人材不足を背景に、急増する外国人材の定着と生活・雇用の安定を目指す取組が広がっています。2024年3月15日には外国人実習生を受け入れる制度として「育成就労制度」が閣議決定されました。これは外国人技能実習生の長期定着を図るため、転籍等の範囲を拡大・明確化したものです。
外国人材の雇用に関する法整備が進む中、企業には、多様な人材が働きやすい環境整備が求められています。
人材確保等支援助成金の「外国人労働者就労環境整備助成コース」では、外国人労働者の事情に配慮した就労環境の整備を行い、職場定着に取り組む事業主が助成されます。
今回は、人材確保等支援助成金の「外国人労働者就労環境整備助成コース」の内容や申請方法をお伝えします。
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この記事の目次
外国人労働者数は過去最多! コミュニケーションに課題も
厚生労働省は、令和5年10月末時点での外国人労働者数が200万人を超えたことを発表しました。これは過去最大の数字で、労働者の出身国ではベトナムや中国などのアジア系人種が上位を占めています。在留資格では、専門的・技術的分野の増加率が大きく、前年と比べて24.2%増加しています。
一方令和元年に公表された「企業の外国人雇用に関する分析」では、「日本語能力に問題がある」と回答した企業は29.5%と最も高く、次いで「日本人社員とのコミュニケーションに不安がある」が19.5%です。コミュニケーションが容易であると回答した企業では、定着率が高い傾向にあることも示されました。
特に新卒留学生では、日本語教育のような基礎的能力の底上げ支援が定着率の向上につながります。人手不足による外国人への求人が増える中、外国人材の働きやすさ向上に向けた環境整備が急務となっています。
人材確保等支援助成金 外国人労働者就労環境整備助成コースとは
人材確保等支援助成金は、労働環境の向上等を行う事業主や事業協同組合等を助成する制度です。このうち「外国人労働者就労環境整備助成コース」では、雇用保険被保険者となる外国人労働者(特別永住者及び在留資格「外交」・「公用」を除く)を雇用している事業主が対象となります。
外国人労働者は、日本の労働法制や雇用慣行などに関する知識の不足や言語の違いなどから、労働条件・解雇などに関するトラブルが生じやすい傾向にあります。外国人労働者就労環境整備助成コースは、こうした課題の解決に取り組む事業を支援するものです。
ここでは対象の事業者や事業、支給要件などをまとめました。
対象事業者
対象事業者の主な要件は、以下のとおりです。
①雇用保険の適用事業の事業主であること。 |
②外国人雇用状況届出を適正に届け出ている事業主であること。 |
➂当該計画期間内に「雇用労務責任者の選任」および「就業規則等の社内規程の多言語化」を行い、さらにいかのいずれかを新たに導入すること ■苦情・相談体制の整備 ■一時帰国のための休暇制度の整備 ■社内マニュアル・標識類等の多言語化 |
④過去6か月間、雇用保険被保険者を、事業主都合で解雇等していないこと |
⑤外国人労働者離職率が10%以下であること |
⑥日本人労働者の「評価時離職率」が日本人労働者の「計画時離職率」を上回っていないこと |
対象事業
対象となる事業では、以下の①と②を必須とし、さらに➂~⑤から選択してください。
①雇用労務責任者の選任(必須) |
■雇用労務責任者を事業所ごとに選任し、全ての外国人労働者と3か月ごとに1回以上の面談を行う ■雇用労務責任者をすべての該当事業所で選任し、外国人労働者に周知する ■外国人労働者が労働基準法その他の労働に関する法令違反を受けた場合に相談できる関係行政機関等の案内を、書面により配付する |
②就業規則等の社内規程の多言語化(必須) |
■社内規程や就業規則等内規程をすべて多言語化し、計画期間中に、雇用する全ての外国人労働者に周知する |
➂苦情・相談体制の整備(選択) |
■労働協約または就業規則を変更し、外国人労働者の苦情・相談に応じるための体制を新たに定めて周知する ■外国人労働者の母国語等により、苦情・相談に応じる |
④一時帰国のための休暇制度の整備(選択) |
■労働協約または就業規則を変更し、外国人労働者が一時帰国を希望した場合に必要な有給休暇を取得できる制度を新たに定める ■1年間に1回以上の連続した5日以上の有給休暇が取得できるようにする |
⑤社内マニュアル・標識類等の多言語化(選択) |
■社内マニュアルや標識類等を多言語化し、外国人労働者に周知する |
支給要件
助成対象となるには、以下の「外国人労働者離職率」と「日本人労働者離職率」に関する目標を達成する必要があります。
①外国人労働者の離職率 | 計画完了後1年間の外国人労働者の離職率が10%以下であること |
②日本人労働者の離職率 | 過去1年間と比べて、計画完了後1年間の日本人労働者の離職率が上昇していないこと |
そのほか、雇用関係助成金に共通の要件があります。
人材確保等支援助成金就労環境整備計画について
指定の書式で、外国人労働者の就労環境の整備に関する計画を作成します。計画開始日は、最初に就労環境整備措置を導入する月の初日で、計画期間は3か月以上1年以内です。
計画認定申請には、主に以下の書類が必要です。
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)就労環境整備計画書 |
導入する就労環境整備措置に応じた概要票 |
事業所における外国人労働者名簿 |
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)「見積額」算定書 |
事業所確認票 |
多言語化する予定のすべての就業規則等の社内規程 |
対象事業所における、計画時離職率算定期間の日本人労働者の離職理由等が分かる書類 |
その他管轄労働局長が必要と認める書類 |
計画書は、開始日から6か月前の日~1か月前の日までに、各都道府県労働局に提出してください。
対象経費
対象経費は、以下のとおりです。
- 通訳費
- 翻訳機器導入費
- 翻訳料
- 弁護士、社会保険労務士等への委託料
- 社内標識類の設置・改修費
補助率・上限額
補助率と上限額は、以下のとおりです。
補助率 | 上限額 |
1/2 | 57万円 |
なお、賃金要件を満たす場合は補助率が2/3、上限額が72万円となります。
助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)における「賃金要件」とは、対象の外国人労働者の賃金を、就労環境整備措置の実施日の翌日から1年以内に5%以上増加する場合に適用されます。
人材確保等支援助成金 外国人労働者就労環境整備助成コースの申請方法・申請書類
申請は、郵送または電子にて、必要書類を管轄労働局へ提出します。支給までの流れや必要書類を見ていきましょう。
【支給までの流れ】
支給までの主な流れは、以下のとおりです。
①就労環境整備計画を作成・提出 |
②就労環境整備措置の導入・実施 |
➂支給申請 |
④助成金の支給 |
全体の流れは、以下の図も参照してください。
出典:厚生労働省 人材確保等支援助成金 外国人労働者就労環境整備助成コースのご案内
【必要書類】
申請時に必要な主な書類は、以下のとおりです。
事業所確認票 |
外国人労働者名簿 |
評価時離職率算定期間の外国人労働者及び日本人労働者である雇用保険一般被保険者の離職理由等が分かる書類 |
「雇用労務責任者の選任」「就業規則等の社内規程の多言語化」「苦情・相談体制の整備」「一時帰国のための休暇制度の整備」「社内マニュアル・標識類等の多言語化」の概要票 |
外国人労働者の労働条件通知書または雇用契約書 |
外国人労働者の出勤簿等出勤状態が確認できる書類 |
雇用労務責任者による面談結果一覧表 |
関係行政機関の案内書面 |
多言語化する前・後の、すべての就業規則等の社内規程 |
外部機関等に支払った経費を証明する書類 |
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)「支払額」算定書 |
就労環境整備措置を実施したことが確認できる書類 |
そのほか、賃金要件を満たす場合は、別途書類が必要です。
人材確保等支援助成金 外国人労働者就労環境整備助成コースのメリット
出入国管理法が改正されて以降、街中やオフィスで、外国人労働者の姿を目にすることが多くなりました。人手不足の続く日本では、今後も外国からの労働者のニーズが高まることが予想されます。
一方で、記録的な円安を背景に、日本は外国人労働者にとって、賃金面では魅力的な職場と言い難い状況となっています。労働者の定着を図るには、待遇や賃金などの処遇改善はもちろん、職場の環境整備も不可欠です。
人材確保等支援助成金の外国人労働者就労環境整備助成コースでは、環境整備に必要な経費の1/2が助成対象です。賃上げ要件を満たした場合には2/3、上限額も72万円と、大きな支援を受けることができます。
予算的な負担が減れば、さらに細かな支援も可能になります。外国人をはじめとした多様な人材が働きやすい環境を整えることは、すべての人にとって魅力的で、定着率の高い企業への成長へとつながるのです。
まとめ
人材確保等支援助成金の外国人労働者就労環境整備助成コースは、雇用労務責任者の選任と就業規則等の社内規程の多言語化を必須とし、苦情・相談体制の整備などを推進する制度です。海外からの労働者を受け入れる体制を整えることで、労働力の補完だけでなく、海外の優秀な技術者との連携も可能になります。
外国人労働者就労環境整備助成コースをはじめとした助成金・補助金を有効に活用し、グローバル時代にふさわしい企業成長を目指しましょう。