助成金とは、雇用の安定や職場環境の改善を行った事業主に対して、国や自治体が交付する返済不要の資金です。なかでも厚生労働省が所管する「雇用関係助成金」は代表的な制度で、2026年度(令和8年度)も「賃上げ支援助成金パッケージ」として体系化され、業務改善助成金やキャリアアップ助成金を中心に予算が拡充されています。
厚生労働省は2026年4月8日に最新の共通要領を公表し、すべての雇用関係助成金に適用される共通の支給要件が更新されました。「従業員の正社員化や教育に助成金を活用したい」「最低賃金引き上げに対応した設備投資の費用を抑えたい」と考えていても、自社が要件を満たすのか不安に感じる経営者の方は多いのではないでしょうか。
実は、雇用関係助成金には個別の要件とは別に、すべての制度に共通する「受給できる事業主の3要件」と「受給できない事業主の9つの除外要件」が定められています。この共通ルールを見落としていると、いくら準備を進めても受給はできません。本記事では、助成金とは何か、共通要件・申請の流れ・必要書類までを最新情報でわかりやすく解説します。
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この記事の目次
助成金とは?返済不要の公的資金をわかりやすく解説
助成金とは、国や自治体が政策目的の実現のために事業主や個人に交付する返済不要の資金です。融資とは異なり、原則として返済の必要はありません。
雇用関係の助成金は、主に厚生労働省が管轄しており、「雇用の維持」「新しい人材の採用」「従業員のスキルアップ」「働きやすい職場環境づくり」などを目的としています。財源は事業主が支払う雇用保険料の一部で、雇用保険適用事業所であることが大前提となります。
2026年度(令和8年度)の助成金は、政府の重点施策である「賃上げ」「人への投資」「人手不足対策」の三本柱に沿って予算が配分されています。代表的な制度を整理すると、以下の4つが活用しやすい助成金です。
主な雇用関係助成金(2026年度)
| 助成金名 | 支援内容のポイント |
|---|---|
| キャリアアップ助成金 | 有期雇用労働者の正社員化や処遇改善を行う事業主を支援。正社員化コースで1人最大80万円。 |
| 業務改善助成金 | 事業場内最低賃金の引き上げと設備投資をあわせて行った場合に経費の一部を助成。年間上限600万円。 |
| 人材開発支援助成金 | 従業員に職業訓練や専門研修を実施した費用を助成。 |
| 両立支援等助成金 | 育児や介護と仕事を両立できる環境を整える中小企業を支援。 |
雇用関係助成金の制度は多種多様ですが、すべての制度に共通する「受給のための共通要件」をクリアしている必要があります。まずはこの共通ルールを押さえることが、受給への近道です。
助成金と補助金の違いは?目的・難易度・申請期間で比較
助成金と補助金はどちらも返済不要の公的資金ですが、所管省庁・受給のしやすさ・申請期間に明確な違いがあります。助成金は要件を満たせば原則受給できるのに対し、補助金は審査による採択が必要です。助成金と補助金の比較表
| 比較項目 | 助成金(主に厚生労働省) | 補助金(主に経済産業省) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 雇用の安定・職場環境の改善 | 事業振興・新事業への投資 |
| 受給のハードル | 要件を満たせば原則受給可能 | 審査があり採択されないと不支給 |
| 申請期間 | 随時または通年 | 短期間(1か月程度) |
| 財源 | 雇用保険料 | 税金(一般会計予算) |
助成金は要件クリアで受給しやすい
厚生労働省が管轄する雇用関係助成金は、あらかじめ決められた「雇用」「環境整備」などの要件を満たし、必要な書類を不備なく提出すれば、高い確率で受給できるのが特徴です。社内制度の整備によって着実に資金を得たい場合に適しています。
補助金は事業計画の審査で採択が決まる
補助金は、新しい設備の導入やIT化など「攻めの投資」を支援する制度です。予算が決まっており、申請企業の中から優れた事業計画を提示した企業が採択される仕組みです。事前の入念な準備と説得力のある計画書が欠かせません。
両制度の違いをさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご確認ください。
助成金を受けるための共通要件は?事業主が満たすべき3つの条件
雇用関係助成金を受給するためには、各助成金の個別要件のほかに、次の3つの共通要件をすべて満たす必要があります。これは厚生労働省が定める「共通要領」(2026年4月8日現在)に基づくものです。
①雇用保険適用事業所の事業主であること
助成金の財源は事業主が支払う雇用保険料の一部です。労働者を1人でも雇用している事業主は、法人・個人を問わず雇用保険の加入手続きが必要です。労働者を新たに雇い入れた場合は、雇用保険被保険者資格取得の届出を事業所所在地を管轄するハローワークへ忘れずに行いましょう。
②支給審査に協力すること
助成金は公的資金のため、申請内容が適切に実施されているかの実地調査が行われる場合があります。具体的には次の3点に対応できる体制を整えておく必要があります。
- 支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等を整備・保管していること
- 管轄労働局等から書類等の提出を求められた場合に応じること
- 管轄労働局等が実施する実地調査に協力すること
③申請期間内に申請を行うこと
申請期間を1日でも過ぎると受付不可となります。助成金によっては時間指定で受付を締め切る場合もあり、書類提出方法も「郵送のみ」「持参のみ」と指定されているケースがあります。持参のための事前予約が必要な制度もあるため、不備に備えて申請書類は余裕をもって準備しましょう。
助成金が受給できない事業主は?9つの除外要件をチェック
共通要領では、次の1〜9のいずれかに該当する事業主は、雇用関係助成金を受給できないと定められています。要件を1つでも満たさない場合、たとえ他の条件をクリアしていても支給対象外となるため、申請前に必ず自社の状況を確認してください。
①不正受給による不支給決定・取消から5年を経過していない事業主
2019年(平成31年)4月1日以降に雇用関係助成金を申請し、不正受給による不支給決定または支給決定の取り消しを受けた場合、当該決定日から5年を経過していない事業主は対象外です。
なお、5年を経過した場合でも、不正受給による請求金を納付していない事業主は、時効が完成している場合を除き納付日まで申請できません。請求金とは、①返還を求められた額、②不正受給日の翌日から納付日までの年3%の延滞金、③返還額の20%相当額の合計です。不正受給は刑事告発の対象となり、詐欺罪で懲役判決が出たケースもあります。
不正受給に関する詳細は、以下の記事もご参照ください。
②不正受給に関与した役員等がいる事業主
2019年4月1日以降に申請する雇用関係助成金について、申請事業主の役員等に、他の事業主の役員等として不正受給に関与した者がいる場合は申請できません。他の事業主が不支給決定日・取消日から5年を経過していない場合や、請求金を納付していない場合(時効完成を除く)も同様です。
③労働保険料を納入していない事業主
支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料(雇用保険料)を納入していない事業主は受給できません。ただし、支給申請日の翌日から起算して2か月以内に滞納分を精算すれば申請可能です。
④1年以内に労働関係法令の違反があった事業主
支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働基準法等の労働関係法令違反により送検されている事業主は申請できません。日常の労務管理を正しく行うことが、助成金受給の前提条件です。
⑤性風俗関連営業・接待を伴う飲食等営業の事業主
性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業、またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主は対象外です。ただし、これらの営業を行っていても、接待業務に従事しない労働者(事務・清掃・送迎運転・調理など)の雇い入れに係る助成金については、受給が認められる場合があります。
⑥暴力団関係事業主
事業主または事業主の役員等が、暴力団と関わりのある場合は受給できません。
⑦暴力主義的破壊活動を行う団体に属する事業主
事業主または事業主の役員等が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行った、または行う恐れのある団体に属している場合も対象外です。
⑧支給申請日・支給決定日時点で倒産している事業主
支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主は受給できません。事業継続の見通しが立たない段階での申請は不支給となります。
⑨事業主名等の公表に同意していない事業主
不正受給が発覚した際に都道府県労働局等が実施する「事業主名および役員名(不正に関与した役員に限る)等の公表」について、あらかじめ承諾していない事業主は申請できません。申請時に提出する「支給要件確認申立書」で同意が求められます。
助成金申請の前に確認したい労務管理のポイントは?
助成金の受給可否は、日々の労務管理が正しく行われているかで決まります。共通要件を満たすには、「労働時間の適正な把握」と「割増賃金の適切な計算・支給」が前提です。申請を検討する前に、自社の労務管理状況を確認しましょう。
労働時間の適正な把握と記録
使用者は、労働者の日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録する義務があります。確認方法は、原則として次のいずれかです。
- 使用者自ら、または労働時間管理を行う者が、直接始業・終業時刻を確認・記録する
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間記録などの客観的な記録に基づいて確認・記録する
自己申告のみで労働時間を把握する場合は、適正な申告がなされているかを定期的に確認する必要があります。
賃金台帳など法定3帳簿の整備
労働基準法第108条により、賃金台帳の作成が義務付けられており、以下の項目を記載する必要があります。
- 労働日数・労働時間数
- 残業時間数・休日労働時間数・深夜労働時間数
- 基本給・手当などの種類別の金額
賃金台帳に加えて、労働者名簿・出勤簿(タイムカード)の「法定3帳簿」を整備しておくことが、助成金申請の出発点になります。
労働時間の記録に関する書類は5年間保管
労働時間の記録に関する書類は、労働基準法第109条に基づき原則5年間(経過措置により当分の間は3年間)の保管が必要です。2020年4月の労基法改正で従来の3年から5年に延長されており、経過措置の終了時期は未定です。早めに5年保存に対応できる体制を整えておきましょう。
具体的には、始業・終業時刻の記録、タイムカード等の記録、残業命令書および報告書、労働者が自ら記録した労働時間報告書などが該当します。なお、助成金の申請書類は支給決定日の翌日から5年間保存することが共通要領で定められています。
助成金の申請の流れ・もらい方は?5ステップで解説
雇用関係助成金を受給するまでの一般的な流れは、次の5ステップです。制度によって細部は異なりますが、雇用関係助成金の大枠は共通しています。
①自社が対象事業主か確認する
まずは自社が雇用保険適用事業所であるか、活用したい助成金の対象事業主に該当するかを確認します。本記事で解説した「共通要件3つ」と「受給できない9つの除外要件」を必ずチェックしましょう。
②計画届を提出する
多くの雇用関係助成金は、取組を始める「前」に計画届の提出が必要です。例えばキャリアアップ助成金なら正社員転換前に、人材開発支援助成金なら訓練開始前に提出します。提出前に取組を始めてしまうと対象外となるため注意が必要です。
③計画に基づき取組を実施する
計画届に沿って、正社員転換・職業訓練・職場環境改善などの取組を実施します。実施期間中は、賃金台帳・出勤簿・訓練記録などのエビデンスを適切に保管しましょう。
④必要書類を揃えて支給申請する
取組完了後、支給申請期間内に管轄労働局やハローワークへ支給申請書と添付書類を提出します。申請期間を1日でも過ぎると受付不可となるため、余裕を持って準備しましょう。
申請窓口は、各助成金ごとに「都道府県労働局」または「ハローワーク」です。詳しい申請方法は厚生労働省の雇用関係助成金の申請にあたってのページで確認できます。電子申請(雇用関係助成金ポータルまたはe-Gov電子申請)にも対応する制度が増えています。
⑤審査を経て助成金を受給する
申請後、書類審査や実地調査を経て支給決定が行われ、指定口座に助成金が振り込まれます。申請から受給までは概ね数か月〜半年程度かかるのが一般的です。なお、不正受給防止のため、申請書類は支給決定日の翌日から5年間保存する必要があります。
助成金申請に必要な書類は?共通で揃えたい書類一覧
雇用関係助成金の申請には、各助成金固有の書類に加えて「共通で必要な書類」があります。日頃から整備しておくことで、いざ申請するときの負担を大きく減らせます。
共通で必要となる主な書類
| 書類名 | 内容・ポイント |
|---|---|
| 支給要件確認申立書(様式第1号) | 共通要件を満たしていることを申し立てる書類。役員等一覧の添付も必要。 |
| 支払方法・受取人住所届 | 助成金の振込先口座を届け出る書類。 |
| 雇用契約書または労働条件通知書 | 対象労働者との雇用条件を証明する書類。 |
| 就業規則 | 労働者10人以上の事業所は労働基準監督署への届出済みのもの。 |
| 労働者名簿 | 従業員の氏名・生年月日・雇入年月日等を記載した法定帳簿。 |
| 賃金台帳 | 労働日数・労働時間・賃金額等を記載した法定帳簿。 |
| 出勤簿(タイムカード等) | 始業・終業時刻が客観的に確認できる記録。 |
| 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書 | 対象労働者が雇用保険に加入していることを示す書類。 |
各助成金固有の書類としては、計画届、訓練実施記録、賃金支払実績資料、転換前後の労働条件確認書類などが追加されます。提出書類は支給決定日の翌日から5年間の保存が義務付けられています。
参考:厚生労働省「雇用関係助成金の申請にあたって」
助成金に関するよくある質問
最後に、助成金に関するよくある質問を紹介します。助成金は返済が必要?
雇用関係の助成金は、原則として返済する必要はありません。ただし、不正に受給した助成金は返還しなければならず、加えて延滞金(年3%)と返還額の20%相当の納付金が請求されます。
従業員が1人もいない個人事業主も対象になる?
雇用関係助成金は「雇用保険適用事業主」であることが共通要件です。労働者を1人も雇用していない個人事業主は雇用保険適用事業所ではないため、雇用関係助成金は原則対象外となります。一方、創業支援系の補助金や個人向けの給付金は対象になる場合があります。
助成金は税金の対象になる?
事業者向けの助成金は、法人・個人ともに「収入(益金・事業所得等)」として扱われ、課税対象になります。消費税は不課税扱いです。勘定科目は通常「雑収入」で処理します。
助成金申請に必要な書類は?
雇用関係助成金の申請には、賃金台帳・出勤簿(タイムカード)・雇用契約書(労働条件通知書)・就業規則・労働者名簿・支給要件確認申立書などが共通して必要です。各助成金ごとに計画届や訓練実施記録など追加書類があります。
助成金の申請からどれくらいで振り込まれる?
申請から受給までの期間は、書類審査や実地調査を経て概ね数か月〜半年程度が目安です。制度や混雑状況によって異なるため、資金繰り計画に組み込む際は余裕を持って想定しておくことをおすすめします。
過去に労働基準法違反があると申請できない?
支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に労働関係法令違反により送検されている場合、助成金は受給できません。違反が解消されていても、1年以内の送検歴があれば申請不可となります。
助成金と補助金は併用できる?
助成金と補助金は所管省庁が異なるため、原則併用は可能です。ただし、同一の経費を対象とする場合は「併給調整」がかかり、一方しか受給できないケースがあります。複数申請を検討する際は、厚生労働省の「併給調整早見ツール」を確認するか、申請前に管轄労働局へ相談しましょう。
電子申請はできる?
雇用関係助成金の多くは、雇用関係助成金ポータルまたはe-Gov電子申請による電子申請に対応しています。電子申請を利用すると、窓口に出向く必要がなく、申請内容の確認や進捗管理もオンラインで完結します。
不正受給するとどうなる?
不正受給があった場合、①支給前なら不支給、②支給後なら請求金(返還額+年3%の延滞金+返還額の20%)の納付が必要となり、③不支給決定日・取消日から5年間は他の雇用関係助成金も受給できません。さらに事業主名等の公表や、悪質な場合は詐欺罪での刑事告発もあります。
生産性要件はまだ適用される?
生産性要件は2023年(令和5年)3月31日で廃止されました。現在は各助成金ごとに賃上げ加算や情報開示加算など、新しい加算制度が設けられています。最新の加算要件は各助成金の支給要領で確認してください。
まとめ
雇用関係助成金の共通要件は、「不正受給をしない」「必要な書類を整備・保管する」「労働関係法令を遵守する」など、事業主として当たり前に行うべきことが申請要件になっています。逆に言えば、労働環境の整備を進めることは助成金受給への近道でもあります。
2026年度は「賃上げ支援助成金パッケージ」として制度が体系化され、業務改善助成金やキャリアアップ助成金など、中小企業が活用しやすい制度が拡充されています。共通要領(2026年4月8日現在)の最新内容を確認したうえで、自社の労務管理を整え、計画的に助成金を活用していきましょう。
これから助成金を申請する、または検討中の方は、まずは社内の労働環境を整えたうえで、対象となる助成金を選定することから始めてみてはいかがでしょうか。
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