平成4年4月から施行された育児・介護休業法では、男女とも育児休業を取得することができることが定められました。しかし、令和2年度における男性の育児休業取得率は12.65%で、女性の81.6%を大きく下回ります。
男性が育児休業を取得する際に、職場でハラスメントを受けるケースなどが問題となっています。しかし、男性が育児休業を取得することは社会全体にとってもメリットがあることです。
今回は男性の育児休業取得について、その利点や活用できる助成金についてまとめました。
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この記事の目次
男性の育児休業取得促進の背景
男性の育児休業取得が促進される背景には、男性自身が希望しても育児休業を取得しづらい環境があります。厚生労働省のパンフレットでは、「育児のための休暇・休業を希望していたが育児休業を取得できなかった」とする男性労働者が約4割いたことが報告されました。
参考:育児・介護休業法 令和3年改正内容の解説
この要因としては、「男性には育児休業は必要ない」とする偏見や、ほかの労働者への遠慮があげられます。
しかし男性が育児休業を取得して積極的に育児を担うことは、女性の社会進出の促進や子供の出生数の向上にもつながることが期待できます。出産・育児を経験して社会復帰する女性の雇用を継続し、将来を担う子供の数を増やすことは、社会活動全体を支えることになるのです。
育児・介護休業法改正のポイント
育児・介護休業法は「育児休業法」として平成3年に制定されました。育児や介護によって休業や労働時間を短縮せざるを得ない場合などに、雇用形態の変更や給付金の受給を認める法律です。
令和3年の改正では、男性の育児休業取得促進のための出生時育児休業(産後パパ育休)が創設されました。令和4年4月1日から段階的に施行されるこの改正では、男性の育児休業取得に関する環境整備などについて触れられています。
令和4年4月、10月、令和5年4月の施行内容を、それぞれ見ていきましょう。
令和4年4月1日施行
令和4年4月1日から、以下の①と②が施行されます。
①雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化
【育児休業を取得しやすい雇用環境の整備】
事業主は以下のいずれか、できれば複数の措置を講じることが義務化されます。
■育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
■育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備
■自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
■自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
【妊娠・出産を申し出た労働者に対する個別の周知・意向確認の措置】
本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、事業主は以下の事項を周知し、休業の取得意向の確認を行います。
■育児休業・産後パパ育休に関する制度
■育児休業・産後パパ育休の申し出先
■育児休業給付に関すること
■労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い
個別周知・意向は「面談」「書面交付」「FAX」「電子メール等」のいずれかで確認する必要があります。
なお雇用環境整備、個別周知・意向確認とも、産後パパ育休については令和4年10月1日からが対象ですが、子の出生が令和4年10月以降に見込まれるような場合には、産後パパ育休制度も含めて周知することが望ましいとされています。
②有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
育児・介護休業取得のための要件は、以下のように変更になります。
■現行
①引き続き雇用された期間が1年以上
②1歳6か月までの間に契約が満了しない
■改定後
①撤廃
②継続
また、育児休業給付についても同様に緩和されます。
【令和4年10月1日施行】
令和4年10月1日からは、以下の表のように、育児休業とは別に産後パパ育休の取得が可能になります。また、育児休業も一部が制度変更となりました。
出典:育児・介護休業法 改正ポイントのご案内
改定の主なポイントは以下のとおりです。
【産後パパ育休 (新設)】
①子の出産後8週間以内に、4週間まで取得できる (分割可)
②原則休業の2週間前までに申請する
③休業中の就業も可能 (就労日には上限あり)
【育児休業制度 (変更)】
①分割での取得が可能に
②育児開始日を柔軟化
③再取得可能な場合がある
改定後のイメージは、以下の図も参照してください。
出典:育児・介護休業法 改正ポイントのご案内
取得時期を分割したり産後パパ育休と育児休業制度を夫婦で組み合わせたりすることで、より多様な働き方が実現できるようになりました。
なお育児休業等を理由とするハラスメントや不利益な取り扱いを防止するために、事業主には職場でのハラスメントを防止する措置を講じることが義務付けられています。
【令和5年4月1日施行】
令和5年4月1日からは、育児休業取得状況の公表が義務化されます。今後、従業員数1,000人超の企業は年1回、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」を公表します。
子育てパパ支援助成金について
男性労働者に育児休業を取得させた事業者は、「子育てパパ支援助成金」を活用することができます。その概要や助成金額について、まとめました。
子育てパパ支援助成金とは
子育てパパ支援助成金とは、正式には「両立支援等助成金 出生時両立コース」という名称の制度です。
男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境整備や業務体制整備を行った事業者を支援し、職業生活と家庭生活の両立に関する取組を促して労働者の雇用の安定に資することを目的としています。
令和4年度から、その内容は男性労働者の出生時育児休業取得に関する「第1種」と男性労働者の育児休業取得率上昇に関する「第2種」にわかれます。
なお「第1種」は、令和3年度には「育児休業取得」とされていた部分の変更後の名称です。そのほか令和4年は要件や対象企業の変更と「第2種」の新設、「男性労働者が育児目的休暇を取得した場合」の廃止が行われました。
支給額
助成支給額は以下のとおりです。
【第1種】
20万円(1事業主1回限り)
代替要員加算…20万円(代替要員が3人以上の場合は45万円)
【第2種】
育児休業取得率が30%以上上昇したのが、第1種の支給を受けてから
■1年以内:60万円<75万円>
■2年以内:40万円<65万円>
■3年以内:20万円<35万円>
<>内は、生産性要件を満たした場合の支給額です。
主な支給要件
それぞれの主な要件は以下のとおりです。
【第1種】
①雇用環境整備の措置を複数行っていること
②育児休業取得者の業務を代替する労働者の業務見直しに係る規定等を策定し、業務体制の整備をしていること
③男性労働者が子の出生後8週間以内に、開始する連続5日以上の育児休業を取得すること
また「代替要員加算」として、男性労働者の育児休業期間中の代替要員を新たに確保した場合に助成金が加算して支給されます。
【第2種】
①第1種の助成金を受給していること
②第1種の申請をしてから3事業年度以内に、男性労働者の育児休業取得率が30%以上上昇していること
③育児休業を取得した男性労働者が、第1種申請の対象となる労働者の他に2名以上いること
申請手続き
助成金の支給を受けるには、指定の期間内に必要書類を都道府県労働局長に提出します。
申請期間と必要な書類は以下のとおりです。
【申請期間】
■第1種
育児休業の終了日の翌日から起算して2か月以内
■第2種
要件を満たす事業年度の翌事業年度の開始日から起算して6か月以内
【必要書類】
■第1種
①労働協約または就業規則および関連する労使協定
②雇用環境整備の措置を複数実施していることとその実施日が確認できる書類
③育児休業取得者の業務を代替する労働者の業務見直しに関わる規定等
④育児休業取得者の育児休業申出書
⑤育児休業取得者の育児休業前1か月分の就業実績および指定の期間について休業したことが確認できる書類
⑥育児休業取得者の労働契約期間の有無、育児休業期間の所定労働時間、所定労働日などが確認できる書類
⑦対象育児休業取得者に育児休業に関わる子がいること、および当該子の出生日が確認できる書類
⑧労働局に届出した策定届の写しなど
■第2種
①労働協約または就業規則および関連する労使協定
②雇用環境整備の措置を複数実施していることとその実施日が確認できる書類
③育児休業取得者の業務を代替する労働者の業務見直しに関わる規定等
④要件を満たしたことを明らかにする書類
⑤男性労働者の育児休業申出書および育児休業したことが確認できる書類
⑥労働局に届出した策定届の写しなど
まとめ
少子高齢化による労働人口の低下が続く現代において、男性の育児休業取得率の向上は社会全体の活性化に関わる急務です。しかし職場や男性自身に「男には育児休業が必要ない」という誤った偏見が残っているケースも多くあります。
こうした誤解やハラスメントを減らすためにも、休業制度や助成金を積極的に活用し、現代の時代にあった働き方を広めていくことが重要です。