この記事の目次
1.両立支援助成金とは?
両立支援等助成金とは、労働者の職業生活と家庭生活のどちらも充実した生活を送ることができるように、制度や環境を整備した事業主を支援するためにできた助成金で、現在までに全部で以下6つのコースがあります。
①事業所内保育施設コース※平成28年度4月以降、申請受付停止中
②出生時両立支援コース
③介護離職防止支援コース
④育児休業等支援コース
⑤再雇用者評価処遇コース
⑥女性活躍加速化コース
今回は、このうちの一つである「再雇用者評価処遇コース」について詳しくご紹介していきます。
2.両立支援助成金「再雇用評価処遇コース」とは?
「再雇用者評価処遇コース」は、妊娠・出産・育児、または介護を理由に退職した者が、その経験や能力を適正に評価され、再雇用される「再雇用制度」を導入し、希望者を採用した事業主に支給されるというものです。
退職者の再雇用制度を整えることで、企業においては「採用コストや新人教育にかかる手間の削減ができる」ことや、復職者にとっても「以前のキャリアを活かして働くことができる」、「ブランクを理由に再就職先を探す苦労もなくなる」といったメリットが期待できます。
3.事業主の要件
「再雇用評価処遇コース」における事業主要件は、次の(1)~(9)すべてを満たすことが必要です。
(1)雇用保険適用事業所の事業主であること
(2)再雇用制度を労働協約または、就業規則に新たに規定すること
(3)制度の対象となる年齢において、定年を下回る制度を設けていないこと
(4)離職期間(退職後の期間)を制限する場合は、その期間は3年以上とすること
(5)再雇用時は、次のように退職前の勤務実績等を評価して、処遇の決定に反映させることを就業規則へ明記していること
(a)退職前と同一の雇用形態および職種で雇用する場合
退職前の配置、賃金制度および資格制度上の格付けを評価して処遇を決定すること
(b)退職前と異なる雇用形態および職種で雇用する場合
退職前の配置、経験、勤続年数等を評価した賃金の格付けを行う
(6)制度対象者の退職から再雇用までの間に就業経験能力開発の実績がある場合、
次のように当該実績を評価の上処遇の決定に反映させることを明記していること
(a)(退職から再雇用までの間に)、他の事業主のもとで就業実績がある場合
当該業務内容、経験年数を評価した配置・賃金の格付けを行うこと
(b)(退職から再雇用までの間に)、職業訓練の受講や、資格取得の実績がある場合
当該能力開発の実績を評価した配置・賃金の格付けを行うこと
(7)対象者の中長期的な配置、昇進、昇給等の処遇については、退職前の勤務実績および退職から再雇用までの就業経験、能力開発の実績を踏まえた取り扱いを検討すること
(8)再雇用制度の施行後、期間の定めのない雇用契約により対象者を継続して6カ月以上雇用すること
(9)次の全ての制度を労働協約または就業規則に規定すること
(a)育児・介護休業法第2条第1号に規定する育児休業
(b)同法第23条第1項に規定する育児のための所定労働時間の短縮措置
(c)同法第2条第2号に規定する介護休業
(d)同法第23条第3項に規定する介護のための所定労働時間の短縮等の措置
以前から再雇用制度を導入している場合は?
平成29年4月以前に該当する制度を導入して実施している場合は、この助成金の対象外です。
ただし、(1)~(9)に沿った制度内容へ改正した場合、改正日以降の再雇用について対象可能です。
4.対象となる労働者
次の①~⑥すべてに該当する、支給対象事業主の雇用保険被保険者が対象です。
①申請事業主の事業所を妊娠、出産、育児又は介護のいずれかを理由として退職した者であること
②退職または退職後に、退職理由と再雇用の希望を出していたことが書面で確認できること
※申出は、再雇用に係る採用日の前日までに行っていることが必要です。
③申請事業主の事業所を退職した前日までの日数が、継続雇用期間1年を超えていること
④再雇用に係る採用日において、退職の日の翌日から起算して1年以上経過していること
⑤再雇用制度に基づき評価、処遇がされていることが、支給申請書に記載があり、確認できること
※再雇用制度に沿って、退職前の経験、能力、退職後から再雇用までの経験等を評価し、賃金、配置、役職等に反映させていることが必要です。
⑥次のいずれかに該当する者であること
(a)再雇用時に期間の定めのない雇用契約を締結し、支給申請日においても雇用されていること
(b)再雇用時に有期契約労働者として採用され、採用日から1年以内に期間の定めのない雇用契約を締結し、その後継続して6カ月以上「(1回目:再雇用6カ月後)の支給を受ける場合」または、1年以上「(2回目:再雇用後1年後)の支給を受ける場合」雇用され、支給申請日においても雇用されていること
対象外となる場合
(1)支給対象事業主の代表者または取締役の3親等以内の親族
(2)実際に就労した日数の割合が、予定していた日数に対して5割に満たない場合
(3)退職後、再雇用に係る採用日の前日までの間に、次の①、②に該当していること
①申請事業主と雇用・請負・委任の関係にあった場合、または、出向・派遣・請負・委任の関係により就労していた場合
②再雇用先の事業主と、資本的・経済的・組織的関連性等からみて密接な関係にある事業主に雇用されていた者
5.助成額
「再雇用評価処遇コース」は、事業主単位の支給です。
再雇用から起算して6カ月後、および1年間の継続雇用後の2回、支給申請を行うことができます。
2回目については、1回目と同一の支給対象者で有る場合のみ対象とし、支給対象労働者は5人までです。
「再雇用評価処遇コース」の支給は“雇用期間”に注意!
この助成金の支給については、「雇用期間」「退職期間」をきちんと把握した上で申請を行うことがポイントです。
申請時には、特に次の①~③に気を付けましょう。
①退職前に1年以上雇用保険被保険者として雇用されていること
②対象者を期間の定めのない雇用契約で、採用日から6カ月以上採用すること
③退職から再雇用までの期間は1年空けること
※有期契約労働者として採用した場合
採用日から1年を経過するまでに、期間の定めのない雇用契約を締結し、6カ月以上雇用した場合は対象です。
6.申請手続きについて
(1)1回目の支給申請時
再雇用として採用した後、期間の定めのない雇用契約の締結日から6カ月間の就労実績が確認できる書類が必要です。
【就労実績が確認できる書類例】
(ア)対象労働者の所定労働日または所定労働日数が確認できる書類
→労働条件通知書、就業規則、企業カレンダーなど
(イ)対象労働者の就労実績が確認できる書類
→タイムカードまたは出勤簿
(ウ)対象労働者の賃金の支払い実績が確認できる書類
→賃金台帳など
(2)1回目申請期間
再雇用後、期間の定めのない雇用契約の締結日から6カ月経過する日の翌日から2カ月以内
(3) 2回目の支給申請時
対象労働者を再雇用した後、期間の定めのない雇用契約の締結日から6カ月が経過した日の翌日から6カ月間の就労実績が確認できる書類が必要です。
※上記(ア)~(ウ)と同じ書類が必要です。
7.再雇用制度導入のポイントは?
(1)対象者の設定
再雇用者の登録対象としては、次の①~⑥など状況に応じて定めましょう。
①登録希望の有無
②勤続年数
③離職時の年齢
④離職時の雇用形態
⑤離職後の期間
⑥離職理由(結婚・出産・育児、配偶者転勤・介護など)
(2)対象者のモチベーション維持
制度を整えるだけではなく、対象者の就業意欲を維持する取組も必要です。
次の①~④など、会社と繋がり続ける仕組みを作り、モチベーション維持や再雇用登録者の意識付けを促していきましょう。
①定期的に社内報を郵送する
②定期的にメールで会社の情報を提供する
③登録対象者にアンケートを取り、復職の意向や希望する場合の業務内容、働き方などを集計する
④復職者の声などを発信し、復職の際の不安払拭を促す
(3)復職への不安を解消するための支援・配慮
復職への不安を解消するための支援や配慮としては、次のような面談を行う方法や、身近な悩みを相談できる環境整備を行うことが大切です。
①復職前の面談や情報提供、研修実施
復職前に人事労務担当者や復職先上司と面談を行い、状況理解やサポートをスムーズに行うことや、子育て経験のある女性が相談に応じるなどで不安の解消の配慮を行いましょう。
②職場の子育て中の女性とのネットワークづくり
配属先によっては、同じ境遇の女性がおらず、身近に悩みを相談することができない場合があります。他部署の子育て中の女性とも、気軽に相談できるママさんサークルなどの環境整備や情報提供を行うことなど不安の解消を行いましょう。
(4)復職後のキャリア整備
復職後にキャリアや能力を活かす制度があるかどうかは、その後の仕事に対する意識にも大きく関わってきます。
出産や育児等で離職した女性が復職した後のキャリア形成を支援するための方法としては、復職前と同じ階級でキャリアを継続を可能とする、または復職後も多様なキャリアコースから選択できるようにするなど、活躍の場を整備することも大切です。
8.まとめ
いかがでしたか?
出産・育児等で離職した女性が再就職し、働き続けられるようにするためには、子育てをしながら働くことのできる両立環境や、再就職後も継続就業者と同様にキャリアを形成し、活躍できる環境が整っていることが重要です。
ただし、復職前と同じ階級でキャリアを継続できることに魅力に感じる女性もいれば、ブランクにより職責に不安を抱え、復職が難しいと感じてしまう女性もいます。復職に関する女性の感じ方は様々なため、再雇用制度を整備する上では、復職方法や不安を取り除く取り組みの検討を行うことも必要です。
こうした環境整備は、再就職した女性だけではなく、新卒採用や中途採用時の人材確保、現在働いている社員が育児を理由とした離職防止にも効果があると考えられています。今後高齢化が進む日本では、介護を行う社員も増えることが予測されることから、多様な働き方を希望する社員に対応するための取り組みとして、検討してみてはいかがでしょうか。
また、この助成金を受けるためには、「再雇用評価制度」として就業規則等の規定が必要です。自社の働き方が従業員に伝わるように、就業規則の見直しや処遇を明らかにしておくことは、様々な理由で退職する従業員がいる中で「またここで働きたい」という会社への愛着やファン作りにも効果的です。
労働人口が減少するなかで、「仕事と家庭の両立できる環境作り」や「離職者が復帰できる体制作り」に取組むことは、従業員の退職による人手不足や、優秀な人材の流出リスクの回避にもなるため、導入の検討をオススメします。