内閣府が令和3年度の国土強靭化関係予算案を発表しました。
政府は防災・減災のための国土強靭化対策として今後5年間で15兆円程度の事業費の確保を目指しています。
初年度となる令和3年度の財源は2020年度の第3次補正予算案にも盛り込まれており、令和3年度の本予算と合わせておよそ4.4兆円の事業が計画されています。
今回は令和3年度の国土強靭化関係の予算案のポイントについて紹介いたします。
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この記事の目次
令和3年度国土強靭化関係予算案の基本方針
令和3年度の国土強靭化対策では、これまで進められてきた「国土強靭化基本計画」に基づく施策を継続し、令和2年に策定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」に基づいて、新たに防災・減災の分野へのデジタル活用やライフラインの耐災害性向上などの加速にも取り組みます。
(1)「経済財政運営と改革の基本方針2020」に基づく施策
「経済財政運営と改革の基本方針2020」(令和2年7月17日閣議決定)に基づき、激甚化・頻発化する水災害、切迫化する大規模地震災害、いつ起こるか分からない火山災害等から国民の命と暮らしを守るため、防災・減災、国土強靱化について、ハード・ソフト一体となった取組を強力に推進する。
【経済財政運営と改革の基本方針2020とは?】
新型コロナウイルス感染症拡大への対応と経済活動の段階的引上げなどによるウィズコロナの経済戦略、そして新たな日常の実現に向けたデジタル化への集中投資・実装とその環境の整備などについて政府の方針を取りまとめたもので、国土強靭化への対応として下記のものが挙げられています。
- デジタル技術を活用した危機管理、事前復興も踏まえた復旧・復興等の迅速化。
- 防災専門家の育成等により地域防災力を向上。
- 長期停電や通信障害などを防ぐ無電柱化をはじめとした電気・水道等のインフラ・ライフラインや道路ネットワークの耐災害性強化
- 大規模広域避難・要配慮者避難や中小河川も含めた浸水リスク情報の充実、学校等の防災機能強化など避難対策の強化、森林整備・治山対策、インフラ老朽化対策等を加速。
- 気候変動による降雨量増大や海面上昇等を踏まえた水害・土砂災害対策や高潮・高波対策として、防災気象情報の高度化、堤防・ダム・砂防堰堤・ため池の整備、利水ダムを含む既存ダムの洪水調節機能の強化、自然の持つ機能の活用、浸水被害防止
対策、住まい方の工夫など、あらゆる関係者による流域全体での対策を実施。 - 東日本大震災からの復興の仕上げに向け取り組む。
- 令和2年7月豪雨などの被災者が一日も早く安心した暮らしを取り戻せるよう、被災者の気持ちに寄り添い、復旧・復興に全力
(2)国土強靭化計画に基づく施策
令和3年度国土強靱化関係予算案においては、「国土強靱化基本計画(平成30年12月14日閣議決定)」に基づき、15の重点化すべきプログラムを中心として施策の重点化・優先順位付け、ハード・ソフトの組み合わせ等により、府省庁横断的な国土強靱化の取組を重点的・効果的に推進する。
【重点化すべき15のプログラムとは?】
国土強靭化計画の基本目標である「I.人命の保護が最大限図られる」「II.国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けずに維持される」「III.国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化」「IV.迅速な復旧復興」の達成に向け、起きてはならない下記の15の最悪の事態の回避を目的に実施するプログラムを指します。
- 住宅・建物・交通施設等の複合的・大規模倒壊や不特定多数が集まる施設の倒壊による多 数の死傷者の発生
- 広域にわたる大規模津波等による多数の死傷者の発生
- 突発的又は広域かつ長期的な市街地等の浸水による多数の死傷者の発生
- 大規模な火山噴火・土砂災害(深層崩壊)等による多数の死傷者の発生
- 被災地での食料・飲料水・電力・燃料等、生命に関わる物資・エネルギー供給の停止
- 自衛隊、警察、消防、海保等の被災等による救助・救急活動等の絶対的不足
- 劣悪な避難生活環境、不十分な健康管理による多数の被災者の健康状態の悪化・死者の 発生
- 災害時に活用する情報サービスが機能停止し、情報の収集・伝達ができず、 避難行動や救 助・支援が遅れる事態
- サプライチェーンの寸断等による企業の生産力低下による国際競争力の低下
- 太平洋ベルト地帯の幹線が分断する等、基幹的陸上海上交通ネットワークの機能停止によ る物流・人流への甚大な影響
- 食料等の安定供給の停滞
- 電力供給ネットワーク(発変電所、送配電設備)や都市ガス供給、石油・LPガスサプライ チェーン等の長期間にわたる機能の停止
- 上水道等の長期間にわたる供給停止
- 地震に伴う市街地の大規模火災の発生による多数の死傷者の発生
- 農地・森林等の被害による国土の荒廃
令和3年度国土強靭化関係予算案
令和3年度の予算額は全体でおよそ4.4兆円で、各府省庁の予算は下記のとおりです。
内閣官房【1.69億円】
- 国土強靭化施策推進方策等の検討
内閣府【188億円+α】
- 地震対策・土砂災害対策・火山災害対策の推進
- 社会全体としての事業継続体制の構築推進
- 実践的な防災行動定着に向けた国民運動の推進
- 防災を担う人材の育成
- 地方創生の深化のための基盤整備
- 建設・インフラ維持管理
- 防災・減災技術及び国家レジリエンスの強化に関する研究開発 など
警察庁【334億円】
- 警察施設の耐災害性の強化
- 警察用航空機等の整備
- 交通情報収集・提供・活用のためのシステムの整備・運用
- 交通安全施設等の整備
- 災害装備資機材の充実強化、機動警察通信隊の対処能力の向上 など
総務省【128億円】
- 地方公共団体の災害対応能力の強化
- 火災予防対策などの推進
- 電気通信事業分野における安全・信頼性確保
- 消防の広域化の推進等、防災情報の伝達体制の強化
- 防災等に資する公衆無線LAN環境整備の推進 など
法務省【219億円】
- 法務省施設の耐震化等
外務省【23億円】
- 「世界津波の日」に関する国際機関と連携した啓発活動等
文部科学省【1297億円+α】
- 学校施設等の耐震化・老朽化対策・防災機能強化
- 海底地震・津波観測網の構築・運用
- 官民連携による地震観測システムの構築等による地震動及び建築物の地震応答に関するデータの収集・整備
- スーパーコンピューター「富岳」の運営等、国立研究開発法人施設等の耐震化・老朽化対策
- 災害発生時の通信手段確保等に資する通信衛星の開発 など
厚生労働省【398億円+α】
- 水道施設の耐震化等の推進、国立感染症研究所等の自家発電設備、災害時情報共有システム運用事業
- 災害派遣医療チーム(DMAT)の養成、社会福祉施設等の耐震化 など
農林水産省【5369億円+α】
- 農林水産施設の耐震化・老朽化対策・長寿化対策・突発事故対策
- 漁港施設の耐震・津波対策
- 農道・林道等の老朽化対策等の推進
- 農村漁村における再生可能エネルギーの導入支援 など
経済産業省【387億円+α】
- 災害時に備えた地域におけるエネルギー供給拠点の整備
- 災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料整備の推進
- ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト
- メタンハイドレートの研究開発
- 天然ガス利用設備による災害時の強靭性向上 など
国土交通省【3兆3000億円】
- 集中豪雨や火山噴火等に対応した総合的な土砂災害対策の推進
- 海外保全施設の整備
- 道路ネットワークの機能強化対策
- 広域的な復旧・復興体制や物流の代替性の確保
- 港湾・空港・鉄道施設等の防災・減災・老朽化対策
- 密集市街地対策の推進、住宅・建築物の耐震化の促進 など
環境省【551億円+α】
- 森林等の荒廃の拡大を防ぐ自然公園等の整備
- 環境配慮・防災まちづくり浄化槽整備推進事業
- 循環型社会形成推進交付金による一般廃棄物処理施設の防災機能の向上への支援
- 地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する避難施設等への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業
- 自然生態系の機能を活かした社会の強靱性の向上
- 森林等の荒廃の拡大を防ぐための鳥獣害対策の強化
- 災害廃棄物仮置場整備の支援
- 気候変動影響評価・適応推進事業、災害時活動拠点施設における
停電時エネルギー供給が可能なZEB化等推進に関する緊急対策 など
防衛省【2134億円】
- 迅速な情報収集・通信伝達態勢の維持・整備、大規模風水害への対応態勢の整備
- 災害廃棄物処理の対応態勢の整備
- 感染症対処能力の向上
- 駐屯地・基地施設の機能強化
- 生活支援等の態勢の整備、
- 特殊災害への対応態勢の充実
- 災害派遣即応態勢を向上させるための措置
- 人員・物資の輸送態勢の維持
- 災害派遣時の対処能力を高める措置
- 防災・災害対応に必要な通信インフラの麻痺・機能停止を回避するための経費 など
まとめ
今回は令和2年12月に発表された令和3年度の国土強靭化関係予算について紹介しました。
自然災害への対応はもちろんのこと、近年は高度成長期に建造された建築物やインフラの老朽化対策や、災害情報の迅速な共有のためのデジタル化等にも大きな予算が割り当てられています。
激甚化する災害への対応を進める過程で政府の災害対策に向けた方針も幾度となく刷新が行われていますので、家庭や企業内で減災・防災に取り組む際には政府の広報などから国土強靭化の最前線で何が行われているのかを知ることも重要といえるのではないでしょうか。
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