新型コロナの拡大以降、国内外の観光需要が減少して観光産業は深刻な影響を受けました。
令和4年度は、観光地・観光産業の存続と、観光の本格的な復興の実現を図るための取り組みに予算が計上されていましたが、令和5年度予算はどのような内容になるのでしょうか。公表された令和5年度観光庁の予算概算要求から、探ってみましょう。
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この記事の目次
観光庁 令和5年度の要求額
総額の要求額は454億円5,800万円で、そのうち一般会計は、前年度予算額の1.25倍となる176億8,800万円を計上し、東日本大震災からの復興枠は、前年度と同額の7億7,000万円、国際観光旅客税を活用した高次元な観光施策の展開には、対前年度比3.34倍の270億円を計上しました。
【事項要求】観光立国の復活に向けた施策の推進
令和4年度概算要求では、新型コロナへの対応について、具体的な金額を示さない事項要求を行いました。
令和5年度では「観光立国の復活に向けた施策の推進」について事項要求を行い、今後の感染状況や観光需要の動向等を踏まえつつ、予算編成過程で検討するとしました。年末までに細部を詰めて金額が決まります。
ポストコロナを見据え、地方経済・雇用を支える観光立国の復活を図り地方創生を進めるため、以下のような取り組みを推進するとしています。
(1)観光地再生・高付加価値化事業
宿泊施設、観光施設、公的施設等の改修や観光地の魅力向上のための廃屋撤去などの取り組みを促進します。(※基金化などの計画的・継続的な支援策が可能となるよう制度を拡充予定)
(2)地域のブランド化に繋がるような観光資源の磨き上げ
継続的な旅行者の獲得のため、地域社会・経済・環境に好循環をもたらすコンテンツの造成・旅行需要喚起等を支援します。
なお、(1)について、令和4年度実施事業では、補助上限額は1億円、補助率1/2(一定の条件を満たすと補助率2/3)でした。施策イメージをみると、令和5年度は施設の改修や廃屋の撤去だけでなく、宿泊者情報の一元化によるマーケティングなどを支援する「面的DX化支援」も盛り込まれています。
では、ここから、具体的施策の予算要求についてみていきましょう。以下、予算の大きい箇所、新規の要求などを抜粋して記載します。
参考・出典:観光庁 令和5年度 観光庁関係 予算概算要求概要
観光立国復活に向けた基盤の強化
(1)新たな交流市場の開拓
・新たな交流市場の創出事業:6億5,000万円(新規)
人々の行動様式・生活様式・労働様式の変化により、ニーズが多様化していることから、新たな交流市場の創出事業に予算を計上しています。
具体的には「第2のふるさとづくり」と、企業と地域によるワーケーションの取り組みや将来にわたって旅行者を惹きつける新たなレガシー形成により、国内外の観光需要を喚起し、交流人口や関係人口の拡大などを目指します。
(2)地域の魅力向上と持続可能な観光地域づくり
・地域の資源を生かした宿泊業等の食の価値向上事業:5,700万円(新規)
地域の食材の積極活用等により食の価値を高め、宿泊業の付加価値の向上を進めるとともに、地域経済へのプラス効果を増大させる取り組みについて、調査・検証します。
(例)「食」をセールスポイントにできていない宿泊施設に対して、一流シェフのマッチング支援等を行い、地域の食材を有効活用しつつ、地域独自の資源や「食」を楽しみたい旅行客のニーズに対し訴求力のある食の提供に繋げる。
・ポストコロナを見据えた受入環境整備促進事業:30億6,400万円(対前年度比1.13倍)
観光地・宿泊施設・公共交通機関の各場面において、受入環境の整備を促進するため、以下の支援を行います。
持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備の取り組みを支援 | |
自然環境、文化等の地域資源の保全・活用 | ・有料トイレの整備 ・入域料の徴収のためのシステム整備 等 |
オーバーツーリズムの未然防止 | ・混雑平準化のためのシステム(混雑状況の可視化等)の整備 ・マナー啓発に必要な備品、施設等の整備 等 |
観光施設等における危機管理対応能力強化・訪日外国人患者の受入機能強化に向けた取り組みを支援 | |
感染症対策等の危機管理対応能力強化 | ・感染症対策強化 ・避難所機能強化 ・災害時の多言語対応強化 等 |
訪日外国人患者受入機能強化 | ・翻訳機器の整備 等 |
災害時等における観光危機管理計画の策定及び訓練の実施を支援 |
滞在・移動空間の快適性や利便性等の向上に向けた取り組みを支援 | |
ストレスフリー・バリアフリーな宿泊環境整備 | ・非接触チェックイン、キーレスシステムの導入 等 ・客室・浴室のバリアフリー化 等 |
交通サービスの受入環境整備 | ・段差解消(エレベーター) ・UD(ユニバーサルデザイン)タクシー ・携帯型翻訳機 ・観光列車 等 |
(3)観光産業の高付加価値化
・DXや事業者間連携等を通じた観光地や観光産業の付加価値向上支援:15億円(新規)
観光産業の生産性向上等を図るため、地域内の宿泊施設の予約・在庫に関するデータの共有と利活用を促進すると同時に、地域の参考となるような、観光産業と他業種との連携における先駆モデル創出を目指します。
インバウンド回復に向けた戦略的取組
・戦略的な訪日プロモーションの実施:93億円(対前年度比1.42倍)
訪日プロモーションに関しては、すでに入国緩和の状況等に応じて、市場ごと段階的にプロモーション事業を拡大してきたところです。今後のプロモーションとして、短期的にはインバウンドの回復に向けた取り組みを行い、中長期的には旅行消費額増加やポストコロナの旅行ニーズへの対応等に取り組むことで、本格的なインバウンド回復の実現を目指します。
【実施するプロモーションの内容は?】
インバウンドの回復に向けたスタートダッシュ | ①航空会社・OTA等との共同広告を通じて、訪日旅行を促進 ②コロナ禍で高まったリピーターの訪日意欲を、訪日予約につなげる大規模なアジアキャンペーン |
デジタル技術を活用したマーケティング基盤の強化 | デジタルマーケティング技術の活用による効果的な発信 |
ポストコロナの旅行ニーズへの対応 | アウトドアスポーツやサステナブル等、ポストコロナにおいて訴求力が高い観光コンテンツの発信強化 |
消費額の増加 | 高付加価値旅行者の誘致強化、消費単価が高い欧米豪市場を中心とした情報発信 |
地方誘客の促進 | 地方で磨き上げた観光資源の新たな魅力発信、2025年大阪・関西万博の機会を捉えたプロモーション 等 |
・地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり支援事業:4億円(新規)
高付加価値旅行者層(着地消費100万円/人以上)は、訪日旅行者全体の約1%(29万人)に過ぎませんが、消費額の約11.5%を占めます。しかし地方への訪問率は大きくないため、地方訪問を促すことによる地方創生への貢献が期待されます。
そこで、地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりを推進するため、モデル観光地を10か所程度選定し、これらの地域に対して地域のマスタープランの策定等を支援します。
(例)
①ファイナンス、観光コンテンツ、ブランディング等の専門人材の派遣による戦略・計画策定
②市場調査の実施、マーケティング戦略策定(ターゲット設定、ニーズの把握等)
東日本大震災からの復興(復興枠)
復興枠では「福島県における観光関連復興支援事業」とともに、ALPS処理水の海洋放出による風評への対策である「ブルーツーリズム推進支援事業」に予算を要求しています。
【福島県における観光関連復興支援事業:5億円】
福島県における観光復興を促進するため、同県が福島県観光関連復興事業実施計画に基づいて実施する①滞在コンテンツの充実・強化、②受入環境の整備、③プロモーションの強化、④観光復興促進のための調査を支援し、国内外から福島県への誘客を図ります。
【ブルーツーリズム推進支援事業:2億7,000万円】
海の魅力を高め、国内外からの誘客と観光客の定着を図るために行う、①海水浴場等の受入環境整備、②海の魅力を体験できるコンテンツの充実、③海にフォーカスしたプロモーション、④ビーチ等の国際認証の取得に向けた取組等を総合的に支援します。
まとめ
令和5年度観光庁の予算概算要求について調べてみると、令和5年度も、前年度に引き続き、地域経済を支えるポストコロナの観光の復興を目指す取り組みに予算が計上されていることがわかります。
予算要求額の大きいところとして
・ポストコロナを見据えた受入環境整備促進事業(30億6,400万円)
・インバウンド回復に向けた戦略的な訪日プロモーションの実施(93億円)
・DXや事業者間連携等を通じた観光地や観光産業の付加価値向上支援(15億円)
があります。
また、金額を示さない事項要求として「観光立国の復活に向けた施策の推進」が盛り込まれています。そのうち、地域一体となった、面的な観光地再生・高付加価値化を推進する「観光地再生・高付加価値化事業」では、宿泊施設のリニューアル、廃屋撤去等の取り組みを促進するため制度の拡充が予定され、新たに面的DX化支援も対象になる見込みです。
「観光のトレンドと地域の特色を活かした未来を描きたい」、「地域一体で同じ目標に向かって、それぞれの事業を前進させたい」そんな想いをお持ちの事業者の皆さまは、拡充が予定されている、観光の復興を目指す地域一体型の施策に注目してみてはいかがでしょうか。令和5年度予算の方向性を知り、情報を逃がさないようにすることで、来年度申請できるように準備していきましょう。