補助金や助成金の「不正受給」とは、偽りその他不正の行為により、本来受け取ることのできない補助金・助成金・給付金の支給を受けること、または受けようとすることです。実際にお金を受け取ったかどうかにかかわらず、事実と異なる虚偽の申請をした時点で不正受給に該当する場合があるため注意が必要です。
不正受給が発覚すると、全額返還に加えて加算金・延滞金の納付、事業者名の公表、悪質な場合は詐欺罪などによる刑事告発といった重いペナルティが待っています。新型コロナウィルス関連の給付金では、国税局職員までもが不正に手を染めていた「持続化給付金」だけで、令和8年5月31日時点で2,553者が不正受給者として認定され、不正受給の総額は26億0,133万9934円に上りました。
補助金をめぐっては、不正受給だけでなく、ほかの法令違反を補助金交付に反映させる動きも進んでいます。政府は2026年9月、中小受託取引適正化法(取適法)に違反し、公正取引委員会から勧告を受けた企業について、補助金の交付や入札参加の対象から除外する方針を示しました。なお、これは不正受給へのペナルティとは別の仕組みで、対象となる補助金や停止期間などの詳細は今後決まる見通しです。
出典(報道):日本経済新聞「取適法違反の事業者、政府が補助金や入札から排除 買いたたき防ぐ」
本記事では、不正受給の定義から、発覚する(バレる)理由、罰則・時効、してしまった場合の対処法、不正受給を見つけた際の通報窓口まで、まとめて解説します。補助金や助成金の申請を検討している方は、正しく制度を利用するための参考にしてください。
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この記事の目次
不正受給とは?
不正受給とは、補助金や助成金の支給要件を満たしていないにもかかわらず、虚偽の申請によって支給を受けること、または受けようとすることです。厚生労働省や経済産業省の各制度では、「偽りその他不正の行為により、本来受けることのできない助成金等の支給を受け、または受けようとすること」と定義されています。
重要なのは、実際に受給したかどうかは問われないという点です。事実と異なる内容で申請した時点で「受けようとした」ことになり、不正受給として扱われる可能性があります。
不正受給に該当する行為の具体例
不正受給に該当する行為には、次のようなものが挙げられます。
・領収書や出勤簿、賃金台帳などの証拠書類を捏造・改ざんする
・実際には雇用していない従業員を雇用していることにする
・実施していない研修や事業を、実施したかのように装う
・無期雇用の契約書を有期雇用に書き換えるなど、契約内容を偽る
・同一の経費で複数の補助金に二重申請する
「故意ではない」場合も不正受給になる?
制度の理解不足や書類の不備など、故意でないミスであっても、結果として事実と異なる申請になっていれば不正受給を疑われることがあります。「知らなかった」「コンサルタントに任せていた」という主張は、申請書に署名しているのが事業者本人である以上、原則として通用しません。申請内容は必ず自身で確認しましょう。
不正受給が発生する理由
不正受給の発生には、いくつかの理由があります。ここでは、主な理由について解説します。
・制度が不完全なまま実施されることもあるため
・不正行為が発見されにくい場合もあるため
利益を多く得たいと考えるため
不正受給は、自分の利益を少しでも多く得ようとして発生することが少なくありません。この理由は、特に個人によるもので「経済的な不安を解消したい」、「少しでも多くの収入を得たい」などといった思いから、虚偽申請をしてしまうことから発生します。
制度が不完全なまま実施されることもあるため
補助金や給付金は、緊急措置として決定する場合や事前に支給時期が定められていることなどから、迅速な対応や給付が求められます。そのため、制度に欠陥があるなど不完全な状態で施行されることもゼロではありません。
新型コロナウィルス関連の給付金においては、「持続化給付金」や「家賃支援給付金」、「事業復活支援金」など、さまざまな制度で不正受給が発生してしまいました。
経済産業省では、これらの不正受給に関する調査を行っており、実際に多くの企業が不正受給の認定を受けています。
| 制度名 | 認定者数 | 不正受給総額 |
|---|---|---|
| 持続化給付金 ※2026年5月31日時点 | 2,553者 ※そのうち1,854者は加算金や延滞金を納付済 | 26億0133万9934円 |
| 家賃支援給付金 ※2025年10月3日時点 | 132者 ※そのうち65者は加算金や延滞金を納付済 | 3億8128万3098円 |
| 事業復活支援金 ※2025年3月3日時点 | 4者 ※そのうち3者は加算金や延滞金を納付済 | 246万0300円 |
参照:『持続化給付金の不正受給の認定及び公表について』経済産業省
参照:『家賃支援給付金の不正受給者の認定及び公表について』経済産業省
参照:『事業復活支援金の不正受給者の認定及び公表について』経済産業省
ただし、調査を開始する前に自主返還した場合は、原則として加算金や延滞金を徴収しないとしています。
最新状況として公開されている2026年2月28日時点の返還状況は、以下のとおりです。
| 制度名 | 返還申し出件数 | 返還済件数 | 返還済金額 |
|---|---|---|---|
| 持続化給付金 | 25,317件 | 27,958件 | 約203億5,200万円 |
| 家賃支援給付金 | 1,407件 | 1,371件 | 約12億3,300万円 |
| 事業復活支援金 | 1,359件 | 2,598件 | 約9億5,800万円 |
参照:『不正受給及び自主返還について(持続化給付金・家賃支援給付金・一時支援金・月次支援金・事業復活支援金)』経済産業省
不正受給を指南・勧誘する者がいるため
「誰でも受給できる」「申請を代行する」などと持ちかけ、不正受給を指南・勧誘する者の存在も、不正が発生する大きな要因です。新型コロナ関連の給付金では、申請受付の当初からSNSで「申請代行します」といった不審な書き込みが多数みられ、国民生活センターも、受給資格のない人に不正受給を勧める電話やメール、SNSが相次いでいるとして注意喚起を行いました。
実際に、約400人に不正受給の指南や代行をし、総額約4億円を不正に受け取ったとされる組織的な事件も摘発されています。
不正受給が発覚する(バレる)理由
「バレなければ大丈夫」と考えるのは危険です。不正受給は、主に以下の経路で発覚します。
・監査
・告発や情報提供
・照合や検証
審査や実地調査
補助金や助成金では、担当者によって申請内容と実際の状況に相違や矛盾点がないか確認されます。また、審査官や監査官による抜き打ちの実地調査によって、さまざまな書類の整合性が細かく検証されることもあります。
監査
監査は、国や地方自治体によって支給された補助金などが適切に使用されたか(事業が適切に実施されたか)どうかを確認する手続きです。国の会計検査院や地方自治体の監査部門などが実施します。支給時の審査を通過していても、後年の監査で発覚するケースは珍しくありません。
告発や情報提供
不正受給について内部からの告発によって発覚することがあります。また、企業や個人に関する外部からの情報提供が行われたことから不正受給が疑われ、発覚につながるケースも少なくありません。各制度の事務局や労働局には通報窓口が設けられており、匿名での情報提供も可能です。
照合や検証
補助金や助成金では、申請された内容について、税務データや過去における他の補助金に関するデータと照合したり検証したりすることがあります。これにより、売上の虚偽申告や同一経費による二重申請などがないかが確認されます。
不正受給に対するペナルティ【行政上の措置】
補助金や助成金の不正受給には、さまざまなペナルティが設けられています。
2019年4月以降、助成金の不正受給が厳罰化されており、以下のペナルティを科される可能性があります。
・5年間の支給停止になる
・不正受給を公表される可能性がある
・不正受給の関与者も連帯責任になる
全額返金と2割相当の加算金が科される
不正受給が発覚した場合、全額返還が命じられます。さらに、不正受給した金額の2割相当の加算金と返還完了日までの延滞金を支払わなければなりません。延滞金は、不正受給の翌日から返還完了日までとし、年3%などの利息が付けられます。
※利息は制度によって異なります
5年間の支給停止になる
助成金の不正受給が決定すると、その日から5年間は不正を行った制度以外も含むすべての助成金の受給資格が停止します。全額返還されていない場合は、さらに期間が延長されることがあります。
不正受給を公表される可能性がある
不正受給が発覚すると、労働局や経済産業省のウェブサイトなどに「事業所名」や「代表者名」、「不正受給の内容」等が公表されることもあります。公表情報は誰でも閲覧できるため、取引先や金融機関からの信用を失い、事業継続に深刻な影響を及ぼしかねません。
不正受給の関与者も連帯責任になる
不正受給について社会保険労務士やコンサルタント、機関等が関わっていた場合、関与者も名称等を公表され、返還について連帯責任を負うことになります。
不正受給に対する刑事罰
悪質な不正受給は行政上の措置にとどまらず、刑事告発され、以下の罪に問われる可能性があります。
・補助金適正化法違反(同法29条):5年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科
実際に、コロナ関連の給付金・助成金をめぐっては経営者や個人が多数逮捕・起訴されており、億単位の不正受給事案では実刑判決も出ています。「返せば済む」とは限らず、返還後や返還中であっても刑事責任を問われるケースがあることを理解しておきましょう。
不正受給の時効
「時間が経てば逃げ切れるのでは」と考える方もいるかもしれませんが、現実的ではありません。
刑事上は、詐欺罪の公訴時効は7年とされており、不正受給から年数が経過してから立件される事例もあります。行政上の返還請求権にも消滅時効はありますが、調査や督促などにより時効の完成は妨げられ、時効を待つ間も延滞金は積み上がり続けます。
また、時効が完成する前に監査やデータ照合で発覚するケースがほとんどです。不正受給に気づいた時点で速やかに自主返還の手続きをとることが、結果的に負担を最小限に抑える唯一の方法といえます。
不正受給をしてしまった際の対処法
過失を含め、不正受給に該当してしまった(可能性がある)ことに気づいた場合は、次の流れで対応しましょう。
・支給元への連絡・自主返還の申し出
・専門家への相談
・再発防止策の実施
まずは申請書類と実態を突き合わせ、どの部分が事実と異なるのかを整理します。不正受給が判明次第、速やかに支給元(事務局・労働局など)へ連絡し、返金手続きを開始しましょう。
調査開始前の迅速で自主的な返還であれば、加算金や延滞金が免除される制度もあり、ペナルティを最小限に抑えられる可能性があります。法的な問題が生じるおそれがある場合は、弁護士や社会保険労務士など専門家に相談することも大切です。
また、事務的な対応とともに再発防止策の実施も必要です。特に、過失による不正受給の場合は今後同様のケースが起こらないとは言い切れません。チェック体制の整備や社内ルールの明確化など、厳格な仕組みづくりを講じましょう。
不正受給を通報・告発したい場合の窓口
勤務先や取引先などの不正受給を知り、通報・告発したいという場合は、制度ごとに設けられた窓口へ情報提供ができます。
・持続化給付金・家賃支援給付金・事業復活支援金など:経済産業省・中小企業庁および各制度事務局の通報窓口
・地方自治体の補助金:各自治体の担当課・監査部門
多くの窓口では匿名での情報提供が可能です。また、労働者が事業者内部の不正を通報する場合は、公益通報者保護法により、通報を理由とする解雇などの不利益取り扱いから保護されます。
助成金申請の審査が厳しくなってきています
近年では、ハローワークや労働局などによる調査が厳しくなってきています。審査時にはチェックされることがなかったとしても、後から調査が入ることもあるため、前提として正しい労務管理、帳簿の運用を行ってください。
以下(1)~(6)については、申請前に一度確認しておきましょう。
(2)社会保険・労働保険への加入をしているか
(3)賃金が最低賃金を下回っていないか
(4)時間外手当が支払われているか
(5)休業手当の支払い状況に矛盾がないか
(6)出勤簿・賃金台帳等の裏付けとなる関係書類があるか など
参照:会計検査院 雇用保険の雇用調整助成金に係る事業所訪問調査の実施について
参照:厚生労働省 雇用関係助成金支給要件
不正受給の事例
最近では、「助成金の受給手続きに詳しい、より高額な助成金を受けられる方法を知っている」と主張する一部の経営コンサルタント等が、雇用関係の助成金申請に関して、事業主に対して不正受給にあたる助言をする例が発生しています。どのような内容か事例を確認しましょう。
事例1 領収書水増し発行
事業主Aは、助成金申請にあたり、「事業所内保育施設建設にかかった費用の領収書コピー」が必要でした。助成金申請手続きに詳しいという外部の者から「他の事業主は、みんなこのように賢くやっている」との助言を受けて、建設会社へ依頼し、実際に支払った金額よりも高額な額面の領収書を発行してもらい、本来受給できる金額より多額の助成金の支給を受けますが、後日、会計検査院の調査において不正受給の事実が明らかになりました。
事例2 架空書類作成
事業主Bは、助成金申請にあたり、「対象労働者の出勤簿の写し」の提出が必要でした。
しかし、もともと出勤簿を作成していなかったため、助成金申請手続きに詳しいという外部の者が出勤簿を作成しその写しを添付書類として支給申請をしてしまいましたが、後日、記載内容が実際の出勤状況と相違していることが明らかになってしまいました。
あわせて読みたい:助成金・補助金 不正受給の判例まとめ【2026年版】実刑・バレる理由・返還額も解説
不正受給を防ぐためのポイント
不正受給を防ぐためのポイントを解説します。
情報を適切に管理
不正受給を防ぐためには、申請に必要とされる情報の適切な管理が大切です。たとえば個人が給付金を申請する際は収入状況などが必要であったり、企業が補助金を申請する際には業績や事業計画を求められたりします。個人・企業を問わず、申請の際に正しい情報を提出できるようにしておきましょう。
申請手続きを正しく理解
不正受給を防ぐためには、正しい申請手続きを理解することが重要です。とくに企業向けの補助金や助成金においては、複雑な制度になっていることも少なくないため、最新の公募要領を確認することが大切です。そもそも申請手続きに不備があると、受理されないケースもあります。不明点がある場合は、担当窓口に問い合わせましょう。
「不正受給を勧める業者」に注意
「必ず受給できる」「書類はこちらで作る」「みんなやっている」といった勧誘をする自称コンサルタントには注意が必要です。不正に関与した場合、依頼した事業者本人が返還義務と刑事責任を負うことになります。
不正受給の指摘を受けた際は迅速に対応
不正受給の指摘を受けた場合、まずは事実確認を行います。指摘された内容に間違いがある場合などは、客観的な証拠を用意して説明することが大切です。万が一、不正受給に該当していることがわかった場合は、受給額の迅速な全額返還に努めましょう。
不明な点は専門家に相談
補助金や助成金など、内容の理解や申請手続きに不安がある場合、申請前に弁護士や社会保険労務士などといった専門家に相談することも大切です。法律に基づいた正しい知識に基づいたサポートや助言があることで、安心して制度を利用できるでしょう。また、不正受給などのトラブルが生じた際も、適切な対処法などを示してくれます。
補助金や助成金の不明点は窓口へ相談しよう
不正受給には、以下のような事例もあります。
・実際には雇用していないにもかかわらず雇用していたことにする
・実際には実施しなかった社員研修を実施したかのように装う
・無期雇用の契約書を有期雇用に勝手に書き換える
「申請に必要な書類を作っていない」「紛失してしまった」など、支給申請で不明な点がある場合は、支給申請先の都道府県労働局雇用均等室へ相談ができます。
そのほか、補助金や助成金には窓口があります。不明点を残したまま申請するのではなく、こうした窓口を活用するのも不正受給を防ぐ方法のひとつです。
よくある質問
不正受給ってどんな行為?
偽りその他不正の行為により、本来受け取れない補助金・助成金・給付金の支給を受けること、または受けようとすることです。実際に受給していなくても、虚偽の申請をした時点で該当し得ます。
不正受給がバレるとどうなる?
全額返還に加え、2割相当の加算金と延滞金の納付、5年間の支給停止、事業者名の公表などの措置がとられます。悪質な場合は詐欺罪(10年以下の拘禁刑)などで刑事告発される可能性もあります。
不正受給に時効はある?
詐欺罪の公訴時効は7年です。返還請求権にも消滅時効はありますが、調査・督促により時効の完成は妨げられ、その間も延滞金が増え続けるため、逃げ切ることは現実的ではありません。
故意じゃないミスでも不正受給になる?
故意でなくても、事実と異なる申請は不正受給を疑われる原因になります。気づいた時点で速やかに支給元へ連絡し、自主返還を申し出ることでペナルティを抑えられる可能性があります。
不正受給を通報したいときはどこに連絡する?
雇用関係の助成金は管轄の労働局・ハローワーク、コロナ関連給付金は経済産業省・各制度事務局の通報窓口、自治体の補助金は各自治体の担当課へ情報提供できます。多くの窓口で匿名の通報が可能です。
まとめ
補助金や助成金の不正受給は、故意・過失にかかわらず防がなければなりません。発覚すれば、全額返還・加算金・公表・刑事罰と、得た金額をはるかに上回る代償を支払うことになります。そのため、日頃の適切な情報管理や申請手続きを正しく理解することが大切です。
また、万が一不正受給に該当した場合でも、直ちにペナルティ対象にならないケースもあります。まずは冷静な事実確認と状況に応じて全額返還ができるよう、迅速に対処しましょう。制度に不明点がある場合は、申請前に窓口や専門家へ相談することが、不正受給を防ぐ最も確実な方法です。
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参考:
持続化給付金の不正受給者の認定及び公表について
厚生労働省 実態と異なる書類等を作成して助成金を受給しようとすることは犯罪です


