新型コロナウイルス流行による社会への影響は一定の落ち着きを見せ、世界的な人の移動が活発になりつつあります。令和4年10月11日には水際対策が緩和され、海外からの個人旅行者の受け入れも始まりました。
観光業の大きな課題のひとつは、こうした海外からの旅行者が安心・安全に過ごせる環境整備です。感染症対策をはじめ、災害時の案内の多言語化、避難施設や病院との連携など、外国人観光客の安全を守る取り組みは多岐にわたります。
こうした環境整備事業を支援するため、観光庁は訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業の公募を開始しました。今回は、訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業の概要や申し込み方法について紹介します。
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この記事の目次
インバウンドへの期待は高まる
長引く円安を背景に、いま、海外からの旅行先として日本の人気が高まっています。水際対策が緩和されたことで、個人旅行客も増えてきました。それにともない、観光地では外国人観光客によるインバウンドの増加が期待されています。
政府は2030年、訪日外国人旅行者を6,000万人にすることを目標に掲げました。これは2020年「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」にて選定されたものですが、新型コロナウイルス流行拡大の影響で、最初の目標だった「2020年訪日外国人旅行者数4,000万人」の達成には至っていません。それだけに、2030年の目標達成が強く望まれています。
観光戦略の新たな基本計画として、2月9日、政府は日本を訪れる外国人旅行者の消費額の目標の引き上げるとする案を発表しました。1人あたり20万円というこの数字は、2025年にはコロナ禍前を25%も上回ります。
年間のインバウンド消費では、5兆円が目標額です。コロナ禍でダメージを受けた観光業の復興において、外国人観光客のインバウンド需要は大きな役割を果たすことが見込まれています。
訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業の内容
訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業は、外国人旅行者の受入環境整備の一環として観光庁が実施する補助金です。災害等の非常時にも外国人旅行者が安全・安心に過ごせる環境整備に要する経費の一部が補助されます。
まずは訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業の概要や対象経費などを見ていきましょう。
訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業とは
本事業は、環境設備に関する緊急対策の促進を目的にしています。外国人旅行者の滞在時の快適性や観光地の魅力向上等を目指した災害時非難施設や病院等の整備が、補助の対象です。
本事業は「観光施設等における感染症対策機器等の整備」「災害時の観光施設等における避難所機能の強化」「災害時の観光施設等における多言語対応機能の強化」「訪日外国人患者受入機能の強化」の4つのメニューから成り立ちます。それぞれの内容は、以下のとおりです。
(1)観光施設等における感染症対策機器等の整備
訪日外国人旅行者を受け入れる観光施設等での、感染症の拡大防止を推進します。
(2)災害時の観光施設等における避難所機能の強化
災害時、訪日外国人旅行者を受け入れる観光施設等における避難所機能強化を推進します。
(3)災害時の観光施設等における多言語対応機能の強化
災害時、訪日外国人旅行者の避難誘導を行う観光施設等における多言語対応を推進します。
(4)訪日外国人患者受入機能の強化
医療機関における、訪日外国人患者受入機能強化を推進します。
対象事業者
補助の対象となる事業者は、以下のとおりです。
■観光案内所・観光施設等を設置もしくは管理する者
■観光地における店舗・事業所等を運営する者
■病院、診療所等を設置または管理する者(「訪日外国人患者受入機能の強化」のみ)
主な要件と対象施設
補助対象となる主な要件と対象施設は、それぞれ以下のとおりです。
主な要件
(1)観光施設等における感染症対策機器等の整備
・対象施設において、感染症予防に必要な措置を講じること
・対象施設等に外国人旅行者が来訪している(見込み)こと
・対象施設等が外国人旅行者受入環境整備に積極的に取り組んでいることについて、関係地方公共団体が確認していること
(2)災害時の観光施設等における避難所機能の強化
・災害等が発生した際、避難のために当該施設を利用することについて、関係地方公共団体との調整がなされていること 等
(3)災害時の観光施設等における多言語対応機能の強化
・災害等が発生した場合の当該施設利用者の避難・誘導対応について、関係地方公共団体との調整がなされていること 等
(4)訪日外国人患者受入機能の強化
・「外国人患者を受け入れる医療機関の情報を取りまとめたリスト」に登録している、または登録の見込みであること
※登録見込みの場合は、令和5年度内に登録が完了することが条件です。
対象施設
以下の①~⑩のうち、訪日外国人旅行者が毎年一定数訪れている (見込み) の施設等が対象です。
①神社・寺院・教会
②城跡・城郭・宮殿
③庭園・公園
④動植物園・水族館
⑤博物館・美術館
⑥テーマ公園またはテーマ施設
➆外国人観光案内所
⑧道の駅、みなとオアシス等
⑨上記以外で訪日外国人旅行者の利用が見込まれる施設等
⑩病院、診療所、歯科診療所 (「訪日外国人患者受入機能の強化」のみ)
立地要件
補助の対象施設は、以下のいずれかの立地条件を満たしている必要があります。
■訪日外国人旅行者数の目標 (2030年に6,000万人) 実現に向けて、受入れ体制を整えている地域
■訪日外国人旅行者の誘致等、観光振興に意欲を有する地域
なお、以下の地域での事業については優先的に採択されます。
■「非常時における外国人旅行者の安全・安心の確保に向けた指針」に基づく観光危機管理計画を策定した地域
■「地域防災計画」等において訪日外国人旅行者の避難計画等を定めた地域
対象経費
補助の対象経費は、以下の①~④です。
①観光施設等における感染症対策機器等の整備
■感染症対策機器
■トイレ
■非接触式キャッシュレス決済環境
■混雑状況の「見える化」と推奨ルートの表示
②災害時の観光施設等における避難所機能の強化
■非常用電源装置
■情報端末への電源供給機器
■災害用トイレ
■避難所機能に係る施設整備、改良
■案内標識・案内表示
③災害時・急病時の観光施設等における多言語対応機能の強化
■多言語案内機能の整備
■無料公衆無線LAN環境の整備
■スタッフ研修
④訪日外国人患者受入機能の強化
■多言語案内機能の整備
■無料公衆無線LAN環境の整備
■キャッシュレス決済環境の整備
■スタッフ研修
補助率
補助率は、対象経費の1/2以内です。
申請方法
次に、申請の方法について確認しましょう。申請は基本的には電子データで行いますが、難しい場合には郵送でも申請可能です。まずは提出先に問い合わせてください。
公募期間
令和5年2月9日(木)~令和5年9月29日(金)17時必着
※ただし、予算がなくなり次第終了となります。
【申請方法】
■電子データ
・CD-R等の記録媒体または電子メールで書類を提出します。
・事業計画書はエクセルで、それ以外はPDFで作成してください。
・また、すべての書類のデータを1つにまとめたPDFファイルも提出が必要です。
■書面による提出方法
・書類等は簡易書留、特定記録等、配達されたことが証明できる方法で送付してください。
・提出の際は、封筒等の表面に「インバウンド安全・安心対策推進事業(感染症対策事業)」と朱書きしてください。
申請先は地方運輸局等です。事業スキームに関しては、以下の図も参照してください。
出典:観光庁
必要書類
申請に必要な書類は、以下の①~④です。
①事業計画書
②補助対象経費の算出基礎となる見積書などの資料
③地方公共団体等の補助(予定)額等を確認できる資料等
④その他計画を審査する上で参考となる書類
訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業活用のメリット
コロナ禍において、国内の観光業は大きな打撃を受けました。復興はまだ完全ではありません。インバウンドが期待を集める一方で、環境整備の予算的余裕がない施設も多くあります。しかし、1度設備された環境は、その後も長く観光客の満足度を高めてくれます。災害時の避難先や案内は、地元で暮らす外国人住民にとっても有益です。
地域にとっても観光客にとってもメリットの大きい環境設備の資金には、補助金を活用しましょう。訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業は必要な書類が少なく、条件さえ合致すれば比較的申請が容易な補助金です。
補助金制度を活用して予算的負担を減らしつつ、インバウンド増加の準備を整えましょう。
まとめ
長く続いたコロナ禍も、ようやく「ウィズ」の兆しが見えてきました。ほかの病気と同じように感染予防策や治療法が明確になりつつある今だからこそ、「アフター」に向けた準備をしておきたいものです。訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業は、外国人旅行者のインバウンドを高める政策に沿った補助金です。国が支援に力を入れている分野にこそ、観光業復興のチャンスがあります。
訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業はアフターコロナを見据え、外国人も日本人もともに過ごしやすい環境整備を目指す企業に活用して欲しい補助金です。
参考:令和4年度補正予算 訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業(インバウンド安全・安心対策推進事業)の公募開始について