離職し、次の職が決まるまでの間は収入が不安定になりがちです。特に雇用保険の適用がなかった方は、失業手当などの支援が受けられず、職探しに専念できないという問題もあります。
厚生労働省はそうした転職・再就職を目指す人のために、求職者支援を行っています。令和5年3月末までは、転職を希望しない人でもスキルアップのための職業訓練にこの制度を活用できるようになりました。求職者支援制度の内容と、令和5年3月末までの特例処置について紹介します。
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この記事の目次
転職・再就職のための課題
厚生労働省の発表によると、令和3年度上半期の入職者数は離職者数を277万1,000人上回りました。前年同期と比べると、男女ともに入職率は上昇し、離職率は低下しています。
出典:令和3年上半期雇用動向調査結果の概要 入職と離職の推移 より抜粋
しかし入職率・離職率の推移でみると、昨年度は入職率と離職率が拮抗しています。特に離職率は令和元年まで上昇傾向にありました。
転職や離職からの再就職が珍しくなくなった昨今では、次の職を得るまでの期間をどう過ごすかは誰にとっても直面しうる問題となっています。これまでより条件のいい職に就くための職業訓練を受けたいと思っても、生活のための収入も必要です。
生活のための費用とスキルアップを両立させることは、条件のいい転職のために解決しなくてはならない課題となっているのです。
求職者支援制度とは
求職者支援制度は、生活の支援を受けながら転職・再就職を目指す制度です。無料の職業訓練を受けながら、月10万円の支援金を受け取ることができます。給付金の支給要件を満たさない場合にも職業訓練の受講は可能です。また、令和5年度までの特例として、転職をせずにスキルアップを利用しやすくなる措置を設けています
求職者支援制度の対象者
給付金の支給を受けて訓練を受講する方と訓練の受講のみの方は、それぞれ以下のような区分にわけられます。まずは自分がどれに該当するのかを確認しましょう。
【給付金を受けて訓練を受講する方】
①離職者
・雇用保険の適用がなかった離職者の方
・フリーランス、自営業を廃業した方
・雇用保険の受給が終了した方など
②在職者
・パートタイム(一定額以下の収入)で働きながら、正社員への転職を目指す方など
【給付金を受けず、無料の訓練のみ受講する方】
①離職者
・親や配偶者と同居していて一定の世帯収入がある方
・親と同居している学卒未就職の方など
②在職者
・フリーランス(一定が収入のある)で働きながら、正社員への転職を目指す方など
求職者支援制度の対象要件
該当する区分がわかったら、必要な要件を確かめましょう。
制度の対象となるには、該当する要件をすべて満たしている必要があります。対象要件を以下にまとめました。
【通常要件】
①ハローワークに求職の申込みをしていること
②雇用保険被保険者や雇用保険受給資格者でないこと
③労働の意思と能力があること
④職業訓練などの支援を行う必要があるとハローワークが認めたこと
【給付金の支給要件】
⑤本人収入が月8万円以下
⑥現在の居住地のほかに土地・建物を所有していない
⑦世帯全体の金融資産が300万円以下
⑧世帯の中で同時にこの給付金を受給して訓練を受けている者がいない
⑨過去3年以内に、不正の行為による特定の給付金の支給を受けていない
【令和5年3月末までの特例】
⑩シフト制で働く方などは、本人収入が月12万円以下
⑪世帯全体の収入が月40万円以下
⑫訓練の8割以上に出席する
(病気や仕事など以外の理由で訓練を欠席した場合、給付金は日割りで支給)
求職者支援制度の支給額は?
給付金の支給を受ける場合、支給額は以下のとおりです。
・職業訓練受講手当:月額10万円
・通所手当:職業訓練実施機関までの通所経路に応じた所定の額(上限額あり)
・寄宿手当:月額10,700円
制度適用の対象者となった場合、「求職者支援訓練」または「公共職業訓練」を原則無料で受講できます。ただし、テキスト代などは自己負担です。
訓練期間中・訓練修了後も、ハローワークによる就職支援を受けられます。
訓練コース
求職者支援制度を利用して受けられる主な訓練は、以下のとおりです。
①基礎
ビジネスパソコン科、オフィスワーク科など
②IT
WEBアプリ開発科、Android/JAVAプログラマ育成科など
③営業・販売・事務
OA経理事務科、営業販売科など
④医療事務
医療・介護事務科、調剤事務科など
⑤介護福祉
介護職員実務者研修科、保育スタッフ養成科など
⑥デザイン
広告・DTPクリエーター科、WEBデザイナー科など
⑦その他
3次元CAD活用科、ネイリスト養成科など
訓練期間は2か月から6か月ですが、最長2年までの公共職業訓練も受けることができます。
また、令和5年3月末までの特例により、シフト制の在職者などを対象とするコースは2週間から受講が可能です。
受講者の声
令和2年度は、全国で2万人の方が制度を利用して職業訓練を受講しています。
厚生労働省のリーフレットには、以下のような受講者の声が寄せられています。
・介護職が初めてで不安もありましたが、経験豊富な講師の授業により理解が深まり、介護職として働く意欲が高まりました
・簿記の資格を取得でき、就職先も決まりました。面接や履歴書の作成指導のおかげで就職活動に意欲的に取り組めました
・給付金をもらえたので、生活の心配をせずに訓練に集中できました
参考:厚生労働省 「求職者支援制度のご案内」
制度活用の流れ
求職者支援制度の利用には、訓練受講の手続きと職業訓練受講給付金の手続きの2つを行う必要があります。それぞれの手続きの流れを見ていきましょう。
①求職申込み・制度説明
訓練受講の手続き…ハローワークにて、求職申込みを行う
職業訓練受講給付金の手続き…ハローワークでの職業相談時に、制度利用希望の旨を申告
②訓練コースの選択
訓練受講の手続き…ハローワークにて適切な訓練コースを選び、必要書類を受け取る
職業訓練受講給付金の手続き…事前審査の説明を受け、必要書類を受け取る
③訓練の受講申込み
訓練受講の手続き…ハローワークにて受講申込みの手続きを行い、受講申込書を訓練実施機関に提出する
職業訓練受講給付金の手続き…訓練の受講申込みと同時に、事前審査の申請を行う
④訓練実施機関による選考
訓練受講の手続き…訓練実施機関による選考を受ける
職業訓練受講給付金の手続き…なし
⑤就職支援計画の作成(支援指示)
訓練受講の手続き…訓練実施機関から「合格」の通知が届いたら、訓練開始日の前日までにハローワークにて「就職支援計画書」(支援指示)の交付を受ける
職業訓練受講給付金の手続き…選考に合格したらハローワークで支給申請の必要書類を受け取る
⑥訓練の受講開始
訓練受講の手続き…訓練受講中から訓練修了後3カ月間、原則月に1回、指定する日にハローワークにて職業相談を受ける
職業訓練受講給付金の手続き…指定来所日に職業相談を受けた後、支給申請をする
※指定来所日にハローワークに来所しないことは就職支援拒否となり、以後の「職業訓練受講給付金」は支給されなくなります。
必要書類
申請には書類の提出が必要です。各種手続きに必要な書類は以下のとおりです。
【職業訓練受講給付金の事前審査に必要な書類】
①マイナンバー確認書類
②身元確認書類
③ハローワークから交付された各種様式・所定の添付書類
【支給申請に必要な書類】
①ハローワークから交付された各種様式
②やむを得ない理由で訓練を欠席した場合など、その理由を証明する書類
③寄宿を開始したことまたは終了したことを証明する書類(寄宿手当の支給を希望する方)
求職者支援制度「特例措置」について
令和5年度3月末までの特例処置は、働きながら訓練を受けて社内での正社員転換などを目指す方や今の仕事に役立つ能力を身に付けようとする方などが訓練の対象です。
各種要件は以下のとおりです。
【本人収入要件】
シフト制で働く方、自営業・フリーランス、副業・兼業を行う方などで、1カ月の固定的な収入が8万円以下の方は、本人収入の要件が月12万円以下
【世帯収入要件】
世帯収入要件が月40万円以下
【出席要件】
仕事で訓練を欠席せざるを得ない日は「やむを得ない欠席」となる(出席要件は「訓練の8割以上に出席すること」)
まとめ
家庭の問題や将来的なスキルアップのために現職を離れることは、誰にでも起こり得る時代になりました。多くの場合、次の職を得るまでの間は収入が少なくなります。その期間に新しい技術を身に着け、より適した職場へ再就職を図るためには、当面の生活費の確保が必要です。
求職者支援制度は、一部の人だけが必要な支援ではありません。不安定な社会情勢のなか、こうした支援があるということは誰にとっても助けとなるはずです。