「新規事業やDXに向けて社員のスキルを底上げしたい。でも研修費用と、受講中に支払う給料の負担が重すぎる」——そんな理由で人材育成を先送りしていないでしょうか。
厚生労働省の人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」なら、新規事業・DX・GXに向けた社員研修の経費を中小企業は最大75%まで助成してもらえます。訓練期間中の賃金も、1人1時間あたり1,000円(中小企業の場合)が助成されます。
ただし本コースは、厚生労働省が令和4年度から令和8年度末までの時限措置として設けた制度です。加えて令和8年8月3日に大きな改正があり、1年度あたりの受講回数に上限が設けられ、DX・GX訓練でも「汎用的な内容」は助成対象外と明記されました。生成AIの研修を検討している企業は、内容の組み立て方を誤ると不支給になりかねません。
本記事では、令和8年度(2026年度)時点の助成額・対象訓練・改正点・申請の流れを、厚生労働省の令和8年8月3日版パンフレットをもとに整理して解説します。
▼▼▼日々配信中!無料メルマガ登録はこちら▼▼▼
メルマガ会員登録する
・人材育成支援コース
・教育訓練休暇等付与コース
・人への投資促進コース
・【★本記事】事業展開等リスキリング支援コース
・建設労働者認定訓練コース
・建設労働者技能実習コース
・障害者職業能力開発コース
あわせて読みたい:人材開発支援助成金【最新版】の全コースを解説!最大でいくらもらえる?
この記事の目次
事業展開等リスキリング支援コースとは?対象になる3つの訓練
事業展開等リスキリング支援コースとは、新規事業の立ち上げやDX・GX化に伴って必要になる知識・技能を社員に習得させる訓練を実施したとき、訓練経費と訓練期間中の賃金の一部が助成される制度です。厚生労働省の人材開発支援助成金にある7コースのひとつで、令和4年12月に創設されました。
| 制度名 | 人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」 |
| 所管 | 厚生労働省(申請先は都道府県労働局) |
| 目的 | 事業展開・DX化・GX化等に伴い必要となる人材育成の支援 |
| 対象企業 | 雇用保険適用事業所の事業主(中小企業・大企業とも対象) |
| 経費助成率 | 中小企業75%/大企業60% |
| 賃金助成額 | 中小企業1,000円/大企業500円(1人1時間あたり) |
| 実施期間 | 令和4年度~令和8年度の時限措置 |
助成対象になる訓練は3類型
本コースで助成対象になる訓練は、次の3類型のいずれかに当てはまるものです。訓練時間数が10時間以上のOFF-JT(企業の事業活動と区別して実施する訓練)であることが共通の前提となります。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| ①事業展開に伴う訓練 | 新たな分野へ進出するにあたり必要となる専門的な知識・技能を習得させる訓練。事業展開は訓練開始日から3年以内に実施予定のもの、または6か月前までに実施したものに限られます |
| ②DX化・GX化に伴う訓練 | 企業内のデジタル化・DX化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるにあたり、その業務に従事させるうえで必要となる知識・技能を習得させる訓練 |
| ③人事・人材育成計画に基づく訓練 | 企業内の人事及び人材育成に関する計画に基づき、今後従事する予定の職務(訓練開始日から3年以内)に必要となる知識・技能を習得させる訓練 |
③の「人事・人材育成計画に基づく訓練」は、令和8年3月2日の改正で新たに追加された類型です。具体的な事業展開計画がなくても、中長期の人材育成ロードマップに沿った配置転換前の研修であれば対象になります。ただし計画の作成や認定経営革新等支援機関の確認など追加の手続きが必要で、定額制サービスによる訓練は使えません。
「事業展開」「DX化」「GX化」はどう定義される?
厚生労働省は、事業展開を「新たな製品の製造や新たな商品・サービスの提供等により新たな分野に進出すること」と定義しています。事業や業種の転換のほか、既存事業のなかで製造方法・提供方法を変更する場合も事業展開に含まれます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)化は、デジタル技術を活用して業務効率化を図ったり、製品・サービス・ビジネスモデルを変革したりすることを指します。GX(グリーン・カーボンニュートラル)化は、徹底した省エネや再生可能エネルギーの活用によりCO2等の温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする取り組みです。
・建設業:DX化による測量受注拡大に向け、ドローン操縦技能やBIMの講習を受講させる
・飲食業:テイクアウト・弁当の製造販売開始に伴い、予約システム構築やアプリ開発の講座を受講させる
・製造業:溶解炉をコークスから電気炉へ変更しCO2削減を図るため、必要な知識・技能を習得させる
・医療・福祉:オンライン診察やAI問診の導入に向け、医療従事者にDX訓練を受講させる
・農業:農薬散布のトラクターをドローンに置き換えCO2を削減するため、ドローンスクールに通わせる
事業展開等リスキリング支援コースはいくらもらえる?助成率と上限額
事業展開等リスキリング支援コースの経費助成率は中小企業75%・大企業60%、賃金助成は1人1時間あたり中小企業1,000円・大企業500円です。中小企業はさらに、要件を満たすと「設備投資加算」として導入費用の50%が上乗せされます。
| 企業規模 | 経費助成率 | 賃金助成(1人1時間) | 設備投資加算 |
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 75% | 1,000円 | 導入費用の50% |
| 大企業 | 60% | 500円 | 対象外 |
eラーニングによる訓練等、通信制による訓練等、定額制サービスによる訓練、育児休業中訓練は経費助成のみで、賃金助成の対象外です。
経費助成の限度額は訓練時間で3段階
1人1訓練あたりの経費助成の限度額は、実訓練時間数に応じて3段階に分かれます。中小企業で200時間以上の訓練なら50万円が上限です。
| 企業規模 | 10時間以上100時間未満 | 100時間以上200時間未満 | 200時間以上 |
|---|---|---|---|
| 中小企業 | 30万円 | 40万円 | 50万円 |
| 大企業 | 20万円 | 25万円 | 30万円 |
ただし例外があります。eラーニング・通信制による訓練等は、訓練時間数にかかわらず中小企業15万円・大企業10万円が一律の上限です(令和8年4月8日の改正で30万円・20万円から引き下げられました)。通学制や同時双方向型の通信訓練と組み合わせて実施する場合も、この上限が適用されます。定額制サービスによる訓練の場合は、受講者1人1か月あたり2万円が上限です。また専門実践教育訓練の指定講座は、一律「200時間以上」の区分として扱われます。
賃金助成と1事業所あたりの上限額
賃金助成の限度時間は、1人1訓練あたり1,200時間です。専門実践教育訓練の場合のみ1,600時間まで認められます。所定労働時間外や所定休日に実施した訓練の時間は、賃金助成の対象から除かれます(あらかじめ所定休日を別日に振り替えた場合は対象)。
そして1事業所が1年度に受給できる助成額は、通常分と加算分をあわせて1億円が上限です。ここでいう1年度とは、支給申請日を基準とした4月1日から翌年3月31日までを指します。
設備投資加算とは?中小企業は導入費用の50%が上乗せ
設備投資加算は、令和8年4月8日に新設された中小企業限定の加算措置です。訓練で実際に使用した機器・設備と同種のもの(事業展開促進機器等)を事業所に新たに導入した場合、その導入費用の50%が通常分とは別に支給されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 中小企業事業主のみ(大企業は対象外) |
| 助成率 | 導入費用の50%(1コースの一の導入費用あたり) |
| 上限額 | 支給対象労働者1人につき15万円、10人以上の場合は150万円 |
| 導入費用の下限 | 10万円以上(消費税込み・見積価格および購入価格) |
| 導入方法 | 購入、リース契約、ライセンス契約、既存機器の性能向上を伴う変更 |
導入費用には、機器・設備の購入価格のほか、設定費用、設置・撤去等の費用、リース契約等に係る費用も含まれます。一方で、パソコン・タブレット端末・スマートフォンおよびその周辺機器、汎用事務機器、特殊用途自動車以外の自動車、空調設備や照明機器、テレワーク用通信機器などは加算の対象外です。
加算を受けるには、訓練側にも3つの要件があります。事業展開またはDX・GX化に必要な訓練であること、通学制または同時双方向型の通信訓練であること、実技の訓練等で機器・設備等を実際に使用することです。つまりeラーニングのみで完結する訓練や、機器を使わない座学中心の訓練は加算対象になりません。人事・人材育成計画に基づく訓練も加算の対象外です。
さらに事業主側の要件として、「賃金要件」または「資格等手当要件」のいずれかを満たす必要があります。
| 賃金要件 | 訓練終了日の翌日から1年以内に、対象労働者の毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させること。改定後3か月間と改定前3か月間の賃金総額を比較し、全員が5%以上増加している必要があります |
|---|---|
| 資格等手当要件 | 資格等手当の支払いを就業規則等に規定したうえで、訓練終了日の翌日から1年以内に全対象労働者へ支払い、賃金を3%以上増加させること |
設備投資加算の支給申請は通常分とは別に行います。申請期限は、賃金または資格等手当を3か月間継続して支払った日の翌日から起算して5か月以内です。過去に設備投資加算を受けた事業所は、訓練開始日時点で前回の支給決定日の翌日から3年が経過している必要があります。導入した機器は、導入日の翌日から1年間は原則として処分できません。
令和8年8月3日の改正で何が変わった?受講回数の上限と生成AI訓練の扱い
令和8年8月3日、事業展開等リスキリング支援コースに2つの重要な改正が入りました。受講回数の上限設定と、DX・GX訓練の対象範囲の絞り込みです。いずれも令和8年8月3日以降に提出する計画届に基づく訓練から適用されます。
①同一労働者の受講回数は1年度3回まで、eラーニングは1回まで
助成対象となる訓練の受講回数は、1労働者につき1年度で3回までに制限されました。このうちeラーニングによる訓練は、1労働者につき1年度で1回までです。複数の実施方法を組み合わせて訓練を実施する場合も、eラーニングを含むものはこの1回にカウントされます。
| 区分 | 受講回数の上限(1労働者・1年度あたり) |
|---|---|
| コース全体 | 3回まで |
| うちeラーニングによる訓練 | 1回まで(令和8年8月3日以降の計画届分から算入) |
| 定額制サービスによる訓練 | 人への投資促進コースの定額制訓練・自発的職業能力開発訓練と合算して3回まで |
なお不支給となった訓練は、受講回数にカウントされません。1年度の起算は支給申請日を基準とした4月1日から翌年3月31日までです。
②DX・GX訓練でも「汎用的な内容」は対象外に|生成AI研修の可否
令和8年8月3日以降に提出する計画届では、DX化・GX化に関する訓練であっても、「職務に間接的に必要となる知識・技能」や「職業人として共通して必要となるもの」を習得させる訓練は助成対象外となりました。改正前はDX・GX訓練であればこうした内容も許容される余地がありましたが、実務への直結性が厳しく問われるようになっています。
厚生労働省は判断のポイントを3つ示しています。特定の職業・職務に必要な知識・技能を習得するものか、マナー・リテラシー・概念理解にとどまっていないか、訓練内容に沿って対象労働者を選定しているか、の3点です。生成AI研修についても、次のとおり明確な線引きが示されました。
| 訓練内容の例 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 生成AIを活用して商品提案書の構成案作成・文章生成・修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練 | 助成対象 | 営業担当者の具体的な業務に直結し、そのまま活用できる内容であるため |
| 生成AIを利用するための汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練 | 助成対象外 | 特定業務への具体的適用を伴わない汎用的内容であるため |
| DXの概念、デジタル技術の概要、データ活用の考え方を学ぶ訓練 | 助成対象外 | 共通知識の習得にとどまり、業務に直接適用される内容ではないため |
| 脱炭素の基本理念や国際情勢、GX化で企業に求められる対応を学ぶ訓練 | 助成対象外 | 概念理解にとどまり、具体的作業として業務に適用される内容ではないため |
| 自社のエネルギー使用量データ収集方法とCO2排出量算定手順を学ぶ訓練(CO2排出量算定業務の担当者が受講) | 助成対象 | 業務プロセスに直接組み込まれる実務能力を習得できるため |
| 同じCO2排出量算定の訓練を、人事や営業に従事する者が受講 | 助成対象外 | 訓練内容と対象労働者の職務が対応していないため |
同じ研修でも、誰に受けさせるかで判定が変わる点は見落としがちです。計画届の段階で、対象労働者の職務と訓練カリキュラムの対応関係を説明できるようにしておきましょう。
③不正受給の公表に関する特例が新設
令和8年8月3日以降の支給申請からは、不正が認められた場合、支給決定前であっても自主申告をしていなければ原則として事業主名が公表されます。ただし支給申請額の合計が100万円未満の場合や、事業主が不正受給に関与していないことが明らかな場合は除かれます。
自主申告とは、労働局による実地調査・呼び出し調査・文書照会よりも前に、不正受給に該当する旨を申告することです。自主申告のうえで受給額・違約金・延滞金を速やかに返還した場合などは、原則として事業主名は公表されません。
令和8年8月3日改正には経過措置がある
計画届の提出日が令和8年8月3日以降でも、次に該当する場合は令和8年5月14日改正の支給要領が適用されます。改正前から準備を進めていた訓練が、いきなり対象外にならないための措置です。
| 訓練区分 | 経過措置の条件 |
|---|---|
| 事業外訓練 | 教育訓練機関との契約締結または申込が令和8年8月2日以前に行われている場合 |
| 事業内訓練 | 支給対象経費に係る契約・申込・発注等のいずれか1つ以上が令和8年8月2日以前に行われている場合 |
経過措置の適用を受けるには、契約締結日や申込日が確認できる書類を計画届の提出時に添付する必要があります。
令和8年4月8日・5月14日の改正点もあわせて確認
令和8年度は8月3日以外にも改正が行われています。特に定額制サービスと事業内訓練の経費まわりは、従来の感覚のまま申請すると不支給になりうる箇所です。
定額制サービスは「1人あたり10時間以上」が必須に
令和8年4月8日から、定額制サービスによる訓練の支給対象労働者の要件が変更されました。改正前は受講者全員の合計が10時間以上であれば訓練全体が助成対象でしたが、改正後は1人あたり10時間以上を修了した労働者のみが支給対象になります。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 支給対象労働者 | 標準学習時間が1時間以上の者 | 標準学習時間が10時間以上の者 |
| 支給対象訓練の要件 | 各対象労働者の標準学習時間の合計が10時間以上 | 廃止 |
この変更に伴い、提出書類の扱いも見直されました。「定額制サービスによる訓練実施結果報告書」(様式第8-5号)は、対象労働者が10人以上の場合は任意の10人分、10人未満の場合は全員分の提出が必要です。また「教育訓練機関が発行する、受講時間が10時間以上である者の一覧表」の提出が求められ、従来必要だった対象労働者の修了証・LMS情報の写しは不要になりました。ただし労働局から提出を求められる場合があるため、事業所での整備・保管は必要です。
密接な関係にある者への支払いは経費助成の対象外
令和8年4月8日から、申請事業主と密接な関係にある者との間の訓練実施に係る経費は、経費助成の対象外となりました。具体的には、部外講師への謝金・手当・旅費、施設・設備の借上費、教科書等の購入費、教育訓練機関への入学料・受講料などが該当します。
「密接な関係にある者」には、申請事業主の代表者等、雇用する者、代表者等の配偶者または3親等以内の親族、親会社・子会社の代表者等などが含まれます。グループ会社に研修を委託するケースは要注意です。
受講料等の価格設定に関する疎明書が必要に
令和8年5月14日の支給要領改正により、支給申請時に「受講料等の価格設定に関する疎明書」(様式第28号)の提出が必要になりました。計画届の提出時期を問わず、令和8年5月14日時点で支給申請が行われていないもの、および支給申請済みだが支給・不支給決定がされていないものが対象です。経費助成の申請がない場合は提出不要です。
背景には、助成金の申請時のみ受講料を著しく高額に設定する事例への対応があります。同一の訓練内容にもかかわらず助成金の有無だけで差額が生じている場合、その差額部分は支給対象になりません。
電子申請の対応状況にも注意
人材開発支援助成金は雇用関係助成金ポータルからの電子申請に対応していますが、令和8年3月2日改正で拡充された支給対象訓練や分割支給申請については、電子申請画面の準備が続いています。該当する計画届を提出する場合は、厚生労働省のホームページから様式をダウンロードし、管轄労働局へ紙で提出または郵送する必要があります。
事業展開等リスキリング支援コースの対象要件は?
事業展開等リスキリング支援コースを受給できるのは、雇用保険適用事業所の事業主のうち、次の要件をすべて満たす事業主です。対象労働者は、その事業所の雇用保険被保険者に限られます。
| 事業主の要件 | 内容 |
|---|---|
| 雇用保険 | 雇用保険適用事業所の事業主であること |
| 計画の策定 | 労働組合等の意見を聴いて事業内職業能力開発計画および職業訓練実施計画届を作成し、内容を労働者に周知していること |
| 推進者の選任 | 職業能力開発推進者を選任していること(事業所ごとに1名以上) |
| 賃金の支払い | 訓練等を受けさせる期間中も、対象労働者に賃金を適正に支払っていること |
| 書類の保存 | 審査に必要な書類を整備し、支給決定後5年間保存していること |
| 審査への協力 | 労働局長の求めに応じて書類を提出・提示し、実地調査に協力すること |
| 計画の作成 | 事業展開等実施計画(様式第1-3号)を作成する事業主であること |
対象労働者側は、訓練実施期間中に雇用保険被保険者であること、計画届時に提出した「対象労働者一覧」に記載されていること、そして実施方法に応じた受講要件を満たすことが必要です。
| 訓練の実施方法 | 対象労働者の受講要件 |
|---|---|
| 通学制・同時双方向型の通信訓練 | 受講時間数が実訓練時間数の8割以上であること |
| eラーニング・通信制 | 訓練実施期間中に訓練等を修了していること |
| 定額制サービスによる訓練 | 修了した訓練の標準学習時間が合計10時間以上であること |
特に注意したいのが、訓練経費を支給申請までに事業主がすべて負担していなければならない点です。返金や割引、営業協力費の受け取りなどで実質的に負担が減っている場合、経費助成は全額対象外になります。「助成金を使えば研修が実質無料になる」といった勧誘には応じないよう、厚生労働省も繰り返し注意喚起しています。
対象にならない訓練・講座はどれ?
事業展開等リスキリング支援コースでは、OFF-JTであっても実施目的や実施方法によって助成対象外となる訓練があります。カリキュラムの一部に含まれる場合も、その時間は実訓練時間数から除外して10時間以上を満たす必要があります。
| 対象外となる実施目的 | 具体例 |
|---|---|
| 職業・職務に間接的に必要となる知識・技能 | 普通自動車運転免許の取得講習など(令和8年8月3日以降はDX・GX訓練でも対象外) |
| 職業人として共通して必要となるもの | 接遇・マナー講習、コミュニケーション講習など(同上) |
| 趣味・教養を身につけることが目的のもの | 日常会話程度の語学講習、話し方教室など |
| 通常の事業活動として遂行されるもの | コンサルタントによる経営改善指導、自社の経営方針説明、社内制度の説明、QCサークル活動、自社製品の説明など |
| 職業能力開発に直接関連しないもの | 時局講演会、見学会、視察旅行、ビジネス交流会、オンラインサロンなど |
| 法令等で事業主に実施が義務づけられているもの | 労働安全衛生法に基づく特別教育、道路交通法に基づく法定講習など |
| 職業・職務の知識技能習得を目的としないもの | 意識改革研修、モラール向上研修など |
| 役職として求められる知識・技能(人事・人材育成計画に基づく訓練に限る) | 管理職研修、マネジメント研修、リーダーシップ研修など |
| 単独で受験して取得できる資格試験・適性検査 | 講習を受講しなくても受験できる検定など |
実施方法の面でも対象外になるケースがあります。労働者が自発的に受講したもの、専らビデオのみを視聴して行う講座、海外・洋上で実施するもの、生産ラインや就労の場で行われるもの、営業同行トレーニングなど通常の生産活動と区別できないもの、年次有給休暇を与えて受講させる訓練などです。
厚生労働省は「AI研修とAIツールの導入をセットで行うことにより、AIツールの導入費用も研修費用として申請できる」という営業手法に注意を促しています。AI研修の受講料は対象経費になりますが、AIツールの導入費用は対象経費になりません。
「人事・人材育成計画に基づく訓練」で申請する場合の追加要件
令和8年3月2日に追加された「人事・人材育成計画に基づく訓練」で申請する場合、通常の要件に加えて4つの手続きが必要です。事業展開型・DX型より手間がかかるため、申請前に確認しておきましょう。
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| ①計画の策定 | 「企業内の人事及び人材育成に関する計画」(参考様式第3号)を作成し、計画届と併せて提出する |
| ②認定支援機関の確認 | 中小企業は、あらかじめ認定経営革新等支援機関(商工会議所、金融機関、税理士など)による計画内容の確認を受ける |
| ③承諾書の取得 | 対象労働者に計画の内容と受講の目的を説明し、業務命令により訓練を受講することについての承諾書(様式第19号)を取得する |
| ④実施状況の報告 | 訓練終了後、支給対象労働者を計画で予定していた職務に従事させ、実施状況報告書と雇用契約書の写し等を労働局に提出する |
対象になるのは、訓練開始日時点で従事している職務とは異なる職務に必要な知識・技能を習得させる訓練です。異なる職務かどうかは、令和4年改定「厚生労働省編職業分類」の小分類(大分類01の管理的職業は除く)で判断されます。
実施状況の報告期限は、訓練開始日から3年を経過する日の翌日から2か月以内です。ただし全ての支給対象労働者を予定していた職務に従事させた場合は、従事することとなった日の翌日から報告できます。合理的な理由なく予定していた職務に従事させなかった場合や、配置転換の前後で賃金・手当を引き下げた場合は、不支給決定または支給決定取消となります。
事業展開等リスキリング支援コースの申請の流れとスケジュール
申請は「計画届の提出 → 訓練の実施 → 支給申請」の3ステップで進みます。最も重要な期限は、職業訓練実施計画届を訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出することです。
Step0:職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の策定
計画届を提出する日までに、社内で職業能力開発推進者を選任し、事業内職業能力開発計画を策定して従業員に周知しておく必要があります。推進者は、教育訓練部門や労務・人事担当の部課長など、職業能力開発に関する権限を持つ者から事業所ごとに1名以上を選任します。特別な資格は不要ですが、選任の記録を書類として保管しておきましょう。
Step1:職業訓練実施計画届と事業展開等実施計画の提出
訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に、管轄の都道府県労働局へ計画届一式を提出します。たとえば訓練を7月1日に開始する場合、提出期間は1月1日から6月1日までです。定額制サービスによる訓練の場合は、契約期間の初日から起算して1か月前までとなります。
| 主な提出書類 | 様式 |
|---|---|
| 職業訓練実施計画届 | 様式第1-1号 |
| 事業展開等実施計画 | 様式第1-3号 |
| 対象労働者一覧(定額制サービス以外) | 様式第3-1号 |
| 事前確認書 | 様式第11号 |
| 訓練カリキュラム・受講案内等 | 任意 |
| OFF-JT講師要件確認書(事業内訓練の場合) | 様式第10号 |
| 設備投資加算に係る設備投資実施計画(加算を申請する場合) | 様式第21号 |
このうち「事業展開等実施計画」(様式第1-3号)は本コース特有の様式です。事業展開・DX化GX化・人事人材育成計画のいずれに該当するかを選び、その内容を具体的に記載します。抽象的な記載では審査が通りにくいため、現在の事業内容と訓練を行うきっかけとなった取り組みを、数字や固有名詞を交えて書き込みましょう。設備投資加算を申請する場合は、導入予定機器の見積書2社分の添付も必要です。
Step2:訓練の実施
計画届の内容に沿って訓練を実施します。計画内容に変更が生じた場合は、変更届(様式第2-1号)を期限までに提出してください。期限までに変更届を出さずに変更後の訓練を実施すると、その部分は助成対象外になります。訓練経費は支給申請までに全額を支払い終えておく必要があります。
Step3:支給申請
支給申請は、訓練終了日の翌日から起算して2か月以内が原則です。たとえば訓練が8月31日に終了した場合、期限は10月31日となります。
| 申請区分 | 申請期間 |
|---|---|
| 通常分 | 訓練終了日の翌日から2か月以内 |
| 分割支給申請 | 訓練期間が6か月を超える場合、6か月ごとに区分した分割訓練期間の最終日の翌日から2か月以内 |
| 設備投資加算分 | 賃金または資格等手当を3か月間継続して支払った日の翌日から5か月以内 |
| 資格試験の受験料を含む場合 | 資格試験の受験日の翌日から2か月以内 |
分割支給申請は、訓練期間が6か月を超える場合に、当該分割訓練期間の受講時間数が実訓練時間数の8割以上であることを条件に利用できます。長期にわたる訓練でもキャッシュフローの負担が軽くなる仕組みです。ただし訓練全体で支給要件を満たさず不支給となった場合、それ以前の支給決定も取り消されるため、訓練修了後は必ず最終の支給申請を行ってください。
事業展開等リスキリング支援コースはいつまで使える?
事業展開等リスキリング支援コースは、厚生労働省が令和4年度から令和8年度末までの時限措置として設けた制度です。令和8年8月3日版の詳細版パンフレットにも、令和4年~8年度の期間限定の助成金として創設した旨と、令和8年度末までの時限措置である旨が明記されています。
・職業訓練実施計画届は訓練開始日の1か月前までに提出が必要
・訓練カリキュラムの設計や研修機関の選定にも時間がかかる
・設備投資加算を狙う場合は、賃金改定や資格等手当の規定整備も並行して進める必要がある
・「年度末ギリギリに申請すればよい」という考え方では間に合わない可能性が高い
なお、令和9年度以降の取り扱いについては、本記事執筆時点で厚生労働省から延長・後継制度に関する公表はありません。制度は年度の途中で変更される場合もあるため、活用を決めたら早めに計画届の準備に着手したうえで、最新の要件を厚生労働省のホームページまたは管轄の労働局で確認してください。
あわせて読みたい:リスキリングで使える補助金・助成金まとめ【2026年・令和8年】個人向け制度も紹介
申請時の注意点・よくある落とし穴
事業展開等リスキリング支援コースは確認項目が多く、審査にも時間がかかります。不支給になりやすいポイントを事前に押さえておきましょう。
訓練は所定労働時間内に実施する
賃金助成の対象になるのは、所定労働時間内に実施した訓練だけです。所定労働時間外や所定休日に行った訓練は賃金助成の対象外になります。ただし、あらかじめ所定休日を別の日に振り替えていた場合は対象となります。eラーニングや通信制による訓練であっても業務上義務づけられたものは労働時間に該当するため、その時間の賃金支払いは必要です。
計画届の提出前に実施した訓練は対象外
計画届を提出する前に実施した研修は、助成対象になりません。訓練開始日の1か月前までという提出期限は厳格に運用されており、郵送の場合は消印ではなく労働局への到達日が提出日となります。
訓練経費は事業主が全額負担する
訓練経費の一部でも従業員に負担させると、賃金助成を含めて不支給となります。また教育訓練機関からの返金、アンケート協力金、営業協力費の受け取りなども実質的な負担軽減とみなされ、経費助成の対象外になります。
助成金の申請代行は社会保険労務士の独占業務
社会保険労務士法第27条により、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者が、報酬を得て助成金の支給申請手続き業務を行うことは禁止されています。教育訓練機関が「無償で申請手続きを行う」と謳っていても、受講料に手続きの対価が含まれていると評価される場合は問題が生じます。
事業展開等リスキリング支援コースに関するよくある質問
最後に、事業展開等リスキリング支援コースについてよく寄せられる質問をまとめました。事業展開等リスキリング支援コースはいつまで申請できますか?
令和4年度から令和8年度末までの時限措置とされています。ただし職業訓練実施計画届は訓練開始日の6か月前から1か月前までに提出する必要があるため、実際にはそこから逆算した準備が必要です。令和9年度以降の取り扱いは執筆時点で公表されていないため、最新情報は厚生労働省のホームページでご確認ください。
生成AIの研修は助成対象になりますか?
内容によります。厚生労働省は、生成AIを活用して商品提案書の構成案作成や文章生成を学ぶ営業担当者向けの訓練は具体的な業務に直結するため助成対象、汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練は特定業務への適用を伴わないため助成対象外という判断例を示しています。令和8年8月3日以降に提出する計画届から、この線引きが明確に適用されます。
同じ社員に何回まで訓練を受けさせられますか?
1労働者につき1年度で3回までです。このうちeラーニングによる訓練は1年度で1回までに制限されています(令和8年8月3日以降に提出された計画届に基づく訓練から算入)。定額制サービスによる訓練は、人への投資促進コースの定額制訓練・自発的職業能力開発訓練と合算して1年度3回までとなります。不支給になった訓練は回数に算入されません。
設備投資加算はどんな機器でも対象になりますか?
いいえ。実技の訓練等で実際に使用する機器・設備と同種であって、事業展開等に資するものに限られます。パソコン・タブレット端末・スマートフォンおよびその周辺機器、汎用事務機器、特殊用途自動車以外の自動車、空調設備や照明機器、テレワーク用通信機器などは対象外です。導入費用が10万円以上であることも要件となります。
eラーニングだけの研修でも助成を受けられますか?
経費助成は受けられますが、賃金助成の対象にはなりません。またeラーニング・通信制による訓練の経費助成限度額は、訓練時間数にかかわらず中小企業15万円・大企業10万円が一律で適用されます。設備投資加算の対象にもならず、1労働者につき1年度1回までという受講回数の制限もあります。
絶対に助成対象になる訓練はありますか?
ありません。業種や受講者の職務と訓練内容との関連性、実際に行われた訓練内容、経費や賃金の支払い状況など、さまざまな要件を審査したうえで個々のケースごとに助成の可否が判断されます。「この講座を受ければ必ず助成金が出る」という説明を受けた場合は注意が必要です。
事業展開等実施計画には何を書けばよいですか?
様式第1-3号の「事業展開等実施計画」では、まず事業展開・DX化GX化・人事及び人材育成に関する計画のいずれに該当するかを選びます。そのうえで、事業展開の場合は実施予定時期と現在の事業内容・展開内容を、DX化GX化の場合は訓練を行う端緒となった取り組みの内容を具体的に記載します。人事・人材育成計画の場合は、中小企業は認定経営革新等支援機関の確認欄への記載も必要です。
途中で事業展開を取りやめた場合はどうなりますか?
実施する予定であった事業展開に係る訓練であれば、途中で事業展開を取りやめた場合も助成対象になります。ただし訓練を受講した時間数が実訓練時間数の8割以上であることが要件のため、事業展開の取りやめに伴って訓練を中止する場合は受講率にご注意ください。
すでに契約済みの定額制サービスでも対象になりますか?
契約期間の初日が令和4年12月2日以降の定額制サービスは助成対象となり得ます。この場合、計画届を提出した日から1か月後を契約期間の初日とみなし、そこから契約期間の最終日までを訓練の実施期間として、全契約期間に占める日数の割合に応じた額が助成されます。計画届の提出自体は必要です。
人材開発支援助成金の他コースと併用できますか?
同一の訓練受講・経費・賃金を対象として複数の助成制度を利用する場合、どちらか一方しか支給されない併給調整が行われます。異なる訓練であれば人材育成支援コースや人への投資促進コースと使い分けることは可能です。なお1事業所が1年度に受給できる助成額は1億円が上限で、この枠は通常分と加算分の合計で計算されます。
まとめ
事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業やDX・GXに向けた社員研修の経費を中小企業なら最大75%、大企業なら60%まで助成する制度です。訓練期間中の賃金についても1人1時間あたり最大1,000円が助成され、中小企業は設備投資加算により機器導入費用の50%が上乗せされます。
一方で、令和8年8月3日の改正により、1労働者あたりの受講回数が1年度3回(eラーニングは1回)に制限され、DX・GX訓練でも概念理解や汎用的な内容にとどまるものは助成対象外と明確化されました。生成AI研修を計画している企業は、対象労働者の職務に直結する内容に落とし込めているかを、計画届の段階で点検しておく必要があります。
本コースは令和8年度末までの時限措置です。計画届の提出期限が訓練開始日の1か月前であることを踏まえると、活用を決めたらすぐに動き出すのが得策といえるでしょう。要件は年度途中でも変更されうるため、最新情報は厚生労働省の公式ページと管轄の労働局で必ず確認してください。
▼▼▼日々配信中!無料メルマガ登録はこちら▼▼▼
メルマガ会員登録する
・人材育成支援コース
・教育訓練休暇等付与コース
・人への投資促進コース
・【★本記事】事業展開等リスキリング支援コース
・建設労働者認定訓練コース
・建設労働者技能実習コース
・障害者職業能力開発コース


