厚生労働省の調査によると、不妊治療を受けたことがある夫婦の割合は約4.4組に1組(22.7%、令和3年出生動向基本調査)に上ります。加えて、月経に伴う症状で仕事のパフォーマンスが下がる女性は約6割、更年期症状で就業継続に悩む女性も少なくありません。近年は「フェムテック」への注目が高まり、女性の健康課題を経営課題として捉える企業も増えてきました。
こうした流れを受けて厚生労働省が創設したのが、両立支援等助成金の「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」です。2025年度に「不妊治療両立支援コース」を拡充する形でスタートし、令和8年度(2026年度)も引き続き実施されます。不妊治療・月経・更年期の3区分ごとに30万円、最大で1事業主あたり90万円が支給される、中小企業にとって取り組みやすい助成制度です。
この記事では、令和8年度(2026年度)の最新支給要領に沿って、コースの支給額・要件・対象となる制度・申請の流れ・必要書類までをわかりやすく解説します。
▼▼▼日々配信中!無料メルマガ登録はこちら▼▼▼
メルマガ会員登録する
・出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
・介護離職防止支援コース
・育児休業等支援コース
・育休中等業務代替支援コース
・柔軟な働き方選択制度等支援コース
・【★本記事】不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース
合わせて読みたい:両立支援等助成金とは 各コースを徹底解説
この記事の目次
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースとは?中小企業に最大90万円
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースは、不妊治療・月経・更年期の3つの健康課題と仕事の両立を支援する制度を整備し、対象となる労働者に利用させた中小企業事業主に助成金が支給されるコースです。3つの区分は独立しており、それぞれ要件を満たせば1事業主あたり合計最大90万円を受給できます。
| 区分 | 助成額 | 1事業主あたりの上限 |
|---|---|---|
| 不妊治療 | 30万円 | 1回限り |
| 女性の健康課題対応(月経) | 30万円 | 1回限り |
| 女性の健康課題対応(更年期) | 30万円 | 1回限り |
各区分とも1事業主につき1回限りの支給ですが、同一年度内に複数の区分を申請することも、同一の労働者が異なる区分の制度を利用した場合に複数区分で申請することも可能です。
なお、令和6年度までに旧「不妊治療両立支援コース」を受給した事業主は、不妊治療区分は再受給できません。ただし、月経・更年期は新たに要件を満たせば対象になります。
令和8年度(2026年度)の変更点
令和8年度の不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースは、令和7年度から制度内容に変更はありません。支給額・要件・対象制度いずれも据え置きで、令和8年4月8日から令和9年3月31日までの申請に適用されます。
支給要領は令和8年4月1日時点、Q&Aは令和8年4月8日時点のものが公表されており、Q&Aは令和8年6月29日に一部差替が行われています。申請前に厚生労働省サイトで最新版を確認してください。
対象となる企業は?中小企業事業主の範囲
本コースの対象は、以下の「資本金の額または出資の総額」または「常時雇用する労働者の数」のいずれかに該当する中小企業事業主です。大企業は対象外となります。
| 業種 | 資本金または出資金 | 常時雇用する労働者数 |
|---|---|---|
| 小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
いずれか一方を満たしていれば「中小企業事業主」に該当します。資本金等のない事業主については、常時雇用する労働者の数のみで判定します。
助成金を受給するために必要な4つの要件
本コースは、制度を就業規則等に整備するだけでは支給対象になりません。「①制度を整える → ②担当者を決める → ③労働者に利用してもらう → ④雇用を継続する」の4つの要件を順に満たす必要があります。
要件①支援制度を整備し、就業規則に規定する
不妊治療・月経・更年期のそれぞれについて、以下6種類の制度から少なくとも1つを導入します。3区分すべてを整備する必要はなく、申請したい区分について1つ以上の制度が導入されていれば構いません。
・所定外労働制限制度(残業免除)
・時差出勤制度
・短時間勤務制度
・フレックスタイム制度
・在宅勤務等
導入した制度は、利用手続きや賃金の取扱いとあわせて労働協約または就業規則に明記します。「育児・介護休業法に準拠する」といった抽象的な規定を置くだけでは認められず、具体的な制度内容を条文として落とし込む必要があります。
短時間勤務制度を導入する場合の3つの条件
短時間勤務制度を導入する場合は、次の3点をすべて満たす必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 労働時間の短縮 | 1日の所定労働時間を1時間以上短縮できる |
| 賃金水準の維持 | 時間当たり基本給等の水準が制度利用前を下回らない |
| 雇用形態の維持 | 制度利用に伴って正規雇用から非正規雇用へ変更しない(本人希望を含む) |
不妊治療休暇制度の設計ポイント
休暇制度については、不妊治療・月経・更年期のそれぞれに別々の休暇を設ける必要はなく、多目的休暇1本で複数の課題に対応する形でもかまいません。労働基準法の年次有給休暇そのものは対象外ですが、失効した年次有給休暇を活用する制度は対象となります。
また、対象となる制度は雇用保険被保険者でないパートタイム労働者等も利用対象に含める必要があります。特定の労働者を除外する制度は助成対象外です。不妊治療については男性労働者も含めた男女双方を対象とする必要がある点にも注意してください。
要件②両立支援担当者を選任する
労働者からの相談に応じる両立支援担当者を1名選任します。選任は対象労働者が制度利用を開始する日の前日までに行う必要があり、事後の選任では認められません。
担当者は事業主自身、または雇用する労働者から選任するのが基本です。外部の専門家に委託する場合は、社会保険労務士または医療関係の国家資格を有する者(産業医・保健師・看護師・助産師等)に限られます。キャリアコンサルタントや健康管理士は外部選任の対象外です。
なお、不妊治療・月経・更年期それぞれに別の担当者を選任することもできます。相談内容の性質を踏まえ、適切な体制を構築しましょう。
要件③対象労働者に制度を利用してもらう
対象労働者に、整備した制度を所定労働日において合計5日(回)以上利用させます。
ここで実務上注意したいのが、「5日に分けて利用する必要がある」という点です。時間単位での利用も可能ですが、1日にまとめて取得した時間を合算して5日分とすることは認められません。また、同じ日に複数の制度を利用した場合は1回とカウントされます。
利用期間は制度利用開始日から1年以内が条件です。多目的休暇など、不妊治療・月経・更年期以外の目的でも利用できる制度を導入している場合は、当該課題対応のために利用したことが申出書等で確認できる日のみが対象としてカウントされます。
要件④申請日まで雇用保険被保険者として雇用を継続する
対象労働者を、制度利用開始日から支給申請日まで雇用保険被保険者として継続雇用していることが必要です。この間に退職・契約終了等があった場合は支給対象外となります。育休や休職期間中の労働者を対象としても構いませんが、退職の見込みがある労働者を対象にした場合は、支給に至らないリスクが高い点に留意しましょう。
申請タイミングと必要書類
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースの申請は、対象労働者が各区分の制度を合計5日(回)利用した日の翌日から2か月以内に行います。区分ごとに申請期限が別々に発生するため、労働者ごとに管理表を作るとよいでしょう。
申請のタイミングイメージ
申請するタイミングのイメージは以下のとおりです。

出典:両立支援等助成金支給申請の手引き(2026(令和8)年度版)
申請時の主な必要書類
申請の際は、支給申請書に加えて次のような書類の提出が求められます。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 支給申請書 | 厚労省指定の様式 |
| 労働協約または就業規則 | 導入した制度が明記されていること |
| 両立支援担当者の選任がわかる書類 | 選任日・氏名・職務内容 |
| 制度利用申出書 | 対象労働者による利用申請 |
| 労働者名簿・出勤簿・賃金台帳 | 雇用保険被保険者としての継続雇用を証明 |
| 制度利用実績が確認できる書類 | 各制度の利用日・時間などの記録 |
不妊治療区分の場合は、追加で「受診日・治療期間・受診先医療機関名が確認できる書類」「医師の診断書または証明書」「医療費の領収書」「不妊治療連絡カード」等の提出を求められる場合があります。プライバシー保護の観点から、これらの書類の取扱いには十分な配慮が必要です。
申請先は、本社等(人事労務管理の機能を有する事業所)の所在地を管轄する都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。令和5年6月26日からは電子申請にも対応しています。
くるみんプラス認定との組み合わせでさらに企業価値向上
不妊治療と仕事の両立に取り組む企業向けには、厚生労働省が「くるみんプラス」認定制度も設けています。「くるみん」等の子育てサポート企業認定を受けた企業が、不妊治療と仕事の両立にも積極的に取り組み、一定の基準を満たすと、「くるみんプラス」「プラチナくるみんプラス」「トライくるみんプラス」の認定を受けられる仕組みです。
主な認定基準は以下のとおりです。
・不妊治療と仕事の両立の推進方針を社内に周知していること
・研修等により労働者の理解を促進していること
・不妊治療を受ける労働者からの相談体制を整備していること
本コースで整備した制度は「くるみんプラス」認定の要件にも直結します。助成金の受給とあわせて認定取得を目指すことで、採用力の強化や企業ブランディングにも活用できます。
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースに関するよくある質問
パートタイム労働者も制度の対象にしないと申請できませんか?
申請できません。助成金の要件として、雇用保険料の支払い対象とならない短時間勤務のパートタイム労働者も含めて、休暇等の支援制度の対象とする必要があります。ただし、支給対象となるのは雇用保険被保険者が制度を利用した場合であり、雇用保険料を支払っていない労働者が制度を利用しただけでは事業主への支給要件は満たしません。
不妊治療を男性が利用しても支給対象になりますか?
対象になります。本コースは男女問わず不妊治療を対象としており、会社の規程に基づき男性労働者が休暇等の支援制度を利用した場合も、本助成金の申請対象となります。
女性のみを対象とした不妊治療の特別休暇制度でも支給対象になりますか?
対象になりません。本助成金の申請対象とするには、男女問わず不妊治療のための制度の対象とする必要があります。就業規則で女性のみを対象とする規定にしている場合は、男性も含めた設計に見直したうえで、労働者への周知を行う必要があります。
男性が更年期症状で休暇制度を利用した場合も対象になりますか?
対象になります。本コースのうち健康課題対応は女性が主眼ですが、更年期症状に係る支援については企業として就業規則等を定めた上で、男性労働者がそれに基づく休暇制度等を利用した場合も、本助成金の申請対象となります。
不妊治療・月経・更年期の3つすべての制度を整備する必要がありますか?
3つすべてを整備する必要はありません。申請したい区分について、いずれかの制度を労働協約または就業規則に規定し、その制度が労働者に利用されていれば支給対象となります。また、休暇制度は必ずしも不妊治療・月経・更年期それぞれで別に設ける必要はなく、いずれかを含む多目的休暇でも構いません。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)と併給できますか?
併給できます。厚生労働省のQ&Aでも「支給要件をそれぞれ満たせば、それぞれ支給される」と明記されています。同じ休暇制度の整備で複数の助成金を活用できる可能性があるため、自社の取組内容に応じて併給検討する価値があります。
令和6年度までに「不妊治療両立支援コース」を受給した場合、新制度で再申請できますか?
不妊治療区分は再申請できません。これまでに旧「不妊治療両立支援コース」で給付を受けた場合、不妊治療に係る対応は給付の対象外となります。ただし、月経・更年期の2区分については、新たに要件を満たせば給付対象となります。
月経休暇を無給で取得させた場合も、助成金のカウント対象になりますか?
対象になりません。労働基準法第68条により、月経で就業が著しく困難な場合には休暇を取らせることが企業に義務付けられており、その休暇は無給でも構わないとされています。無給の月経休暇は「法律上の義務対応」に過ぎず、本助成金の支援制度としては認められません。有給の月経休暇制度を整備する必要があります。
不妊治療や更年期の休暇は無給でも助成対象になりますか?
対象になります。不妊治療と更年期における心身の不調への対応については、法律上の休暇取得義務が明記されていないため、無給でも支給対象となります。ただし、労働者が利用しやすい制度とする観点からは、有給とすることが望ましいとされています。
キャリアコンサルタントや健康管理士も両立支援担当者になれますか?
外部委託の場合は選任できません。外部から選任できるのは社会保険労務士または医療関係の国家資格を有する者(産業医・保健師・看護師・助産師等)に限定されており、キャリアコンサルタントや健康管理士は対象外です。基本は労務管理に携わる社員を選任するか、事業主自身が担当者になる形が想定されています。
参考:両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)Q&A(2026年度版)
まとめ
不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースは、不妊治療・月経・更年期の3区分ごとに30万円、最大で1事業主あたり90万円が支給される助成金です。令和8年度も引き続き令和7年度と同じ内容で実施され、電子申請にも対応しています。
女性活躍推進やフェムテック導入の機運が高まる中、本コースを活用することで、制度整備のコストを抑えながら社内の環境改善を進められます。「くるみんプラス」認定と組み合わせれば、採用ブランディングや従業員エンゲージメントの向上にも直結します。多様な働き方への対応を進めたい中小企業にとって、今こそ検討したい支援策です。
▼▼▼日々配信中!無料メルマガ登録はこちら▼▼▼
メルマガ会員登録する
・出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
・介護離職防止支援コース
・育児休業等支援コース
・育休中等業務代替支援コース
・柔軟な働き方選択制度等支援コース
・【★本記事】不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース
合わせて読みたい:両立支援等助成金とは 各コースを徹底解説


