「パートナーシップ構築宣言」とは、企業規模の大小に関わらず、企業や個人事業主が「発注者」の立場で自社の取引方針を宣言する取り組みです。2020年7月にスタートし、2026年7月には宣言企業数が10万社に到達しました。
2026年1月1日には、下請法が「中小受託取引適正化法(取適法)」に、下請中小企業振興法が「受託中小企業振興法」に改正・施行され、あわせて宣言の「ひな形」も刷新されています。補助金の加点を狙う場合、古いひな形のままでは加点対象にならないケースが出てきているため、すでに宣言している企業も見直しが必要です。
今回は、取引先と共存共栄の関係を築きたい方、補助金申請で加点を狙いたい方に向けて、どの補助金で加点になるのか、2026年の変更点、メリット・デメリット、個人事業主の扱い、宣言の手順をわかりやすく解説します。
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この記事の目次
パートナーシップ構築宣言とは?わかりやすく解説
パートナーシップ構築宣言は、事業者が、サプライチェーン全体の付加価値向上と、大企業と中小企業の共存共栄を目指し、「発注者」側の立場から、代表権のある者の名前で自社の取引方針を宣言し、専用ポータルサイトで公表する取り組みです。
宣言するのは「発注する側」です。下請け(受託)側の企業が「宣言される」ものではなく、仕事を出す側が「取引先にこう向き合います」と約束する仕組みです。
対象となる企業規模は問わず、宣言から公表まで費用はかかりません。事務局は内閣府・中小企業庁で、実務は公益財団法人全国中小企業振興機関協会が担っています。
本制度は2020年5月の「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」(内閣府・経済産業省が主宰、経団連・日本商工会議所・連合が参加)で導入が決まり、同年7月にスタートしました。宣言企業数は2021年秋の3,500社から、2026年7月には10万社に到達しました。
どの補助金で加点になる?【2026年度】
宣言を検討する方の多くが気にするのが、補助金審査での加点です。ただし、「宣言すればどの補助金でも加点」ではない点に注意が必要です。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(加点あり)
2026年度から旧ものづくり補助金と旧新事業進出補助金が統合された「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」では、第1回公募要領の加点項目の1番目に「パートナーシップ構築宣言加点」が明記されています。要件は「令和8年1月1日に更新されたひな形を利用して宣言を公表している事業者」です。すでに宣言済みでも、古いひな形のままでは対象外になるため、次章の改正内容を確認して更新してください。
さらに「加点項目は申請締切日時点で満たしている必要がある」とされているため、締切直前に登録しても、ポータルサイトでの公表が間に合わなければ加点になりません。
あわせて読みたい:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金とは?最大9,000万円 第1回公募・統合後の変更点を解説
デジタル化・AI導入補助金2026(加点なし)
旧IT導入補助金にあたるデジタル化・AI導入補助金2026では、事務局公表の加点項目一覧(2026年6月更新版)にパートナーシップ構築宣言は含まれていません。加点項目は公募回ごとに見直されるため、申請前に最新の一覧をご確認ください。
あわせて読みたい:デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)とは?最大450万円・補助率1/2〜4/5・採択率44%
都道府県・市町村の補助金
栃木県のものづくり産業生産性向上支援補助金など、自治体独自の補助金で加点対象としている例も多くあります。パートナーシップ構築宣言ポータルサイトの「地域の取組」ページで確認できます。
申請時は、公募要領を必ずご確認ください。
詳しくはこちら:都道府県から探す補助金・助成金一覧【まとめ】
【2026年1月改正】宣言のひな型が改正された
2026年1月1日、下請法・下請中小企業振興法の改正法が施行され、法律名が「中小受託取引適正化法(取適法)」「受託中小企業振興法」に変わりました。あわせて「振興基準」も改正され、宣言のひな形も同日付で改正されています(公表要領は2025年12月15日改正)。
主な変更点は次のとおりです。
| 項目 | 変更内容 |
|---|---|
| サプライチェーンとの連携 | 振興基準前文にあわせ、直接の取引先だけでなく「サプライチェーンの深い層」まで含めて共存共栄を目指す表現に |
| テレワーク・BCP | コロナ禍を前提とした定型文を削除し、各社が選択して記載する「個別項目」に移動 |
| 振興基準の遵守 | 一部抜粋の記載をやめ、「振興基準全体を理解したうえで遵守する」旨をシンプルに明確化 |
| 用語 | 「下請事業者」→「中小受託事業者」、「親事業者」→「委託事業者」など法改正に伴う用語変更 |
経済産業省は、すでに宣言している企業にも新ひな形に基づく宣言の更新を求めています。前述のとおり、補助金の加点要件でも「令和8年1月1日に更新されたひな形での公表」が条件になっているため、実務上の影響は大きいといえます。
パートナーシップ構築宣言で宣言する内容(3つの柱)
2026年1月版の記載要領・ひな形では、宣言文は次の3つのブロックで構成されています。
①サプライチェーン全体の共存共栄と新たな連携
直接の取引先だけでなく、サプライチェーンの深い層の取引先にも働きかけ、既存の取引関係や企業規模を超えた連携を目指すことを宣言します。ひな形には以下の個別項目が例示されており、自社が積極的に取り組むものを選んで具体的な内容を記載します。
・b. IT実装支援(共通EDIの構築、データの相互利用、IT人材育成、サイバーセキュリティ対策の助言・支援 など)
・c. 専門人材マッチング
・d. グリーン化の取組(脱・低炭素化技術の共同開発、省エネ診断の助言・支援、グリーン調達 など)
・e. 健康経営に関する取組
・f. BCP/事業継続(取引先の災害時等の事業継続計画策定の助言 など)
②「振興基準」の遵守
受託中小企業振興法第3条に基づく「振興基準」(発注方法の改善、対価の決定方法の改善、代金の支払方法の改善、型等に係る取引条件の改善、知的財産の保護など)を遵守し、取引慣行・商慣行の是正に取り組むことを宣言します。宣言の核となる部分です。
③その他(任意記載)
価格転嫁の情報発信、取引先満足度調査、成果配分のフィフティ・フィフティ化、「ホワイト物流」自主行動宣言、約束手形の利用廃止など、独自の取り組みを任意で追記できます。
最後に、「受託中小企業振興法に基づく『振興基準』の内容を理解した上で宣言します」という一文とともに、宣言日・企業名・代表権を有する者の役職と氏名を記載して完成です(押印は不要)。
なお、定型部分は原則そのまま引用する必要があり、「当社グループは…」のように企業グループ単位での宣言は受け付けられていません。同一グループでも企業ごとに宣言します。
補助金加点以外のメリット
補助金の加点以外にも、宣言によって受けられる優遇や効果があります。
①税制上の優遇措置
制度開始当初にはなかったメリットとして、税制面での位置づけが大きくなっています。
| 税制 | 宣言との関係 |
|---|---|
| 賃上げ促進税制 | 一定規模以上(全企業・中堅企業向け)の企業は、パートナーシップ構築宣言を公表していることが制度適用の要件 |
| 地域未来投資促進税制 | 産業競争力強化法上の特定中堅企業は、宣言を行い各種要件を満たすことで、最大6%の税額控除が可能 |
| 中堅・中小グループ化税制 | 中堅企業者がM&Aに係る準備金の損金算入を受ける際、宣言が要件の一つ |
中小企業にとっては直接の要件ではないものの、大企業・中堅企業が宣言を進める強い動機になっており、結果として取引先である中小企業にも取引適正化の恩恵が及ぶ構造になっています。
②融資制度
令和5年度から、日本政策金融公庫でパートナーシップ構築宣言関連の融資制度が利用可能になっています。
③ロゴマークによるPR
宣言した企業は専用ロゴマークを名刺やWebサイトに使用でき、取引先との共存共栄を重視する企業であることをPRできます。取引先の選定時に宣言の有無を確認する大企業も増えており、受注面でのプラス効果も期待できます。
④SDGs・ガバナンスの観点
宣言の内容を実践することは、SDGsの目標3・8・9・10・17の達成につながります。政府の「SDGsアクションプラン2023」にも宣言の推進が盛り込まれました。
また、経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」では、取引先との公正な取引の監督方法の一つとして、宣言の有無や実行状況を取締役会が監督することが有益とされています。
パートナーシップ構築宣言のデメリット・注意点
無料で取り組める一方、「宣言すれば終わり」ではありません。事前に知っておきたい注意点をまとめます。
①企業名・代表者名とともに宣言文が公開される
登録後は宣言文がポータルサイトで誰でも閲覧できます。取引先や求職者から「宣言どおりの取引をしているか」を見られる立場になります。
②宣言内容を履行する責任がある
記載要領では、取適法第10条に基づく勧告、フリーランス法第8条に基づく勧告、独占禁止法第20条に基づく排除措置命令、受託中小企業振興法第4条に基づく指導・助言・勧奨などを受けた場合、宣言の趣旨に照らして掲載継続が適切でないと認められれば宣言の掲載が取りやめになることがあると明記されています。価格協議への対応、支払条件、型の保管料など、実際の取引慣行を宣言にあわせて見直す必要があります。
③公表まで約10日かかる
登録から公開まで通常約10日、補助金申請が集中する時期はさらに数日かかります。補助金の加点を狙う場合は、締切の2〜3週間前には登録を済ませておくのが安全です。
④すべての補助金で加点になるわけではない
前述のとおり、デジタル化・AI導入補助金2026では加点項目に含まれていません。
⑤社内への浸透が必要
令和7年度の調査では、調達・購買担当者への取適法等の教育・研修を実施している中小企業は2割強にとどまっています。代表者が宣言しても現場が変わらなければ、取引先からの評価にはつながりません。
個人事業主でも宣言できる?
個人事業主でも宣言できます。宣言する主体は「発注者の立場にある事業者」であり、法人・個人の別や企業規模は問われません。外注先やフリーランスに業務を委託している個人事業主であれば宣言の対象になります。
ただし、登録時の注意点があります。
・企業名・役職・氏名・宣言日はWord等で入力する
これらは「よくある間違い」としてポータルサイトでも注意喚起されています。
宣言の効果は?令和7年度アンケート結果
中小企業庁は毎年、宣言企業と、その取引先である受注側企業の双方に取組状況を調査しています。2026年7月に公表された令和7年度の結果概要から、主なポイントを紹介します。
・発注側企業が宣言していることを認知している受注側企業は約5割
・直近6か月で価格交渉が行われたと回答した企業は約7割。そのうち約8割で労務費の転嫁についても交渉が行われている
・コスト上昇分を価格に転嫁できている企業は約7割(一方、全く転嫁できていない企業も約1割)
・約8割が手形等ではなく現金で支払いを受けている
・受注側企業から合理的な価格転嫁要求があった企業のうち、約5割が満額、約3割が7〜9割程度の転嫁に応じている
・宣言による補助金・税制などの制度を「いずれも利用していない」企業が約6割。加点措置を「知っているが使っていない」層が多いこともうかがえます
受注側からは「価格決定について相談できる専用窓口の設置」「型保管料の支払い」「現金払いへの移行」などが評価されている一方、「働き方改革への対応」「健康経営・労働安全衛生」などの支援を求める声も多く挙がっています。
出典:中小企業庁「パートナーシップ構築宣言 取組状況アンケート結果概要」2026年7月(PDF)
パートナーシップ構築宣言の参加手順
難しい書類作成はなく、ポータルサイト上で完結します。登録の前に、代表者名で宣言し宣言文が公開されることを社内で確認し、「振興基準」の内容にも目を通しておきましょう。
STEP1:準備
・ポータルサイトの「記載要領・ひな形」から2026年1月版ひな形(Word)をダウンロード
・記載要領を参考に、自社の取り組みにあわせて宣言文を作成(個別項目の書き方に迷う場合は、ポータルサイトの「取組事例集」が参考になります)
・社内手続きを経て、宣言文をPDF化
STEP2:登録
・ポータルサイトのメニューから「登録」をクリック
・登録フォームに企業名・業種等の必須項目を入力
・PDF化した宣言文をアップロードし、内容を確認して登録
・担当者のメールアドレスに受領メールが届く
STEP3:公開
・修正依頼がなければ、登録日から約10日後に「登録企業リスト」で公開
・公開後、ロゴマークのダウンロード用URL・ID・パスワードがメールで届く
よくある間違い
・ひな形の赤文字(説明文・例示)を削除し忘れている
・署名欄の企業名・役職・氏名・宣言日が手書き、または役職名が抜けている
・個人事業主で屋号・役職名を記載していない
よくある質問
パートナーシップ構築宣言に費用はかかる?
かかりません。ひな形のダウンロードからポータルサイトへの登録・公表まで無料です。
宣言すれば必ず補助金に採択される?
いいえ。加点項目の一つに過ぎず、採択を保証するものではありません。事業計画の内容など複数の観点から総合的に審査されます。
以前のひな形で宣言済みだが更新は必要?
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の加点を受けるには、令和8年1月1日更新のひな形での公表が条件です。経済産業省も既宣言企業に更新を呼びかけています。
登録してから公開までどのくらいかかる?
修正依頼がなければ登録日から約10日後に公開されます。補助金申請が集中する時期はさらに数日かかることがあります。
まとめ
パートナーシップ構築宣言は、発注者の立場で取引先との共存共栄と振興基準の遵守を代表者名で宣言する取り組みで、2026年7月に宣言企業数が10万社に到達しました。2021年の3,500社から約30倍に拡大し、賃上げの原資を確保するための「価格転嫁・取引適正化」の中核施策として定着しています。
メリットは、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金などでの加点、賃上げ促進税制をはじめとする税制上の位置づけ、公庫融資、ロゴによるPR、SDGsやガバナンスへの貢献など、5年前と比べて大きく広がりました。
一方で、2026年1月1日の取適法施行にあわせてひな形が改正され、補助金の加点は新ひな形での公表が条件になっています。すでに宣言済みの企業も更新を検討し、宣言内容を実際の取引に反映させることが、これからのパートナーシップ構築宣言の「使い方」といえるでしょう。
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