令和6年の年始に発生した能登半島地震は、石川県を中心に広範な被害をもたらしました。家屋の倒壊や土砂災害、ライフラインや交通インフラの損傷は、地域の日常生活や経済活動に深刻な影響を与えました。復興作業は進行中ですが、完全な回復にはさらなる時間が必要です。
地域経済の復興を加速させるためには、雇用の安定が不可欠です。雇用機会の確保が地域経済の活性化を促し、復興をより一層前進させることができます。今回ご紹介する「地域雇用開発助成金 能登半島地震特例」は、上記の雇用確保にあたって有効な施策です。詳細を確認し対象となっている場合は、積極的に活用してください。
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この記事の目次
地域雇用開発助成金とは
地域雇用開発助成金とは、「雇用情勢が厳しい」と認定された地域等において、積極的に地域の求職者等を雇用する事業主に支給される助成金です。
以下3つの条件に該当する地域を「雇用情勢が厳しい」と認定しています。
・同意雇用開発促進地域(求職者数に比べて雇用機会が著しく不足している地域) |
・過疎等雇用改善地域(若年層および壮年層が著しく流出している地域) |
・特定有人国境離島等地域 |
上記の対象地域の事業者が、雇用保険の適用事業所を整備したうえで該当地域に住む求職者を一定条件で雇用した際、「事業所の設置や整備にかかった費用」および「増加人数」に応じて、一定額を助成します。
雇用情勢が悪化している地域でビジネスを行う事業者を、強力にサポートする制度といえるでしょう。
地域雇用開発助成金 能登半島地震特例とは
今回ご紹介する「地域雇用開発助成金 能登半島地震特例」とは、令和6年能登半島地震の発生を受け、上記の地域雇用開発助成金内に特例として設けられた制度です。「地震で被災した地域」において、事業所の設置および整備を行い求職者を雇用する事業主に対し、緩和された金額の助成金が支給されます。
特例が適用される地域は以下の通りです。
七尾市・輪島市・珠洲市・志賀町・穴水町・能登町
それではここから具体的に、
・通常の「地域雇用開発助成金」の簡単な概要
・「能登半島地震特例」で追加された内容
を主要な項目ごとに比較しながら解説します。
地域雇用開発助成金の主な要件
(1)助成金を受給できる事業者の要件
事業者要件は「通常の地域雇用開発助成金」と「能登半島地震特例」で同様です。
対象事業者の主な要件 |
・設置や整備を行った施設の雇用保険適用事業主である |
・指定期間において、事業所で雇用する被保険者を解雇等事業主の都合により離職させていない |
・指定期間において、特定受給資格者であると認定された離職者数が3人を超え、かつ、指定期間初日における事業所の被保険者数の6%を超えていない |
・支給申請日の前日から起算し1年前の日から、支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反がない |
・助成金の不支給措置がとられている事業主ではない |
・労働保険料を滞納していない |
助成対象として認められる経費とは
まず地域雇用開発助成金で認められる経費と対象外経費をまとめました。
区分 | 認められる経費 | 対象外経費 |
工事(不動産) | ・1契約の支払い額が20万円以上の、新および増設工事費用 ・1契約が20万円以上の内装などの工事費用 |
・不動産登記の手数料 ・申請者以外の名義で不動産登記される部分 等 |
購入(不動産) | 1契約の支払い額が20万円以上の不動産購入費用 | ・土地購入費用 ・仲介手数料 |
購入(動産) | ・1点の支払い額が20万円以上の動産の購入費用 ・購入に伴う運搬や取り付け費用 |
・原材料や消費財 ・1点の価格が20万円未満のもの |
賃借(不動産) | ・1契約の支払い額が20万円以上の賃借費用 ・事業に必要な車を購入した場合の駐車場 |
・土地賃借料 ・仲介手数料 |
賃借(動産) | ・1点についての支払い額が20万円以上の動産の、賃借あるいはリース費用 ・賃借あるいはリースに伴う運搬や取り付け費用 |
・保証金 ・保守とメンテナンス費用 |
能登半島地震特例では、上記・各項目について、以下が経費として認定されます。
1.工事(不動産)
・ 従業員のための宿舎の新設、増設工事費用
・地震に伴う破損等で必要な修理および修繕費用
2.購入(不動産)
・従業員のための宿舎購入費用
3.修理・修繕(動産) *完全新規で追加
・地震に伴う破損等で必要な、動産1点にかかる契約の支払い額が20万円以上の修理および修繕費用
・修理および修繕に伴う運搬や取り付け費用
4.賃借(不動産)
・従業員のための宿舎の賃貸費用
5.賃借(動産)
・従業員の通勤に活用する車両費用
詳細は「地域雇用開発助成金(能登半島地震特例)支給申請手引きp.7」をご確認ください。
特例での支給額の拡充や要件緩和
【通常の地域雇用開発助成金の支給額】
設置および整備費用 | 対象労働者の増加人数が「3(2)~4人」 | 対象労働者の増加人数が「5~9人」 | 対象労働者の増加人数が「10~19人」 | 対象労働者の増加人数が「20人以上」 |
---|---|---|---|---|
300万円以上1,000万円未満 | 50万円(100万円) | 80万円(160万円) | 150万円(300万円) | 300万円(600万円) |
1,000万円以上3,000万円未満 | 60万円(120万円) | 100万円(200万円) | 200万円(400万円) | 400万円(800万円) |
3,000万円以上5,000万円未満 | 90万円(180万円) | 150万円(300万円) | 300万円(600万円) | 600万円(1,200万円) |
5,000万円以上 | 120万円(240万円) | 200万円(400万円) | 400万円(800万円) | 800万円(1,600万円) |
*( )内は創業の場合のみ適用
【能登半島地震特例の支給額】
今回の特例では、「支給額の引き上げ」「設置および設備費用・対象労働者数の要件緩和」によって、助成金を受け取りやすくなりました。
緩和」によって、助成金を受け取りやすくなりました。
設置および整備費用 | 対象労働者の増加人数が「2人」 | 対象労働者の増加人数が「3(2)~4人」 | 対象労働者の増加人数が「5~9人」 | 対象労働者の増加人数が「10人以上」 |
---|---|---|---|---|
100万円以上 | 30万円 | 50万円 | 80万円 | 100万円 |
300万円以上 | 60万円 | 100万円 | 160万円 | 300万円 |
1,000万円以上 | 80万円 | 120万円 | 200万円 | 400万円 |
3,000万円以上 | 120万円 | 180万円 | 300万円 | 600万円 |
5,000万円以上 | 160万円 | 240万円 | 400万円 | 800万円 |
対象労働者の雇い入れ条件とは
【通常の地域雇用開発助成金】
計画期間中(計画日から完了届の提出日までの間)に、以下の要件を満たす労働者を雇用することで、助成金を受給できます。
・雇用日時点で、地域に居住している |
・ハローワークや地方運輸局、あるいは地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)の取り扱いについての同意書を労働局に提出している「有料・無料職業紹介事業者等」の紹介で雇用されている |
・雇用当初から、雇用保険の一般被保険者あるいは高年齢被保険者となる |
・助成金の受給後も継続して雇用される見込みがある 等 |
【能登半島地震特例】
ほぼ同じですが、一部が以下の要件に変更されました。
以下いずれかの要件に該当する労働者であること |
・能登6市町(七尾市・輪島市・珠洲市・志賀町・穴水町・能登町)を所在地とする事業所に、ハローワークや地方運輸局あるいは地域雇用開発助成金の取り扱いに関する同意書を労働局に提出している「有料・無料職業紹介事業者」の紹介で雇用されている(能登半島特例対象者) |
・令和6年1月1日〜令和6年6月30日までの間に、「令和6年能登半島地震によって一時離職している」「離職前事業所に再雇用された労働者である」「当初から一般被保険者等で雇用され継続雇用が確実な労働者である」という条件に該当している(災害関係離職者) |
詳細は「支給申請手引きp.15」をご確認ください。
地域雇用開発助成金 能登半島地震特例の申請方法
ここからは「地域雇用開発助成金 能登半島地震特例」の申請方法を解説します。
【公募期間】
令和6年7月1日〜令和7年6月30日までの間に「能登半島地震特例の計画書」を提出する
1.「計画書」を石川労働局長に提出する
助成金の支給額は、令和6年1月1日から事業主が計画書を提出した日までの間で「事業主が指定する日(計画日)〜計画完了の旨の届出があった日(完了日)の間」の設置および整備費用と雇用状況をもとに決定する
※計画書の提出時は、「工事・購入・賃貸のスケジュールと計画書提出の時期」に注意しましょう。
2.最長18ヶ月の計画期間内に、「雇用拡大に必要な事業所の設置および整備を100万円以上行う」「要件を満たす労働者を雇用して2人以上増加させる」といった具体的なアクションを実施する
3.計画期間の完了後に「完了届(第1回支給申請書)」を石川労働局長に提出する
4.1年間にわたり「被保険者数の維持」「対象労働者数の維持」「対象労働者の定着」に努める
5.「支給申請書(2回目)」を石川労働局長に提出する
6.再び1年間にわたり「被保険者数の維持」「対象労働者数の維持」「対象労働者の定着」に努める
7.「支給申請書(3回目)」を石川労働局長に提出する
必要書類
必要書類は「計画書の提出時」「完了届の提出時」「支給申請書の提出時」で異なります。それぞれの概要を確認しましょう。
【計画書の提出時】
・計画書
・事業所状況等申立書
・事業所概要がわかる資料(パンフレットや組織図など)
・(創業による対象労働者の要件緩和を申請する事業主の場合)申請事業主の職歴書
【完了届の提出時】
・完了届
・支給要件確認申立書
・事業所状況等申立書
・対象労働者申告書
・対象労働者雇用状況等申立書 等
【支給申請書の提出時】
・支給申請書
・支給要件確認申立書
・事業所状況等申立書
・賃金台帳の写しや出勤簿の写し 等
地域雇用開発助成金 能登半島地震特例の活用メリット
能登半島地震特例は、被災地域において「事業継続のために努力する事業所」「雇用先を探している労働者」の両方をサポートする助成金です。事業所は「雇用を促進するほど資金援助を受けられる」、労働者は「働く先を見つけやすくなり自分や家族の生活を守れる」と、それぞれに大きなメリットがあります。
とくに被災地域によっては、思うように復興が進まず「自社ビジネスに注力する余裕がない」「目の前の復興に手一杯で日々の仕事にまで意識が回らない」ということもあるでしょう。
そうした両者の悩みを解消し、最終的な地域の復興につなげられる点が、能登半島地震特例の利点といえます。
まとめ
大きな被害をもたらした能登半島地震から復興するには、インフラや道路整備に加えて雇用確保も重要です。今回ご紹介した地域雇用開発助成金の能登半島地震特例を活用して、事業者・労働者、双方が地域経済を回せる仕組みを整備していきましょう。