以下6種類の制度から少なくとも1つを導入します。3区分すべてを整備する必要はなく、申請したい区分について1つ以上の制度が導入されていれば構いません。
・所定外労働制限制度(残業免除)
・時差出勤制度
・短時間勤務制度
・フレックスタイム制
・在宅勤務等
導入した制度は、利用手続きや賃金の取扱いとあわせて労働協約または就業規則に規定します。規定の整備は、対象労働者が制度の利用を始める日の前日までに済ませる必要があります。
常時10人未満の事業場で就業規則を作成・届出していない場合は、制度の内容や手続き、賃金の取扱いを明文化し、全労働者に周知していれば対象になります。
短時間勤務制度を導入する場合の3つの条件
短時間勤務制度を導入する場合は、次の3点をすべて満たす必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 労働時間の短縮 | 1日の所定労働時間を1時間以上短縮できる |
| 賃金水準の維持 | 時間当たり基本給等の水準が制度利用前を下回らない |
| 雇用形態の維持 | 制度利用に伴って正規雇用からそれ以外の雇用形態へ変更しない(本人希望を含む) |
休暇制度の設計ポイント(生理休暇・更年期休暇・不妊治療休暇)
休暇制度については、不妊治療・月経・更年期のそれぞれに別々の休暇を設ける必要はなく、多目的休暇1本で複数の課題に対応する形でもかまいません。労働基準法の年次有給休暇そのものは対象外ですが、失効した年次有給休暇を活用する制度は対象となります。
月経区分で休暇制度を使う場合は、賃金の扱いに注意が必要です。労働基準法第68条の生理休暇は、無給のままでは法律上の義務を果たしたにとどまり、本コースの対象になりません。年次有給休暇と同等の給与を支払う「有給の生理休暇」であれば対象です。不妊治療と更年期の休暇は、無給でも対象になります。
制度を利用できる人の範囲は、区分ごとに次のとおり定められています。いずれの区分も、雇用保険被保険者でないパートタイム労働者等を利用対象に含める必要があります。
| 区分 | 制度を利用できる人の範囲 |
|---|---|
| 不妊治療 | 性別・雇用形態を問わず、不妊治療を行う人 |
| 月経 | 雇用形態を問わず、月経に起因する症状に対応する女性 |
| 更年期 | 雇用形態を問わず、少なくとも女性が利用できること 全労働者が利用できる制度が望ましい |
要件②両立支援担当者を選任する
労働者からの相談に応じる両立支援担当者を選任します。選任は対象労働者が制度利用を開始する日の前日までに行う必要があり、事後の選任では認められません。
担当者は事業主自身、または雇用する労働者から選任するのが基本です。外部の専門家を選任する場合は、社会保険労務士または医療関係の国家資格を有する者(産業医・保健師・看護師・助産師等)に限られます。キャリアコンサルタントや健康管理士は外部選任の対象外です。
なお、不妊治療・月経・更年期それぞれに別の担当者を選任することもできます。相談内容の性質を踏まえ、適切な体制を構築しましょう。
要件③対象労働者に制度を利用してもらう
対象労働者に、整備した制度を所定労働日において合計5日(回)以上利用させます。複数の制度を組み合わせて合計5日(回)とすることもできます。
ここで実務上注意したいのが、「5日(回)に分けて利用する必要がある」という点です。時間単位での利用も可能ですが、同じ日に同じ制度を複数回利用した場合は1回と数えます。たとえば、休暇制度を始業時に1時間、終業時に1時間利用しても1回です。
一方、同じ日に別々の制度を利用した場合は、それぞれ1回と数えます。在宅勤務等と短時間勤務制度を同じ日に利用した場合は、計2回です。
利用期間は制度利用開始日から1年以内が条件です。多目的休暇など、不妊治療・月経・更年期以外の目的でも利用できる制度を導入している場合は、当該課題対応のために利用したことが申出書等で確認できる日のみが対象としてカウントされます。
利用実績の確認方法と対象者については、次の3点にも注意してください。
・変形労働時間制、フレックスタイム制、事業場外労働制、裁量労働制、高度プロフェッショナル制度が適用されている人や、労働基準法第41条に該当する管理監督者などは、休暇制度と在宅勤務等の利用のみが対象です
・もともと残業が見込まれない労働者は、残業免除(所定外労働制限制度)を利用したとは認められません
要件④申請日まで雇用保険被保険者として雇用を継続する
対象労働者を、制度利用開始日から支給申請日まで雇用保険被保険者として継続雇用していることが必要です。この間に退職・契約終了等があった場合は支給対象外となります。退職の見込みがある労働者を対象にした場合は、支給に至らないリスクが高い点に留意しましょう。
申請タイミングと必要書類
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースの申請は、対象労働者が各区分の制度を合計5日(回)利用した日の翌日から2か月以内に行います。区分ごとに申請期限が別々に発生するため、区分・労働者ごとに利用日を記録した管理表を作るとよいでしょう。
申請のタイミングイメージ
申請するタイミングのイメージは以下のとおりです。

出典:両立支援等助成金支給申請の手引き(2026(令和8)年度版)
申請時の主な必要書類
申請の際は、次の書類を提出します。就業規則や出退勤記録などの添付書類は写しで提出します。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 支給申請書 | 区分ごとの様式第1号①② 両立支援担当者の選任日・氏名もここに記入する |
| 支給要件確認申立書 | 共通要領様式第1号 電子申請の場合は不要 |
| 労働協約または就業規則、関連する労使協定 | 本社等と対象労働者の事業所分 導入した制度を規定している部分 |
| 制度の利用実績がわかる書類 | 出退勤記録簿、タイムカード、休暇の管理簿、制度利用申出書など 在宅勤務等は申出書と実施報告書 |
| 雇用形態と所定労働日・所定労働時間がわかる書類 | 労働条件通知書、雇用契約書、会社カレンダー、勤務シフト表など |
| 賃金台帳と賃金の取扱いを定めた規定 | 短時間勤務制度を利用した場合、または月経区分で有給の生理休暇を利用した場合 制度利用前1か月分と利用5日(回)分 |
常時10人未満の事業場で就業規則を作成・届出していない場合は、制度を明文化した書面と、全労働者に周知したことと周知日が確認できる書類を添付します。このほか、労働局が必要と判断した場合は、受診日や治療期間、受診した医療機関名がわかる書類、医師の証明書類や診断書、医療費の領収書などの提出を求められることがあります。
申請先は、本社等(人事労務管理の機能を有する事業所)の所在地を管轄する都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。電子申請にも対応しています。郵送する場合は、消印ではなく労働局への到達日で判断されるため、配達記録が残る方法で余裕をもって送りましょう。
就業規則の規定例は厚生労働省のひな形を活用
就業規則の条文をどう書けばよいか迷う場合は、厚生労働省が公開している規定例が参考になります。不妊治療・月経・更年期それぞれの休暇、多目的休暇、失効年次有給休暇の積立制度、残業免除、時差出勤、フレックスタイム制、短時間勤務、テレワークについて条文例が示されています。
規定例をそのまま写すのではなく、対象者の範囲、取得できる日数、有給か無給か、申請の手続きを自社の実態に合わせて決めることが大切です。
参考:就業規則の規定例
くるみんプラス・えるぼしプラス認定も目指せる
本コースで整備する制度や相談体制は、厚生労働大臣の認定制度の基準と重なる部分があります。助成金の受給とあわせて認定取得を目指すことで、採用力の強化や企業ブランディングにも活用できます。
くるみんプラス(不妊治療と仕事の両立)
「くるみんプラス」は、「くるみん」等の子育てサポート企業認定を受けた企業が、不妊治療と仕事の両立にも取り組み、一定の基準を満たした場合に受けられる認定です。「くるみんプラス」「プラチナくるみんプラス」「トライくるみんプラス」の3種類があります。
不妊治療と仕事の両立に関する主な認定基準は以下のとおりです。
・不妊治療と仕事の両立の推進方針を示し、制度の内容とともに労働者に周知していること
・研修等により労働者の理解を促進する取組を実施していること
・相談に応じる両立支援担当者を選任し、労働者に周知していること
えるぼしプラス(女性の健康支援)
「えるぼしプラス」は、令和8年4月1日施行の改正女性活躍推進法で創設された認定です。女性活躍の取組が優良な企業を認定する「えるぼし」「プラチナえるぼし」に、職場における女性の健康支援の基準を加えたもので、月経・更年期区分に取り組む企業にとって関連の深い制度です。
女性の健康支援に関する認定基準は以下のとおりです。
・女性の健康上の特性への配慮に関する方針を示し、制度の内容とともに労働者に周知していること
・研修等により労働者の理解を促進する取組を実施していること
・相談に応じる担当者を選任し、労働者に周知していること
認定を受けるには、上記に加えて、えるぼし認定の女性活躍に関する基準も満たす必要があります。詳しくは厚生労働省の女性活躍推進法特集ページで確認してください。
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースに関するよくある質問
生理休暇は無給でも助成金の対象になる?
なりません。無給の生理休暇は労働基準法第68条に沿った対応にとどまるためです。年次有給休暇と同等の給与を支払う生理休暇であれば、月経区分の休暇制度として対象になります。
不妊治療や更年期の休暇は無給でもよい?
無給でも支給対象になります。ただし厚生労働省は、労働者が利用しやすい制度にする観点から、有給とすることを検討するよう呼びかけています。
3区分すべての制度を整備する必要はある?
ありません。申請したい区分について、いずれかの制度を労働協約または就業規則に規定し、労働者が利用すれば対象になります。休暇は区分ごとに分けず、多目的休暇1本でも構いません。
パートタイム労働者も制度の対象にする必要がある?
あります。雇用保険に加入していないパートタイム労働者も制度を利用できるようにする必要があります。ただし、支給対象になるのは雇用保険被保険者が制度を利用した場合です。
男性が不妊治療で利用しても対象になる?
対象になります。不妊治療区分は男女を問わないため、会社の規定に基づいて男性労働者が制度を利用した場合も申請できます。
女性だけが使える不妊治療休暇でも対象になる?
対象になりません。不妊治療のための制度は、男女を問わず利用できる内容にする必要があります。
男性が更年期症状で制度を利用した場合は?
対象になります。就業規則等に定めたうえで、男性労働者がその制度を利用した場合も申請できます。
もともと残業がない人でも残業免除の利用になる?
なりません。所定外労働がもともと見込まれない労働者は、残業免除の制度を利用したとはいえないとされています。提出資料だけで判断できない場合は、労働局から追加の資料を求められることがあります。
キャリアコンサルタントを両立支援担当者にできる?
外部の人を選任する場合はできません。外部から選任できるのは、社会保険労務士か医療関係の国家資格を持つ人です。基本は労務管理に携わる社員を選び、事業主自身が担当者になることもできます。
働き方改革推進支援助成金と併給できる?
併給できます。厚生労働省のQ&Aでは、労働時間短縮・年休促進支援コースとの併給について、支給要件をそれぞれ満たせばそれぞれ支給されるとされています。
旧「不妊治療両立支援コース」を受給済みでも申請できる?
不妊治療区分は申請できません。月経・更年期の2区分は、新たに要件を満たせば対象になります。
参考:両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)Q&A(2026年度版)
まとめ
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースは、不妊治療・月経・更年期の3区分ごとに30万円、1事業主あたり最大90万円が支給される助成金です。令和8年度も令和7年度と同じ支給額・要件で実施されており、電子申請にも対応しています。
受給のポイントは、制度の規定と両立支援担当者の選任を利用開始日の前日までに済ませること、5日(回)に分けて利用した実績を記録で示せるようにすること、合計5日(回)に達した日の翌日から2か月以内に申請することの3点です。月経区分で休暇制度を使う場合は、有給の生理休暇にする必要がある点にも注意してください。
本コースで整えた制度は、「くるみんプラス」や「えるぼしプラス」の認定基準とも重なります。令和9年度は要件や支給額が見直される可能性があるため、多様な働き方への対応を進めたい中小企業は、最新の情報を確認しながら検討を進めましょう。
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